アドビ・プロダクトマネージャーに聞く「Lightroom 4」の使いこなし方


 アドビシステムズの画像管理・編集ソフト「Adobe Photoshop Lightroom 4」が3月に登場した。新規ユーザー向けの価格を半額にしたことで、さらなるユーザー獲得を目指すLightroom 4。米Adobe Systemsのクリエイティブコンシューマ部門プロダクトマーケティングマネージャであるDavid Auyeung氏に、その新機能と今後の展開などについて話を聞いた。

米Adobe Systemsクリエイティブコンシューマ部門プロダクトマーケティングマネージャのDavid Auyeung氏

価格変更で売上は2倍に

 Lightroom 4は、さまざまな機能追加を行ないながら、価格を前バージョンの3万3,600円(通常版)から1万6,800円にしたことが大きな特徴だ。これについてAuyeung氏は、「さらに多くのユーザーにリーチしたかった」と話す。

 Lightroom 3も「機能が魅力的でユーザーが増え、大成功だった」(Auyeung氏、以下同)が、米国では同社の直販以外では、Amazon.comや一部カメラ店での販売に限られていた。これは、「価格が高いと販売店によっては在庫を持ってくれないから」であり、これに対してLightroom 4では価格を下げたため、Best Buyなどの量販店での取扱いも行なわれるようになり、さらにユーザーへの認知度が向上したという。

 この価格変更は、Lightroom 3で行なった価格プロモーションが功を奏して販売を増やしたことを踏まえた処置で、その結果、発売6週間の比較では、Lightroom 3に比べて出荷数で約2倍、売上で50%の増加を記録したという。

 今回の価格変更の施策によって販売店も増え、特にアマチュアのユーザーをさらに獲得できるようになったことで、今回の施策は成功している形だ。

Lightroom 4で価格が下がったこともあり、販売店がLightroom 3より増えた

 Auyeung氏は、Lightroomでは「2種類のユーザーを満足させたいと考えている」と語る。もともとLightroomはプロフェッショナルのカメラマンを対象に、プロに継続して使ってもらえるような機能を搭載してきた。そうした中で「写真に興味を持っている人がどんどん増えていることにも気付いた」という。これは「携帯電話についているカメラでだけ撮る人ではなく、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラを持つようなアマチュア」であり、その両者に共通しているのは「高品質な画像を重視する人」だ。

 こうした点がエントリー向けのPhotoshop Elementsとは違うところだといい、Lightroomはプロ・アマを問わず、「フォトグラファーのための製品」であり、画像の品質を上げ、画像の共有方法を拡大させることを狙っているという。

あまり知られていないLightroomの新機能

 Lightroom 4の新機能としては、ハイライトやシャドーの復元機能の強化、特定部分でのホワイトバランスやノイズ低減などの機能、AVCHD動画編集のサポート、ブック、マップモジュールの追加など、多岐にわたる。さらに現在製品候補(RC)版として提供されているLightroom 4.1では、フリンジ軽減機能や32bitまでのHDRファイルを取り込む機能も追加された。

ハイライト・シャドー復元の適用前(左)、適用後(右)調整メニュー
露出補正だと、手前の石が潰れる(左)か、空が飛んでしまう(右)

 従来のLightroomの補正機能では、赤いフリンジは軽減できたが、緑と紫の補正が難しかったという。これに対してRCでは、緑と紫のフリンジもその部分をクリックすることで簡単に除去できるようになった。これにより、単焦点のレンズで絞りを開けた状態で撮る場合などで出やすいフリンジを簡単に処理でき、「高品質のレンズを使うユーザーが、より画質を向上できるようになった」という。

補正が難しかった色についても、スポイト抽出で補正できるようになった補正前(左)と補正後(右)
フリンジの出方が異なるレンズで撮影しても、スポイト抽出ですぐに補正可能

 RCでは、同社の提供する画像共有サービス「Adobe Revel」との統合も進め、「公開サービス」にRevelを追加。ドラッグ&ドロップで簡単に画像をRevelに保存できるようになった。これによって現在はクライアントがないWindows環境でも、Lightroomを使ってRevelに画像をアップロードできるようになった。

 Revelに関して、同社では今後WindowsやAndroid向けのクライアントのサポートもする予定だが、Auyeung氏は「タイミングがいつになるかは分からない」とコメント。また、LightroomへのRevelからの画像取り込みも「常に検討課題」として、今後の機能強化に含みを持たせた。

書き出し先にAdobe Revelが存在書き出しを行なうと、自動的にクラウド経由でiPad側の表示がアップデートされた

 また、Lightroom 4の新機能での目玉の1つ、マップモジュールでは、撮影した画像に付与された位置情報に従って地図上に画像を配置できるほか、画像への位置情報の追加もサポート。さらにAuyeung氏が「あまり知られていない」というのが、トラックログを使った位置情報の追加機能だ。

Lightroom 4で加わったマップモジュール

 スマートフォンやGPSロガーでは、位置情報を常に記録し続けるトラックログの機能が利用でき、どういうルートで移動したかを記録できるようになっている。

  Lightroom 4ではこのトラックログを読み込むことができ、そのトラックログの時間情報と画像の撮影時間を照合し、画像に自動的に位置情報を書き込む機能が搭載されている。旅行先の時差を設定し忘れて撮影した場合も、マップモジュールから時差調整ができ、GPS機能を持たないカメラで撮影した画像にも簡単に位置情報を追加できるとAuyeung氏はアピール。この機能を使ってみせると「たいていの人は"ワオ"と言ってくれる」と笑う。

