【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】キヤノン「EF 8-15mm F4 L Fisheye USM」
■APS-Cから35mmフルサイズまで対応の珍しい魚眼レンズ
キヤノン「EF 8-15mm F4 L Fisheye USM」は、1本で円周魚眼から対角魚眼までカバーできる35mmフルサイズ対応魚眼(フィッシュアイ)ズームレンズだ。35mmフルサイズ機に装着した場合、ズームワイド端の8mmで円周魚眼、テレ端の15mmで対角魚眼となるだけでなく、APS-HやAPS-CフォーマットのEOSデジタルに装着しても対角魚眼として使えるのが特徴。
EF 8-15mm F4 L Fisheye USM。発売は7月。価格は15万7,500円。 |
以前、APS-C専用のトキナー「AT-X 107 DX Fisheye 10-17mm F3.5-4.5」を15mm以上にズームすれば、35mmフルサイズ機でも対角魚眼として裏技的に使用できることを紹介したが、このEF 8-15mm F4L Fisheye USMは、最初からフルサイズ、APS-H、APS-Cと複数の撮像フォーマット対応を意識して設計されていて、ズームリングにAPS-HとAPS-Cで対角魚眼となる焦点距離にそれぞれ[H]と[C]という指標が設けられている。
ただ、該当する焦点距離でズームリングがクリックストップする機構はなく、視野率100%のファインダーでないと、うっかりズームリングが動いてケラレが発生してしまう恐れもある。クリックストップを設けると、動画撮影時にズーミングがギクシャクしたり、クリック音が入ってしまうため、あえて設けなかったらしいが、せめて任意の焦点距離でズームリングを固定するクランプ機構が欲しかったところだ。
ズームリング脇には、APS-H、APS-Cで対角魚眼となる位置に指標が設けられている。ただ、ロックやクリックストップはないので、うっかりズームリングに触れてしまうと、微妙に焦点距離が変わってしまう恐れもあるので、個人的には粘着性の弱いテープで焦点距離を固定している |
着脱式のフードも付属しているが、これは対角魚眼撮影専用で、円周魚眼で撮影するときにはフードを外して使用する。フードを外すと突出した前玉が剥き出し状態になり、レンズを下に向けて置けないし、撮影するときにも前玉にモノが当たったり、指が触れないように神経を使う。撮影が終わったら、速やかにフードとレンズキャップをするくらいの気持ちで扱わないと、レンズ前玉を傷つけてしまいそうで怖い。
■優秀な耐ゴースト性能
ところで、最近の魚眼レンズの使われ方で人気なのが“イヌの鼻デカ写真”だが、カレンダーやポスターのような鼻デカ写真を撮るには、イヌの鼻先数センチまで大接近して撮影する必要があり、もしかするとレンズ前玉をイヌにぺろりと舐められてしまう可能性も高い。そういった撮影シーンも想定して、このレンズにはレンズ表面に付着した汚れを簡単に拭き取れる「フッ素コーティング」が施されていて、レンズをクリーニングする際にも拭き傷が付きにくく、静電気も帯びにくいのでホコリを吸い寄せにくくなっている。
撥水性も非常に高く、レンズに水滴が付着してもベタッと広がらず、コロコロした水玉になって、大きな水玉はすぐに流れ落ちてしまう。クリーニングクロスやペーパーで軽く拭くだけで、きれいに拭き取れ、ムラもほとんど残らない。保護フィルターを装着できないだけに、こういったコーティングは心強い。
レンズ構成図。中央付近にある緑のレンズは非球面レンズ、後方の緑のレンズはUD(Ultra Low Dispersion)レンズ |
さらに、SWC(Subwavelength Structure Coating)という特殊コーティングも施されていて、逆光や半逆光でもゴーストやフレアの発生が少ないのも特徴。画角が約180度と広いので、光源が画面内に入ってしまうケースがどうしても多くなるが、太陽が直接画面内にあるような強烈な逆光シーンでも、それほど目立つゴーストは発生せず、フレアも少ないので、黒がしっかりと締まったコントラストの高い描写が得られる。レンズ前玉をかするように光が当たるシーンでは、どうしてもゴーストが発生してしまうが、非常に薄いゴーストなので、絵柄によっては気づかないほど。少なくとも、絵を破綻させてしまうような酷いゴーストとは無縁のレンズだ。
