デジカメアイテム丼
特別編:“Nikon×MILLET”レンズリュックプロのこだわりを聞く
カメラのニコンとアウトドアのミレー、コラボの成果は?
(2013/4/18 00:00)
4月20日に発売になる「Nikon×MILLETレンズリュックプロ」は、超望遠レンズ600mm F4や400mm F2.8を装着したD4ボディを収納できるリュックサック型カメラバッグ。山岳の世界では大変有名なミレーとのコラボレーションモデルとして、非常に力が入った製品だ。凝った特設サイトも用意され、ニコンとミレーの意気込みの強さも感じられる。そこで、今回は開発担当にその意気込みと製品の特徴についてお話を伺った。(文中敬称略)
お話を伺ったのは、企画担当を行ったニコンイメージングジャパン野木陽子氏とラフマ・ミレー商品企画部齋木泰司氏、同ホールセール営業部山根輝氏。
−−まず、ニコンとミレーのコラボレーションについて教えてください。
野木:以前からアウトドアスポーツをされる方や山岳写真を撮影される方についてサポートしたいという思いがあり、山岳写真家の方に紹介していただいたのがきっかけです。
山根:ニコンはカメラやレンズのエキスパート。ミレーはアウトドア用品のエキスパートとしてお互いに製品へのこだわりが似ていて、意気投合できました。
野木:ニコンらしさと、ミレーらしく「アクティブに動くときにその活動を損なわないような製品を」、ということはいつも考えています。
−−では、本製品の開発にいたる経緯についてご教示ください。
野木:以前から、ニコンユーザーには山岳などの自然条件の厳しい場所でも超望遠レンズや多量の機材を安全に運搬できるバッグがほしいというご要望を多数いただいていました。一方、ミレーにもアウトドア用品で培った経験を生かして同じような意向があり、それであればご協力いただいて、重い大柄な機材を山岳撮影に持って行けるリュックを作ってみようというところから企画が始まりました。
−−山岳撮影では小型軽量な機材を使うのではないかという印象があります。大口径レンズや超望遠レンズを山岳撮影で使いたいというニーズはあるものなのですか。
野木:絶対数は限られるかもしれませんが、根強いニーズはあります。
山根:星空や雪山などの悪条件では超望遠や大口径レンズを使いたいという声はよく聞きます。従来の「Nikon×MILLET アイガーヴァント26」では容量が26リットルでしたので、大柄で重量のある機材の運搬には対応できていませんでした。
−−となると、安全に運搬できるバッグがないから、いままでユーザーは超望遠レンズの使用をあきらめていたのかもしれませんね。
野木:そうですね。ニコンの製品全体を見回してみても、超望遠レンズを収納できるバッグがありませんでした。そして、この製品はニコンダイレクト(オンラインショップ)と直営店での取り扱いとなりますが、ニコンダイレクト製品の存在意義として、コアユーザーの声にも応えた製品が必要との思いがありました。
−−そうなると、ターゲットユーザーは。
野木:超望遠レンズをお使い方はもちろん、それ以外にも撮影現場に機材をたくさん持っていく、プロやハイアマチュアユーザーに使っていただきたく思っています。堅牢で大切な機材をたくさん運搬でき、かつ機動性のあるバッグを探されているユーザーにぜひ使っていただきたいと思います。
−−主な特徴を教えていただけますか。
齋木:サイズが大きく高価な600mmレンズ(Mサイズは400mm)とボディをはじめ、各種機材を自由にカスタマイズして問題なく運べるバッグであることです。そのためには軽量さよりも堅牢さを重視しました。なおかつ現在のトレンドであるミニマムデザインを意識して、シンプルなデザインを心がけました。ニコンはカメラはもちろん、レンズに関しては特にこだわりがあるメーカーです。一方、ミレーは背負い心地のよさでは他社に負けません。その背負い心地を保ちつつカメラとレンズを安全に運搬できる堅牢性をどう持たせるかは大きな課題でした。そこで、アウトドアスポーツ業界で培った経験が盛り込まれています。
−−アウトドアスポーツ業界で培った経験とは、具体的にはどのようなものですか。
齋木:まずひとつめは、バッグ内部でレンズを確実に固定するために、中仕切りだけではなく固定テープを設けました。その止め方に特徴があります。面ファスナーを用いていますが、面ファスナーは横方向の動きには強いという点を利用し、デイジーチェーンを内側に設けてそこに固定テープを固定できるようにしました。おかげで固定テープが外れる可能性が大変低くなっています。デイジーチェーンとは通常はバッグの外側にあり、さまざまなクライミングギアを止めるループです。
