写真展レポート

渋谷PARCOで「はじめての森山大道。」展がスタート。初日会場から展示内容を紹介

©Daido Moriyama Photo Foundation

森山大道さんの60年に及ぶ作家活動を紹介する展覧会「はじめての森山大道。」が渋谷PARCO(東京・渋谷)8階のギャラリースペース「ほぼ日曜日」で開催されている。会期は6月13日(日)まで。初日の会場の様子を交えながら展示の模様をお伝えしていきたい。

「森山大道」とは何者なのかを問う試み

本展のコンセプトは、“「写真家・森山大道」を知ること”が根底に据えられている。展覧会企画の背景について担当者は、そもそも森山さんを知らない運営スタッフも多かったのだと振り返る。折しも同ギャラリースペースが入る渋谷PARCOの8階フロアにはシアターの「WHITE CINE QUINTO」も入っている。公開が始まっているドキュメンタリー映画「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」も上映中だ。同じフロアで森山さんの映画が上映されることをうけて、あらためて森山さんについて知る場を提案したい、という想いが展覧会の背景となっている。

会場入り口では、代表作「三沢の犬」の大パネルが来場者を迎えてくれる。作家の名前自体は知っている人には、その作品アプローチを伝え、またそのアイコニックな作品は見たことがあるという人には、作家の名前が、それぞれリンクする。

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会場に入ると、森山さんのセルフポートレートカットが目に飛び込んでくる。添えられている文章は、森山さんの著作から、作家の大竹昭子さんが選び出したものだ。森山さんと親交の深い作家が捉えた「写真家・森山大道」の姿を示す文章が、作品理解を手助けしてくれる。

会場入口に据えられているセルフポートレート。ちなみに、会場出口にも最新のセルフポートレートが展示されている
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「三沢の犬」の見せ方もユニークだ。セクションタイトルは「なぜ、この写真が有名なのか。」というもの。作品とともに、作家自身の言葉や、批評家、作家の評言がならぶ。美術展の開催時に立体化された「三沢の犬」やクッションにプリントされた「三沢の犬」なども展示されており、同作の歩みも同時に示している。

問いかけは、この作品が代表作とされている理由とも重なる。作品は青森県の三沢に宿泊した森山さんが、旅館から出て目にした犬のいる風景を撮影したものだ。「Stray Dog」という作品名が示すとおり、犬の目はどこか寂しげで虚だ。どこか汚く汚れている毛並みを想わせる様子に、森山さんは街を歩き回るようにして撮影する、自身の姿を映していたのか。ボロボロに疲れ果てながらも、それでも街中を歩き、撮影を続けていく。そうした心情的なものも作品から読み取れるようだ。

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作家の“現在”を示す

森山さんといえば、私家版写真集「記録」シリーズもよく知られている。貴重な1号から5号だけでなく、これまでに発行されたすべての記録シリーズが無造作に並べられている。事務所から撮影された新宿の夜景は、この4月に発表されたばかりのもの。作家の目が捉えた、その街姿は、初めてニューヨークの夜景を目にした1971年当時のことを想起させるものだったという。

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会場には雑誌等に作品を寄稿した際の誌面の色校正紙も展示されている。最上段の左上には、小社発行の『デジタルカメラマガジン』(2021年4月号)で掲載された際のものもある。このほかにも、2021年3月付で出力されたものなど、現役で活動していることがよく分かる内容となっている。

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森山さんの写真教室を卒業したメンバーによって立ち上げられたギャラリー「image shop CAMP」のプロモーション誌「CAMP」も展示されている。この原版はひじょうに貴重なものなのだそうだ
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多面的な活動内容

会場には、初期の作品である『にっぽん劇場写真帖』よりポジフィルムも展示されている。長大なライトボックス上にひとつひとつマウントされたフィルム原版が並ぶ。プリントではなく、フィルムそのものを直接観察できる機会は貴重だ。

©Daido Moriyama Photo Foundation
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また、網タイツをモチーフにした作品群『Tights』シリーズがデザインに用いられた展開もみられる。バイク(ホンダ・カブ)やスニーカーも。スニーカーはFlower Mountainブランドとコラボレーションしたもの。この3月に発売されたばかりだ。

©Daido Moriyama Photo Foundation
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グラフィックデザイナーの経験があることからも分かるように、絵を描くことが好きな森山さん。子どもの頃の夢をうつした絵や、遊び心あふれるアートワークなど、写真だけではない多彩な側面も知ることができる。

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膨大な写真集で作家活動を一望

森山さんの写真集や著作は、300とも500ともいわれている。作家自身はもとより、管理を担っている事務所ですら、もはや把握しきれていないのだそうだ。そうした膨大な写真集も貴重な初版や、きわめて小部数で存在を知られていないようなものまで、時系列で展示。150冊を並べている。

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大スランプを抜け出した復活期の写真集も。80年代の『光と影』、そして90年代の『hysteric No.8』。これら写真集も貴重なものなのだそうだ
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このほか会場には森山さん愛用のカメラや、映画のポスターなど、様々な活動を示す作品も展示されている。作家として様々な顔をもつ「写真家・森山大道」を知るキッカケとなる本展覧会。限られたギャラリースペースながら、凝縮された内容で、来場者に森山さんの様々な姿を提示している。

写真集や著作、オリジナルグッズなどを販売している物販コーナーも充実。森山さんに詳しい編集者に、はじめて森山さんに触れる人にオススメの著作を教えてもらったところ、『犬の記憶』(河出書房新社、2001年5月刊)がよいのでは、とのこと。ほぼ日刊イトイ新聞では、作家・大竹昭子さんへのインタビューも掲載しているが、そこで大竹さんは『犬の記憶』によせて、「森山さんの場合は、自分が感じたことを表現するために、どんな言葉を当てたらいいか、探っていくようなところがあるんです」とコメント。「“自分にとって、写真とは何か”ということを、深く深く、考えたんだと思います。」と評言している。

本展覧会で作成されたオリジナルグッズ
レトルトカレー「KURO TO SHIRO CURRY」も販売されている。スパイシーなカレーソース(黒)と、ポルチーニ茸の香りとマッシュルームの食感をとじこめたポルチーニソース(白)の2種類のパウチをお好みで混ぜあわせて調理する欧風カレーだ

「写真家・森山大道」とはどのような写真家なのか。同作家を知らなかったという人にこそ来てほしい、というのが展覧会の軸でありメッセージだが、フィルム原版を直接観察できるなど、作品を深く知る仕掛けも様々だ。また、これまで展示されることのなかった作品もあるなど、作家のファンにとっても楽しめる内容となっている。

5月12日からは、隣接する映画館で森山さんのドキュメンタリー映画の上映もはじまっている。大きく移動することが難しい状況が続いているが、コンパクトに様々な側面から「写真家・森山大道」を知ることができる絶好の機会となりそうだ。

©Daido Moriyama Photo Foundation

会場

渋谷PARCO8階 ギャラリースペース「ほぼ日曜日」
東京都渋谷区宇田川町15-1

会期

5月14日〜6月13日

時間

11時〜20時

入場料

600円(税込)
※小学生以下は無料

本誌:宮澤孝周