新製品レビュー

LUMIX LX9

1型センサーと広角端F1.4レンズの高級コンパクトを試す

2016年11月発売。実勢価格は税込8万7,000円前後

LUMIX LX9は、いわゆる“高級コンパクト”というカテゴリーに属するモデル。前モデルのLX7までは撮像素子の大きさが1/1.7型サイズであったが、今回のLX9ではより大きな1型にサイズアップしたことが大きな特徴である。

LX9の立ち位置は?

現在売られている高級コンパクト機をセンサーサイズ別に俯瞰すると、ソニーサイバーショットRX1シリーズやライカQのような35mmフルサイズモデル、SIGMA dp QuattroシリーズやリコーGR II、FUJIFILM X100シリーズのようなAPS-Cモデル、そしてソニーサイバーショットRX100シリーズや今回取り上げるパナソニックLX9のような1型モデルの3つに大別できる。

このうち、フルサイズモデルとAPS-Cモデルに関してはコンパクトさを優先するとズームレンズ化は難しく、その多くは単焦点レンズとなる(APS-Cでもズーム搭載のライカXバリオという例外もあるが)。

対して、1型モデルであればズームレンズであってもコンパクト化が可能ということで、現状の高級コンパクト機は1型モデルが機種数的にもっとも多く、百花繚乱的な状態にある。

その中で各社が特長を出そうと競い合っているわけだが、LX9の場合は「開放F1.4の大口径レンズ」を搭載していることが最大のウリである。

レンズ構成は9群11枚で、両面非球面が4枚、両面非球面EDレンズが2枚、超高屈折率UHRレンズが1枚使われている。
電源オフのレンズ収納時と電源オンでレンズを繰り出したときの様子。F1.4の大口径だけあってレンズ鏡胴は結構太い。

撮像素子が大きいことのメリットは画素ごとの面積が大きくなることによる高感度性能やダイナミックレンジ向上のほか、画角が同じであれば小サイズ撮像素子に比べてレンズの実焦点距離が長くなり、それだけ被写界深度が浅くなる=背景や前景をボカしやすくする効果を期待できる。

ただし、実焦点距離が長くてもF値の暗い小口径レンズでは深度が深くて思ったほどボカせないから、LX9が搭載するF1.4の大口径というのは結構インパクトがある。じゃあ実際にどれほどボケせるのかという点については本項後半の実写で検証してみたい。

シンプルで好ましいデザイン

まずはボディまわりから見ていこう。LX9のボディ外装素材は上面と前面がアルミニウムによる一体成形なのが特長で、メーカーではこれを「シームレスメタルボディ」と称しているが、確かにソリッドな塊感のある印象で質感は悪くない。高級コンパクトの多くは金属外装なのがもはや当たり前なので、その中で突出して高級感があるわけじゃないけれど、塗装の質を含めて「良いモノ感」の演出はかなり成功している方だと思う。

LUMIX TX1と同様の配置だが、各ダイヤルはTX1に比べるとローレットが深くて高級感はTX1より上だ。

デザインは前モデルのLX7とは違うテイストで、むしろ先に発売されている1型センサー+高倍率ズーム機のLUMIX TX1とよく似たミニマル系のシンプルなデザインを採用している。

デザインについては人それぞれで好き嫌いがあるのであくまでも主観的感想だが、個人的にはこうしたシンプル系デザインは大好きで、かなり気に入った。ただ、ホールド感はちょっと頼りなくて、気をつけないと取り落としそうになる。筆者は日常的にTX1を多用していて、そちらではあまりホールド感が気にならなかったのに、TX1と同様のデザインのLX9でホールドが頼りなく感じるのはナゼか?

