インタビュー
小型高性能をどう実現したか――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」
世界初!「DUAL VCMフォーカスシステム」の仕組みとは?
Reported by 杉本利彦(2014/11/17 07:00)
オリンパスが11月29日に発売する望遠ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」は、35mm判換算で80-300mm相当ながら、ズーム全域でF2.8を実現したモデルだ。フルサイズの“サンニッパ”から見ると、小型軽量なこともあり話題になっている。
今回は、本レンズに注ぎ込まれたさまざまなテクノロジーについてオリンパスに伺った。(聞き手:杉本利彦、本文中敬称略)
「M.ZUIKO PRO」シリーズのコンセプトとは?
――「M.ZUIKO PRO」シリーズ全体のコンセプトからお聞かせください。
福田:「M.ZUIKO」には現在3つのラインがありますが、中でも「PRO」は最上級のラインになっています。ターゲットユーザーは、プロ写真家やハイアマチュアのお客様層を想定しています。
従いまして、高い光学性能はもちろんですが、防塵防滴、堅牢性、仕上げの上質感など、写真を撮る道具としての完成度の高さを追求し、どんな撮影環境でも最高の画質を提供するというのがPROシリーズ全体のコンセプトになっています。
――「M.ZUIKO PREMIUM」シリーズとの違いは?
山田:「M.ZUIKO PREMIUM」は、「M.ZUIKO」シリーズより高い光学性能を有した高画質単焦点レンズシリーズであるのに対して、「M.ZUIKO PRO」は先ほどもありました、どんな撮影環境でも最高の画質を提供する目的で、さらに上のグレードの光学性能や防塵防滴、堅牢性などを備えています。
――M.ZUIKO PROシリーズの位置付け的にはフォーサーズの「SUPER HIGH GRADE」シリーズと同等なのでしょうか?
山田:全く同じということではなく、「SUPER HIGH GRADE」シリーズより高い解像力を目標にしております。
――フォーサーズレンズの「SUPER HIGH GRADE」シリーズはズームながらF2.0であったり、300mmはF2.8と明るいものが多かったですが、「M.ZUIKO PRO」シリーズではズームがF2.8、開発発表している300mmはF4になってしまうのはどうしてですか?
福田:基本的にはマイクロフォーサーズシステムには小型化という大きな柱がありますので、機動性(大きさや重さ)と画質面のバランスを考え、今回はF2.8通しズームからPROシリーズを開始させていただきました。
――F2.0になるとだいぶ大きくなってしまいますか?
福田:そうですね。重量は1kgを超えますが、フォーサーズのF2.0ズームよりは小型にできると思います。
要望の多かった“全長一定”も達成
――そういった部分をふまえて、「M.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PRO」のコンセプトをお願いします。
福田:小型軽量で高い機動性を備えつつ、高い光学性能を持つF2.8固定の望遠ズームを作るというのがコンセプトです。PROシリーズ第一段の「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」、開発発表している「7-14mm F2.8」、そして今回の40-150mm F2.8の3本により、35mm判換算14~300mmを全域をF2.8でカバーしつつ、圧倒的に小型軽量なシステムの提供を目指しました。
機能的にはPROシリーズ共通の防塵防滴機能に加えて、お客様の要望が多い全長一定(全長が伸びずに一定であること)を設計の条件に入れました。
また、小型軽量化と高速レスポンスを同時に達成するため、新たに「DUAL VCMフォーカスシステム」を開発し、最短撮影距離も0.7mを達成するなど、小型化、機動性、高精度、高画質のそれぞれを高いレベルで達成できるように作り込んでいます。
――オリンパスのレンズはスタンダードなものでも画質評価が高いと思いますが、より明るくという方向性でしょうか?
山田:より明るくという方向もありますが、撮影画像をピクセル等倍で評価される方など、プロをはじめとした画質面でより厳しい見方をされるお客様にも、画面周辺部まで破綻のない画質を提供し、ご満足頂けるようにという思いがあります。そこで、プロシリーズでは性能の目標をさらに高いところに置いて設計しています。
――PROシリーズは、ローレット加工を基調にしたデザインを採用していますが、デザインのコンセプトを教えてください。
福田:「PRO」シリーズの1本目である12-40mm F2.8 PROのコンセプトの1つに、金属外装により精度感、緻密さを演出するという項目があり、アルミ削り出し→ローレット加工→アルマイト塗装といった仕上げを選択しました。40-150mm F2.8 PROは、共通のコンセプトに基づいたデザインでまとめています。
――PROシリーズは7-14mm(2015年以降発売)、12-40mm(発売済み)、40-150mm(11月29日発売)、300mm(2015年以降発売)のラインナップですが、明るい単焦点レンズは出ないのでしょうか?
