リコー「GXR MOUNT A12」にチノンの“AFレンズユニット”を装着
Reported by糸崎公朗
丸い目玉のロボットの顔みたいなメカが合体した、リコーGXR。実はこれ、1982年に発売されたチノン「AF 50mm F1.7」で、レンズ単体で作動するAFレンズだ。今回はこれを“AFレンズユニット”として、MFユニットの「GXR MOUNT A12」に装着し、黎明期のAF機能を味わってみる。また、マウント変換リングにも工夫を施した。 |
■黎明期に発売されたAFレンズユニット
中古カメラショップで変なものを買ってしまったのだが、それがチノンの「AF 50mm F1.7」(CHINON AF 50mm F1.7)である。基本的には一眼レフカメラ用の50mm標準レンズなのだが、ロボットのような目玉が2つ付いた異形の姿をしている。実はこれ、レンズ単体で作動するAFレンズなのだ。
AF方式は赤外線を被写体に照射して三角測量を行うアクティブ型で、2つの目玉はそのためのセンサーである。その他にレンズ駆動モーターや電池ボックス(単4電池2本使用)など、AFに必要な機能を全て本体内に装備している。レンズ本体横の「AF作動ボタン」を押すと「ジー」というギア音と共にレンズが回転し、ピントを合わせて「ピピッ」という電子音と共にに停止する。
AF 50mm F1.7はこのようにレンズ単体でAFが作動するので、これを装着したMF一眼レフカメラは“AF一眼レフカメラ”に変身する。発売されたのは1982年で、実用的AF一眼レフカメラの元祖であるミノルタ「α-7000」が発売されたのは1985年だから、それ以前の製品だ。
つまり当時としては時代を先取りして“AF一眼レフ”を体験できる、夢のような商品だったのである。現在はハイテク全盛だが、この時代の電子技術は「テクノ」と呼ばれており、このAFレンズもまさに最新テクノだったに違いない(笑)。
マウントはペンタックスKマウントだが、当時のチノンは自社ブランドの一眼レフカメラや交換レンズに、Kマウントを採用していたのだ。ちなみにチノン(CHINON)は長野県にあったカメラメーカーで、8mmムービーカメラや「チノンベラミ」などユニークなコンパクトカメラで、マニアに名が知られている。一度倒産したが、現在は復活している。
■装着にはアダプターに工夫が必要
さて、そんなチノンの野心作だが、残念ながら(?)現代のデジタル一眼レフカメラには装着できない。このレンズのAFセンサーの出っ張りが、デジタル一眼レフのフラッシュ収納部にぶつかるのである(「PENTAX K-01」には装着できそうだが、この記事の執筆時点では未発売)。
そこで「GXR MOUNT A12」の登場である。このカメラユニットはライカMマウントを装備したMF専用機なのだが、これに“AFレンズユニット”としてAF 50mm F1.7を取り付けると、なかなか楽しそうなことになりそうだ。
装着には、ライカM→ペンタックスKマウント変換リングを使用した。しかしテスト撮影したところ、AFではどうしてもピンボケになってしまう。レンズ単体で測距するため、マウントアダプターのフランジバックが正確でないと、ピントがずれてしまうのだ。
一方マウントアダプターは、レンズごとのバラツキに対応するため無限遠に余裕を持たせ、規定のフランジバックより短めに設計されている。そこでAF 50mm F1.7に合わせ、アダプターのフランジバックを調整する工作を行なった。
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今回組み合わせる各ユニットを並べてみた。右上がAF 50mm F1.7で、左下のGXR MOUNT A12ユニットと比べてだいぶ大型なのがわかる。右下はM→L変換リングで、mukカメラサービスで購入した香港製。 | 全てのユニットを組み合わせると、見たこともないような姿のカメラになる(笑)。このAFレンズのロボットの顔のようなデザインは、1980年代の「テクノ」を反映していると言える。 |
左斜め後方から見たところ。マウント変換リングのくびれが、いかにも“連結”という感じだ。レンズ左横の赤いボタンがAF作動スイッチ。レンズ後部左下には、アラームON/OFFスイッチがある。 | レンズ後部上方から見たところ。オレンジに光るフォーカスシグナルと、絞り値を示す小窓を装備している。ただしカメラのファインダーを覗いてると、フォーカスシグナルは見えないので意味がない(笑)。 |
