“もっと撮りたくなる 写真の便利帳”より

「リズム」をモチーフに撮る

整然としたリズム、点と線で作るリズム、アクセントで際立つリズム

身のまわりの景色にあるリズムを、写真で表現してみましょう。(編集部)

喫茶店の入り口の待ち合い席。リズムを強調するために、イスの脚だけで切り取った。
・着眼点:イスの連続する並び
・撮り頃:人がいない瞬間
・イメージ:規則正しいリズム
・撮影テクニック:イスの脚だけで構成
・ひと工夫:リズムを壊す要素を入れない
70mm相当 / プログラムオート / F2 / 1/40秒 / ISO100 / WB:太陽光

風景の中にある 音楽に注目する

私の中では、写真と音楽は融合していて、引き離せません。写真を見ると音楽が聞こえてくるし、音楽を聴くと映像が見えます。

また私は、ひとりで写真を撮るときはいつも音楽を聴きます。そのときに聴きたい曲というのは、自分の体が欲している曲なのです。そして、聴いている曲によって撮れる写真も変わるので、その結果、「自分の体が欲している写真」が撮れるのではないかと思うのです。

そんな風に音楽から刺激を受けて写真を撮っていると、景色の中にリズムを感じることがあります。それは単に、耳から音が聞こえるという意味ではありません。

風景の中にリズムが「見えてくる」のです。目の前の風景にリズムが見えてきたら、これを写真として表現することを考えてみましょう。

リズムを意識して写真を見る

目の前の風景からリズムを見つけるのが難しいときは、まず、他の人の写真を見て、その中のリズムを感じてみよう。

写真の中のリズムが見えるようになれば、景色の中のリズムも、きっと見えてくるはずだ。写真展に出かければ、たくさんのリズムに出会えるだろう。

人はそれぞれ、ある一定のリズムを持っているらしい。みんなが同じリズムではないので、自分が心地よいリズムを見つけ出してみるのもいいだろう。

目のつけどころ:点と線を見つけてリズムを作る

リズムを見つけるには、被写体を点や線として見つめてみます。被写体をかたちとして捉えるのです。それらの連続した並びは、リズムを感じさせます。

そのため、同じオブジェクトが並ぶ場所や、線が多くある場所では、リズムを見つけやすくなります。

同じかたちの連続
リズムを刻むオブジェクトの種類により、音色が変わる。最初の写真と同じようなリズムだが、自然物はやわらかい。
放射状に伸びるライン
放射状のラインで、バーッと広がるリズムが感じられる。電柱と思うとつまらないが、リズムとして注目してみよう。
交差するライン
金網のラインが規則的に交差するリズム。反復のリズムだが、やや複雑な印象。背景のビル群のボケとの対比にも注目。
ランダムなリズム
田んぼの中で、折れ曲がっているたくさんの枯れ枝。ジグザグのランダムなリズムが感じられる。
街灯のリズム
桟橋の通路にある街灯がリズムを刻んでいる。カーブによって音階や音の大きさが上がっていくイメージ。

オブジェクトの並びを探す

リズムとは、連続するオブジェクトの並びが感じさせる音楽的なイメージだ。そのため上でも、「同じオブジェクトが並ぶ場所はリズムを見つけやすい」と述べた。

では、どのような場所に、同じようなオブジェクトが並んでいるのだろうか?

例えば、自然の中であれば、木立の並びや葉っぱの並びを簡単に見つけることができるだろう。また、街中であれば、手すりやライト、建物などの人工物が、たくさん並んでいる様子に注目してみる。

またオブジェクトが規則正しく並んでいなくても、視点の持ち方で、リズムの大小として捉えることもできる。

このようにリズムという視点を持って周囲を見渡せば、たくさんのリズムに溢れていることに気づくはずだ。

デザイン:見えたリズムを言葉にしてみる

「リズムを見つけて表現する」ということが、どういうことなのか、まだわかりにくい方も多いかもしれません。

そこでひとつの提案です。風景の中にある点や線を、あえて、言葉にしてみましょう。

例えば、目の前に、小さな点状のオブジェクトが等間隔に並んでいる場合を思い浮かべてみてください。オブジェクトが並ぶ様子に、「トン、トン、トン、トン」という言葉をあてはめることができるでしょう。

