メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!

OLYMPUS PEN-F

試行錯誤を経て実現したデザインと内部機構の両立

OLYMPUS PEN-F
発売日:2016年2月26日/実勢価格:税込15万1,000円前後(ボディ単体)、税込20万4,000円前後(12mm F2.0レンズキット)
イメージセンサー:4/3型Live MOSセンサー、約2,030万画素/ISO感度:200~25600(拡張感度でISO 80まで減感)/ファインダー:約236万ドット、視野率100%/シャッター速度:1/8,000~60秒/連続撮影速度:最高約10コマ/秒/背面液晶モニター:3型、約104万ドット、バリアングル式、タッチパネル/測距点:81点/動画:フルHD、60p/バッテリー:リチウムイオン充電池 BLN-1/大きさ:約124.8(W)×72.1×(H)×37.3(D)mm /重さ:約427g(メモリーカード、バッテリー含む)

PENシリーズ初となる内蔵EVFやバリアングル液晶モニターを採用しつつ、PENシリーズならではのサイズ感を維持。従来のPENシリーズ以上にレトロモダンなレンジファインダースタイルで、アルミ削り出しのダイヤルやマグネシウム製のトップカバーなど、金属加工ならではの精緻で上質な質感を追求している。

新開発20M Live MOSセンサー&ボディ内5軸手ブレ補正、背面液晶モニターでAF枠を自在に移動できる「AFターゲットパッド」などの最新機能を盛り込みつつ、ボディ前面のクリエイティブダイヤルと背面レバーにより、被写体や表現意図に応じて色や階調を柔軟にコントロールすることも可能で、撮影時にフォトフィニッシングの楽しさを追求できるのも特徴だ。

 ◇           ◇

本インタビューは「デジタルカメラマガジン2016年6月号」(5月20日発売、インプレス刊)に掲載されたものに、誌面の都合で掲載できなかった内容を加筆して収録したものです。(聞き手:伊達淳一、本文中敬称略)
(写真左から)

野原剛氏
オリンパス株式会社 技術開発部門 画像システム開発本部 デザインセンター 企画グループ デザイナー

青木真吾氏
オリンパス株式会社 技術開発部門 映像開発本部 映像商品企画部 商品企画1グループ

味戸剛幸氏
オリンパス株式会社 技術開発部門 画像システム開発本部 画像システム開発2部 1グループ

青田幸治氏
オリンパス株式会社 技術開発部門 画像システム開発本部 画像システム開発3部 1グループ


末永く愛着を持ち続けながら1枚をじっくり撮るカメラを追求

――これまでのOM-Dシリーズ、PENシリーズに対して、PEN-Fはどんな位置付けになりますか?

青木:現在、OM-Dシリーズが3機種、PENシリーズが2機種ありまして、ラインアップは充実していますが、新しいPENを導入するにあたって、今まで提供できていない何か新しいものができないかと考えたのが、PEN-Fの企画のスタートでした。

何を提供できるかを考えたときに、フィルムカメラの時代は、撮影する前にまず自分の好きなフィルムを選んで撮影し、フィルムを現像して、最後に焼き付け(プリント)するというのが基本的な流れで、写真をじっくり仕上げるという楽しみはフィルム時代の方があったのでは、という思いを感じていました。

もちろんデジタルの時代でも、ナチュラルやビビッドなど画作りのモードを選んで、撮影者の意図をある程度反映した仕上がりにできますし、RAWで撮影してRAW現像ソフトやレタッチソフトで画像処理をすれば、思いどおりの仕上がりが得られます。

ミラーレスカメラは、露出レベルやホワイトバランス、ピクチャーモードなどの効果をファインダーや背面液晶モニターで確認しながら撮影できるのが特徴ですが、撮影時に自分好みの画作りをあれこれ試しながら作品を仕上げていくという機能は、これまで十分に提供できているとはいえなかったと思います。

そこで、今回のPEN-Fには、モノクロ/カラープロファイルコントロールという機能を導入して、撮影するその場で撮影者の思いを反映した仕上がりが得られるようにしたのが特徴です。

また、従来のPENシリーズは、常に持ち歩いて気軽に撮影していただく、というのがコンセプトでした。昔、カメラは高級品で、1台買ったら愛着を持って長く使い続けることが多かったと思います。これまでのOM-DやPENシリーズも、愛着を持って使っていただけるよう、機能だけでなくデザインも重視して設計してきましたが、PEN -Fはお客さまに買っていただいたら、ずっと末永く愛して使っていただけるような佇まいを持ったカメラにしよう、というのが、もう1つのコンセプトでした。

――従来のPENシリーズはEVFが外付けで、外付けEVFを装着すると、せっかくスタイリッシュでコンパクトなPENのデザインが損なわれてしまって、サイズ的にもOM-Dシリーズと大差なくなってしまいます。そこで、EVFを内蔵しつつ、従来のPENのサイズ感に収めようという、もっとシンプルなコンセプトから、企画がスタートしたのかと思っていました。

青木:確かに、初代PENを出したときからEVFが欲しいというご要望をいただき、E-P2から外付けEVFという形で実現させましたが、やはり外付けではなく内蔵してほしいという声はずっとありました。