さすがに、倍率色収差はそれなりに残っているが、魚眼レンズとしては少なめ。2,110万画素の「EOS 5D Mark II」で撮影しても、ほとんど気にならないレベルだろう。DPP(Digital Photo Professional)のレンズ収差補正にも対応しているので、どうしても気になる場合はRAWで撮影してDPPで色収差補正を行なうといいだろう。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・0EVの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
【焦点距離と絞り値による画質の変化】
※共通設定:EOS 5D Mark II / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 5,616×3,744 / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート
8mm / F4 | 8mm / F5.6 | 8mm / F8 | 8mm / F11 |
10mm / F4 | 10mm / F5.6 | 10mm / F8 | 10mm / F11 |
12mm / F4 | 12mm / F5.6 | 12mm / F8 | 12mm / F11 |
15mm / F4 | 15mm / F5.6 | 15mm / F8 | 15mm / F11 |
■DPPのレンズ収差補正で他の射影方式を擬似的に変換可能
魚眼レンズというのは、周辺部の円周方向の直線が強いタル型に歪んで写るのが特徴だが、歪曲収差を無視しているわけではなく、設計時に意図した射影方式にしたがって歪みを発生させている。EF 8-15mm F4 L Fisheye USMは「等立体角射影方式」という定義式を使って設計されていて、周辺ほど被写体が縮んで写るが、面積は変わらないという特徴がある。
実は、DPPのレンズ収差補正の機能を使うと、EF 8-15mm F4 L Fisheye USMで撮影したRAW画像を他の射影方式に疑似的に変換することもできる。
DPPを使えばRAW画像を5パターンの射影方式に疑似変換できる |
DPPで擬似的に変換可能なのは、[撮影時設定]、[直線を重視]、[距離を重視]、[周辺部を重視]、[中心部を重視]の5パターン。正直、どんなときに何を選択したらいいのかまるでわからないのだが(笑)、学術用途で魚眼レンズを使用するときなどは、こうした射影方式の違いが重要となるのだろう。
【DPPのレンズ収差補正による歪曲補正の効果】
参考:撮って出しのJPEG画像。EOS 5D Mark II / EF 8-15mm F4 L Fisheye USM / 約5.7MB / 5,616×3,744 / 1/500秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 8mm |
[撮影時設定]で現像。約8.2MB / 5,248×3,498 | [直線を重視]で現像。約13.3MB / 6,666×4,443 |
[距離を重視]で現像。約8.5MB / 6,666×3,475 |
[周辺部を重視]で現像。約9.4MB / 5,872×3,910 | [中心部を重視]で現像。約6.9MB / 4,262×3,492 |
※オリジナルRAWファイルをこちらからダウンロードできます。
■狭い室内の撮影では超広角レンズより違和感がない
魚眼レンズの用途としては、前述したように犬やハムスターの鼻デカ写真がよく知られているが、朝市やガード下の狭い飲み屋など引きのない狭い空間で臨場感溢れるスナップ写真を撮るときには重宝する。12mmや14mmの超広角レンズを使って撮影すると、確かに歪曲収差は少ないのだが、画面周辺部になるほど外側に引っ張られたように写ってしまう。
一方、魚眼レンズだと、強烈なタル型歪みが生じて被写体も歪んでしまうのだが、周辺部の被写体が必要以上に大きく写らず、画面中央に視線が誘導されるので、主題を強調しやすく、不思議と違和感が少ない気がする(作例にそうしたスナップ撮影がまったくないじゃないか、とツッコミが入りそうだが、なにしろ画角が180度と広く、周囲に人が写り込んでしまうので、デジカメWatchでノーレタッチで掲載できる写真が撮れなかったのだ。力量不足ですまぬ)。