福田:今後の製品展開については申し上げられませんが、そういったご要望が多ければ、今後の検討課題とさせて頂きます。
――その間、フォーサーズ用交換レンズを流用する必要もありそうですが、フォーサーズレンズをマウントアダプター経由で使用した場合はAF速度は落ちませんか?
山田:「OLYMPUS OM-D E-M1」をお使いの場合は、像面位相差AFが使用できますので、従来と遜色ないAF速度でお使い頂けます。それ以外の機種ではコントラストAFで動作致します。その場合、フォーサーズレンズはコントラストAFに適した構造になってはいませんので、多少AFに時間がかかることもあるかと思います。
特殊硝材を惜しみなく投入
――さて今回の40-150mm F2.8 PROは、高性能ズームのわりには10群16枚と構成枚数が少なめですね。
山田:従来の位相差AF用レンズに比べますと、今回のレンズはコントラストAFにも最適化する関係で、フォーカスレンズ群を軽くする必要がありました。しかし望遠レンズは口径も大きく、フォーカスレンズも大きく重くなりがちです。
そこでレンズタイプを1から見直し、フォーカスレンズにはパワーを持たせても収差バランスが崩れにくく、直径も小さくできる非球面レンズを採用しました。今回のレンズには合計3枚の非球面レンズを使用していますが、非球面レンズには球面レンズ数枚分の収差補正能力があり、全体の構成枚数を少なくすることができました。
――フォーカスレンズは非球面レンズとHDレンズを張り合わせたもの(4群)と、もう1枚凹レンズ(5群)の2群構成でしょうか?
山田:はい。近距離での画質向上と、最短撮影距離を短くすることを両立させるために、フローティング機構(近距離収差補正機構)を採用しました。つまり、1つのフォーカスレンズ群では近距離撮影時に収差が補正しきれない部分もありますので、フォーカスレンズ群を2つで構成したことで、ズーム全域で最短撮影距離70cmまで寄れて、簡易マクロ的な使い方もできる大口径望遠ズームレンズに仕上げることができました。
――フローティング機構とはどういった機構ですか?
福田:このレンズの場合は4群が主フォーカスレンズで、5群が近距離撮影になるほど移動して収差補正する構造をとっています。本来ならフォーカスレンズだけで無限遠から至近まで均等な画質が得られれば良いのですが、どうしても至近になるほど収差バランスが崩れてきますので、それを5群レンズで補正して無限遠から至近までほぼ一定の描写が得られるように工夫しています。
――EDレンズ(Extra-low Dispersion:特殊低分散レンズ)とスーパーEDレンズの違いは?
山田:スーパーEDレンズは、通常のEDレンズよりも色収差補正能力が数段上になりますが、高価な硝材であり、柔らかくより高い加工技術が必要となる硝材です。弊社の生産技術力により色収差補正に効果的な1群の大きい径のレンズに採用でき、色収差を徹底的に抑えております。
――EDAレンズ(Extra-low Dispersion Aspheric:特殊低分散非球面レンズ)の働きを教えてください。
山田:EDレンズは色収差補正能力は高いのですが屈折率が低いので、球面収差の補正能力が他のレンズに比べて下がります。これを補うために、表面を非球面とすることで、色収差の補正能力を持たせつつ球面収差の補正能力も持たせています。通常ならEDレンズと非球面レンズの2枚を要するところを1枚で同じ機能を実現するために採用しました。
――HDレンズ(High refractive index & Dispersion:高屈折率&高分散レンズ)の働きを教えてください。
山田:これはフォーカスレンズ群に使用しています。先ほどもありましたが、フォーカスレンズは小型軽量化しなければいけないということで、レンズ径を小さくすることと同時にレンズの体積を小さくする必要があります。この部分(フォーカスレンズの前方側)には凸レンズが必要なのですが、できるだけスリムなレンズにするため高屈折率レンズを使用しました。また、望遠レンズでは至近側で色収差が出やすいのですが、高分散な凸レンズと低分散な凹レンズを張り合わせることで、フォーカスによる色収差の変動を抑えています。
――フォーカスレンズ自体が色消しレンズになっているのですね。
山田:そうです。色消しレンズは凸レンズと凹レンズのどちらかが高分散でどちらかが低分散である必要があるのですが、接合部分の凸レンズの曲率半径が大きいと凹レンズの曲率半径も大きくとる必要があり、レンズが厚くなってしまいますので、今回は凸レンズに高屈折・高分散のレンズを使用して、凸レンズの曲率半径を抑え、凹レンズも薄型で軽量化できるようにしています。
――レンズ構成のうち半分が特殊硝材という、かつてない贅沢な構成ですね。
山田:特殊硝材が多くなるとコストも上がるのですが、レンズ構成の構成枚数が減ればコストを減らせますし、製造上も作りやすくなるメリットもありますので、なるべくレンズの構成枚数を減らす方向で設計しました。
――昔に比べると特殊硝材は使いやすくなっているのでしょうか?
