PENTAX K-30【第1回】

スーパーフィールドカメラの末弟を試し撮り

Reported by 大高隆


 K-30は防塵防滴機構や視野率100%ファインダーなど、一般には上級機にしか与えられない機能をエントリークラスの小型軽量ボディに盛り込んだニューモデル。その性格から旅行者、あるいはフィールドワークに携わる方々から注目を集めている。筆者の周囲にもすでに何人か購入した方もあり、話題のカメラと言って差し支えないだろう。



 俯瞰的に見たものはすでにファーストインプレッション新製品レビューが記事としてあるのでそちらを参照していただくとして、この長期レポートでは、実際にK-30を使い、その中で気がついた細かなポイントを中心にとりあげていきたい。

 ペンタックスのデジタル一眼レフカメラには「上級機が2ダイヤルで普及機が1ダイヤル」という暗黙の了解のようなものがあった。今回、K-30が2ダイヤルを採用したことで、上級機K-5との棲み分けについていろいろ議論を呼んでいるが、実際に触ってみると、ボディ全体の作りの印象はまぎれもなく先代のエントリーモデルK-rの後継だと感じる。大雑把にいえば、K-rのシャシにK-5のプリズムを驕り、K-01に採用したPENTAXの一番新しい撮像素子を載せ、防塵防滴のシーリングを施し、操作系を2ダイヤルに手直ししたものだといえる。

 このカメラがK-rの後継であることを真っ先に感じるのはシャッター音だ。K-5のシャッター音は市場にあるデジタル一眼レフカメラの中で、耳障りがなく音量の静かな部類に入る。それと比較すると、K-30のシャッター音は明らかに軽い。決して安っぽい音ではないが、例えばライブハウスでの演奏の撮影というような場面なら筆者は迷わずK-5を選ぶ。

 一方で、手にもった途端にわかる軽さはK-30の大きな美点で、撮影がメインではない旅行や出張から普段の散歩にまで気軽に持ち出すことができ、結果としてよい写真を残すことに結びつくだろう。

 ペンタックスのカメラは軽量小型であることがもはや宿命づけられているといってもよい。かつて中判フィルムカメラの常識を覆す小型ボディにモータードライブを内蔵し、35mmカメラに匹敵するシャープなレンズシステムを備えたPENTAX 645に与えられたキャッチフレーズは、「スーパーフィールドカメラ」であった。

 デジタル一眼レフカメラの時代も、istシリーズを別にすればペンタックスの上級機はすべて防塵防滴性能を備えていた。その血脈を受け継ぎ、K-30ではついにエントリークラスにも2ダイヤル/防塵防滴仕様が導入され、スーパーフィールドカメラの末弟と呼ぶにふさわしいものになっている。


K-5とはかなり違う操作系

 K-30の操作系はK-5の系統ではなく、2ダイヤルであること以外はK-rやK-01のものを踏襲している。そこに2ダイヤルだからできる利点として、ペンタックスのお家芸のハイパープログラムAE/ハイパーマニュアルや、ユーザーの好みに併せて変更できるダイヤルやボタンへの操作割り付けが追加された形だ。ただ、なまじ2ダイヤルであることから、K-5になじんだ筆者にとってはどうしても「2ダイヤルなのにK-rと同じ」という混乱を生じる部分がある。

 例えば、これもペンタックス上級機では伝統の、シャッターボタン同軸のメインスイッチに配置された絞り込み機能もK-30には与えられていない。筆者はカメラを構えるときまず最初に絞り込み操作をする癖があり、それができないのでウッとなることがままある。


シャッターボタン同軸のレバーはON/OFFの2ポジションで、絞り込み機能はない。

 その代わりといってはなんだが、絞り込み(光学プレビュー)機能はエプロン部左側にあるRAW/Fxボタンに割り当てることができる。ここも、シャッターボタン同軸と同様に「特等席」であり、操作性としては申し分ない。エプロン部の滑り止めのような突起は、ホールディングする指の位置がどこにあるかが感覚的にわかり、慣れれば手探りをせずに一発でボタンを押せるようになりそうだ。