ただEVFを内蔵しました、というだけでなく、さらにお客さまに新しい価値を提供するにはどうすれば良いかと考えた結果、前述したように、撮影時に撮影者の思いを反映した画作りを試行錯誤しながら追求できるモノクロ/カラープロファイルコントロールを導入し、末永く愛着を持って使い続けていただけるカメラとしての佇まいを徹底的に追求する、というコンセプトにたどり着きました。

野原:OM-Dのようなシューティングスタイルのカメラは、風景撮影でも構図や設定をどんどん変えながらたくさんの枚数を撮るイメージがありますが、PEN-Fは1枚の写真をじっくりと時間をかけながら撮影する、というスタイルが似合うと思っています。

そのときに、手を伸ばして背面液晶モニターを見るのではなく、昔のフィルムカメラのように、ファインダーをのぞきながらじっくりと被写体と対峙し、自分の狙いどおりの仕上がりイメージを求めて、構図や露出、色などを調整していただければ……。そんな使い方を考えてデザインしました。

――PEN-Fが登場したことで、E-P5の系統はどうなっていくのでしょう? 小型・軽量という点ではE-PL7の方が優れていますし、外観デザインや機能もかなり上位機に迫るものを持っています。また、内蔵EVFを求める人はOM-DやPEN-Fに惹かれるわけで、E-P5はともかく、その流れを汲む後継機をどうするのか気になります。

青木:詳細はお答えできませんが、PEN-Fに対する市場のリアクションも踏まえながら考えていく予定です。

野原:もともとPENシリーズは、スペックや価格のヒエラルキーで並んでいるシリーズではなく、ターゲットとして想定したお客さまのライフスタイルや撮る写真の楽しみ方に合わせて作っていきたいと考えています。今回のPEN-Fは、だいぶ尖って上の方を狙いましたので、今後、PENシリーズをどうするのか、商品企画含めて考えていくつもりです。

――PEN-Fのターゲットとして想定しているのはどんなユーザーですか? 従来のPENシリーズ、OM-Dシリーズの各機種と、どのようなすみ分けを考えているのでしょうか?

青木:フィルムの時代から一眼レフやレンジファインダー機を愛用していて、カメラの作りにも非常にこだわりを持っているような方を想定しています。E-PLシリーズは、レンズ交換式カメラは初めてというエントリーユーザーや女性の方々がメインターゲットです。

一方、OM-Dシリーズは、一眼レフ的なスタイルが好きで、連写や防塵・防滴性能も求めていて、それでいて、従来の一眼レフに比べ、システムとして小型・軽量で機動性に優れている点に魅力を感じる方に使っていただけるかなと考えています。

――海外では、フラットスタイルよりも一眼レフスタイルが好まれる、という話を聞いたことがありますが、世界市場を見たときに、こうした状況は以前とは変わってきているのでしょうか?

青木:欧米市場では、やはり一眼レフのようなスタイルが好まれる傾向は確かにあります。しかし、その一方で、フラットスタイルというか、レンジファインダー機的な佇まいを持ったカメラを好まれるお客さまもいらっしゃいますので、そういった方にPEN-Fを使っていただけるのでは、と期待しています。


PEN-Fのデザインの根幹をなす3つのキーワードと試行錯誤

――今回のPEN-Fは、レンジファインダー機的なデザイン要素が加わり、非常にカメラとして精緻で高品位なフォルムに仕上がっていると思います。このデザインに至るまでの過程をぜひお伺いしたいのですが……。

野原:実はPEN-Fのデザインが固まるまでにたくさん寄り道をしています。次の新しいPEN……、どういうデザインにするか、どういうユーザーをターゲットにするか、さまざまなコンセプトやデザインの方向性を考えました。

その中に「熱狂的なクラシックカメラのファンにターゲットを絞ったデザインができないか?」という案が1つあったんです。そこで、その方向性でデザインをフカボリしてみようということになりました。

ここにいくつものモックアップが並んでいます。デザイナーがコツコツと改良を重ねて作り上げていったように思われがちなのですが、実は数人のデザイナーが集まって、「熱狂的カメラファンに支持されるカメラってどんなものだろう?」と検討を重ねました。

デザインモックアップの形状の変遷
PEN-Fはデザイン性を重視して正面にグリップを備えていない。そこで、ホールディング性を高めるため、ボディ背面の一部を掘り下げることで、ボディの厚みを増やさずに背面の指がかりを良くしている

その中でも方向性がいくつかありましたが、最終的にはトラディショナルなカメラのスタイルが好まれるのでないか、という考えに至りました。極端に新しさとか目新しいデザインを要求するのではなく、昔ながらの良さを追求したデザインがあるのではないか。そこにターゲットを定めて、徐々に現在のPEN-Fのカタチができあがってきました。

――今回、PEN-Fという製品名を採用していますが、最初に発売したE-P1の方が、むしろ銀塩のPEN-Fに近いデザインですよね?