山田:例えば柔らかいEDレンズですと、昔は加工工程で傷がつきやすくコストがかかりたくさん作れない問題がありました。しかし最近ではオリンパス独自の生産技術の向上で、柔らかいレンズでも問題解決して多くの製品で採用できるようになっています。
――非球面レンズの製造法はガラスモールドですか?
山田:ガラスモールド方式で自社生産しています。最近では非球面金型がナノオーダーの精度で測定、加工できるようになっていまして、特にEDA(ED非球面)レンズが高精度に量産できることが弊社の強みと考えております。
――このレンズは日本製ですか?
山田:いいえ。すべて中国・深セン工場で製造しています。
――ZERO (Zuiko Extra low Reflection Optical)コーティングとはどんなコーティング技術ですか?
山田:ゴーストやフレアの原因となる450~650nmの波長の光の反射率を、従来の約半分に抑えたコーティング技術です。
――コーティングの原理的には従来と同じようなコーティング技術を使用していますか?
山田:はい。従来の真空蒸着による多層膜コーティングを改良したコーティング技術になります。
――構成の全てのレンズ面に、ZEROコーティングが施されているのですか?
山田:シミュレーションを行い、効果のある面の全てに採用しています。
ボケの綺麗さとMTFのバランスに配慮
――ボケ味のきれいさを強調されていますが、ズーム全域で綺麗なのでしょうか?
山田:設計上ボケにはかなり配慮しています。MTFを上げてシャープにという方向性はもちろん基本ですが、ボケにもこだわろうということで、例えばいわゆる玉ボケ(円形のボケ)の口径食の問題にしても、なるべく周辺部まで光量を確保して円形を維持できるようにしています。
光量が不足すると周辺部のボケがラグビーボールのような形状になりますので、その辺りもシミュレーターを通して確認し、製品サイズとのバランスを考えながら設計しています。
また、2線ボケなどもスポットダイアグラムなどのシミュレーションで確認しながら、2線ボケが目立たない収差バランスを選択するように配慮しています。
――Webサイトの作例では、エッジが目立たないきれいなボケが得られていますがどういった工夫をしていますか?
山田:球面収差の形を調整して、前ボケも後ボケもエッジが目立たなくなるように配慮しております。
――ボケは理想のボケに近いボケ方ですか?
山田:山田:中心にピークがあって裾野が広がるガウス分布のようなボケが理想といわれますが、そこまでいきますと今度はMTFへの影響がありますので、シミュレーション結果を見ながらベストなバランスにできたと思います。
世界初となるVCMによる2レンズ同期駆動
――機構的には「DUAL VCMフォーカスシステム」がポイントになっていますが、どんな機構ですか?
