ライカM9【第3回】

6bitコードによる違いを検証

Reported by藤井智弘


エルマリート21mm F2.8と21mm用単体ファインダーを装着したライカM9。手前のレンズはエルマリート28mm F2.8 ASPH.。奥の向かって左がズマリット50mm F2.5、右がズミクロン35mm F2

 1954年の「M3」以来、現在も続くライカMマウント。M型初のデジタルカメラ、「M8」が登場した時、マウントの仕様を初めて変更した。6bitコードの追加だ。レンズ側のマウントに白と黒に塗られたコードを持ち、ボディ側のマウントに装備されたセンサーで読み取る。これはM9でも、そのまま受け継がれている。

 6bitコードのありとなしでは、何が異なるのか。その違いは2つあり、ひとつは装着したレンズに合った画像に最適化。主に周辺光量の低下が補正される。そしてもうひとつは、Exifにレンズ情報が記録される。M用レンズはCPUが入っていないため、6bitコードでレンズの種類をボディ側に伝えているのだ。

 しかし伝統のMマウント。6bitコードなしのレンズしか所有していない人は多いはずだ。筆者もそのひとり。しかし1970年代以降に製造されたレンズなら、多くが6bitコード付きへ改造ができる。そしてM8と「M8.2」では6bitコード自動読み取り、もしくはオフの2つだけだったのが、M9ではマニュアル設定も可能になった。もちろんすべてのMレンズに対応しているわけではないが、6bitコードに改造していないレンズでも6bitコード付きと同様の効果が得られる。筆者自身も6bitコード改造をまだ行なっていないため、基本はマニュアル設定だ。

M9のマウントに装備された、6bitコード読み取りセンサー。そのレンズに最適化した画像が得られ、Exifにもレンズ情報が記録されるレンズマウント部にある白と黒い部分が6bitコード。6bitコードなしでも、70年代以降に発売されたレンズの多くが改造可能。またM9はマニュアル設定もできる
6bitコード付きレンズの場合、メニュー画面から「レンズ検出」を「オート」に設定すると読み取りが行なわれる。6bitコードなしのレンズやあえて異なる焦点距離に設定したい場合は「マニュアル」に。レンズ検出を行なわない場合は「オフ」にする6bitコード付きのレンズでレンズ検出を「オート」、あるいは「マニュアル」で焦点距離を手動選択すると、「INFO」ボタンによる情報画面に装着(選択)されたレンズ名が表示される
レンズ検出を「オート」のまま6bitコードなしレンズを装着した場合や、レンズ検出を「オフ」にすると、レンズ部分は「Uncoded」と表示される

 レンズ交換時にいちいち設定し直すのが面倒(しかも時々、うっかり忘れてしまうこともある)だが、それでもとてもありがたい。なお対応していない古いレンズやMマウントアダプターを使用した場合、また純正以外のレンズを装着した場合は、レンズ検出をオフにするか、マニュアルで好みの画質が得られるレンズ項目を選んで設定する。

 ここでは6bitコード付きレンズ2本、6bitコードなしレンズ2本の計4本を使い、6bitコード読み取りのあり、なし、マニュアル設定のあり、なしを試してみた。使用したレンズは、6bitコード付きがライカカメラジャパンからお借りした「エルマリート28mm F2.8 ASPH.」と「ズマリット50mm F2.5」。6bitコードなしは、筆者が所有している「エルマリート21mm F2.8」と「ズミクロン35mm F2」だ。ちなみに21mm F2.8は、90年代のM6世代。35mm F2は70年代のM4世代。いわゆる6枚玉と呼ばれているタイプだ。

エルマリート28mm F2.8 ASPH.を装着したところズマリット50mm F2.5を装着したところ
エルマリート21mm F2.8と単体ファインダーを装着したところズミクロン35mm F2を装着したところ

周辺光量のみならず色調も変化

 テストでは、6bitコード読み取りをオン、もしくはマニュアル設定した状態と、オフにした状態で、それぞれ絞り開放から最小絞りまで1EVステップずつ(ズマリット50mm F2.5は1/2EVステップもあり)撮影した。周辺光量低下は、絞り開放では目立っても、絞ると改善しやすい。「オン」と「オフ」では、絞りの変化でどのように写りが変わるのかがわかるはずだ。なお画像はすべてJPEG撮影。レタッチは一切していない。おかげでゴミもたくさん写っているのだが、これはご容赦いただきたい。

 結果は案の定、「オン」と「オフ」では、周辺光量が大きく異なっていた。特に差が激しいのが28mmと21mmだ。6bitコード付きの28mmもなしの21mmも、「オフ」では周囲がケラレたように暗く落ちている。28mmでは1段絞るとかなり改善されるが、それでも最小絞りまで暗いまま。21mmはどの絞りでも周辺が極端に暗くなる。