野原:私が(PEN-Fを)デザインしているときも、復刻版を作ろうという思いはありませんでした。フィルム時代には、フィルムで撮影するために必要な機能や装備がありましたが、デジタルになってさまざまなことがカメラでできるので、それに合ったユーザービリティ、操作性があるわけです。

ただ、昔のカメラと外観的に似せるだけでは、今のデジタルの時代には合わないと思っています。そのため、必要な部分は銀塩のPEN-Fの要素を入れていますが、それ以外の部分を無理に昔のカメラに似せようとはしていません。

PEN-Fのデザインを手がけたときの最初のコンセプトは“Enthusiastic(エンスー=熱狂的支持者)”、“Vintage(ヴィンテージ)”、“History(ヒストリー)”です。エンスーは、細かい部分にまで徹底してこだわるマニアックな層の心に響くデザイン。そして、ヴィンテージは、単に古いという意味ではなく、良きものを愛し、長く使ってほしいという気持ち、そして、PENの歴史を受け継ぐ“ヒストリー”を感じてもらいたい。この3つのキーワードを掛け合わせたものをスタイリングのコンセプトとして、1カ所1カ所細かい部分まで気を配ってデザインしています。

具体的にどのような部分かというと、例えば、カメラを真上から見たときの形状です。単純な長方形ではなく、シャッターボタンがある右側にいくにつれ、曲線を描きながらボディの厚みが緩やかに絞られていきます。このフォルムは、銀塩時代のPEN-Fから受け継がれている部分です。

また、カメラの上面部も平らではなく、シャッターボタン側が段差で低くなっているのに加え、ファインダー側が緩やかに低くなっています。設計や製造の手間を考えると平らにした方が楽ですが、そこを平らにしてしまうとPEN-Fではなくなってしまいます。

そういった部分でPEN-Fの歴史、伝統をしっかり受け継ぎつつ、ダイヤルを追加すことで、操作性を追求しています。ボディ幅については、特に銀塩のPEN-Fに合わせようという意識はありませんでしたが、不思議と同じようなボディ幅に落ち着きました。

銀塩のPEN-Fは、当時のどのカメラにも似ていない個性があり、僕は愛嬌があるデザインだと思っているのですが、そういったPEN-Fならではの個性を僕たちなりにかみ砕いて、シリーズの個性を感じる部分を残し、後はしっかりデジタル時代にマッチしたものに作り込んでいます。

――個人的には、銀塩のPEN-Fはそれほどカッコ良いとは思っていないのですが、今回のPEN-Fはスタイリッシュで洗練されたデザインですね。カラーバリエーションとして、シルバーとブラックがありますが、どちらをメインカラーと考えてデザインしていたのでしょう?

野原:シルバーをPEN-Fのメインカラーと考えていて、デザイン画を描くときも基本的にシルバーでした。ただ、予想以上にブラックも精悍で、カッコ良く仕上がりました。ブラックの外装はシボ塗装を使用しており、シボが荒すぎると繊細さが薄れますし、艶がありすぎると光学機器としての品位が下がります。良いバランスを見つけるために、たくさんのサンプルを作成してベストな黒を選定しました。

――目の前にデザインモックが並んでいますが、これはどういう変遷を辿っていったものですか?

野原:一見どれも同じように見えますが、実はダイヤルの径や高さ、位置が微妙に違っていて、いろいろな人に操作性や持ちやすさを確認しました。修正してはモックを削り、微調整を何度も繰り返しています。

初期のモックと比べ、最も違いが大きいのは背面の指がかり(サムレスト)の部分です。デジタルのPENシリーズは、前面に小さいながらもグリップを設けていますが、これは“持ちやすさ”という実用性を重視した結果で、銀塩のPEN-Fにはなかったものです。そのため、趣味性の高いカメラには、あえてグリップを付けないという選択肢もあると考え、今回のPEN-Fではグリップをなくすことにしました。

ところが、グリップをなくしてしまうと、指がかりがなくなり、カメラをしっかり保持できません。OM-Dのように背面に大きな突起を指がかりとして設けるという手もありますが、それはこのデザインには合いません。

どうすれば良いか、開発担当者と話し合った結果、指がかりを良くするために右手親指を置く背面部分を掘り込むことで高低差を設け、小さな指がかりでもしっかり保持できるように工夫しています。

ただ、ボディ内には部品がぎっしり詰まっているので、ボディの厚みを部分的に削って減らすというのは、通常ではなかなかあり得ない選択で、設計者から見れば手間がかかる作業です。そこをどうすれば良いかを検討するために、こうしたデザインモックを作って、機構設計的に成立するかどうか、その可否を確認しながら開発を進めました。

PEN-Fデザインの象徴的なダイヤル部の素材や形状の変遷

――個人的には液晶モニターはチルトよりもバリアングルの方が好きで、E-M1にバリアングル液晶モニターが採用されなかったのを非常に残念に思っていたのですが、PEN-Fのようなトラディショナルなデザインのカメラにバリアングル液晶モニター採用という選択もちょっと不思議な気がします。

野原:今回のPENはカメラ本来の撮影スタイルを重視した製品です。銀塩カメラのようにファインダーを使って撮影していただくことをオススメしています。そのため、液晶モニターを裏返して革を貼った面で使用いただくためにバリアングルを採用しました。

――開発の初期からバリアングル液晶モニターの採用は決まっていたのですか?

