写真展レポート

感情をこめてカメラと向き合えた——葛藤を乗り越えたグラビアアイドル、“10年間の集大成”

「篠原冴美×福島裕二写真展」ギャラリー・ルデコ(渋谷)より

篠原冴美さん。一番のお気に入りという作品と

写真展「篠原冴美×福島裕二写真展」が7月14日に始まった。グラビアアイドルとして活躍中の篠原冴美さんを、写真家の福島裕二さんが独自の視点で切り取った作品展となっている。ここでは会場の様子とともに、お二人へのインタビューをお伝えする。

会場は渋谷のギャラリー・ルデコ。会期は短く、7月18日までだ。クラウドファンディングで資金を集め、写真集の制作と写真展の実施をともに実現したという異色の企画。会場も2フロアを使い、3階が篠原さんのセレクト、4階が福島さんのセレクトで構成した。おのおののチョイスの違いも見どころだ。

「これ以上はない私の集大成」――篠原冴美

――簡単に自己紹介をお願いします。

普段は、麻雀プロをしながらグラビアアイドルをしています。

――今回の撮影のきっかけは?

2年ほど前に、同じ恵比寿マスカッツのメンバーだった希島あいりさんが福島さんと写真展をやっていて、そこで写真展を初めて見て感動しました。自分もこんな写真を撮って欲しいなと思ったのがきっかけです。その時、もし写真集を撮るなら福島さんにお願いしようと思いました。

写真集制作の希望はずっとあったのですが、まさか自分にできるとは思えずそのままでした。それから1年ほど経ってそろそろグラビアとして形を残したいなと思っていた所に、「写真集を作らないの?」というファンの方の声があって、マネージャーさんを通して福島さんに撮影をお願いしました。2年越しに思いを叶えてもらった感じです。

――写真展も初めてですね。

2フロア全部を私の写真で開催していただけるなんて本当に嬉しくて、一生に一度も無いような贅沢なことをしてもらえて本当に感激です。仕事柄写真はたくさん撮られてきましたが、こうして1枚1枚がこの大きさになることはあまりないですよね。この大きさだから味わえる、写真集では味わえない感覚のものですね。

――今回の展示はクラウドファンディングで実現しました。

もともとは、写真集を作る目的でクラウドファンディングを実施したのですが、そのストレッチゴールとして写真展の開催を設定して、ファンの方の支援で叶えていただきました。

私は2010年にグラビアをはじめたのですが、実のところグラビアをやるのがすごくしんどくてやめてしまった時期があるんです。その後メンバーになった恵比寿マスカッツの先輩に「若いときに撮ってもらったほうがいいよ!」と言われて、また2015年にグラビアに復活しました。中途半端にやめてしまっていたので、今度は自分が満足するまでやってみようという決意がわきました。

人間なかなか変われず、それからしばらくも大変でしたが、2年半ほど前のあるとき急に自分の中で変わって、グラビアが楽しいと思えるようになったんです。ただ、グラビアの撮影はシチュエーションがすべて決まっていて、自分の思うようにはできないなという難しさも感じていました。

そんなときにクラウドファンディングならファンの方の支援を頂いた上で、自分のやりたいグラビアを好きなカメラマンさんにお願いできて、好きなように作れると聞いたんです。それはすごいなと。しかし、いきなり好きにできるとなると構想は色々あったものの、自由度が大きすぎて逆に迷ってしまいました。

そこで、ファンの方が見たいものを撮ると決めました。今回はファンの方の意見を8~9割くらい取り入れて撮影をしました。

――一番見てほしいところは?

いままでは水着の撮影も嫌に思うことがあったほどなのですが、今回は露出が高めのカットも私が選んでいるんです。これは福島さんを信頼できて、普段のグラビアなら躊躇してしまうこともできたからです。そして、初めて感情を込めてカメラに向き合えました。その瞬間を追ってもらえたので、普段のグラビアとは違う自分を見てもらえると思います。

――撮影中に心がけていたことは?

集中することです。これが簡単なようですごく難しいんですよ。麻雀は自分との戦いなのですが、写真は対カメラマンさんということなので、信頼できないとだめです。いままで「衣装がずれちゃってないかな、見えちゃってないかな」といった方向に意識が行ってしまっていたので……。今回はスタッフみんなが安心できる環境を作ってくれたこともあって、しっかりカメラと向き合えました。

――撮影を終えての感想は?

