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自動バウンスストロボと写真家が対決!
キヤノン スピードライト470EX-AI
2018年4月26日 17:00
キヤノンが4月20日に発売した「スピードライト470EX-AI」はガイドナンバー47のクリップオンタイプのストロボだ。クリップオンタイプとしてはミドルクラスとなる。
470EX-AIの特徴は、何と言ってもバウンス撮影の自動化を世界で初めて実現した「AIバウンス機能」を搭載していること。これはストロボ初心者でも自然なバウンス撮影が簡単に行えるというものだ。
バウンス撮影とは?
バウンス撮影とは、ストロボの発光部の角度を変えて、壁や天井に光を反射させる撮影方法のこと。
ストロボを使用しての撮影の場合、ダイレクトなストロボ光が被写体に当たると、硬い光質によって写真もどうしても硬い印象になってしまうし、何より「ストロボを当てました」という不自然な仕上がりになる。
バウンス撮影することで、ストロボ光を被写体に直接当てて撮影するよりも天井や壁に反射して光が拡散される分、柔らかな光質で撮影することができる。
470EX-AIは発光部を上に向けて発光する天井バウンスについて自動化されているので、ここでは天井バウンスについて話を進めたい。
470EX-AIのAIバウンス機能には「AI.Bフルオート」(以下フルオート)と「AI.Bセミオート」(以下セミオート)が搭載されている。
フルオートは、姿勢を検知する加速度センサー、測距センサーと2基のCPUが適切なバウンス角と発光量を全自動で設定するというもの。
ここではバウンスの知識を必要とする撮影を全てオートで行ってくれる機能の実力はどのようなものかを見てみたいので、フルオートで撮影してみることとする。
写真家VS.自動バウンス シーン1(横位置→縦位置の切り替え)
バウンス撮影は、被写体に対してどれだけの角度と光量で光を反射させればいいのか、それなりの知識を必要とする。それを全自動でやってしまうなんて……。疑い半分、面白み半分で、ウニウニと動く発光部を眺めながら、早速撮影してみることに。
(写真家による)マニュアルセッティング
まずはオート機能を使わず、私の経験と知識で撮影してみる。
横位置のセッティングでは発光部を撮影者から見て斜め後ろにし、やや左に傾けた。天井に当てる際はカメラ真上よりやや後ろに向けた。
そうすることで、モデルのやや前から拡散された光が当たることになり、自然なライティングにすることができる。
また僕は立体感を出すための影を付けるのが好み。天井バウンスによって拡散された光がモデルを包むとしても、モデルのサイドから光を当てることで、影が出るようにと、左斜めに発光部を調節した。
ここでは発光部を回し、当てたい天井の位置に向け任意の角度に調整。当てたい天井の位置は、先述通りモデルからみてやや右上となるところだ。
ちなみに純粋にバウンス撮影の光の角度の満足感を見るため、撮影モードはプログラムオートとした。
続いては縦位置。横位置同様、立体感を出すための影を出すため、撮影者から見てやや右斜め上からバウンス光(天井に当たった光が拡散されて被写体に当たる光のこと)がモデルに当たるように発光部を調整した。
この時はストロボ本体が右側になるようにカメラ構えた(シャッターボタンが下になる)ので、発光部を反時計回りに回しながら、真上からやや後ろに向けた後、さらにやや右斜めに傾けている。
フルオートモード
いよいよフルオートモードを試す。セッティングは以下の通りだ。
まず撮影したい構図(画角と被写体との距離)を決定したしたら、470EX-AIのモード切替スイッチを「F」にスライドする。次にAI.Bボタンを押す。そうするとフルオート測距が開始される。
動作としては、1)被写体に向けて発光、2)自動で発光部が動き、天井に向けて発光、3)バウンス角が自動に設定、という順だ。
1)の動作で被写体までの距離を測り、2)の動作で天井までの距離を測り適切なバウンス角が算出された後、3)の動作で自動でバウンス角に設定される。
その間、ストロボの発光部が自動で寝たり起きたりと動いており、なんともロボット的で機械好きの心くすぐる。
次に縦位置でのフルオートモードを試す。
縦位置に変えた時は、シャッターボタンを短い間隔でダブルクリックすることで発光部が自動的に動き、横位置撮影時とほぼ同じバウンス角になるように再設定される。これもまたこの間の動きが楽しい。
僕が設定したものは影が生まれるような角度に設定しているので、光が回りながらも立体感あるカットに仕上がっている。
一方フルオートは、そこまでの立体感は感じられないものの、全て自動で行われたとは思えないようなきれいな仕上がりだ。