野原:最初は、チルトにするかバリアングルにするか、決まっていませんでしたので、チルト液晶モニターでデザインしていたデザイナーもいました。ただ、私自身は最初からバリアングルにして、背面まで革貼りで統一された状態にできるようにしたいと考えていました。

――露出補正ダイヤルの採用も(オリンパスのマイクロフォーサーズ機としては)初めてですよね? 電源スイッチもレバーではなくダイヤルですし、銀塩のPEN-Fではシャッターダイヤルだった前面のダイヤルもクリエイティブダイヤルとして復活するなど、かなりダイヤル操作にこだわっているのも特徴ですね。

野原:確かにダイヤルには非常にこだわっています。実は、私自身、ローレットダイヤルが大好きでして、自社、他社問わず、気になるダイヤルをコレクションしています(笑)。中には試作で作ったレアなダイヤルもあって、PEN-Fのダイヤルには、どのローレットパターンが似合うのか、自身のダイヤルコレクションを眺めながら考えました。

野原氏のパーツコレクション
自社、他社問わず、気になった(アヤメ)ローレット加工のダイヤルをコレクション。中には試作品で世に出なかった貴重なパーツも含まれている

いろいろ熟慮したのですが、パターンの間隔が広すぎると工具のようになってしまいます。そのため、PEN-Fには、菱形が細かく並んだ“アヤメ”というパターンを刻み込んだ、アルミ切削のダイヤルを採用しています。

また、同じ大きさ、同じ高さのダイヤルが並ぶと、退屈なデザインになってしまうので、ダイヤルごとに径や高さを変えたり、ローレットの中に1本線を入れたり、ちょっとした処理を加え、ダイヤルがたくさんあるものの、どの角度から見ても退屈を感じさせないデザインに作り込んでいます。

――カメラ上面部のこだわりに比べると、背面の操作ボタンは割と普通ですね。

野原:通常のボタンは金属にできなかったのですが、操作性を考慮しきちんと凹凸の加減を調節しています。例えば、再生ボタンは、不用意に押してしまわないように、ほかのボタンよりも高さを抑えて誤操作を防止するなど、工夫を加えています。

――PEN-Fの操作で、調整機能の切り替えにINFOボタンを使うケースがありますが、ファインダーをのぞきながらINFOボタンを押そうとして、うっかり再生ボタンを押してしまい、あらためてボタンの位置を確認すると、もっと上だったか……ということが、実は何度もありました。まだ、PEN-Fのボタン配置を指が覚えきれていないんですね。

ただ、PEN-Fには、ボディ前面に絞り込みボタンが追加されているので、この絞り込みボタンにINFOボタンと同様の機能を割り当てられるなど、現状よりも割り当てられる機能をもっと増やしてもらえるとありがたいですね。

野原:参考にさせていただきます。

――ところで、PEN-Fは、外装ネジを一切見せないようにしていますが、ここまで徹底するのはなぜでしょう?

野原:製品に関わるさまざまな部署でこのモックアップを見せて、どうしても外からネジが一切見えないカメラを作りたい、と説得して回りました。とりわけ底面部はスッキリとしています。

ほかのカメラであれば機種名やシリアル番号を入れたシールを貼っているのですが、PEN-Fは個体ごとにレーザーで刻印しています。何でそこまでこだわる必要があるんだ? といわれる方もいらっしゃいますが、カメラを持って歩いているときに底面が見えてしまうこともあります。

徹底的に外装デザインにこだわっているのに、シールやネジが見えてしまっては精緻さが損なわれて興ざめしてしまいます。PEN-Fはどの角度から見ても精緻さが感じられるように、ネジやシールを排除したデザインにしています。

――なるほど。でも、カメラって飾っておくものではなく、常に持ち歩いてさまざまなシーンを撮影するための道具ですよね。底面がここまでフラットで、表面も細かな塗装になっていると、どうしても擦り傷が入りやすく、また、傷が目立ってしまうのが気になります。

最近、デザインにこだわったカメラやレンズが増えていますが、塗装やローレット加工など表面処理があまりに繊細でフラットで、カメラバッグから出し入れしたり、机の上に置いたりして少し底面が擦れただけで、細かな擦り傷が入ってしまいます。例えば、擦り傷が入ってもそれが目立ちにくい梨地塗装というのは難しいのでしょうか?

野原:銀塩時代のクロームボディは、メッキ仕上げで表面も強いです。今回はマグネシウムボディなので塗装になります。梨地のシルバーの塗装はあまりきれいに見えません。今回は派手すぎない品位のある通常のシルバー塗装にしました。

――昔のカメラやレンズって、使っていくうちに傷が入ったり塗装が剥げたりしても、むしろそれが使い込んでいる証になるような味わい深さがありますよね。最近のカメラやレンズは、ショーケースに入れて飾っておくぶんにはキレイだけど、ちょっとでも使うと、傷やホコリが目立って汚く見えてしまうものが多くなってきたように思います。

傷やホコリが目立ちにくく、塗装が剥げても、それが味わい深さにつながるようなデザインや表面加工を考えてほしいと思います。

野原:そういった部分は今後しっかり見直していきたいと思います。

PEN-Fデザインを可能にするEVFや内部機構のギリギリの調整

――PEN-Fのデザインについていろいろとお聞きしてきましたが、このデザインを実現するために、クリアしなければならない技術的課題もたくさんあったことと思います。例えば、EVFを内蔵しているにもかかわらず、ボディのサイズ感はE-P5とそれほど大きく変わっていませんし、バリアングル液晶モニターを採用していてもボディ幅も厚みもそれほど増えているようには見えません。

EVFやバリアングル液晶モニターを採用しながらも、このサイズを実現できた技術的なポイント、工夫点を教えていただけますか?