山根:デイジーチェーンは両側にあります。
−−中仕切りもかなり分厚いですね。
齋木:はい、通常では中身は発泡材だけですが、超望遠レンズや大量の機材を収納する目的がありますので、もっとコシの強い素材が必要と考えました。そこで、プラスチック板を両側から発泡材で挟むサンドイッチ構造にしました。発泡材自体にも厚みがあります。
山根:通常のカメラバッグでは中仕切りはもっと薄いと思います。やはり頑丈にしないといけないという思いがありました。
齋木:中に入れてあるプラスチック板も万が一飛び出して機材を傷つけてしまうことがないように、角を丸めて一回り小さいサイズにしてあります。
野木:内部の視認性を向上させるため、仕切りはニコンカラーである黄色に、内部はグレーにしました。
−−三脚を外部に固定できるようですが、ホルダーが独特の形状をしています。
齋木:これが工夫を凝らした部分です。取り付けた三脚がバッグの底の部分にはみ出さないようにしました。三脚を取り付けてもバッグを立てておくことができます。使用する際には底から引き出してポケットを作り、かごのようなかたちで三脚を収納します。使わない場合は分解して収納します。すっきりとしたデザインで、なおかつシステマチックなものにしたいという意図もありました。このアイデアは、ミレー製品でスリープマットをバッグ下部にはみ出さずに固定する工夫を応用したものです。これもまた、山岳の現場の声をカメラバッグに応用した例でしょう。
−−たしかに、バッグ内部の機材の固定方法が複数あったり、三脚の飛び出しにこだわっているカメラバッグはあまり見たことがありません。ほかにも、さまざまな細かい工夫があるようです。
齋木:三脚をバッグにつけたままでかぶせることができるレインカバーも特徴的です。ジャストサイズではなく、わざとたわませて余裕を持たせています。ただし、枝に引っかけたりする危険性を考えるとたわみは持たせたくありません。そこで、荷物が少ない場合には全体を縮めることができるドローコードも備えています。裏面はレフの代わりになるよう銀色です。これはアウトドアスポーツ業界にはない考え方でした(笑)。
−−レインカバーはどこに収納するのでしょう。
齋木:ウエスト部分のポケットに収納できます。背負ったままでも手が届いてアクセスしやすい位置にと考えました。底部分に取りつけるとバッグが自立できなくなりますし、上部分ではシンプルなデザインを損ないます。お好みに応じて着脱が可能です。これも、山岳用品のデタッチャブルポケットの考え方です。左右にありますので、反対側にはレンズキャップやコンパクトカメラをさっと収納しまうことができます。
山根:いまだと、スマートフォンを入れたいというご要望が多いですね。
−−だいぶ本体に剛性がありますね。
野木:軽さよりも堅牢性を重視しました。カメラバッグを軽くする工夫はいままでにもありましたが、背負い心地をよくするかという工夫はあまりなされていなかったのではないでしょうか。いかに堅牢性を保ちつつ、背負い心地をよくして重さを感じさせないかについてのこだわりは相当あります。
齋木:Lのほうには本体内部には保護用にスチールのフレ―ムを入れてあります。アルミのほうが軽くていいと思われるかもしれませんが、アルミは固いので万が一フレームが飛び出すと機材を傷つけてしまう危険性があります。そこで、スチールにしました。しかも、保護材に包んでいますので、万が一のときに機材を傷つけることがありません。
−−ファスナーが背面から開く方式です。
野木:防犯対策とやはり堅牢性の向上のためです。サイドから開ける方式では堅牢性が若干損なわれてしまいます。ならば堅牢性を重視したいと思いました。
山根:背面から開ける方式ですとファスナーが万が一壊れても、自分の背中でふたができるので背負って機材を運ぶことができます。
野木:ファスナーは防水性の高い止水ファスナーです。曲線が多いので技術的にも難しいとされています。
−−サイドポケットは左右で違います。
野木:内部の仕切りが異なっています。右側はメディアや予備電池などを収納できるように小さい仕切りを設け、左側はペットボトルを収納できます。左右が違うのはユーザーが自由に使えるようにという狙いです。いずれもポケットにマチを設けて余裕を持たせ、上から下に動くファスナーでふたができる仕様にしました。完全ではなくてもふたができれば引っかかることもなく中身を落下させる危険も少なくなります。
野木:また、メッシュにすると枝に引っ掛ける危険性があり、破けると修理が必要になってしまいます。シンプルなデザインにしたかったという理由もあり、ペットボトル以外にも自由に収納できることを考えました。そのほか、ノートなどは背面内側ポケットに収納できます。
