イベントレポート

高校写真部とメーカーが紡いだ“夏の想い出”。「GR trip 高知」密着レポート

デジカメ Watchが、この業界を盛り上げる一番手でありたいと、僭越ながらそう思っています。しかしそう思う一方で、「我々はあくまでも“メディア”にすぎないのだな」と感じることもあります。この夏、そんなことを強く思わされる出来事がありました。

去る8月19日、高知県内のとある高校写真部と出会いました。リコーイメージングのレンズ一体型カメラ「RICOH GR」シリーズのファンイベントでのこと。彼らとの出会いは実に清々しく、輝かしいものでした。

本稿は、ひたむきに写真と向き合う若者の姿を、読者の皆さんにお伝えしたいという想いと共に、私に素晴らしい時間をくれた彼らにとってこの夏の体験が“よき想い出”となることを願い、書き進めてみたいと思います。

ユーザーがメーカーを招待する!?「GR trip」とは

GR officialの管理人まちゅこ。さんから、「高知でGR tripをやります!」と連絡をいただいたのは、8月初旬のことでした。私の頭の中を、「あれ、GR tripって?」という疑問が巡ります。

RICOH GRシリーズのファンイベントといえば、「GR meet」がよく知られているでしょうか。GR meetは、GRシリーズの商品企画や開発メンバーをはじめ、GRに関わるリコーのスタッフとユーザーが直接コミュニケーションをはかれる場として大事にされてきたイベント。今年の4月にそのイベント名に“47(よんなな)”が付されてリニューアル。GRの新たな全国行脚が始まっています。その第1回の新潟会場を取材させていただいたことは記憶に新しいところですが、この半年の間になんと10回も開催しています(すごい!)。

で、今回は「GR trip」のお話。これは、「参加メンバー」や「会場」をユーザー側が用意して、そこに“GR officialのメンバーが写真家さんと一緒におじゃまします”というもの。

あなたが自慢したい、大切にしている場所(地域、町など)を、GRistと一緒に写真に残そう!というものです。

この町のここからの眺めをGRで撮るのがお気に入り、とか
昔通った思い出いっぱいの小学校が、今年いっぱいでなくなっちゃう、とか
この道の路地を通りながら見る海がサイコー、とか、
とにかくこれがなにより美味しい!!とか。

ガイドブックにはないけど、ここが大好き、という場所をGRistと一緒に撮り歩いて、GR officialに残していく企画です。

GR trip企画スタート!(GR official)

企画は高校生

メーカーが企画するGR meetに対して、ユーザーが企画するGR trip。そのGR tripを、今回はなんと高校生が企画したというのです。業界を通してみても、そんなことはかなり珍しいのではないでしょうか。一体どんな子たちなのだろうか、そこにどんな想いがあるのだろうか。私は現場に向かうことに決めました。

先生方に旅の成功を祈念

いざ、高知へ!

舞台は高知県に移ります。今回、GR tripを企画したのは「高知学芸高等学校 写真部」。写真部員の他にも、普段は他の部活に所属しているけれども写真が好き、というメンバーも参加。また、昔から写真をやっている、写真にちょっと興味がある、といった写真部の顧問を含めた先生たちも集まりました。生徒5人+先生3人、少数精鋭です。

この中のメンバー2名が、実は6月末に開催された高知でのGR meetに参加していたそうです。そこでリコーイメージングのスタッフに「高知などの地方では、撮影会とか写真家さんに会う機会やイベントがないので、学生対象にそういうイベントをしてみたら面白いかもしれませんね」という話をしていたそう。

じゃあやってみよう、ということで早速GR tripを企画してしまったという。この行動力には脱帽です。

高知学芸高等学校
教室に集合するメンバー

今回のゲスト写真家は内田ユキオさんです。ゲストとして誰が来るのかは、当日まで参加者にはシークレットにされています。

内田さんは、普段から高校生を相手に講演をすることはあっても、これだけ少人数の高校生グループに、という機会はあまり多くなかったそうです。それだけに、どういう切り口で話をしていこうか直前まで迷っていたとのこと。それでも、いつもの“内田ユキオ節”はお見事で、すぐにメンバーの心を掴んでいきました。

ゲスト写真家の内田ユキオさん

内田さんは、メンバーたちに写真以外に好きなものを尋ねていきます。自分の好きなもの、というのは自然と写真にもあらわれてくる。写真以外のことでも、自分が興味を持ったものを大事にして欲しいと、内田さんはメンバーに伝えていきました。