青木:PEN-Fの開発は、これまでのPENのサイズ感を維持しつつ、いかに作り上げるかということを課題に取り組みました。このサイズにEVFやボディ内手ブレ補正、バリアングル液晶モニターなどを収めなければならず、デザインと開発で幾度も話し合いを重ねました。

ファインダー倍率を考え、OM-Dの上位機種で採用しているEVFを使おうかという案もあったのですが、それではカメラがかなり大きくなってしまいます。そこで、E-M10 Mark IIで採用しているEVFユニットを改良し、小型化を図っています。さらにマウントの位置をギリギリまで下げることで、EVFユニットを収納するスペースを確保すると同時に、EVFを内蔵してもボディの高さが増えないようにしています。

野原:EVFをどうやって内蔵させるかについては、開発とデザインで検討する日々が続きました。正面から見て右側が少し下がっていなければPENらしさが出ないので開発担当者と細かく何度も調整を行いました。

――確かに微妙に上面部に傾斜を付けて高さを変えているんですね。

野原:ここを真っ直ぐにしてしまうと、PENらしさが弱くなります。ボディ面に微妙に傾斜や段差を付けたり、部分的に絞り込むことで、同じフラットスタイルでも無機質な印象から個性が感じられるカメラになります。

――フォントも特別なデザインにしているのですか?

野原:弊社のほかの機種と同じフォントを使っています。とはいえ、露出補正ダイヤルなどは、そのままフォントを使うと線が細すぎて見づらいので、若干調整を行っており、ダイヤルの文字はレーザーで削っています。シルク印刷ではないので、ダイヤルの文字が擦れて読めなくなってしまう心配はありません。

――バリアングル液晶モニターの実装について苦労はありませんでしたか?

青木:基本的な構造はOM-D E-M5 Mark IIと同等ですが、まったく同じものではなく、PEN-Fに合わせて新規に設計し直しています。

野原:背面液晶モニターの厚みに関しては、チルトでもバリアングルでも大きな違いはありません。ただ、バリアングルは横にヒンジがあるので、カメラの側面が角張って四角く見えてしまいます。そのあたりはデザインでうまくまとめられたので、背面液晶モニターの厚みを感じさせない仕上がりになりました。

――OM-D E-M5発表時に手ブレ検出のセンサーは、ペンタ部に設置するのが最も精度的に有利、というお話を伺ったと思うのですが、フラットスタイルのPEN-Fでどこに手ブレ検出のセンサーを設置しているのですか? また、それでOM-Dと同じ十分な精度が得られるのでしょうか?

青木:PEN-Fの手ブレ検出センサーは、ホットシューの下の部分に設置しています。マウントの光軸に近く、手ブレ補正効果はOM-D E-M5 Mark IIと同等です。


PEN-Fのコンセプトを踏まえて像面位相差AFより画素数を優先

――マウントの位置が他機種に比べ、少し下がっていることもあって、ちょうどスペース的な余裕もありそうですね(笑)。

ところで、PEN-Fは5軸シンクロ手ブレ補正に対応していて、M.ZUIKO DIGITAL 300mm F4 IS PROと組み合わせれば、最大で6段の補正効果が得られるのが特徴ですが、惜しむらくは、像面位相差AFを搭載していないのでC-AFで向かってくる被写体を連写するとウォブリングで像が揺らぎ、結果としてピントは合っていてもAFの品位があまり良くないので、撮影していて楽しくありません。

オリンパスで像面位相差AFを採用しているのはOM-D E-M1だけで、しかもC-AF時、もしくはフォーサーズレンズ使用時しか像面位相差AFを利用できない仕様になっています。なぜE-M1以外、像面位相差AFを採用しないのでしょうか?

青木:このPEN-Fはできるだけ長く使っていただけることを狙ったカメラで、望遠レンズによる動体撮影よりも、コンパクトな単焦点レンズでスナップシューティングするような使い方を想定していますので、従来の像面位相差AF対応の16メガセンサーではなく、20メガの新しいセンサーを使う方が、多くのお客さまの満足度を高められると考えました。

像面位相差AF:画素を半分だけマスクした位相差画素を、撮像センサーに離散的に配置することで、レンズの右光束、左光束の像のズレを検出し、位相差AFを行う手法。ウォブリングを行う必要がなく、安定したC-AF撮影が期待できる
ウォブリング:コントラストAFのC-AF(コンティニュアスAF)時に、フォーカスレンズを連続的に前後に微動させることで、被写体の動きを追う手法。撮影距離によって像倍率変動が大きいレンズだと像がフワフワと揺らいで見える
5軸シンクロ手ブレ補正:ボディ内ISとレンズ内ISを協調動作させてより高い手ブレ補正効果が得られる技術。現時点ではM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROと対応ボディを組み合わせることで、世界最強6段分の補正が可能だ

――PEN-Fのターゲットユーザーを考えると、像面位相差AFを無理に載せるよりも、高解像度で高画質の方がユーザーメリットは大きいと考えたわけですね。コントラストAFによるC-AFの制御は、従来に比べ向上しているのでしょうか?

