インタビュー

面談で作り上げる“自分だけのカリキュラム“。写真家・所幸則氏のオンライン講座「toru-asobi」が目指すゴールとは

写真家・所幸則氏が主宰するオンライン写真教室「toru-asobi(とるあそび)」が受講者を募集している。受講者との面談によって個別のカリキュラムを決めていくという、一風変わった写真教室で、“写真が好きな人”から“プロを目指す人”まで門戸を広げている。その特徴や開講した経緯について所氏ご本人に伺った。

toru-asobiはオンラインでの受講をベースとしており、全国どこからでも講義をうけることができる。所氏のほかにも豊富な経験をもつ5人の講師(メンター)が所属しており、講義内容に応じて各メンターからそれぞれアドバイスを受けられる点も特徴となっている。

基本となる「スタンダードプラン」は、月に210分までの受講が可能としており(70分×3回が基本。相談により1回の時間を短くして回数を増やすなども可)、料金は1万3,000円/月で最短3カ月から。月の受講時間を60分までに短縮した「ライトコース」(5,000円/月)のほか、プロの写真家を目指す人向けの「写真家育成ガチ特別講座」(2万円/月)も用意している。申し込みは通年で随時受け付けている。

とくにスタンダードプランとライトプランでは、趣味を深めたい人やスキルアップをしたい人、作家を目指したい人など、幅広い目的に対応する。

toru-asobi:https://toru-asobi.studio.site/

写真家・所幸則氏

toru-asobiとはどんな写真教室か

カリキュラムを左右する「面談」とは?

受講希望者は、まずtoru-asobiのWebサイトから申し込みをする。申し込みを完了した人は、所氏との面談に進む。

受講者ごとに個別のカリキュラムを組むtoru-asobiにおいて、この“面談”というプロセスがひとつの肝となっている。“面談”といっても、いわゆる受講可否を決める面接をするわけではない。所氏によると、大きく分けて「受講者の生活スタイル」「受講者が撮りたい写真について」の2点について詳しい話を聞くことが目的なのだという。

受講者の生活スタイルを聞く理由は、より柔軟に受講スケジュールを組むためだ。いつ休みが取れる? 写真はいつ撮れる? といった受講者の状況を把握することで、各個人の生活スタイルと照らし合わせても無理がないようにスケジュールを立てていく。

「受講者が撮りたい写真について」は、おもに今後の指導方針を探っていくためのヒアリングだ。どんな写真が好きで、どのように写真と向き合っていきたいのか。受講者のことを良く知ることも、この面談の目的のひとつなのだそうだ。

所氏は、受講目的は人それぞれでよいと考えているという。本気で技術向上を望む人もいれば、単に写真を楽しみたいという人もいるため、それぞれの理由にtoru-asobiは向き合っていく。

この面談をとおして受講者の意思を確認し、どんなゴールを描いていくのかを“相談しながら”決めていく。所氏は「やり方は人によってさまざま。シラバスは無限にあると思っています」と語る。

6人の水先案内人

toru-asobiには所氏を含む6人のメンターがいる。なかにはプロ写真家以外のメンターもおり、その顔触れはバラエティに富んだものとなっている。

6人のメンター。toru-asobiのWebサイトより

基本的には所氏がすべての受講者のメンターとなる。しかし、講義を進める中でテーマによって「次回は誰々の講義を受けてみましょう」という進め方をしていくのだそうだ。

例えばカメラの使い方から学びたい人に対しては「最初の3回は浅野さんに機材の基礎を教わりましょう」と方針が示されることもあれば、「旅行写真の話だったら田口さんに話を聞いてみましょう」といった、それぞれ得意な分野をもつメンターの講義を受ける機会が得られる。

ほかにも全体的なアドバイスを送れる池末氏や、アートに造詣が深い澄氏、視覚障害を持ちながら独自の視点で作品作りをする豊吉氏といった、toru-asobiに賛同する仲間をメンターとして集めていったと話す所氏。なかにはもともと所氏の教え子だったメンターもいるという。誰か一人に教わり続けるよりも、多くの人の目や感性に触れることがとても大事なことだと、複数のメンターを揃えた理由について所氏は説明した。

toru-asobiで目指すこと

なぜtoru-asobiを企画したのか。この問いに対して所氏は「本当に写真が好きな仲間に、技術向上の手助けをしたい」と答える。

スマートフォンの普及により、だれでも手軽に写真を撮れるようになった。所氏は、スマートフォンで撮影している人でもすごくいい写真を撮る人は大勢いるが、基礎を知らな過ぎてもったいないなと思うことも多くあるのだという。例えば水平や垂直など、「ちょっとしたことでも教えてあげられれば……」と日頃から考えていたのだそうだ。

所氏は、人に写真を教えることがもともと好きなのだと続ける。自身が写真学生だった頃から、自分のアドバイスで相手の写真がとてもうまくなる、ということがとても楽しかったのだという。それから今まで、プロを目指す人向けなど、写真を教える機会は多々あったが、toru-asobiではそうした本気度の高い人だけでなく“写真を楽しみたい人”の力にもなっていきたいのだと語る。

今後の展開についても非常に柔軟だ。例えば、所氏の幅広い人脈を生かして、6人のメンター以外の写真家などの話を聞ける機会も作りたいのだそうだ。また、状況によってはスナップ写真を一緒に撮りに行ってみたりと、オンラインに限らない講義スタイルも検討していくという。

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お話を伺う中で、「写真が好きだけど、どうしていいかわからない」という人にも向き合っていきたいのだと所氏は強調した。写真を教わることは、一般の人にとっては少々ハードルが高く感じられるかもしれない。しかしtoru-asobiではそうしたプレッシャーを感じる必要は全くないのだという。

写真を楽しみたい人にとって「自分の撮りたいものが見つかって、それをちゃんと撮れる」ということもtoru-asobiで目指すゴールのひとつだと所氏は語る。それは家族写真でも、アート的なものでも何でもよくて、答えは自分だけのもの。そうした写真に対する“好き”を深める手助けをするtoru-asobiは、新しい写真教室のかたちを示してくれるのかもしれない。

本誌:宮本義朗