トラックログの読み込み、時差調整などの機能を備える時差調整を行なう画面
トラックログと撮影画像の撮影時間を参照し、マップ上に配置したところ

 ハイライトやシャドーの復元に加え、一部だけのホワイトバランスやノイズ低減機能も「ワオと言ってくれる」機能だという。画像内に複数の光源がある状況でも、グラデーションツールやブラシツールで部分ごとにホワイトバランスを変更したり、シャドーの復元で持ち上げた暗部に浮き出たノイズだけを除去し、画像全体のシャープネスの低下を抑えるといった手法も「あまり知られていない」そうだ。

人工光と自然光の色温度が異なっているグラデーションツールを用いて手前の色温度を補正
補正を適用したところ
こちらはノイズリダクションを行なう例。左の画像を明るくしたい場合、右のようにシャドー部が持ち上がり、ノイズが目立つ
全体にノイズリダクションをかけるとシャープネスが低下するため、拡大表示し、ノイズが目立ってしまった部分だけをブラシツールで処理。全体のシャープネス低下を防げるという

 AVCHD対応とともに動画機能の強化では、「静止画と同じように動画を処理できる」点がポイントだ。ライブラリモジュールでは動画の再生、動画の前後カットなどの処理に加え、ライブラリモジュールの「クイック現像」から、ホワイトバランスの自動補正や色温度調整、色かぶり補正、階調の調整から自動階調や露光量、自然な彩度の補正ができる。また、プリセット機能を使えば、モノクロへの変換なども行なえる。

Lightroom内で動画プレビューが可能になった右ペインから簡易な露出補正などが行なえる
プリセットを適用し、モノクロ変換したところ範囲を指定し、ムービーの前後カットを行なえる

 これに加えて「シークレットの機能」が、フレームキャプチャを使った補正だ。Lightroom 4では動画を現像モジュールで詳細に処理することはできない。そこで、ライブラリモジュールから「フレームをキャプチャ」を選んで静止画を書き出し、その静止画に対して現像モジュールでさまざまな処理を行なう。その結果をプリセットとして保存しておき、それをライブラリモジュールから動画に割り当てる、という方法だ。すべての補正効果が適用できるわけではないが、静止画のような補正を動画にも加えられるのだという。

ここからフレームをキャプチャし、静止画として現像モジュールで編集・プリセット保存し、動画に適用する。キーフレームの設定も可能

 ブックモジュールはフォトブックを作成するための機能で、Auyeung氏自身「新機能としてはマイナー」と認めるが、オートレイアウト機能で選択画像を配置できるほか、レイアウトの変更も簡単に行なえる点を強調。さらにほかのフォトブック作成ソフトと違う点は、レイアウトしながらでも、すぐに現像モジュールに移動し、画像をそのまま補正できる点を優位点としてあげる。

ブックモジュール。現像モジュールと行き来して編集できるレイアウトなどを設定可能

 現在、フォトブックの作成は米国のBlurbしか対応していないが、Blurb自身は日本への出荷にも対応しているほか、今後は日本のフォトブック作成サービスへも対応していきたい考えを示している。Auyeung氏は、「最初はユーザーエクスペリエンス向上のために1社と付き合うのが重要だったが、今後は増やしていきたい」と話す。

今後の展開は

 Lightroom 4.1の正式版は「今後数週間のうちに出る」という。その後、さらに機能追加を続けていく方針だ。

 検討された機能の1つが「顔認識」だ。Lightroomの機能追加では、「毎回、機能を比べてどれがいいかを考えている」が、Lightroom 4では「優先順位として顔認識は入らなかった」そうだ。Auyeung氏によれば顔認識自体はテストしているが、「常に100%うまくいくわけではないことが分かっている」ため、Lightroom 4では搭載が見送られたそうだ。Lightroomでは「機能はすべて確実にしたい」とのポリシーがあり、「将来的には入るかもしれない」とのことだ。

 今回は「4.1」のバージョンアップで16/24/32bitのHDR TIFF画像の取り込みをサポートしたが、HDRやパノラマのような画像合成も検討した機能だという。これは「ほかの新機能とともに全部を一度には入れられなかった」そうで、「のちのリリースには入ってくるかもしれない」と、ほかに比べると前向きな返答。

 モバイル向けに関しては、現在iOS向けにRevelのクライアントアプリが出ており、「Lightroomのテクノロジーの多くが入っている」が、Lightroomのレーティングやフラグ、カラーフラグなどの管理機能は提供されていない。Auyeung氏は、現時点でLightroomの管理機能を同期できるサードパーティのアプリがある、としつつ、同社自身としてもこうした機能を投入することも検討しているという。

 また、Auyeung氏は「常にユーザーのエクスペリエンスの向上に注力している」と語り、パフォーマンスを改善するような機能は随時追加していきたい考えを示しており、例えばGPUを使ったGPGPUのような機能も検討していくとしている。

 Auyeung氏は、もともとサンフランシスコをベースに、ウェディングフォトグラファーとして活躍していたプロカメラマンでもある。その経験からAuyeung氏は、Lightroomを使うことで「写真を扱うのが楽しくなる」と話す。撮影した写真を補正することで、「さらに目を引くようになるのでハッピーになれる」とアピールするAuyeung氏。

 「画像に対して補正した方が気持ちよくなり、写真が楽しくなり、簡単に他人と共有できて反応が返ってくるとハッピーになれる」ことがLightroomのメリットであり、Auyeung氏は「今後もできるだけ多くのいい機能を入れようと全力投球している」と強調していた。




(小山安博)

2012/5/17 00:00