同じような並びでも、最後にひとつだけ大きなオブジェクトがあれば、「トン、トン、トン、ドン!」になります。点の代わりにラインが並んでいれば、「トーン、トーン、トーン、トーン」という言葉になるでしょう。音楽で例えるなら、点は4分音符で、ラインは全音付です。

このように、あえて言葉に置き換えることで、リズムを強く意識することができるのです。

「タンタンタン」「ダダダダダッ」「ポツポツポツ」といった擬音語が、日本語にはたくさんあります。ぜひリズム写真に活用してみましょう。

鉄板の縦のラインの連続が、4拍子のリズムを刻むイメージ。雲はリズムではないが、邪魔をせず、倍音的な役割をしている。
雨に濡れた横断歩道の線に、リズムを発見。手前から奥に、どんどん縮まっていき、最後に信号が「ドン」と入る。オブジェクトとしては2種類あるが、互いに邪魔をせずハーモニーを奏でている。

リズムを見つけて写真にする場合、気をつけてほしいことが2点あります。

まず、特定のオブジェクトの存在が強すぎると、リズムが見えなくなってしまうので注意しましょう。オブジェクトが明るすぎたり大きすぎたりするような場合や、人間や看板のように意味性が強すぎる場合などが、これに相当します。リズム表現のポイントは、同じオブジェクトの連続する並びにあります。特定のオブジェクトが目立ちすぎないように気をつけましょう。

次に、物理的にオブジェクトをさえぎるものが写真に入ると、リズムが壊れてしまいます。肝心の音符が見えなくては、リズムを奏でることはできません。できるだけ邪魔なものは排除するようにしましょう。

これらのことに気をつけて写真をデザインすれば、きっと、心地よいリズムを奏でる写真になるはずです。

横浜の大桟橋のベンチが、ランダムに並ぶ。床の板目は規則的に整然と並んでおり、その対比によってリズムの印象が強くなった。
チンダル現象が起きている静かな風景の中に、1羽のカモメが飛んできた。このカモメを、「トーン」という1拍として入れることで、余韻が感じられる写真になった。スペースが広いだけに、1拍の効果が大きい。

豆知識:リズムを共通項に組写真を作る

組写真は、何か共通項を決めて、複数の写真を組み合わせる表現。「家族」といったテーマを設ける方法もあるし、色を共通項にする方法もある。

その共通項のひとつにリズムがある。共通のリズムによってつながる写真は、おもしろい組写真だ。ただし、リズムを揃えすぎると、わざとらしいものになるので要注意だ。

ビンの王冠が作るリズムがおもしろい。
引き出しの整然としたリズムを組み合わせた。

豆知識:適度な強弱でリズムは際立つ

リズムは同じオブジェクトの連続、繰り返しで成り立つと述べた。しかし、ただ連続しているだけでは単調なだけで、リズムに「表情」が生まれない。表情のあるリズムには、適度な強弱がある。それにより、リズムに変化が生まれ、連続や繰り返しも認識されやすくなる。単調さとアクセントのバランスが重要なのだ。リズム写真でも、ぜひ強弱やアクセントを意識してみてほしい。

同じ強さの音が続くだけでは単調な印象。
途中でアクセントが入ると、強弱が生まれリズムも際立つ。

この連載は、MdN刊「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(谷口泉 著/ナイスク 編)から抜粋・再構成しています。

カメラの使い方は理解しても、写真そのものが上手くなったと実感できなかったり、よい写真とは何かわからなくなった方々に向け、写真を楽しむためのテーマとして「モチーフ」を集めた1冊です。撮影のヒントやアイデア、具体的な機材情報も盛り込まれています。

「もっと撮りたくなる 写真の便利帳」(MdN刊、税別2,000円)

谷口泉