青田:機種ごとにアルゴリズムの改良を積み重ねてきているので、PEN-Fにはその一番進化したアルゴリズムを搭載しています。特に、最初に被写体を見つけてピントを合わせにいく速さが向上しています。

――マイクロフォーサーズ機で唯一、像面位相差AFを搭載しているOM-D E-M1ですが、像面位相差AFを利用するのはC-AFのときだけで、S-AF時にはコントラストAFを使用する仕様になっています。像面位相差AFだと十分なピント精度が得られないのでしょうか?

青田:E-M1に像面位相差AFを搭載したのは、フォーサーズのレンズを高速に動かせるようにして、フォーサーズとマイクロフォーサーズのどちらのレンズでもスムーズにAF撮影できるようにするのが主な目的でした。

マイクロフォーサーズのレンズはそれまでコントラストAFで制御してきましたので、その流れを踏襲して、S-AF時にはコントラストAFでピントを合わせ、C-AF時のみ像面位相差AFを利用するようにしています。

青木:S-AFの精度や速さはコントラストAFで十分達成できていると考えています。原理的に考えてもコントラストAFの方がより正確なピントが得られます。ただ、C-AF時は、コントラストAFよりも像面位相差AFの方が速度は速く、ウォブリング動作を伴わずに被写体に追従できるので、像面位相差AFを優先して利用するようになっています。

――ファインダー撮影時に背面液晶モニターを指でなぞることでAF枠を移動できる「AFターゲットパッド」ですが、OM-D E-M10 Mark IIは背面液晶モニターの半分の領域しか使えなかったのに対し、PEN-Fはモニター全面が使えるようになっています。これはなぜですか?

青木:OM-D E-M10 Mark IIは、EVFがボディのほぼ中央にあるので、右目でファインダーをのぞくと背面液晶モニターの左側に鼻が触れ、AFターゲットパッドが誤動作する恐れがあるので、あえてモニターの右半分だけ反応するように制限をかけています。

一方、PEN-FはEVFが左端にあり、鼻が触れることによる誤動作の心配がないので、使い勝手を考え、背面液晶モニター全体が反応するようになっています。

――ちなみに、OM-D E-M1はAFターゲットパッドに対応できないのでしょうか? 像面位相差AFを搭載していて動体撮影に強いE-M1こそ、ターゲットAFパッドが欲しいのですが……。

青木:モニターサイズやドット数などのスペックがほぼ同じなので、ファームウェアアップデートで対応できるのでは? という要望も数多くいただいています。E-M10 Mark IIやPEN-Fに使っているパネルは、E-M1で使用しているパネルと仕様が異なるため、E-M1には対応できません。

――出し惜しみしているわけではなく、そういう理由だったんですね。納得しました。ただ、オリンパスのカメラで不満なのは、ファインダー撮影時にAF枠を移動したり枠の広さを変えたりする操作が非常に冗長で面倒なことです。

OM-D E-M1の後継機は、もっと像面位相差AFエリアを広げ、ジョイスティック型のコントローラーでAF枠の移動やエリアの広さを直感的かつスムーズに変えられるようにしてください。

歳を取って指先が乾燥しやすくなったせいか、タッチパネルの反応が悪いことがあるので、動くものを狙うカメラはハード的なコントローラーの方が動作は確実です。もう手遅れかもしれませんが、一応お願いしておきます(笑)。

青木:PEN-FのAFターゲットパッドですが、ダブルタップで機能のオン/オフができることに気づいていましたか?

――いえ、初耳です。ただ、AFターゲットパッドをオンにしていたはずなのに、モニター画面をなぞっても反応しなかった、ということがありました。もしかしたらたまたまダブルタップしてAFターゲットパッドをオフにしてしまったのかもしれません。

参考までにお伺いしたいのですが、PEN-FのEVFの表示タイムラグはどれくらいですか? OM-Dの各機種はEVFの特徴が記されたWebページに具体的な数値が明記されていますが、PEN-Fの製品紹介ページにはそういった記述が見当たらなかったのですが……。

青木:OM-D E-M5 Mark IIとほぼ同等です。

――EVFの表示タイムラグを短くするには、どういう部分を改良すれば良いのでしょう?

青田:一言で説明するのは難しいのですが、センサーからライブビュー表示用のデータを取り込んで、画像処理をして、EVFに画像を出すまでの各々の処理時間を少しずつでも短くしたり、並行して処理が行われる部分をうまくチューニングしたりすることで、表示タイムラグの短縮を図っています。

PEN-Fでも、メニューのフレームレートを高速に設定することでセンサーの取り込みフレームレートを高速化し、表示タイムラグを短くしています。

――EVFのパネルですが、以前は液晶パネル(LCD)を採用した機種が多かったと思いますが、最近は有機ELパネル(OLED)を採用する機種が増えています。オリンパスの場合、E-M1とE-M5 Mark IIが液晶で、E-M10 Mark IIとPEN-Fが有機ELです。

EVFの液晶パネルと有機ELパネル、それぞれどのようなメリット、デメリットがあって、どのように使い分けているのでしょうか? かつての有機ELパネルを採用したEVF機は、黒浮きがなく、コントラストも高いものの、シャドウの階調がつぶれ気味という印象が強かったのですが、PEN-FのEVF表示は色もシャドウの階調もきれいに再現されますね。

青木:E-M10 Mark IIやPEN-Fで有機ELパネルを使っているのは、有機ELの方がパネルだけでなく、ユニットとしてのサイズが小さく、そのサイズでなければボディの小型化ができなかったことによります。