内田さんは、“あたたかな写真の世界”を高校生たちに見せてくれました。彼らにとっても、内田さんとの出会いは素敵なものになったのではないでしょうか。

さっそく、今回の貸出機となるGR III/GR IIIxを受け取るメンバー。GRをはじめて手にするひとがほとんどでしたが、普段からカメラに触り慣れているだけあって、みんないきなりメニュー画面で黙々と設定の確認をしていきました。

このあたり、私としてはけっこう驚きの光景。初めての機器でも、触ればなんとなくわかってしまう。デジタルな世界が当たり前の中で育ってきた彼らにとっては、もしかしたら“普通のこと”なのかもしれないですね。

さっそくカメラの設定を確認

メーカー側からメンバーに向けて、GRの歴史やコンセプトを紹介。けっこう渋い、コアな話だな~、と大人たちも思ってしまう内容でしたが、高校生の彼らもとても真剣に話を聞いていました。

撮影会に行きましょう!

みんなで撮影に行きます。

が、その前に出会ったこの光景。学校の廊下を写真家と高校生が肩を並べて歩きます。そもそも“学校”という場に久しぶりに来たこともあって、なんだか印象的なシーンでした。尊いです。

今回の撮影エリアは、学校をスタートして「仁淀川」を目指すコース。全国の水質ランキングで3年連続日本一にも選出されたことがある、“仁淀ブルー”で知られる1級河川です。この撮影コースも高校生の彼らが考えたもの。ちなみに彼らは4つのプランを事前に用意していて、それぞれのコースの特徴を我々にプレゼンしてくれました。

今回のイベントの企画・準備について感想を聞いてみました。

「慣れない電子メールでの連絡であったり、参加者の募集が大変でした。また、感染症流行下のため、部外者を校内に入れて催し物をする許可をとるのも大変でした。やはり、文章よりもZoomなどで先方の顔を見て話す方がやりやすいですね」

高校生ではあるものの、彼らはとても“大人”だったなと、1日を通して感じました。メールでのやり取りや、各方面との調整というのは、いわゆる“社会人の仕事”でも本当に難しい部分。上から目線みたいで恐縮ですが、本当に見事にこなしていたと思います。

いざ、出発
こうしてメーカーの人と直接コミュニケーションを取れる機会というのは、地方に住む彼らにとってはとても貴重な時間なのだそう

まずは路面電車に乗って、北山駅まで向かいます。そこから“伊野地域”を撮り歩きつつ仁淀川を目指す道程。

学校から最寄り駅まで思ったより時間がかかり、予定していた電車の出発時間ギリギリに。運転士さんも手招きしてくれて、車両に乗り込む一行。なんだか“ローカル感”を感じて勝手に感激。

急げ急げ~
北山駅に到着。さっきは急いでいて気付かなかったけど、すごいデザインの車両
真っ直ぐに伸びる単線をクロスプロセスで

車両を降りて本格的な撮影を始める一行。面白いモチーフを見つけて撮影するメンバーに、内田さんは「やるね~」と声をかけます。

鉄道写真を撮ることも多いという写真部メンバー。レンズ一体型カメラで撮ることはあまりないそうですが、果敢に挑戦していました。

撮り味を聞くと、「潔く撮れます」と一言。普段はレンズ交換式カメラを使いこなす彼らも、“究極のスナップシューター”の実力を体感したようでした。

それにしても、彼らは本当に自分の住む街のことをよく知っています。食のこと、観光のこと、それを県外から来た私たちに丁寧に教えてくれました。

途中、観光列車に出くわしたときに「列車に手を振りましょう!」とメンバーが提案。列車の乗客もこちらに手を振り返してくれて、とても和やかな時間に……。

東京からきた私たちに(観光列車の乗客にも)、少しでも高知を楽しんでもらおうという想いを彼らから感じました。高知県民の県民性なのでしょうか。この1日を感動的なモノとして今も記憶しているのは、彼らの“おもてなしの心”のおかげです。本当にありがとう。

観光列車に手を振る一行
プロの撮影をまじまじと見学する先生

高知学芸高等学校は中高一貫校です。今回参加したメンバーも、みんな中学からの入学組。中・高合わせて6年間を同じ校舎で学ぶ仲間ということです。彼らは現在高校2年生。同じ学校に通うのもあと1年間ということですね。その先は、それぞれ別の道に進むことでしょう。

想い出の仁淀川

仁淀川に到着しました。抜けの良い空と、川にかかる仁淀川橋梁。とても美しい光景です。この日は本当に天気が良く、そのおかげ(?)もあって徒歩での行程はなかなかハードでした。そのためか、この光景にたどり着いた時には、とても感動したのを覚えています。