本文で述べたように、AF 50mm F1.7とGXR MOUNT A12をただ組み合わせただけでは、AFでピントが合わない。マウント変換リングのフランジバックを調整する必要があるのだ。そこでまず、マウントアダプターのカメラ側のMマウントを外す。 | いくつか素材を試した結果、100円ショップで購入したクリアホルダーで、フランジバック調整用のスペーサーを作ることにした。 |
クリアホルダーはこのようにカットし、マウントアダプターのスペーサーとする。 | スペーサーをマウント変換リングのこの位置に置き、さらにMマウントをネジ止めすると完成。フランジバックがほんの少し長くなり、AF 50mm F1.7の無限遠でピントが合うようになる。 |
■テスト撮影
AF性能ではなく、レンズそのものの描写を見るためのテスト撮影をしてみた。被写体はいつもの“金網チャート”で、ピントは無限遠に固定し、露出を一定のまま絞りを変えながら撮影している。
開放からF2.8にかけてはソフトな描写だが、F8でビックリするくらいシャープな描写になる。絞りすぎると回折現象でピントが甘くなり、F22ではコントラストも落ちる。金網を見ると歪曲収差はほとんど認められない。
同じレンズ構成でMF仕様の50mm F1.7は、一説によると富岡光学(自社ブランドを持たないレンズメーカーの隠れた名門)製で、テスト結果はその噂を裏付けているかのようである。
※共通設定:GXR MOUNT A12 / CHINON AUTO FOCUS LENS 50mm F1.7 / 4,288×2,848 / 0EV / ISO200 / プログラムAE / WB:オート
F1.7 | F2 | F2.8 |
F4 | F5.6 | F8 |
F11 | F16 | F22 |
■実写作品と使用感
今回は撮影のためにさいたま市を訪れた。前日大雪が降ったので雪の残る街並みを撮ろうと思ったのだが、気温が急上昇してほとんど溶けてしまっていた(笑)。まぁしかし、ぼくは“路上”そのものが好きなので、どんな状況でも楽しめるのである。
画像設定は全てモノクロで統一した。実は4月3日から開催されるぼくの個展「反-反写真」がモノクロスナップ写真なので、その宣伝も兼ねている(笑)。
「反-反写真」についてはこの連載の場を借りていろいろ試しながら追求しているのだが、APS-Cサイズのデジタルカメラに50mmレンズを装着した、ライカ判換算75mm相当の画角で撮影するのは、今回が初めてである。もともとぼくは広角レンズを好んで使ってきたので、75mm相当の“微妙に狭い画角”には始めは戸惑ったが、“このレンズしかないんだ”と覚悟を決めれば(笑)だんだんこの画角ならではの画面構成に目がなじんでくる。
絞りはすべてF8で統一した。テスト結果ではF8がもっとも高画質だったし、そもそもEXIFに絞り値が記録されないクラシックレンズは、決まった絞りで統一した方がデータ管理がしやすいのだ。また本レンズの場合、AFの精度に対する保険の意味もある。
そのAF性能だが、F8で使う限りにおいてはまずまずと言ったところだろうか。フォーカススピードはそれほど遅くはなく、ピントの迷いも少ないが、「ピピッ」っとアラームが鳴ったところでシャッターを押してもピンボケであることが少なくない。
しかし何度かAFボタンを押してピントを合わせ直せば、ピントの合う確率は高くなる。しかしそれでも100%ピントが合うとは限らない。おおむね近距離ではピントが合いやすいが、無限遠の手前の中距離でピントを外すことがあった。赤外線による三角測量方式は、原理的にある程度距離が離れると精度が落ちるのだ。
しかし黎明期のAFであることを考えるとおおむね満足できる性能で、独自の操作感と相まって撮影を楽しむことができた。
■告知
糸崎公朗写真展「反-反写真」が4月15日までTAPギャラリーで開催されています。
- 会場:TAPギャラリー
- 住所:東京都江東区三好3-2-8
- 開催日:2012年4月3日~2012年4月15日
- 時間:13時~19時
- 休館:月曜
2012/4/9 04:33