比べてみると、ボディ前面のグリップ部の凸量に関しては両機とも似たようなものだが、グリップ幅はTX1の方が幅広なのに対して、LX9は幅が狭く、これが指掛かりの希薄感につながっているようだ。カメラのホールドについても手の大きさとか握り方は人それぞれなので一概には言えないけれど、使用に当たっては安全のためにネックストラップもしくはハンドストラップの併用を強くお勧めしたい。

操作部材の配列は同社としては標準的。ボタンの凸量がかなり小さく、爪を立てるようにしないと押せないが、これは誤操作を配慮してのことだろう。

独立した絞りリングを装備

操作性については同社LUMIXシリーズに共通したユーザーインターフェースなので、使ったことがある人にとっては戸惑いはないはず。背面に配置された各種スイッチ類や、ボディ上面の動画ボタンはいずれも凸量がかなり小さめでやや押しにくく感じたが、これは誤操作などを配慮した結果だと思われるので慣れるしかない。

電子ダイヤルは鏡胴基部とボディ上面の計2つ装備しており、それを含めて操作のカスタム幅は広いから、自分の使い方に合わせて機能をアサインし直すことで使い勝手を向上させることはもちろん可能だ。

操作面でちょっと面白いのはレンズ鏡胴基部に絞りリングを備えていることだ。この絞りリングはレンズ基部にある電子ダイヤルとは独立しており、他の機能を割り当てることはできない絞り専用リングになっており、絞り優先AE時に重宝する。F1.4の明るいレンズを搭載しているのだから、なるべく絞りを意識した撮影をして欲しいというメーカーの意図を感じる部分だ。

アナログ式の絞りリングを装備。1/3ステップの設定が可能で、写真はF2と1/3のところに設定した状態。回転角が大きく、一気に絞り込みたいときなどの操作性はちょっと疑問がある。

ただこの絞りリング、1/3ステップ刻みで絞りを細かく設定できるのはいいのだが、回転角が非常に大きく、たとえばF1.4からF5.6まで一気回そうとすると絞りリングを操作する左手とボディをグリップしている右手が干渉して結構大変。もう少し回転角を抑えた方が使いやすいのではないだろうか。

あと、LX9が搭載するレンズは焦点距離によって開放F値が変化する可変タイプなので、絞りリングをF1.4に設定してあっても、望遠側にズームすれば実効F値が変わってしまうという表示不一致が発生してしまう(もちろん、ライブビュー上には実絞り値が表示されるので、不一致はあくまでも絞りリング上だけ)。フィルム全盛時代のF値可変ズームでよくあった話だが、個人的には電子ダイヤルを2つ装備したカメラの場合、無理にアナログ操作式の絞りリングを別途設けなくてもいいのではと思う。

ストロボは内蔵されている。光量は小さいが、F1.4大口径レンズの恩恵で広角端では12.1mまで光が到達する。

EVFについて

あと操作面で賛否両論ありそうなのは、EVFを非装備としたことだろう。前モデルのLX7もEVFは非搭載だったが、アクセサリーシューにオプションの外付けEVFを取り付けることは可能だった。

しかし、LX9ではアクセサリーシューも非装備となったため、外付けEVFへの拡張性も閉ざされている。ちなみにLX9のライバルとなりそうなサイバーショットRX100シリーズの場合、初代はLX9と同様にEVF非搭載でシューもない仕様だったが、2型ではシューを搭載して外付けEVFへ対応。そして3型以降はポップアップ式のEVFを内蔵するようになった。

また、やはりLX9のライバルとなりそうなキヤノンPowerShot G7 X Mark IIもLX9と同様にEVF非搭載&シュー非装備だが、ほぼ同じ仕様でEVF内蔵のPowerShot G5 Xというモデルを別途用意している。

こうした状況の中でLX9のEVF完全非対応という仕様は「なかなか思い切ったなぁ」と感じたが、確かに最近ではLX9の様な上位機種を使うユーザーの中でもEVFは使わないという意見を結構聞くので、その意味ではEVF非対応もアリなのかもしれない。

この点についてパナソニックに聞いてみたところ、EVFを望む声は少なくないそうだが、それよりも小型化を強く望む声の方が多く、今回はそちらを優先してEVFやシューを非搭載としたとのこと。個人的には撮影に没入したいときにEVFはやはり欲しいと思うが、携帯性を考えると大きさも重要なファクターなのは間違いない。