これまでバウンス撮影をしたことのない方にとっては、バウンス撮影そのものが高いハードル。ましてや知識や経験なく失敗なしにきれいに撮ろうとなると、かなりのプレッシャーだ。
しかし、470EX-AIのフルオート機能は、難なくそのハードルを超えさせてしまう感じだ(正確に言えば、後押ししたという感じか)。
特に発光部のバウンス角について、“バウンス”という言葉だけの知識で撮影に臨むと真上(90度)へ角度を調整してしまうというありがちな失敗も、フルオートはきちんと後方(90度以上)へと角度をつけてくれる。
また縦位置へと姿勢を変えての撮影についても、ほぼ同じポジションへと再調整してくれるので、こちらもきれいな仕上がりを見せてくれた。
写真家VS.自動バウンス シーン2(引き→寄りの切り替え)
(写真家による)マニュアルセッティング
ここでは「引き」と「寄り」という撮影距離を変えた際の比較を行った。
まず引きのセッティングだが、焦点距離70mmでソファーに座ったモデルから距離をとって撮影。
距離があるので、発光部は先ほどのカットよりも手前の位置で天井にバウンスするように角度を前側に調整する。
さらに影をつけるために、サイドから光が当たるよう撮影者から見て右上の天井に発光部を向けた。作画意図としては、画面右には窓があり、その窓から淡い光が入ってきているような雰囲気を作ってみた。
次は寄りだ。焦点距離70mmはそのままに、モデルとの距離を詰めてみた。
モデルとカメラが近くなるので、発光部のバウンス角が引きのカットのままではモデルの真上より後ろの天井にバウンスしてしまう。
近づいたらバウンス角を大きくし、カメラよりも後ろ(モデルから見れば前方)の天井でバウンスするように調整する。
また先ほどのようにサイドから光を当てたいので、画面右側へと傾けた(結果、発光部は真上よりも後方斜め右に傾くことになる)。
雰囲気としては引きのカット同様、大きな窓から入ってくる自然光のような仕上がりを目指した。
フルオートモード
撮影距離の違いをフルオートモードはどう料理するのか? まずは引きのカット。
同じ70mmで構図を作り、記事の最初のカットのような手順でAI.Bボタン押し、フルオートモード測距が開始される。フルオートモードでセッティングされた後、シャターを切った。
そのままモデルとの距離を詰めて寄りのカットの撮影。
被写体との距離が変わったので、寄りのカットの構図を決めたままAI.Bボタンを押し、フルオートモード測距開始。セッティング後、撮影。どちらも失敗なく撮影されていることがわかる。
フルオートモードの場合、被写体に対し、「全体的にきれいに光を回す」ことを大前提にセッティングされているようで、それはバウンス撮影の基本であることから、寄りのカットも引きのカットも、モデルにはきちんと光が回るライティングがなされている。
これは一見どちらも同じような光の当たり方だね……で済んでしまうかもしれないが、モデルとの距離を変えながらも、同じような光の当たり方が自動でセッティングできる自体がすごいなあと感心した。
セミオートモードでステップアップも
ストロボ初心者がダイレクトにストロボを当てて“ストロボを当てて撮りました”写真に対して、部屋全体が明るくなり、自然な仕上がりをフルオートモードで撮影できることはすごいと思う。
その点では、最初に申した通りバウンス撮影のハードルを下げたとも言える。ただこのフルオートモードはあくまで失敗なく綺麗に撮ることが目的で、それ以上も以下もない。
フルオートモードのバウンス撮影でオリジナルなライティングは難しい。それを求めるユーザーにはセミオートモードの使用かマニュアルモードでのセッティングをお勧めする。
セミオートモードとは手動でセッティングしたバウンス角を470EX-AIに記憶させるという機能。自分で任意のバウンス角を設定し、縦横の姿勢の変化時にストロボが記憶した角度に自動調整してくれるので、同じセッティングのままならこれも便利。
ただ当然ながら、被写体との距離や天井との距離などの撮影環境が変化すれば再設定が必要なので、それならマニュアル(手動)で行うのとあまり変わりはないかもしれない。
まとめ
470EX-AIのフルオートモードは、これから初めて外部ストロボを持ってみようというユーザーにはとても便利な機能であることは間違いない。室内での家族写真やちょっとした集合写真には失敗がとても少なくなるので、かなり有益だ。
ただ僕の感想として、バウンス撮影が自動でできる機能は評価するが6万円近くするので、ガイドナンバー47のストロボとしてはコストパフォーマンス面ではやや低く感じた。
また外部電源(単3電池パック)を繋げられないので、長時間撮影や発光間隔の変化の心配などもあった。プロユースを意識した機種への発展時にはぜひつけていただきたい。
モデル:神谷玲奈