見えの部分に関しては、有機ELの方が発色は良く、コントラストが高いという傾向はありますが、最終的には液晶パネルであっても有機ELパネルであっても同じような見えになるようにチューニングしています。

味戸:PEN-Fには、モノクロ/カラープロファイルコントロールやハイライト/シャドウコントロール、カラークリエイターなど、撮影時に行う画作りの機能をかなり重要視していますので、ファインダー表示の色域やコントラスト比で有機ELパネルの方がより適しているのではないかと思います。

――オリンパス初の20メガピクセルのセンサーを採用していますが、E-M5 Mark IIやE-M10 Mark IIといった16メガピクセルの最新センサー搭載機と比べ、高感度画質は同等ですか?

青田:最低限この画質は担保しなければいけない、という弊社の基準があります。画素数を20メガピクセルにすると画素ピッチも狭くなるので、この基準を満たすのが厳しいという状況が続いていました。

それをデバイスメーカーさんと協力して、特性の改善や、センサーからの読み出し方法の工夫により、通常よりもノイズを制御しています。さらに、画像処理のチューニングを20メガピクセルセンサーに最適化することで、16メガピクセルセンサーと同等の画質レベルをキープできたと考えています。

――20メガピクセルになると画素ピッチが狭いぶん、小絞りボケの影響も受けやすくなるというか、16メガピクセルでは分からなかった小絞りボケの影響まで再現されてしまいますよね? 20メガピクセルになったことで、回折補正などの画像処理はより強化されているのでしょうか?

味戸:画像処理エンジンは最新のTruePic VIIを搭載していて、従来と同様、レンズの光学特性や絞り値に応じて行う最適なシャープネス処理を行うことで、レンズの性能をできるだけ引き出せるようにしています。

今回のPEN-Fの場合、回折補正については今回20メガピクセルセンサー用に、絞り値に応じて最適な解像チューニングを施しています。一般的に画像処理のチューニングで解像を優先させた場合、ノイズはある程度残すことになるのですが、20メガピクセルと高解像になったことで相対的にノイズの粒も細かくなっていますので、細かなノイズを残しつつ解像感をきちんと出すよう、バランスを取っています。

回折補正:絞りを絞り込むほど、光の回折の影響が大きくなり、コントラストや解像が低下してくる。そこで、レンズや撮影絞りに応じて、適切な画像処理を行うことで、レンズ本来のコントラストや解像に近づけるのが回折補正だ

――フォーサーズ規格の第1号機E-1が発表されたとき、確か20メガピクセルまでの高画素化まで考えてレンズ設計を行っている、という話を聞いた気がします。そろそろ画素数に対し、一部のレンズは十分にセンサーの性能を引き出せなくなってきたということはありませんか?

青田:レンズ設計の担当者からは、当社のマイクロフォーサーズ規格のレンズは、フォーサーズ規格のレンズよりもさらにレンズ設計の目標を高く設定していると聞いています。20メガピクセルになっても画素数に見合った解像性能を引き出せます。


多彩な色調整モードの操作をクリエイティブダイヤルに集約

――PEN-Fには、モノクロ/カラープロファイルコントロールという機能が搭載されましたが、このような機能を搭載した意図というかコンセプトを伺えますか?

青木:最初にご説明したように、撮影しているその場で色や階調を調整し、ファインダーで確認しながら、撮影者の狙いに仕上がりを近づけていく、そうしたプロセスを楽しんでいただけるよう、これらの機能を搭載しました。

これまでの機種にも、i-Finish/Vivid/Natural/Flat/Portrait/モノトーンといったピクチャーモードや、ハイライト/シャドウコントロール、カラークリエイター、アートフィルターなど、色や階調を調整して画作りを変えられる機能は搭載されていました。

しかしPEN-Fでは、そうした画作りの機能をボディ前面のクリエイティブダイヤルに集約し、背面レバーで簡単に設定を切り替えられるようにすることで、もっと多くの人に画作りを調整する楽しさを知ってほしいと考えました。モノクロ/カラープロファイルコントロールもその1つです。

カラープロファイルコントロールは、色相を12分割し、色相ごとに彩度を±5段階に調整することができる機能で、特定の色だけ鮮やかにしたり、彩度を抑えたりできます。

モノクロプロファイルコントロールは、モノクロでの撮影時にカラーフィルターを使って色の明暗を際立たせ、メリハリのある写真に仕上げるフィルム現像の技法をデジタルで再現したものです。

彩度・明度・色相:彩度は色の鮮やかさ、明度は色の明るさ、色相は色合いのこと。例えば、青空を濃く再現したいときは、彩度を高めるだけでなく、明度を下げることで、深みのある青空に仕上げられる

――ピクチャーモードのモノトーンにもカラーフィルター効果はありますよね? それとどう違うのですか?

