新製品レビュー

SIGMA sd Quattro(外観・機能編)

我が道を行くシグマ初のミラーレスカメラ

SIGMA sd Quattro+「35mm F1.4 DG HSM」

シグマからまもなく、同社では初となるミラーレスカメラ「sd Quattro」が登場する。2012年に発売された一眼レフ「SD1 Merrill」の基本コンセプトを受け継ぎながら、新たにミラーレス構造+Quattroセンサーを採用した注目の逸品だ。

最大の見どころは、これまではレンズ一体型の「dp Quattro」シリーズだけに限られていたQuattroセンサーの高画質が、超広角から超望遠までの多彩なSAマウントレンズで味わえること。同社は近年、SIGMA GLOBAL VISIONと銘打って、光学性能にこだわった交換レンズを次々と投入しているが、本カメラはそれらのレンズ群を統合する「システムの心臓部」としての役割を担っている。

発売は7月7日。今回は試作機による、外観と機能のインプレッションをお伝えする。

レンズマウント部が突き出たユニークな形状

実機を手にしてまず驚くのは、その外観デザインの斬新さだ。角を丸くカットした長方形のボディをベースにして、マウント部とグリップ部、そしてEVF部分がそれぞれ大きく突き出た、大胆かつユニークな形状である。

天面と底面に段差があり、マウント側よりもグリップ側の高さが短い独特の形状だ。筆者の大きな手では、構えたときに小指があまる点が気になるが、ホールド感は悪くない。前面右上のカバー内にはシンクロ端子を備える
中心よりもやや右側にEVFを配置。右目でのぞくと、レンズの光軸がほぼ顔の真ん中にくる。左目を開けながら右目で撮る人にとっては、左目の前方がふさがれる点に戸惑うかもしれない。接眼部は後ろに飛び出ているので、自分の鼻が邪魔になることは少ない
マウントの付け根部分は、まるでマウントアダプターを装着したかように、大きく突出している。そこを左手で包むようにして構えると、ホールディングが安定する。電源スイッチはマウント部の上にある
レンズ光軸上に三脚ネジ穴を装備。その横のカバー内には、オプションのパワーグリップ用の端子がある
側面には、HDMI端子、USB3.0端子、レリーズ専用端子を装備。ケーブルレリーズは従来と同じものが使える
シボ処理が施されたラバーグリップの感触は良好。背面には親指を支えるためのサムグリップがある

とはいえ、単に奇をてらったデザインというわけではない。マウント部の出っ張りは、そもそも一眼レフ用であるSAマウントレンズの長いフランジバックに対応するためであり、巨大なEVFはボディの高さを抑えつつ、高倍率のファインダー像を実現するためだ。また深いグリップによって、しっかりとしたホールドバランスを確保。グリップの内部には、大容量の新型バッテリーが入っている。

外形寸法は147×95.1×90.8mm。電池とカードを除く重量は約625g。ミラーレスカメラとしては大きめで重く、サイズ感は一眼レフのSD1 Merrillと大差ない。外装は、高級感漂うツヤ消しブラックのマグネシウム合金製。防塵防滴にも対応する。

オプションのパワーグリップ「PG-41」を装着し、さらにホールド感を高めることも可能だ。本体とは別に、パワーグリップ内にはバッテリーを2本収納できる
大口径レンズ装着時には特に役立つパワーグリップ。縦位置撮影用のシャッターボタンのほかに、コマンドダイヤルやAF/AELボタン、FUNCボタンも備えている

高倍率のEVFと2つの背面モニターを装備

EVFには、約236万ドットのカラー液晶を搭載。ファインダー倍率は約1.09倍で、35mm換算では約0.72倍。コーティング加工された3枚のレンズを組み込むことで、ファインダーの各種収差を抑えつつ、比較的大きな表示を実現している。