【一般作例】
■高解像度の「全天球パノラマ」に最適なレンズだ
ボクがこの魚眼ズームを買った目的は、全天球パノラマの素材撮りのため。これまで、シグマ「8mm F3.5 EX DG Circular Fisheye」で全天球パノラマを撮影していたのだが、APS-Cサイズでは、長辺で180度の画角が得られないので、どうしても90度ずつ回転して撮影した前後左右4カットに加え、真上と真下のカットが必要になるし、フルサイズ機で撮影すると周囲の黒い部分が多すぎて、実際に素材として使える画素数が少なくなってしまう。
その点、このEF 8-15mm F4 L Fisheye USMなら、フルサイズ機で焦点距離10mm付近で撮影すれば、ちょうど長辺が180度の画角をカバーできるので、縦位置で前後左右4カット撮影すれば、なんとか絵をつなげることができる。もちろん、余裕があれば上下も撮影したほうがいいのだが、街中で通行人が多かったり、風景撮影でも雲の流れが速いときには、真上を撮影する余裕がなかったり、撮影してもうまくつながらないこともある。そのため、できるだけ少ないカットで全天球パノラマ用素材が撮影できるというのは強みだ。
お手軽系パノラマ撮影セット。カメラは水平にしか振れないので、縦位置で上下180度の画角が得られるレンズがベストなのだ。より高精度なパノラマ撮影には、ノーパララックスポイントを保ったまま、上下にもカメラを振れるようブラケットを組み直すが、当然、大きく重くなるので機動性は低下する |
全天球パノラマの作成には、「PTGui」と「Pano2VR」という2つの海外ソフトを使っていて、どちらもダウンロードで入手でき、トライアル版も用意されている。シグマ8mm F3.5 EX DG Circular Fisheyeで初めて全天球パノラマに挑んだ5年前に比べ、合成ソフトもかなり進化を遂げていて、素材さえ用意すればHDR(ハイダイナミックレンジ)パノラマも(高解像度だと処理に時間はかかるものの)簡単に作成できるし、パノラマ合成に使いたくない箇所(ダブって写っている通行人や三脚など)をブラシでマスク処理することもできる。
さらに、三脚が写っている部分だけを切り出し、それをAdobe Photoshopなどで不要な部分を消して保存すれば、自動的に修正済みの画像を読み込んでパノラマ合成する機能も備えている。カメラを回転させてもパララックスが生じない「ノーパララックスポイント」(ノーダルポイント)をしっかり探し出し、それを軸に回転して素材撮りできれば、ほとんど修正に苦しむことなく、全天球パノラマが作成できる(小型三脚で慌てて撮影すると、どうしても軸がブレてしまって苦しむ羽目になるんだけどね)。この原稿を書いている間にもPTGuiがバージョンアップして、また新たな機能が加わり、ますます便利に、かつ高精度な全天球パノラマが作成できるようになった。これも、フィルム時代では考えられなかった魚眼レンズの使い方だ。以下に全天球パノラマの作成方法を記す。
1.輝度差が大きなシーンでは、段階露出で撮影して、パノラマをHDR化するのが理想。前後左右4×3枚の写真をHDR&パノラマ合成する | 2.PTGuiに素材を読み込み、[Align Image]ボタンを押すだけで、自動的に近似点を探してパノラマ合成してくれる。必要に応じて不要な部分をマスク処理したり、近似点を手動で指定することで、より高度なパノラマ合成が可能だ |
5.QuickTimeのほか、Flash、HTML5、投影変換で書き出せる。Flashのほうが拡大/縮小ボタンなどをパノラマ画面に埋め込めてスマートだが、デジカメWatchサーバー側の制約で、今回はQuickTimeで出力。パノラマを再生するにはQuickTimeプレーヤーが必要だ |
【全天球パノラマ作例】
- サムネイルをクリックすると全天球パノラマ(QuickTime VR)を再生します。
- キーボードのSHIFTキーとCTRLキーでズームを調節できます。
- 人物の顔と自動車のナンバープレートにぼかし処理を施しています。
通常の合成 | 通常の合成 |
HDR化して合成 | HDR化して合成 |
【2011年10月30日】ブツ写真4点を追加しました。
2011/10/28 17:34