新製品レビュー

ライカ ゾフォート

あのライカからインスタントカメラが登場 オリジナルのプリントアクセサリーも

ライカ ゾフォートは、ライカカメラ社初となるinstax mini互換のインスタントカメラだ。ボディカラーはホワイト、オレンジ、ミントの3色。ライカのカメラがインスタントカメラを発売すること、そして3万円台でライカが購入できるとあって、2016年11月の登場以来、大きな注目を浴びている。

ライカとは? ゾフォートとは?

ライカはご存知、ドイツのブランドだ。1914年にエルンスト・ライツ社のオスカー・バルナックが、映画用35mmフィルムを使った小型カメラのプロトタイプ「ウル・ライカ」を開発。

1925年にライカが発売されると、小型で高性能なことから世界中の写真家に愛用された。これまで歴史的な瞬間の多くをライカがとらえてきた。そして1954年のライカM3からライカMシステムが始まり、最新のデジタルカメラ ライカM10に至るまで、ライカの伝統的なシステムとして高い人気を誇る。

またライカは高級カメラをラインナップするハイブランドなのも特徴。他のカメラメーカーとは異なる立ち位置にいる。

中判デジタル一眼レフカメラからミラーレスカメラ、レンジファインダーカメラ、コンパクトデジタルカメラ、そしてフィルムカメラのライカMシステムまで、幅広いジャンルのカメラを揃えるライカから、新たなジャンルとしてインスタントカメラのライカ ゾフォートが登場した。

ちなみに「ゾフォート」とはドイツ語で「すぐに」という意味だ。まさにインスタントカメラであることを象徴する名前がつけられている。

発表されたときは「なぜライカがインスタントカメラ?」と思ったのだが、ライカはハイブランドでありながら、「写真の本質」を追求しているメーカーだ。

インスタントカメラはシャッターを切ると、カメラの中から物理的にプリント(フィルム)が出てくる。オリジナルはその1点だけ。デジタル写真のようなコピーはできない、1点ものの価値。それもライカが追求する写真の本質のひとつと考えると納得できる。

またライカというと、高価で一部の人のカメラという印象も強い。しかしライカ ゾフォートは手にしやすい価格なので、若い人をはじめ、今までライカとは縁がなかった人にも視野に入れやすいのも特徴だ。

使用フィルムについて

ライカ ゾフォートは、富士フイルムのinstax mini互換。富士フイルムの「チェキ」と同じだ。

ライカから純正としてカラーフィルム、カラーフィルム(2パック入り)、モノクロフィルムの3種類が発売されている。それぞれ1パック10枚撮りだ。もちろん富士フイルム「チェキ」用のフィルムを使うこともできる。

なお富士フイルムの場合は、撮影したフィルム(プリント)の裏側は「FUJIFILM instax」の文字だが、ライカフィルムは「WWW.LEICACAMERA.COM」と入る。

こだわりのデザイン

デザインはライカオリジナルだ。四角と丸を組み合わせたデザインは、日本メーカーのカメラとは異なる雰囲気を持つ。しかもポップなカラーながら、ライカらしい品格も伝わってくる。

同じinstax miniのカメラで、ライカ ゾフォートに近いデザインは、「“チェキ”instax mini 90 ネオクラシック」だろう。“ネオクラシック”の名の通り、昔ながらのカメラらしいスタイルをインスタントカメラにしたデザイン。「チェキ」といえば、女性や子供がターゲットというイメージだが、instax mini 90 ネオクラシックは大人の男性に似合うデザインだ。

対してゾフォートは、カメラらしさを持ちながら、現代的なスタイル。女性が持っても男性が持っても似合う。また富士フイルムは縦型なのに対し、ライカは横型。ライカは一般的なカメラと同じ感覚で撮影できる。これもカメラの老舗メーカーらしいこだわりを感じる。

歴史あるレンズ「ヘクトール」を搭載

レンズは「オートマチック・ヘクトール f12.7/60mm」。鏡筒には「AUTOMATIK」とドイツ語で入っている。「ヘクトール」の名の歴史は古く、初代ライカのライカI型(通称A型)から、すでにヘクトール付きが存在する。

余談だが、ギリシャ神話に登場する英雄にヘクトールという名前が出てくるが、ライカのヘクトールは、オスカー・バルナックと共にライカを生み出したレンズ設計者、マックス・ベレクが飼っていた犬の名前が由来だとか。

F12.7と暗いが、フィルムはISO800なのと、ピントもほぼゾーンフォーカスなので被写界深度を深くする意味でも特に問題は感じない。ピント位置は近景「0.6~3m」と遠景「3m~無限遠」の2種類。鏡筒付け根のリングを回して切り替える。

ファインダーは?