緑の土手を上がっていくと……
仁淀川に到着

橋梁は下にもぐりこめるようになっています。ちょうど車両が通るとのことで(鉄道の時間にも本当に詳しい)、みんなで撮影にトライ。鉄道の車両を真下から見上げるなんて、私は初めての体験でした。

撮った写真をチェック!
三脚を持参する強者も。自分で考え、撮影方法を工夫する姿が沢山みられました
想い出づくりの天才たち

思い思いに写真を撮って過ごす中、女子メンバーをモデルにポートレートに挑戦する猛者も。レンズに触れるくらいまで手を伸ばしてほしいと、細かく指示を出す彼。「橋で日陰になっていて、背景も良い感じだったからです」と話してくれましたが、この場でモデル撮影を始めるなんて、高校生の発想は本当にすごいなと。

なぜかHDR調で撮っていた写真。参加した先生も、昔からこの川で遊び、沢山の想い出を作ってきたそうな

帰りはJR伊野駅から鉄道で移動。私としては、このホームや車両の感じも、なんだか印象に残っています。自分の知らない土地に、自分の知らない生活があるのだなと、旅に出るとしみじみ感じます。

伊野駅
とあるアニメーション映画の舞台にもなった伊野駅。モデルになった場所を確認する様子
このホームに乗り入れてくる、この車両の雰囲気たるや

学校に戻ってからは、内田さんの講評会がはじまりました。メンバーから提出された写真は本当にどれも素晴らしく、内田さんをうならせます。

内田さんの講評を受けた感想について聞くと、「プロの写真家さんに自分の撮った写真を講評していただけるのは非常に貴重な体験でした。また、内田さんの話術や面白さが、普段、写真部で行っている講評会とは全く違って面白かったです」と話してくれました。

真剣に提出用の5枚を選ぶメンバーたち

メンバーが講評会に提出した作品は、すべてGR officialに掲載されています。どれも本当に素敵な写真です。ぜひ、ご覧ください。

~GR officialのレポート記事はこちら~

最高の夏の想い出に

メンバーにGRを使ってみた感想を聞いてみました。

「小型で軽量なのに、中身はミドルクラスのレンズ交換式カメラと変わらないスペックをもつところに感動しました。軽いので気軽に外出し街をキリトルことができそうです。また、速写性が高いので、撮影のレスポンスが非常に良かったです」

普段はフルサイズの大きなカメラも使うという写真部メンバー。GRの特長を見事に感じ取り、それを今回の撮影会の場でも活かしていたように思います。それから、色々と工夫をして撮影している様子もよく見られました。「こうしたらどう写るのだろう」という好奇心が、彼らの自由な発想のもとになっているのかもしれません。

また、イベントを終えた感想についても話を伺いました。

「GR meetでの繋がりからこのような素晴らしいイベントを開催させていただけたと思うと、人の繋がりは大切だなと思いました。今年の夏は、インターハイやこのイベントの準備で大変でしたが、同時に、達成感や貴重な経験も得られて非常に良かったです。このような体験をすることは、普通に学校生活をしていては得られないものなので、リコーイメージングさんには感謝しかありません」

行動を起こすことの大切さ

イベントの最後に内田さんは、「君たちが行動を起こしたことで、今日の素晴らしい日が生まれた」のだと、メンバーを讃えました。

無論、私もその素晴らしい日を享受したひとりです。彼らの勇気ある行動が、私にとっても何にも代えがたい美しい想い出として、あの日のことを記憶させてくれています。

また、高校生の想いに応えたリコーイメージングもお見事です。若者が勇気を振り絞って発した声を、きちんと拾い上げてくれた。精力的に展開するGR meetにおいてもそうですが、こうしたユーザーに対する想いの強さを感じさせてくれるチームだと思います。

教室の静けさと、別れの侘しさと

傍目から見ると、決して右肩上がりとは言えないように見えるこの業界。その中にあって、我々がメディアとしてできることは何かを日々考えています。もちろん、デジカメ Watchも一人のプレイヤーとして、行動を起こしていきたい。

でも今回は、高知で出会ったこの若者たちが、そんな我々には到底持ちえない大きなパワーや可能性を持っているのだと、痛感させられました。ひたむきに写真と向き合うそんな彼らのエネルギーを、メーカーの想いも含めて多くの人に届けるというのは“メディア”としての大きな役割であろうと感じます。冒頭で述べたことは、そんな想いがあってのことです。

写真を愛する彼らが、写真を愛し続けることができるよう、我々にも何かできることはないかを模索する日々が始まりそうです。

高知に感謝

編集協力:リコーイメージング株式会社

本誌:宮本義朗