液晶モニターは単純な1軸のチルト式なので操作に迷うことはない。
180度可動で前方へも展開できるため、自撮りにも対応。

入れて欲しかった「L.モノクローム」

このほか仕様面でちょっと「アレッ?」と思ったのは、同社のミラーレス機、GX7 Mark IIで初搭載された「L.モノクローム」モードがLX9には搭載されていないことだ。

L.モノクロームはメリハリのある、決してネムくならない調子と階調のバランスが絶妙なモノクロモードで、個人的には非常に好ましく思っている。GX7 Mark II以降の機種には当然搭載されているものと思っていたが、パナソニックによるとL.モノクロームはセンサー特性を含めて追い込んでいるので、現状ではマイクロフォーサーズ機だけにしか搭載できないらしい。

でも技術的にできないわけじゃないそうなので、要望があればコンパクト機でも可能とのこと。個人的にはLX9のようなコンパクトシューターこそ高品質なモノクロモードとの相性がいいと思っているので、ここはぜひファームアップとかでL.モノクロームを実現して欲しい。

インターフェースはHDMIとUSBの2つ。USB充電に対応するので、屋外ではモバイルバッテリーなどでも充電できるのは便利。
バッテリーは680mAhタイプ。USB充電のため、電池を取りだして充電するためのチャージャーは付属しないが、オプションで用意されている。

高感度

ISO80からISO25600まで1段ごと感度を変えながら撮影。フロントウインドーのハイライト部分を見ると、ISO80とISO100はそれ以上の感度に比べて白飛びが唐突に起きており、ハイライト側のダイナミックレンジが狭いことがわかる。

高感度側はISO3200までは結構ノイズも少なく実用画質。ISO6400になるとNRによるディテール損失がやや大きくなる印象。

※共通設定:F4 / 0EV / 絞り優先AE / 26.4mm

ISO80(拡張設定)
ISO100(拡張設定)
ISO125
ISO200
ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12800
ISO25600(拡張設定)

作品

あえて光源を入れたイジワル作例。さすがにゴーストは発生しているが、フレアによるコントラスト低下はほぼ感じられない。

1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 8.8mm

ズームは24-72mm相当。前モデルのLX9は24-90mm相当だったので、望遠端がちょっと短くなった。このカットは望遠端の撮影だが、画面右端で解像が若干甘い部分がある。

1/320秒 / F4 / -0.3EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

「クリエイティブコントロール」のダイナミックモノクロームはこういうシーンではマッチする。クリエイティブコントロールにはこの他にもモノクローム、ラフモノクローム、シルキーモノクロームが選べる他、「フォトスタイル」にも別にモノクロームがあり、モノクロの選択肢は豊富。ただ、GX7 Mark IIに初搭載されたL.モノクロームがないのは残念。

1/80秒 / F4 / -0.3EV / ISO125 / 絞り優先AE / 12.8mm

ハイライトからハイエストへの階調はこんな感じ。意外と粘りがある。一気にスッコ抜けるわけではないので、それほど不自然感はない。

1/1,300秒 / F11 / -0.3EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

望遠端で撮影。全体的に解像感は十分に高いが、画面左端の一部がちょっと甘い。同じ望遠端でもこうならないカットもあったのでもしかすると手ブレ補正の影響か?

1/800秒 / F4 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

望遠端の撮影。遠景でもこれくらい解像してくれれば十分だと思う。

1/640秒 / F5.6 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

ズーム中間域の49mm相当で撮影。ズームレンズの場合、広角端と望遠端はよくても中間画角で画質が落ちるモノもあるけれど、このレンズは中間でも画質落ちは少ない。

1/100秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO320 / 絞り優先AE / 17.7mm

望遠端で絞り開放で撮ったときのボケ感はこんな感じ。このくらい近接ならボケ量もわりと大きい。

1/125秒 / F2.8 / 0EV / ISO160 / 絞り優先AE / 26.4mm

同じく望遠端の絞り開放描写。タテ位置で撮影。ヨコ位置の方に比べると距離が離れたこともあり、絶対的なボケ量は少なく感じる。ただし、前ボケを含めてボケ味はクセがなく非常に素直だ。