福田:今回のレンズでは先ほど出ましたフォーカシングレンズの駆動にVCM(Voice Coil Motor)を採用し、4群と5群それぞれに2個ずつ使用しています。2つのフォーカスレンズ群の動きは同期させていますので、例えば4群がこの位置なら5群はこの位置と、あらかじめ決められた動作をするように設定しています。
これは、例えば4群が先にピント合わせに行って、5群が追いかけるとなると、次の瞬間に4群がすでに次の位置に動き初めてしまい双方の制御が不可能になってしまうためです。こういった、2組のレンズを同時に同期させてVCMで動かす方式は世界初となります。
――フォーカスユニットを見ますと、レンズの上下にだいぶ大きめのコイルと磁石が見えますね。モーターというよりリニアモーターのような構造と言うか……。
福田:VCMはスピーカーのコーンの駆動部分を思い浮かべて頂くとわかりやすいと思いますが、磁石の回りにコイルがあって電流によってコイルが前後の動きをします。
しかし、それだけでは制御ができませんので、それぞれのレンズの位置を正確に読み取るセンサーが配置されています。どこまで動くという指示と、今どこにいるという情報を参照しながら制御する、フィードバック制御を行っています。
――センサーは何で位置を検出しているのですか?
福田:各レンズユニットの部材部分に非常に細かな磁気のパターンを転写してあり、鏡筒側の磁気センサーでこれを読み取ります。サブミクロンオーダーの微細な単位でレンズ制御が可能にしています。
――VCMというのはこう言っては何ですが、結構おおざっぱな動きのモーターですから制御も大変そうですね。
福田:VCMのメカ構成部分は摩擦抵抗を減らしていますので、静止時も常時±の電圧を交互にかけて停止させる必要があります。しかし、位置をセンサーで正確に検知しながら細かくフィードバック制御すると高精度に素早く動作させることができるのです。
AF速度を上げるには、強力なモーターを使って瞬時にフォーカスレンズを移動できるようにすると良いのですが、そうすると今度は停止時の正確な制御が難しくなります。逆に弱いモーターでは正確な制御ができますがAFに時間がかかってしまいますので、その辺りのバランスを見定め、高精度かつ高速なAFを実現としました。
――このような構造ですと、ヘリコイドやギアで制御する方式に比べ、レンズのガタツキが生じないか心配になります。
福田:部品加工や組立を高精度に行い、様々な試験で動作検証しております。光学的に問題になるようなガタツキは生じませんのでご安心ください。
――DUAL VCMフォーカスシステムのメリットは?
福田:一番のメリットは、やはり近接撮影ができるということです。今回は70cmまで寄れますので望遠端では0.21倍の撮影倍率が得られます。あとはAFの高速化、小型軽量化にも貢献しています。
――超音波モーターやステッピングモーターよりも有利な点はありますか?
福田:超音波モーターの場合は大きなトルクで一方向に一気に動かすという動きは得意ですが、ウォブリングのような細かい往復運動はあまり得意ではありません。
また、ステッピングモーターは細かい往復運動に適していますが、今回のレンズ設計に対してはAF速度の点でVCMの方が有利であったため、VCMを採用しました。
――動画撮影においても威力を発揮するとありますが、どうしてですか?
福田:動画撮影においては、先ほどありましたウォブリングで細かくピント位置を探しながら動かす動作が必要ですが、そのような動きに対してはVCMまたはステッピングモーターが最適です。その中でもレスポンス性がよく、より高速なAFが可能なのがDUAL VCMフォーカスシステムの威力となります。
モード別「MFクラッチ機構」のふるまい
――「MFクラッチ機構」も搭載していますね。
福田:これはもともとM.ZUIKO PREMIUMシリーズの12mmと17mmに入っていたスナップショットフォーカス機能を、マニュアルフォーカス的に細かいピント調節に使えるようにするため、分解能を上げてチューニングすることで使いやすくしたものです。
カメラが起動中に、フォーカスリングを手前に引いて頂ければそれだけでMFモードに移行し、距離目盛も入っていますので撮影距離でピントを合わせて頂くことも可能です。
――置きピンをする時の操作はどうやるのですか?
福田:まずフォーカスリングを手前にしてMFモードにしてから、セットしたいピント位置にピントを合わせます。そのままピントリングを前にして自由にAFで撮影して頂き、先ほどセットした位置にピントを戻したい場合は、ピントリングを手前に引くだけで瞬時にセットした位置にピントが戻ります。
――ボディ側でもAF/MFの切換えができますが、それぞれの動作の違いを教えてください。
山田:まずボディ側がAF/MFモードの場合は、レンズがAFモードであれば通常のAF、フォーカスリングを手前に引いてMFモードにすると距離目盛に連動したMFになります。
ボディがMFモードの場合は、レンズがAF/MFモードであってもMFになり、その場合はフォーカスリングの回転速度に合わせてピントの移動量が大きくなったり小さくなったりします。フォーカスリングを手前に引くと距離目盛に連動したMFになります。
つまり、フォーカスリングを手前に引くと同じMFでも従来の距離目盛のあるレンズと同様、フォーカスリングの回転角とピント移動の感覚が一致する動きになります。
――ファンクションボタンに割り当てできる機能を教えてください。
福田:AF停止、AFロック/AEロック、ホワイトバランスなど、ボディのファンクションボタンと同様に機能が設定できます。E-M1の場合では26種類の機能が設定可能です。
――防塵防滴にするには保護フィルターが必要ですか?