私がグラビア嫌いだったことを知っている恵比寿マスカッツのメンバーから、写真を見て「今まで見たことのない写真で、福島さんに撮ってもらって意味があったね」と言ってもらえたのが嬉しかったですね。これまでと比較しても、露出は一番していますが下品になっていなくて、母親もすごい良かったと言ってくれました。女性がみてもきれいと思える写真だと思います。

この1年は、全部この写真展のために走ってきたという感じです。誰かが期待より良くないと言ったとしても、自分の中ではもうこれ以上無いと思う写真展になりました。普段自身のないキャラなのですが、自身を持ってステキな写真展になったと心から思えます。グラビアをやってきた10年で初めて「よかった!」と思った瞬間でした。ぜひ見に来てほしいと思います。

「大判プリントの没入感を体験してほしい」――福島裕二

――篠原さんの印象は?

自分の顔が嫌いだったり撮られるのが嫌だったりと、写真に恵まれてないなということを感じました。それがやっと好きになりつつあったということでした。自分の限界に挑戦したいというので、僕を選んでくれたんだったら一緒に頑張れる? ということで撮影することになりました。

ただきれいに撮るだけじゃなくて、僕は人物の内面が気になるのでそこを写しています。一生に一度くらいはこういう撮られ方を経験するのは良いと思いますね。

――新しいチャレンジもあったのですか?

クラウドファンディングのリターンとして、撮影現場にファンの方を呼んで私が撮っている周りで撮影してもらうということもやりました。ライブシュートはやっていますが、写真集に使うカットのロケでは初めてですね。

――撮影で心がけていたことは?

一番は、仕事にならないようにしたことです。ポーズをしっかりとるといった仕事のテイストになると写真が弱くなってしまうので、「何もしない」とか「そのままでいる」といったシチュエーションになるようにしました。

――2フロアで展示することははじめから決めていた?

僕は最初から決めていました。今回はいわば僕と彼女のダブルネームなので、彼女が自分で選べなかった写真を僕の名前でピックアップできるということです。コンプレックスがある人なので、展示は分けてあげないとと思っていました。

上のフロアは僕のセレクトなので、下のフロアの彼女のセレクトとはぜんぜん違うと思います。商業的なものとは違った作品ということです。彼女の歩みを表現したストーリーにもなっていますし、気持ちの揺れも切り取りました。その一瞬を永遠にできるのが写真の良さですね。

――衣装などがファンの意見で決まるというコンセプトですがどうでしたか?

何も問題はないですね。僕は外装も場所もあまり関係ないので(笑)。どちらかというとシチュエーションそのものよりも、その中を自分でコントロールしたい。だから、衣装や場所は「お好きなのでどうぞ」ということなんですね。

福島裕二さん。「見れば見るほどいい写真(笑)」というお気に入りの作品と

――今回のカメラは?

ほとんどをニコン Z 7IIで撮りました。仕事以外の作品は基本的にライカなのですが、今回は一部のモノクロ作品でライカQ2モノクロームを使ったくらいです。Z 7IIは仕事で使っているメイン機なんですが、今回の作品はZ 7IIを使うことにしました。

僕の中では、ライカだと本人の心のブレが写りすぎてしまうんですね。ニコンのほうがそのブレを和らげられるというイメージです。今回も、感情を克明に表現したいシーンではモノクロでライカを使っています。彼女が涙を流しているカットもあるのですが、そのシーンもライカです。そうした使い分けをしています。

レンズはNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sだけですね。小さくて使いやすくて写りもきれいなので好きなんです。開放値が明るいレンズは今は好きじゃないので。背景を大きくボカす意味がなくて、むしろいっぱい写るほうがいいですね。

――読者に一言お願いします。

PC画面のデータではなくて、プリントして形になったものをぜひ見てほしいですね。大判のプリントにするのは没入感があるからです。小さい写真がだめなわけではないですが、大きくして伝わるならそれがいいなと。展示枚数は47枚です。これでも僕としては少ないほうなのですが……。自分の好きな鑑賞距離で見られるのもプリントの魅力。今回は鑑賞距離も考えたレイアウトになっているのでそのあたりも楽しんでほしいと思います。

写真集、図録、ポストカード、缶バッジなど様々なグッズの販売も

写真展概要

会場

ギャラリー・ルデコ
東京都渋谷区渋谷3-16-3 髙桑ビル3・4階

開催期間

2021年7月14日(水)~7月18日(日)

開催時間

平日:13時00分~19時00分
土日祝日:11時00分~19時00分
※最終日は17時00分まで

入場料

無料

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。