EVFの上には、視度調整ダイヤルを装備。アイカップは固定式。アイポイントは約21mm

ただしEVFの追従性には課題があり、カメラを上下や左右に振ると、ライブビュー映像がゆらゆらと歪んで表示される。ドット数の割には解像が低めでジャギーが目立つことや、AF作動中に表示の精細感が低下する点も気になった。

EVFの表示。必要に応じて、6種類のグリッド線やヒストグラム、水準器などを表示できる

いっぽう液晶モニターには、約162万ドット3.0型TFTを搭載。こちらもEVFと同じく、動きによる表示の歪みやAF作動時の解像の低下が少々気になるところ。明るさは十分で、屋外でも構図確認は容易に行える。

メインモニターに画像を再生した状態。動体の表示は苦手だが、静止した被写体の表示や再生モード時の視認性は問題ない。自動/手動による明るさ調整も可能だ。タッチパネルや可動機構には非対応となる
撮影時の液晶モニターの表示。EVFと同じく、各種撮影情報の表示やグリッド線、水準器表示などのON/OFFが選べる

このメインとなる液晶モニターのすぐ横に、各種撮影情報を表示するためのサブモニターを備える点は面白い。カスタマイズによってメインモニターに表示させる情報を最小限に設定すれば、情報表示に邪魔されず、フレームの隅々までをしっかり確認しながら撮影できる。

液晶モニターの上には、EVFと液晶モニターの切替レバーを装備。通常はオートが便利だが、不用意に切り換わってしまう場合には素早く手動選択に変更できる

像面位相差AFとコントラストAFの2方式を採用

続いて、撮影時の各種レスポンスを見てみよう。シャッターボタンを押すと、「カタン」という機械的なシャッター音がやや長めに響き、撮影が行われる。シャッターショックはそれなりに感じるが、一眼レフのSD1 Merrillとは異なりミラーショックはもちろんない。

レリーズの直後には、液晶画面が約1秒ほどブラックアウトする。その際、一瞬とはいえ画面上に砂時計マークが現れ、アフタービューの表示までやや待たされる印象が残る。ただブラックアウト中にシャッターボタンを半押しすれば、すぐにライブビュー画面に復帰するので、続けて次のシャッターを切ることも可能だ。

画像の書き込みについても1枚につき数秒かかるが、大容量のバッファメモリがあるので、書き込み中に続けて撮影を行ったり、各種設定を変更することはできる。

連写は最高3.6コマ/秒に対応。RAW記録の場合、連続して14コマまで撮影できる。また、画像サイズを4.9メガ相当に落とした場合には、連写速度を最高5.1コマ/秒に高められる。動画モードはない。

シャッターボタンはグリップの高い位置にあり、傾斜はごくわずか。半押しまでのストロークは深めで、はっきりとしたクリック感がある。最高シャッター速度は1/4,000秒。同調速度は1/180秒
ドライブモードでは、1コマ撮影のほか、連写、セルフタイマー、インターバル撮影が選べる

AFには、位相差検出とコントラスト検出の2方式を採用。その2つが被写体の輝度に応じて切り替わる仕組みだ。コントラスト検出方式のみだったdp Quattroシリーズから進化した部分といっていい。

さらにフォーカスモードとして、シングルAFのほかに、コンティニュアスAFが選択可能になった。測距点選択のモードは、9点選択モード、自由移動モード、顔優先AFモードの3つが用意。測距点のサイズは3段階から選べる。

9点選択モードの設定画面。背面十字キーの操作で、任意の1点を選べる
自由移動モードの設定画面。同じく十字キーを使って、枠内の好きな位置に測距点を動かせる

AFスピードはゆっくりめ。今回の試用では、発売が比較的新しい3本のArtラインレンズ(「18-35mm F1.8 DC HSM」「50-100mm F1.8 DC HSM」「35mm F1.4 DG HSM」)を使ったが、いずれもゆったりとした動作だった。ここは製品版でのブラッシュアップに期待したい。

