写真展レポート
世界の若手写真家たちが見つめたもの
ニコン フォトコンテスト 2018-2019受賞式が開催
2019年9月3日 07:00
株式会社ニコンは8月23日、ニコン フォトコンテスト 2018-2019のグランプリおよび各部門の金賞受賞者への表彰式を都内で開催した。
本フォトコンテストは、1969年にはじまった写真コンテスト。今回の開催で50周年となる歴史あるコンテストだ。プロ・アマ問わず応募が可能で、同社によれば今回は世界170カ国、のべ3万3,000人からの応募が集まったという。作品数は9万7,369点にまでおよんだとのことで、応募者および作品数はともに過去最高数に達したという。
応募部門は3つ。静止画を対象とした「一般部門」と「Next Generation部門」に加え、動画作品を対象とした「動画部門」が設けられている。なお、一般部門およびNext Generation部門は単写真と組写真(2〜5点)それぞれで評価される構成となっており、一般部門2名、Next Generation部門2名、動画部門1名の計5名が金賞を得ることができる。そして、さらにこの中からグランプリが選出されることになる。
各部門にはテーマが設けられている。2018-2019年の一般部門のテーマは「Change」。Next Generation部門は「Identity」、動画部門のテーマは「Hope」だ。
テーマ設定に込められた意図
授賞式開催にあたり、株式会社ニコン常務執行役員・映像事業部長の御給伸好氏が登壇し、今回のテーマについてその意図を説明した。
今回の一般部門のテーマである“Change”に込められた意図は何か。御給氏はこれを「変化に満ち溢れている世界にあって、そうした変化があると人は誰かにその変化を伝えたくなるもの」だからだと説明した。25歳以下が応募できるNext Generation部門は、SNSを通じた自己表現が一般化した昨今、“現代を生きる若者の自分らしさの表現”として“identity”がテーマに。動画部門は明日へ歩みを進める心の在り方をあらわすものとして、“Hope”をテーマにしたのだという。
また、株式会社ニコン 映像事業部 マーケティング統括部長の楠本滋氏からは、応募作品の半数近くが20代やそれ以下の年齢の人が占めており、若手に支持されているコンテストになってきているとの紹介があった。
グランプリの受賞者は
今回グランプリの受賞は、Next Generation部門のSara De Antonio Feuさん(スペイン)に決定した。作品タイトルは「Ayimpoka」。同部門の単写真で金賞を受賞した作品でもある。
自身をフルタイムの写真家ではないというSaraさん。写真は14歳から始めたのだそうだ。写真の被写体に出会ったのは2年前のことなのだと話す。
その被写体とはガーナに住むアルビノの子どもだ。アルビノとは先天的にメラニンが欠乏する疾患で、未だミステリアスな病気なのだという。アフリカの地域によっては、このアルビノの子たちの臓器を使えば他の病気も治るという呪術的な信仰が色濃く残っているため、これらの人々への差別や迫害が続いているのだと説明を続けるSaraさん。アルビノの人々は、こうした理由から教育の機会が得られなかったが、被写体の少女はNGO団体からの支援を受けて、いまでは学校へ通えるまでになったのだと述べ、今回の受賞を彼女の教育に捧げたいと笑顔を浮かべた。
今後の活動では、現在進めている医療関係のプロジェクトで、94歳のおばあちゃんのストーリーをビデオに撮っていきたいと抱負を語った。
一般部門・単写真の金賞を受賞したのは、Jason Parnell-Brookesさん。イギリスのフォトグラファーだ。作品タイトルは「Alma and Alzheimer's」。戦争神経症にかかった祖父母を撮影したものなのだそうだ。奥に写る男性はアルツハイマー症を患い手前側で食事をしている女性(妻)の存在に気づいていないというJasonさん。第二次大戦から帰ってきたこの夫は戦争神経症にかかり、殺伐とした結婚生活が続いていたが、アルツハイマー症罹患を転機として以前の優しさを取り戻したのだとコメントした。
一般部門・組み写真の金賞受賞者は、インドネシアのフォトグラファー・Thaib Chaidarさんだ。作品のタイトルは「hope」。
作品は困窮している人々に無償で手術をする診療所を取材した際に撮影したものだというThaibさん。この時、白内障を患っていた女性の悲しそうな表情が記憶に残っているとコメントした。この被写体の女性は、手術を経て回復に向かったのだという。
受賞にあたって、今後も学び続けることで人に人々に新しいインスピレーションを与えていきたいと受賞の喜びを語った。
Next Generation部門の組写真で金賞を受賞したのは、中国の屠 靖涵(Jinghan Tu)さん。作品タイトルは「芳华」。
まだ18歳の学生だという屠さん。作品については、撮る側でありまた撮られる側でもあったとコメント。この写真を通じて周囲の人々と関係を深めることもできた、と受賞の喜びを語った。
動画部門の金賞は、アメリカのSara Crochetさんが獲得した。作品のタイトルは「Exulansis」で、人々に関係無さそうな経験については話すことを止めてしまう傾向のことを指している。
作品について、不安やトラウマに発することだけれども、自分だけが孤独なのではないと伝えたいとコメントしたSaraさん。作品は、ごく短期間での制作になったのだと説明した。今後も多くのプロジェクトが進行中であり、さまざまな作品をつくっていきたいと語った。
見ることを通じて世界を知覚する
審査委員長をつとめたネヴィル・ブロディ氏は、前回よりも作品のレベルが上がっており選定はひじょうに難しいかったと振り返った。
この背景について、写真を撮ることが多くの人にとって可能になったためだろうというネヴィル氏。写真を撮ることで、世界を異なる視点で見ることが可能となり、また映像を通じて認識できないところを知覚できるともコメントした。
同じく審査をつとめた小高美穂氏は、写真は今日の生活の中にあふれているとコメント。多くのものが写真に収められていながらも、それでも写真を撮る行為が続けられているのは、写真が見ることによってのみ映像を言葉に投影できる視覚的な言語だからなのだろうと説明。見ることを通じて世界を認識して怒りや喜びを感じることができると続けた。
「一つの方向性で理解して、意味づけをすることは難しいことだけれども、私たちが豊かな解釈ができるということが、様々な議論を通じて今回分かった」(小高氏)
だれもが写真をとおして声をあげることができる時代だからこそ、写真には世界を変える可能性があるのだとコメントした。