1/125秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO160 / 絞り優先AE / 26.4mm

同一地点から広角端と望遠端で撮影。24-72mmの3倍ズームなので、画角差はこのくらい。

1/250秒 / F4 / +0.3EV / ISO125 / 絞り優先AE / 8.8mm
1/125秒 / F4 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

広角端近くの25mm相当。絞りは開放でF1.6となった。このときの背景のボケ量はこのくらい。実焦点距離が9.3mmと短いため、さすがにボケ量は少ないが、それでも主被写体との分離はよく、立体感が演出されている。

1/1,000秒 / F1.6 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 9.3mm

望遠端の絞り開放で撮影。中望遠画角のF2.8としてはボケ量は少なく感じるが、何しろ実焦点距離は26.4mmしかないのだ。

1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

ISO3200で撮影。ノイズの許容量は人によって異なるだろうが、個人的にこのような被写体ではISO3200でもほとんど問題はないと感じる。

1/200秒 / F4 / -1.7EV / ISO3200 / 絞り優先AE / 19.5mm

クリエイティブコントロールのインプレッシブアートで撮影。メニューで設定しておけば、クリエイティブコントロールを適用しないノーマルのJPEG画像を同時記録できるのは便利。

1/1,600秒 / F4 / 0EV / ISO125 / プログラムAE / 26.4mm
(参考:ノーマル)1/1,600秒 / F4 / 0EV / ISO125 / プログラムAE / 26.4mm

広角端の最短撮影距離はレンズ前3cm。ここまでのアップが可能だ。

1/500秒 / F4 / +0.7EV / ISO125 / 絞り優先AE / 8.8mm

望遠端の最短撮影距離はレンズ前30cm。撮影倍率だけなら広角端の方がかなり大きく撮ることができる。

1/160秒 / F4 / +0.7EV / ISO125 / 絞り優先AE / 26.4mm

広角端の最短距離近くで撮影。この撮影距離なら玉ボケも発生し、大きなボケを味わえる。玉ボケを見ると、非球面レンズで出やすい輪線ボケ傾向がほとんど感じられず、またボケのエッジ強調もなく、とてもナチュラルなボケ傾向であることわかる。

1/400秒 / F2.5 / +0.7EV / ISO125 / 絞り優先AE / 10.2mm

まとめ

いろいろ書いたが、LX9は1型センサー搭載コンパクト機としてはなかなか良くできていると思う。画質については作例に付けたキャプションを参照してほしいが、基本的にはキレがよくシャープで、コンパクト機とは思えないほどハイレベルな像を得られる。

ソニーやキヤノンのライバル達に対してはEVFの拡張性がないことやF1.4という大口径の優位さをどう考えるかが購入時の選択ポイントになるが、EVFが必須でないならLX9は結構アリだ。それに、どうしても外光を遮断してフレーミングに集中したいときには市販のフードルーペを使えば液晶モニターを擬似的にEVFのように使うことも可能ではある。

一方、F1.4の大口径については望遠側ではF値が可変してしまうことを含め、あまり過度に期待しすぎるとガッカリするかもしれない。

確かに近接では大きくボカして光点ボケなどを作ることもできるが、いくら1型センサーとはいえ、フォーサーズやAPS-C機に比べるとレンズの実焦点距離の短さから来る被写界深度の深さは如何ともしがたく、被写体との距離によっては思ったほど背景や前景をボカせないことも多い。

ただ、大きなボケは得られなかったとしても、小口径レンズよりも背景との分離はいいので、それによる立体感の演出みたいなものは確実にある。

また、LX9のレンズは絞り開放から合焦部の解像はかなり出ている印象なので、絞り開放を有効活用することで光量の乏しい撮影シーンなどでは無理にISO感度を上げなくてもすむ。これも大口径の大きなメリットだろう。シーン的に室内撮影する機会が多い人用の1型機としては、現状ではベストかもしれない。

河田一規

(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。ライカは80年代後半から愛用し、現在も銀塩・デジタルを問わず撮影に持ち出している。