味戸:モノトーンのカラーフィルター効果は4種類しかありませんが、モノクロプロファイルコントロールでは8種類に増えていて、かつ効果の強弱も3段階で調整できるようになっています。

例えば、赤フィルターの効果をレベル3に設定すると、長波長側の光だけ透過させたような効果が得られ、モノトーンの赤フィルターよりも効果を強く出せます。

これまでのモノトーンの仕上がりは、単に彩度信号をゼロにしたような、ある意味、モノクロ写真としてはメリハリが弱くちょっともの足りない印象でしたが、それに対して今回のモノクロプロファイルコントロールは、かつてフィルムでモノクロ写真を撮影していた方にも満足いただけるような仕上がりにしたい、ということで、フィルター効果の種類や調整の幅を増やし、さらに、シェーディング効果で周辺を明るく、もしくは暗く落とすといったことも可能になっています。

また、従来のハイライト/シャドウコントロールも、ハイライトとシャドウだけではなく、中間部のコントラストも調整できるようになり、撮影意図やシーンに応じて柔軟な階調コントロールが行えるようになっています。

――モノクロプロファイルコントロール時にコントロールパネルで「粒状フィルム効果」を設定できますが、これはどのような味付けでノイズを乗せているのでしょう?

味戸:単にセンサーで発生するノイズを残すのではなく、銀塩フィルムのような粒状感を出すために画像処理で乗せるノイズの粒をコントロールしています。フィルムの粒状感とデジタルのノイズは特性が違います。デジタルのノイズは一般的にシャドウ部で多くなり、ハイライト部はノイズが少なくなります。

逆にフィルムでは、ネガフィルムですので光が多く当たったハイライト部分ほど銀粒子が多くなり、シャドウ部は粒状感も少なくなります。ノイズ量のコントロールによって、プリントしたときに、できるだけ銀塩のモノクロ写真に雰囲気が近づくようにチューニングを行っています。

粒状フィルム効果の比較

下は四角の部分を拡大したもの
OFF
LOW
MIDDLE
HIGH
粒状フィルム効果を強くするほど、粒状の大きさや明暗のバラツキが大きくなる。デジタルのノイズと違って、シャドウよりもハイライトにノイズが目立つのが特徴。また、粒子が目立つほど不思議とシャープネスも高く感じる

――カラークリエイターですが、色域ごとに彩度だけの変更では意図どおりの画作りが得られないことがあります。僕がRAW現像する際に青空を強調する基本パターンとしては、青の彩度を高くするというよりは明度を落とすことが多いんですよ。なので、彩度だけでなく、明度、できれば色相も変更できるようになるとかなり画作りの自由度が高まると思うのですが……。

味戸:普段は細かい色の調整を行っていない方でも、気軽にダイヤル操作で色の調整を楽しんでもらえるよう、今回はシンプルに彩度のみの調整にとどめました。

――そうはいっても、なかなか撮影時にカラー/モノクロプロファイルコントロールで最適設定を探しながら撮影するのは敷居が高いですよね。そもそもフィルム時代には撮影に行うのはフィルターワークくらいで、現像やプリントがフォトフィニッシングでした。

そういう意味では、デジタルでも撮影時ではなく、撮影した後に背面液晶モニターを見ながら、あれこれパラメーターを調整したりエフェクトの強弱を変えたりして、モニターで見えているままにカメラ内RAW現像できる、といった機能が欲しいと思います。

こうしていろいろな設定をカメラ内RAW現像で試すことで、パラメーターの意味や効果が理解できてきて、どうすれば自分の撮影意図どおりの仕上がりが得られるか分かってきます。そうなれば、撮影時にパラメーターを自分好みの調整するのも容易になりますよね。

青木:我々も目指すところは同じで、その試みの1つが今回のカラー/モノクロプロファイルコントロールです。それぞれ3つのプリセットが用意されていますので、まずはそれを試すところから画作りの違いを楽しんでいただければ、と思います。

 ◇           ◇

【実写ミニレビュー】色や階調を“撮影時に”こだわるとき、このカメラの面白さが分かる

あくまで私的な感想だが、銀塩のPEN-Fはデザイン的に惹かれるものはなかったが、今回のPEN-Fは素直にカッコ良いと思った。EVFを内蔵させてこのサイズ感に収まっているのもうれしいし、バリアングル液晶モニターというのもポイントが高い。

惜しむらくは、像面位相差AFを採用していないので、せっかくターゲットパッドAFでフォーカスポイントの選択が快適になっているのに、安定したC-AFで動体を追うのが難しい点だ。決して安いカメラではないので、このレトロモダンな外観で最新機能が全部入りだったらと思ってしまうのだが、まあ、超望遠で動体をしっかり追えるカメラは、今後のモデルに期待しよう。

さて、PEN-Fの目玉機能であるモノクロ/カラープロファイルコントロールだが、最初は撮影時にあれこれ悩まなくても、RAWで撮っておけば後で色や階調を自在にコントロールできるじゃないかと思っていた。

カラープロファイルコントロール
モノクロプロファイルコントロール
ナチュラル
同じシーンを撮影しても、これだけ仕上がりが違う。しかも、ファインダーでこの仕上がりイメージを見ながら撮影できるので、モチベーションもどんどんアップする

仕事で“仕方なく”この機能を使ってみたところ、ライブビュー表示が仕上がりイメージに近く、撮影のモチベーションがどんどんアップして、知らず知らずのうちに撮影枚数も増えてくる。肉眼ではこう見えているけど、カメラを通すとまた別の世界が見える。なるほど、これがPEN-Fの開発者が意図した「フォトフィニッシングの楽しさ」なのかと、納得させられた。

デジタルカメラマガジン
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(伊達淳一)