RAW/Fxボタンはエプロン部左側にあり、K-5よりもだいぶ高い位置に移った。

 プレビューよりさらに戸惑うのは再生ボタンの位置。K-5では背面左肩にあるのだが、K-30ではK-rと同じく十字キーの左上、右手親指で操作する位置にある。筆者はかねてから、再生ボタンは右手操作が可能な位置に持って来てほしいと力説している立場で、この位置に移動したことは大歓迎なのだが、慣れとは恐ろしいもので、画像を再生しようとして、つい左肩にボタンを捜してしまうことが多い。


K-30の再生ボタンは十字キーのすぐ近くにあり、カメラを持ち替えずに操作できる。右側の黒いボディはK-5だが、再生ボタンはボディの左肩にあり、手持ち撮影時には、ホールディングをほどかずに押すことは難しい。

 以上のことは、どれも筆者がK-5の操作系に慣れすぎているため気になるに過ぎず、新規のユーザーにはまったく気にならないはずだということは申し添えておく。少々戸惑いがあるのも事実だが、いずれも慣れの問題だろう。


単3形バッテリーホルダーとAF分割スクリーン

 筆者の場合、レンズは手持ちがあるのでボディ単体で購入し、それに加えて、単3形バッテリーホルダーD-BH109とAF分割マットフォーカシングスクリーンML-60を同時購入した。

 単三型バッテリーホルダーは、K-30に単3形電池を使うための必需品。フィールドで十全に使いこなすにはぜひとも購入すべきものといえる。単三型電池が使えることには2つの意味がある。

 第一は、ストロボやボイスレコーダーなどの機器と電池を共用できること。携行する予備電池や充電器の数を削減することができ、システム全体での軽量化が可能になる。

 第二に、単3形リチウム電池を使えば寒冷地で安定した性能を発揮できること。リチウム電池はマイナス20度前後まで性能を保ち、日本国内であればほとんどの環境で撮影が可能になる。保存寿命も10年と長いので、単3形バッテリーホルダーにリチウム電池を詰めてカメラに装填し、予備のリチウム電池をもっておけばいつどこに出かけることになっても、カメラは確実に動作するだろう。


D-BH109は単3形電池4本を収納して、カメラの付属充電池の変わりに使う電源。しっかりした作りで好感が持てるが、できれば端子キャップかケースが欲しかった。電池は、アルカリ電池/ニッケル水素電池/リチウム電池を使うことができる。経済的なのはニッケル水素電池で、真冬の屋外などではリチウム電池を使うのがいいだろう。

 AF分割マットは画角の長辺短辺をそれぞれを4分割するグリッドが刻まれたフォーカシングスクリーン。これに交換することでファインダー視野にグリッドが表示されるようになり、水平垂直や平行をとるための目安になる。コンパクトデジカメの背面液晶に三分割のグリッドが表示できるものが多いが、あれの光学的な実装と思えばいい。


ML-60はグリッド入りフォーカシングスクリーン。他社で一般的な中央から等間隔の方眼スクリーンではないところがPENTAXらしい頭の使いどころ。K-5/K-7用のものを共用する。

実写サンプル

 多摩川にほど近い田園調布本町界隈を軽く流しながら撮影したものを添える。カメラの性格を把握するために、とりあえずあまり設定をいじくらずに撮っている段階なので、特に断りがない限り撮影設定は、絞り優先オート、WB:オート、AF、分割測光にセット。画質設定はデータ処理の能力を見るために、収差補正機能を歪曲/色収差ともに有効。ダイナミックレンジ拡大もハイライト/シャドウともに有効に設定してある。

 すべての写真は手持ちで撮影している。レンズはSMC PENTAX DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WRを使った。


DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WRを装着した筆者のK-30
  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。


路地裏から出たところに出くわした風景。ズームレンズは直線が歪むものが多く、こうした構図がイマイチしまらないものになることがままあるが、内蔵の収差補正機能のおかげで、配置の妙をすっきりと写しとめることができたと思う。白い自動販売機のハイライトのディテールが飛んでいないあたりが、機材評価としてはポイントか。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.5MB / 4,928×3,264 / 1/800秒 / F11 / 0.0EV / ISO800 / / 40mm