シーンによっては、AFに頼らずマニュアルフォーカスに切り替えたほうが快適なこともあるだろう。マニュアルフォーカスの際は、ピーキング機能によって合焦部分を色付きで表示したり、指定部分を拡大表示にしたりできる。

天面のQSボタンを押すと表示されるクイックセットメニュー。ドライブモードやピーキングなどを素早く設定できる。クイックセットの表示項目をカスタマイズすることも可能だ

低ノイズ&広階調を実現するSFDモード

撮像素子には、APS-Cサイズ(23.4×15.5mm)のFoveon X3 ダイレクトイメージセンサー「Quattro」を、画像処理エンジンには「デュアルTRUE III」を搭載する。

センサーの基本原理は、これまでのdp Quattroシリーズと同じもの。演算によって画像を生成する一般的なセンサーとは異なり、3層構造になった各層の全ピクセルでフルカラー情報を取得でき、クリアな発色と精細な描写が得られる。そのうえで、輝度情報を最上位の層のみで取り込むことで、データ量の増大を抑えている。

機能面での注目は、新たにSFD(Super Fine Detail)モードを搭載したこと。1回のレリーズで露出の異なる7枚の画像を撮影し、1枚の専用RAWデータ「X3Iファイル」として保存するモードだ。そして、現像ソフト「SIGMA Photo Pro」を使用し、このRAWデータから低ノイズで広階調な画像を生成できる。

SFDモードは撮影メニューから選択する。機能のオン/オフのみで、SFDの詳細設定は特にない

7枚を撮影する間、カメラを固定する必要があるので三脚は欠かせない。静止した被写体限定の機能なので、活用シーンはあまり多くないが、静物や建造物などの撮影では役立つだろう。

7枚の撮影にかかる時間は、実測で約4.5秒。撮影間隔の設定はできないが、ストロボ側のチャージが間に合えば、ストロボ発光を併用することも可能だ。

撮影メニューの画像サイズでは「S-HI/HIGH/LOW/S-LOW」の4種類が選べる。このうちS-HIとS-LOWは、RAW記録の際は選べない
これまでのSDシリーズと同じく、ゴミなどの侵入を防ぐためのガラス製プロテクターをマウント部分に装備。これの取り外しを必要とするセンサー清掃は、カスタマーサポートに依頼するよう推奨されている
天面には、外部ストロボ用のホットシューを装備。右側には、ダイヤル操作などをロックするためのロックスイッチがある
記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードとなる
バッテリーにはリチウムイオン充電池「BP-61」を採用

SAマウントレンズを最大限に生かせる個性派カメラ

多くのミラーレスカメラは、ミラーボックスを省いたうえで、ミラーレス専用のレンズを新規開発することで、ボディのコンパクト化やAFの最適化を図っている。だがsd Quattroの場合は、ミラーレスでありながら専用マウントではなく、一眼レフ用のSAマウントを継承し、既存レンズをそのまま使えることが個性になっている。

豊富なSAレンズを使えることが大きな魅力。実撮影画角は、レンズ表記の焦点距離の約1.5倍相当となる

つまり小型軽量を目指したミラーレス化ではなく、既存レンズを生かしつつ、ライブビューを利用してシビアなピント合わせに対応するためのミラーレス化である。そして独自のQuattroセンサーならではの精密な描写を、さまざまなSAマウントレンズで楽しめるというわけだ。

スピードや携帯性を求める人は向かないが、描写力や光学性能にこだわる人にはたまらないカメラになるだろう。

次回は、製品版での実写画像を交えたレビューをお伝えする予定だ。

永山昌克

広告スタジオを経て、1998年よりフリーランスのフォトグラファー。以後、主に雑誌やウェブ、広告の分野で活動。得意分野は都会のスナップ。写真展に「チャイニーズ・ウエスタン」(銀座ニコンサロン)、著書に「写真の構図&アングル練習帳」(ソーテック社刊)などがある。