 さらにこの2本は、周辺光量だけでなく色調まで変化した。どちらも「オフ」ではマゼンタの色カブリが見られる。6bitコードや焦点距離マニュアル入力は、単純に周辺光量低下だけ補正しているのではないのだ。

 50mmと35mmも「オン」と「オフ」で変化するが、28mm、21mmほど劇的ではない。もしオフのまま撮っていたとしても、影響は少ないだろう。あとは好みだ。人によっては、50mmと35mmの「オン」は、絞りを絞ると過剰補正に感じてしまうかもしれない。

マニュアル設定は、装着するレンズと同じものを選択する。もしない場合は、テスト撮影して最も結果がよかったレンズ名、もしくはオフにする。あえてほかのレンズを設定することも可能だ

 通常は「悪」とされる周辺光量低下だが、必ずしもすべての条件で「悪」というわけではない。表現によっては、周辺光量低下が画面にドラマチックな効果を与えることもある。また画面が完全に均一より、わずかに周辺が落ちていた方が、画面が締まって見える場合もある。暗室のプリント時に、印画紙の四隅を軽く焼き込んだ経験がある人もいるだろう。周辺光量の違いが、作品に与える印象が異なってくるのだ。

 28mmと21mmは、通常は「オン」をおすすめしたい。ただし「オフ」の極端な周辺光量低下を活かし、インパクトのある作品を狙っても面白い。さらにモノクロにすれば、マゼンタの色カブリも問題なくなる。なんでも「オン」ではなく、表現によって「オン」と「オフ」を使い分けるのも、M9を楽しむコツのひとつなのでは、と感じた。

 なおマニュアル設定では、当然装着するレンズとは異なるレンズを選択することも可能だ。24mmを装着しているのに、あえて90mmを設定、ということができる。ここではズマリット50mm F2.5を装着し、レンズ検出を「オート」にした状態と、「マニュアル」であえてエルマリート21mm F2.8に設定した画像を比べてみた。「オート」は、6bitコードを読み取っているので、そのレンズに最適な画像。「マニュアル」では、周辺光量低下を補正するために画面周囲が「オート」より明るくなった。また色調もイエローが強い。Exif情報を無視すれば、「マニュアル」は個性的な表現に使っても楽しそうだ。

実写サンプル

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

エルマリート28mm F2.8(6bitコード付き)

・6bitコード読み取りオン(左)、6bitコード読み取りオフ(右)

※共通設定:M9 / エルマリート28mm F2.8 ASPH. / 5,261×3,472 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

・6bitコード読み取りとマニュアルレンズ選択の比較

※共通設定:M9 / エルマリート28mm F2.8 ASPH. / 5,261×3,472 / 1/3,000秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO160 / WB:オート

6bitコード読み取りマニュアルレンズ設定

ズマリット50mm F2.5(6bitコード付き)

・6bitコード読み取りオン(左)、6bitコード読み取りオフ(右)

共通設定:M9 / ズマリット50mm F2.5 / 5,261×3,472 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート

F2.5
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

・6bitコード読み取りとマニュアルレンズ選択の比較

共通設定:M9 / ズマリット50mm F2.5 / 5,261×3,472 / 1/1,000秒 / F2.5 / 0EV / ISO160 / WB:オート

6bitコード読み取りマニュアルレンズ設定

エルマリート21mm F2.8(6bitコード無し)

・マニュアルでレンズを設定(左)、6bitコード読み取りオフ(右)

共通設定:M9 / エルマリート21mm F2.8 / 5,261×3,472 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

・マニュアルレンズ設定とレンズ検出オフの比較

共通設定:M9 / エルマリート21mm F2.8 / 5,261×3,472 / 1/2,000秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO160 / WB:オート

マニュアルレンズ設定レンズ検出OFF

ズミクロン35mm F2(6bitコード無し)

・マニュアルでレンズを設定(左)、6bitコード読み取りオフ(右)

共通設定:M9 / ズミクロン35mm F2 / 5,261×3,472 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート

F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16

・マニュアルレンズ設定とレンズ検出オフの比較

共通設定:M9 / ズミクロン35mm F2 / 5,261×3,472 / 1/3,000秒 / F2 / 0 EV / ISO80 / WB:オート

マニュアルレンズ設定レンズ検出オフ

ズマリット50mm F2.5をエルマリート21mmF2.8の設定で撮影

 6bitコード付きのズマリット50mm F2.5を装着し、レンズ検出(6bitコード読み取り)と、あえてマニュアルでエルマリート21mm F2.8に設定した画像を比べてみた

共通設定:M9 / ズマリット50mm F2.5 / 5,261×3,472 / 1/90秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO160 / WB:オート

6bitコード読み取りオンマニュアルでエルマリート21mm F2.8に設定





(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。

2010/4/26 12:33