−−背負い心地の工夫とはどういうところにありますか。
齋木:肩から腰へのラインや、腰骨にあわせて重心を固定できるウエストベルトと左右のショルダーハーネスなど、重さを感じさせない工夫や疲労を軽減する工夫はいろいろあります。
齋木:さらに、ミレーの特徴でもあるハンドレストループを設けました。ときどき無意識に腕組みをしていることがあるのではないでしょうか。手が心臓より下にあるので血行が悪くなった際に腕組みをするといわれています。ハンドレストループに手を引っかけると腕組みせずに手を休めることができます。ミレー製品には相当昔から設けられているものです。
−−横幅がはみ出さないでスリムなのもいいですね。
野木:機材を収納することを考えるとついついよくばって幅を広げがちなのですが、フィッティングとデザインを考慮して、かなりこだわった部分です。この部分はミレーからだいぶ意見をいただきました。
齋木:細身でも汎用性があるというのは、時代にマッチしていると思います。背負っていただくと、同じ超望遠レンズでも専用アルミケースに入れたものに比べて、だいぶ重さを感じないと思います。ニコンのスタッフの方に試用していただいたら、「こんなに違うのか!」と言っていただけてうれしかったですね。ユーザーのみなさんにも驚いていただけるものに仕上がったと思います。
−−バックルがホイッスルになっています。
齋木:緊急時に鳴らすエマージェンシーホイッスルです。吹き口を下側にして、雨や雪がつまらないようにしました。また、転倒した際にもあやまって当たることがないようにという配慮です。吹き口を可動式にする案や通常のフランス本国のミレー製品のように上向きにすることも検討しましたが、安全性を優先しました。凹凸も少なくしています。
山根:一般的には上向きのものが主流ですが、やはり安全性を優先しました。
齋木:この部分は信頼のおける国産メーカーに製造をお願いしました。
−−立派な4色刷りの取扱説明書が付属します。
野木:ミレーのバッグは正しい背負い方をすると重さを感じさせず、驚くほど快適になります。そして、機材の収納方法も私たちがお見せする収納例を参考にしていただき、ユーザーのみなさんそれぞれにカスタマイズしてほしいと思いました。そこで、取扱説明書を同梱することにしました。
−−なるほど。本当にたくさんの工夫がありますね。苦労された点もたくさんあるのではないでしょうか。
野木:このプロジェクトは、ニコンがお願いした項目をミレーが解決していく、というかたちで進めました。技術ももちろんですが、ユーザーニーズをどこまで反映させるか。気になる点をリストアップしてひとつひとつ検討していきました。
山根:やはり、レンズとカメラをセットしたまま収納できるバッグであることですね。
齋木:当初は私たちがニコンにカジュアルな製品を提案していました。それが、600mmレンズとカメラをセットしたまま収納できるバッグにしたいという答えをいただき、一気に本気モードの製品になりました(笑)。そして、600mmレンズだけではない汎用性を持たせることもかなり考えました。
野木:打ち合わせが夜中までかかりましたね(笑)。
齋木:膝を突き合わせてという感じでした。でも、「これはありだよね」というようないい雰囲気で、垣根なく進めていくことができました。それぞれの得意分野をいかしたいい関係ができたと思っています。
野木:最後の最後で変更していただいた部分もありました(苦笑)。
齋木:でも、いちばん苦労したのは、ここまでの要素を盛り込んで、ニコン品質とミレー品質をクリアした製品を製造できる協力工場の選定かもしれません。ミレー製品の製造をお願いするには、品質はもちろんですが、従業員の労働条件、労働環境や衛生条件などに基準を設けており、それをクリアしなければ認定ができません。今回はミレーに合わせて労働環境を改善してくれる工場が見つかり、そこにお任せすることができました。
−−開発期間が長かったとお伺いしたのですが。
野木:実は2年半以上かかっています。その間に、ニコンプラザやCP+で参考出品として展示し、コアなユーザーのみなさまからさまざまなご意見やおしかりもをいただきました。三脚ホルダーの部分も、そこでいただいたご意見がきっかけで工夫ができました。
−−最後にメッセージがあればお願いいたします。
野木:「レンズリュック」という名前ですが、いろいろなカスタマイズができます。ぜひ手に取って試していただければと思います。
(協力:株式会社ニコンイメージングジャパン)