福田:フィルターなしでも防塵防滴に対応しています。
――水しぶきがかかる動画がありますが、雨でも気にせず撮影できるということでしょうか?
福田:通常の雨くらいなら大丈夫です。
オリンパス初のロック付きスライドフード
――レンズフードがスライド式になっていて非常に便利ですね。
福田:スライド式フードは「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」ですでに採用していましたが、ロックが付いたのはこのモデルが最初です。フードを伸ばすとロックがかかりますので、フードをつけたままレンズを下向きに置くことが可能です。また、フィルターやレンズキャップもフード外すことなく、縮めるだけで着脱できるのも特徴の1つになっています。
――1.4倍のテレコンバーター「M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14」がセット販売されますが、画質やAFスピードは落ちませんか?
山田:40-150mm F2.8 PROと開発発表した300mm F4 PROの2本に最適化して設計していますので、十分に高画質を維持できるように設計しています。
福田:AFスピードに関しましても同等のパフォーマンスが維持できるように設計しておりますので、落ちません。
――1.4倍テレコンバーターで対応レンズが限られる理由は?
山田:これはテレコンバーターのボディマウントからレンズが出っ張る構造になっていまして、交換レンズ後方のマウント部分に空間のある望遠レンズ以外は物理的に装着ができないようになっているからです。収差補正上、レンズは前に出したほうが有利ですのでこのような設計になっています。
――装着できるレンズなら使えますか?
山田:対応レンズ以外は、装着できたとしても動作の保証はできません。対応レンズでのご使用をお願い致します。フォーサーズアダプター経由でのフォーサーズレンズ装着時にも対応しておりません。
――2倍のテレコンバーターの計画は?
山田:ご要望として承ります。
◇ ◇
―インタビューを終えて― 本気で使ってみたいレンズの登場
“辰野クオリティ”という言葉を覚えておられる方も多いのではないだろうか。フォーサーズ時代に最高性能をうたった「SUPER HIGH GRADE」シリーズをはじめとした「ZUIKO DIGITAL」レンズシリーズを長野県の辰野工場で生産し、その高品質をアピールした宣伝文句であった。それも今や昔、昨年の春以降オリンパスでは、製造拠点の海外集約などが打ち出され、いつしか辰野クオリティの言葉は聞かれなくなっていた。今回の「ED 40-150mm F2.8 PRO」は、「M.ZUIKO PRO」シリーズでも中核をなす高性能レンズであるが、やはり中国・深セン工場製ということで、今更ながらこれほど高性能なレンズが海外でも生産可能になっていることに驚かされる。おそらく辰野のマイスターの熟練の技術が、かの地の最新の機械加工技術に受け継がれているのであろう。
最近はインタビューでエンジニアに海外生産について聞くと、口を揃えて、設計さえきちんとできていれば加工はどこでやっても同じだと言う。これは言い換えれば工作機械の加工精度が十分高く、品質管理が“日本基準”であればどこで作っても製品の品質は日本製と変わりないという理屈なのだろう。
さてM.ZUIKO ED 40-150mm F2.8 PROは、レンズ構成の半数が特殊硝材を使用する、従来では考えられない贅沢な仕様が採用されている。これはインタビューの端々で聞かれたレンズ設計ソフトのシミュレーション技術の高度化と、加工技術の向上およびコストダウンがあって初めて実現しているのではないだろうか。
しかも、EDレンズでありながら非球面レンズというEDAレンズ、フォーカスレンズに採用された高屈折レンズと非球面レンズを貼り合わせた色消しレンズ、フローティング機構まで導入して画質向上がはかられた最短撮影距離など、技術的にも非常に見るべきものが多いレンズである。久々に、本気で使ってみたい望遠ズームの登場である。