写真展レポート

「山崎博 計画と偶然」「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編」レポート

写真の始まりと実験的アプローチを同時に学べる東京都写真美術館の写真展

©山崎博 〈CRITICAL LANDSCAPE〉より 1985年 作家蔵

写真とは何か。そんな根本的な命題をじっくりと考えさせてくれる展示が東京都写真美術館で開催中だ。開館20周年記念「山崎博 計画と偶然」と「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編」だ。

山崎氏は一般的にはあまり知られていないが、70年代から国内外で注目されていた作家の一人。美術館では初めての個展となる。氏は「何を写すか」ではなく、カメラ、写真は「何を写せるのか」を問い続けてきた。アプローチは実験的だが、描き出された写真は静謐な美しさをたたえている。

「夜明けまえ」は日本の写真黎明期を同館が10年をかけて全国調査した成果だ。この調査で発見された新事実や、国指定重要文化財の数々も展示されている。

作家、山崎博の目論見は光学的事件

山崎さんの略歴はちょっとユニークだ。大学時代、劇団「天井桟敷」に出入りし、1年半ほど舞台監督を務めた。大学は中退し、天井桟敷を卒業した後に写真家の道を進む。そこで知り合った人脈から、『美術手帖』や建築雑誌の『SD』で前衛芸術家やその作品を撮る仕事を始めた。

その仕事の中で、被写体を探して撮るのではなく、被写体を選ばずに撮れないか。自分でなければできない表現を模索し始めた。メディアの特性を追求した先に生まれる表現であり、「確実に光学的な、あるいは写真的な事件がある」と山崎さんはあるインタビューで語っている。

ゼロックスのPR誌「GRAPHICATION」の連載では、コピー機で撮った風景写真を掲載した。コピー機に鏡とレンズを付け、窓から見える風景を投影できるようにしたのだ。

太陽の軌道を長時間露光で撮影した「HELIOGRAPHY」は、ND400という集める光を1/400にするフィルターの存在があって生まれたシリーズでもある。早朝、日中、午後の時間、およそ1〜2時間に起きる光学的事件をフィルムに定着させた。

出来上がったイメージを見ればCGやペインティングでも制作できるだろうが、写真で撮ることで初めて太陽の軌跡が形になったわけだ。目では見えないものが写る。それが写真、メディアの特性だと山崎さんは言う。

桜をモチーフにした時には、まず超望遠レンズで狙うことを考えた。ニッコール200~600㎜に4つのテレコンバーター(2倍×1.4倍×2倍×1.4倍)を装着して、桜と太陽を狙った。この時は性能が下がったことで色ボケが生まれ、当然、それは想定外の興味深い事件となった。

さらに屋外で、NDフィルターとストロボを使って桜をフォトグラムに焼き込むなど、さまざまな手法を用いる。桜が持つ意味、意匠をはぎ取ろうとした先に、なおも桜の存在感が立ち現われてくる。そんな面白さ、不気味さもそこに感じる。

本展では映像作品を含め、初期作品から最近作までが網羅されている。

写真の夜明けまえのころ

写真が日本に伝来した時の写真、資料が今、どのぐらい残っているのか。同館は全国の公開機関を持つ7987の施設へアンケートを送り、その結果、358機関を調査した。その成果はこれまで4つの地方ごとに分けた展覧会で発表し、今回はその総集編となる。

最初に写真に撮られた日本人(1851年で栄力丸の船員だ)や、日本で初めて撮られた写真(1854年で、その1枚が画像が消失している)から、19世紀の写真史をたどる。

日本初の写真館は1859年から60年に横浜に誕生した。その写真師はO.E.フリーマンで、彼から技術を学んだ鵜飼玉川が日本人で初めて写真館を始めた。上野彦馬や下岡蓮杖ではないのだ。

そんな興味深い初めて物語などが当時の写真とともに示される。一部の展示は同館で立体展示と呼ぶ、高い展示台で四方からプリントが見られるようにしてある。

「裏に文字が書かれていたり、側面に設えがされている。プリントというモノとしての存在を見せたい」と担当学芸員の三井圭司さんは言う。

展示の最後には明治期の震災の記録で構成した。濃尾地震、三陸津波、磐梯山噴火など、当時の人もその記録を残し、後世に伝えている。

その時代、撮影機材は大がかりで、数人で行なう大仕事だったのだ。人はなぜ撮るのか。いろいろな見方、想像が刺激される展覧会だ。

田本研造ヵ《箱館市中取締 裁判局頭取 土方歳三》明治2年(後年のプリント)ゼラチン・シルバープリント 函館市中央図書館(展示期間:4月25日〜5月7日 他期間はレプリカ展示)

スケジュールなど

「山崎博 計画と偶然」

会場:東京都写真美術館
会期:2017年3月7日(火)〜5月10日(水)
入場料:一般600円/学生500円/中高生・65歳以上 400円

「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編」

会期:2017年3月7日(火)〜5月7日(日)
※4期に分けて一部作品およびアルバムページの展示替えを行なう
入場料:一般700円/学生600円/中高生・65歳以上 500円
時間:10時〜18時
※木・金曜は20時まで、入館は閉館時間の30分前まで。月曜休館。なお祝日の場合は開館し翌火曜休館

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。