テニスコート。左側の選手の方が綺麗にドライブがかかっていそうかな。少し後ピン。この写真以降の作例ではテストのため自動垂直補正を有効にした。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.9MB / 4,928×3,264 / 1/640秒 / F9 / 0.0EV / ISO400 / WB:オート / 115mm

まっすぐに伸びる軌道のパースペクティブ。この構図も歪曲収差の補正が効いているからぴりっとしたものになる。自動垂直補正も効いているが、ごくまれに、個体差により水平の基準がずれてしまうことがある。その場合はメーカーでの調整が必要だ。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.6MB / 4,928×3,264 / 1/640秒 / F9 / 0.0EV / ISO400 / WB:オート / 48mm

炎天下にISO400で撮影していたが、どうやらISO800にセットして一段速く切るべきだったようだ。近年発売された一般的なデジタル一眼レフカメラならば、ISO1600は完全に常用感度だ。ただシャッター速度の高速側限界があるので、闇雲に感度を高く設定するとこのような明るい場所では露出オーバーになってしまう。K-30にはTAvがあるが、それを利用するべきシチュエーションだったかもしれない。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.5MB / 4,928×3,264 / 1/320秒 / F9 / 0.0EV / ISO400 / WB:オート / 135mm

河川管理事務所の通信塔。この辺りのランドマークになっている。上部2枚の円盤状のメッシュフロアの構造の描写に、シャドウ補正と収差補正の効果を感じる。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.2MB / 3,264×4,928 / 1/1,600秒 / F11 / 0.0EV / ISO800 / WB:オート / 48mm

このような構図をとりながら動きのある被写体をタイミングよく写すのは手持ち撮影では意外と難しいものだが、自動水平補正のおかげで、構図の見切れとシャッターチャンスだけに集中し、水平はアバウトでいいのでかなり楽になる。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.3MB / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F11 / 0.0EV / ISO800 / WB:オート / 68mm

18-135mm WRレンズの最短撮影距離での接写はこの程度までいける。このレンズはもともとの性能が高く、そのうえカメラの収差補正機能が有効に効いているおかげで甚だしい直線の歪みや周辺像の流れなどは見られない。通常の資料撮影などには充分だろう。あえて絞り開放で撮影。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約7.3MB / 3,264×4,928 / 1/800秒 / F5.6 / 0.0EV / ISO800 / WB:オート / 135mm

遠景のビルに下すぼまりのパースがついているのは、広角で橋の上から見下ろすアングルで撮影しているためだが、この程度のわずかなパースがわかってしまうのは水平と歪曲がきっちり補正されているからだといえる。PENTAX K-30 / DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WR / 約6.8MB / 4,928×3,264 / 1/2,000秒 / F8 / -0.3EV / ISO800 / WB:オート / 18mm

 全体を通して思うのは、収差/ダイナミックレンジ補正の進歩で、フィルムに負けない諧調を持ち始めているなということ。動画対応のためにカメラ内のデータ処理が高速化されたことの恩恵が、スチルの撮影にもフィードバックされているのだろう。加えて、K-30を含むペンタックスのデジタル一眼レフカメラには、イメージセンサーを回転させて水平を保つ機構がある。従来のハンドカメラでは不可能だった「完全に均衡がとれた構図の手持ち撮影」が夢ではないところに近づいて来ているなと感じた。

 K-30のフィールドカメラとしての適正を十全に活かすためには防塵防滴仕様のレンズを組み合わせてやりたい。ペンタックスには防塵防滴仕様となる大口径高性能のDA*(DAスター)シリーズと、簡易防滴仕様のWRシリーズという2つのラインがあるが、DA*は大きく重い上に高価なので、K-30を検討する多くのユーザーが興味を持っているのはWRシリーズだろう。

 次回はそのWRシリーズの中からDA 18-55mm F3.5-5.6 AL WRとDA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL [IF] DC WRの2本をとりあげて軽くテストしてみたいと思う。

【2012年9月5日】記事初出時、WRシリーズのレンズを「簡易防塵防滴仕様」と記載しておりましたが、正しくは「簡易防滴仕様」です。






大高隆
1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

2012/9/5 00:00