デジタルカメラではないので液晶モニターはなく、ファインダーを覗いてフレーミングを決める。中央には丸マークがあり、画面の中心がわかる。

視野率は決して高くはなく、ファインダーを覗いている状態よりやや広めに写る。とはいえ正確なフレーミングを要求するカメラではないので、ある程度アバウトでも問題ない。

むしろ予想外の仕上がりになることもあり、それもまた楽しい。マクロモードにすると、パララックス(視差)補正用にファインダーも近接用に変わる。

背面操作部

背面には操作ボタンが並ぶ。上から電源ボタン、モードボタン、フラッシュボタン、セルフタイマーボタン、露出補正ボタン。

撮影モードは自動モードの他、セルフィー、パーティー、スポーツ、接写、二重露光、バルブを装備する。自動モードでは、できるだけフラッシュは使わず、自然光の雰囲気を重視するように配慮したという。露出補正は、太陽のようなマークが大きい方がプラス補正(+2EV)、小さい方がマイナス補正(-2EV)。

ボタン類向かって左横のレバーは、裏ブタロック解除。レバーを上にスライドさせると裏ブタが開く。当然だが、フィルムが入った状態で裏ブタを開けてしまうと、中のフィルムは感光してしまうので、絶対に開けないこと。また液晶パネルの右側はバッテリー室となっている。

撮影の流れ

フィルムはカセット状になっている。フィルムをパッケージから取り出し、ライカ ゾフォートの裏ブタを開けてフィルムをセットする。

フィルムカセットの黄色い印が、左上になるのが正しい向きだ。フィルムをセットしたら裏ブタを閉じる。すると自動で感光防止のための遮光板が排出されて、撮影準備が完了だ。

液晶パネルのフィルムカウンターは「10」が表示され、撮影するごとに数字が減っていく。

そしてファインダーを覗き、構図を決めてシャッターボタンを押す。

電源をONにする度に、設定はデフォルトに戻る(ピント近景、自動モード、フラッシュ自動、セルフタイマーオフ、露出補正オフ)ため、必要に応じて、その都度設定を行う。やや面倒に感じることもあったが、設定の戻し忘れがなく、カメラまかせで気軽に楽しめる仕様なのだろう。

横位置が基本なので、一般的なデジタルカメラと同じ感覚で撮影できる。しかしレンズが右手側に寄っているため、ホールドがやや窮屈に感じる。片手で撮らず、左手もしっかり添えると安定して構えられる。

撮影すると、モーター音と共に本体横からフィルムが排出される。はじめは真っ白だが、だんだん像が表れてくる。数分待ち、像が安定すると完成。

排出されたフィルム自体をプリントとして鑑賞する。「インスタント」といっても、デジタルカメラのように撮影したらすぐ再生できるのではなく、しばらく待つ必要があるが、じわじわと像が出てくる雰囲気は、デジタルでは味わえないアナログらしい楽しさがある。

作品

1枚しかない写真に、手書きのメッセージを書いてもらった。デジタルにはない、インスタントフィルムならではの味わいだ。コミュニケーションツールとして、手軽にライカブランドが楽しめる。フィルムはライカ純正カラーフィルム。フレームがわずかにクリーム色で、温かみのある雰囲気に仕上がる。(全自動モード、ライカカラーフィルム)

植木がやや暗い緑だったので、露出補正をマイナス側に設定した。物理的にカードサイズのプリントが出てくる機構ながら、ライカ ゾフォートは小型で軽い。街を軽快に歩きながら惹かれたモチーフを撮影できた。(マイナス補正設定、ライカカラーフィルム)

レンズはF12.7ながらフィルムがISO800と高感度なせいか、快晴ではハイライトがやや飛びやすいようだ。ここでは、半逆光気味の位置から撮影し、ハイライトが飛ばないように意識した。微妙に甘く見える写りが、インスタントフィルムらしくて楽しい。ピントは遠景側に設定した。(全自動モード、ライカカラーフィルム)

モードをマクロにして、果物に近づいた。ファインダーも接写用に切り替わるため、パララックスは意識せずに撮影できる。果物の黄色が鮮やかに再現された。(マクロモード、ライカカラーフィルム)

フィルムはカラーだけでなく、モノクロも用意されている。ハイライトの階調がやや出にくいように感じたが、デジタルや通常のモノクロフィルムにはない雰囲気。スタイリッシュなライカ ゾフォートと合わせて、こだわりの1枚を撮りたくなる。(フラッシュOFF、ライカモノクロフィルム)

撮影後も楽しめるアクセサリー

ライカ ゾフォートのために、純正で様々なインスタント写真用のアクセサリーが用意されている。これはフォト ディスプレイ。

縦位置と横位置、それぞれ交互に、12枚のプリントが差し込める。テーブルなどに置いて、まるで日めくりカレンダーのように撮影した写真が楽しめる。

次はプリントを差し込めるポストカード。ライカ ゾフォートのカラーと同じ、ホワイト、オレンジ、ミントの3枚がセットになっている。それぞれ異なるデザインで、別々に飾るのはもちろん、3枚組の作品にするのも楽しい。

まとめ

ライカ ゾフォートは手軽さがありながら、ハイブランドのライカらしさも併せ持つ。インスタントカメラもライカがデザインすると、年代を問わず魅力的に見えるカメラに仕上がるを実感した。

またどことなくファジーな写りで、しかも1枚しか存在しないインスタント写真の楽しさも再認識させられた。これまでライカやインスタントカメラには縁がなかった人にも注目のカメラだ。

そして3色のどれを選ぶかも楽しい。ライカカメラ社CEO オリバー・カルトナー氏によると、世界的にはミント、オレンジ、ホワイトの順の人気だとか。あなたはどのカラーがお好みだろうか。ライカブランドのインスタントカメラは、ハイブランドと個性を身近なものにしてくれる。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になり、カメラ専門誌を中心に活動。2016年9月より、デザインオフィス株式会社AQUAに所属。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。