【フォトキナ】新Foveonセンサーで、さらなる高画質を狙うシグマ
長く出展を続けているフォトキナの中でも、シグマにとって今回ほど感慨深いフォトキナはないかもしれない。映像機器メーカーとして世界で通用するメーカーになることを指向してきたシグマだが、この2年間にはイメージセンサーベンダーのFoveonを買収し、レンズ、カメラ、イメージセンサーをすべて内製するまでになった。
今回開発することが発表されたSD1は、4,800×3,200×3層、4,600万画素を誇る新しいFoveonセンサーを持ち、ダイヤル配置など操作性を含むボディデザインの一新を含め、ひじょうに意欲的な製品になっている。これまでシグマへの取材は、まず新しいレンズから始まっていたが、今回はSD1が何よりも大きなトピックである。
シグマ社長の山木和人氏に、SD1にまつわる様々な話をフォトキナ会場で伺った。(インタビュー:本田雅一)
シグマ社長の山木和人氏 | シグマがフォトキナ2010にあわせて開発発表したSD1。発売時期未定、価格未定 |
■最初の大型Foveonセンサーは1:1だった
--今回のトピックはSD1の開発発表と新レンズの2本。新レンズも山木さん自身、とても気に入っているとの事でしたが、今回はSD1に話を集中させてもいいでしょうか?
もちろん、構いません。我々としてもSD1には大きな期待をかけて一生懸命に開発していますし、その可能性に関して大きな自信も持っています。
--まずは従来、画角が焦点距離にして1.7倍相当の35mmフィルムと同じ画角になるセンサーサイズを採用していましたが、SD1では業界標準とも言える1.5倍相当にまで大型化されました。従来あった何らかの壁を、今回突破できたということでしょうか?
いえ、実は1.5倍相当に大型化する事に、技術的に大きな障害があったわけではなかったんです。初代Foveonセンサー搭載機のSD9で搭載したセンサーの技術をキャリーオーバーしてきたために1.7倍相当になっていました。途中、画素数アップは果たしましたが、センサー全体の設計を変更するまでには至りませんでした。
そもそも、最初から1.7倍にするつもりはなかったんです。最初に我々がSD9の開発を始めた頃、Foveonは大型センサーを商品化する段階まで開発が進んでいました。ところが、そのセンサーは1:1というサイズだったんです。
--1:1というと、どういうアプリケーションを想定していたんでしょう。コンシューマ向けカメラではなかったのでしょうか?
なぜ1:1だったのかは、私もよく知りません。しかし、もう商品化を前提にほとんど開発が終わっていたため、大幅な設計変更を行えませんでした。そこでFoveonと話し合って、センサーの上下方向の画素を減らし、設計はそのままで3:2のアスペクトに変更してもらいました。そのサイズが、たまたま1.7倍だったということだったのです。
--しかし、その後もセンサーサイズを変更するチャンスはあったはずですよね。SD14の段階で1.5倍にすることはできなかったのでしょうか? 当時、すでにFoveonの顧客ベースはシグマだけになっていましたよね?
全くその通りなのですが、顧客がシグマだけといってもやはり別会社。サイズを変えてほしいと言っても、新たな設備投資が必要だとか、新規の開発要素が大きいなどいろいろとできない理由が出てきて変えてもらえませんでした。当時、Foveonは経営陣が定まらず、大きな決断をしづらい状況だったこともあるでしょう。
--そこでFoveonを買収したということですね。
Foveonとの買収交渉は、実は2年前にのフォトキナの時期だったんです。ドイツで毎日商談をしながら、ホテルに帰ると米国の弁護士から電話がかかってきて、長時間の会議をこなす毎日で、今思い出しても本当に大変な時期だったんです。疲れて眠い上に、、難しい法律用語の出てくる英会話で弁護士と会話していたので……と、これは余談でしたが、買収してグループ傘下に収めたことで、こちらからのリクエストに応じてくれるようになったのです。
■最高クラスの解像度にSDらしいカラーディテール
--14.5万画素×3層という大幅な高画素化を果たした新Foveon X3センサーですが、ここまで大幅な高画素化が一気に行えた理由はなんでしょう?
Foveonセンサーの構造は、これまでSD9の世代から全く変わっていませんでした。しかし新開発のセンサーでは、セル構造が大きく変わっている他、画質を向上させるための様々な工夫・改善が施されています。Foveonは買収する直前まで、携帯電話用センサーを一生懸命やっていました。一眼レフカメラ用よりもたくさん売れる可能性がありますからね。そこで、Foveonセンサーの画素を極小化するための技術開発にフォーカスしていたんです。その研究開発の成果を活かしてAPS-Cサイズセンサーを作った結果がSD1に使う予定のセンサーということです。
--新センサーはすでに設計終了して、生産段階にあるのでしょうか?
最終の量産仕様ではありませんが、量産試作はすでに作っています。大型センサーの開発は初めてではありませんし、小さい画素の技術開発も十分に進んでいたので、スムースに量産試作まで進むことができました。あとはセンサーを組み込んだ製品セットでの完成度を高めていく段階です。
--今回のセンサーの完成度が高いのであれば、他社へのセンサーと映像処理技術の供給という可能性もあるのでしょうか?
まずは自社向けの技術を開発することに手がいっぱいで、他社にパーツは販売できても製品化に向けたサポートを行える状況にはありません。もちろん、条件次第ですが、今までそうしたオファーを受けたことがないので、なんとも答えにくいですね。一番の問題は、やはり開発者支援を行う体制がないことですが、他社への供給を行いたくないという意味ではありません。
--画像処理プロセッサはSD15でも使っているTrue II×2ですが、画素数は約3倍。処理スループットの問題はないのでしょうか?
従来のFoveonと基本的な映像処理の方法は変わっていませんが、複数のプロセスをひとつの処理関数にまとめるなど、映像処理の最適化を進めたことで、プロセッサへの負担が軽くなるよう工夫をしています。ノイズ処理に関しても最新の技術を盛り込んでいます。
--結果としての処理速度はどうでしょう? 連射速度はどのぐらいになりますか?
そこはまだ決まっていません。まずは画質重視と考えていて、最適な画質を実現できるプロセスを仕上げ、そこからチューニングをかけて速度が決まってきます。どのぐらいなのかはもう少し発売が近くなってきてからにしてください。
SDシリーズで初めて防塵防滴性能を謳うSD1 |
--ノイズ処理が進化しているとの事ですが、センサー自身のS/Nはどうでしょう? 画素数が一気に3倍になったことで、もともと高くはなかった実効感度が、さらに落ちるのではないか? と心配する向きもあるようです。
もともと携帯電話向けの極小画素に向けて開発した技術を応用しているので、そこはまったく問題ありません。実際、画素ごとのS/NはSD14/SD15に採用したものよりも改善されています。(どのぐらいか? に対して)必ずS/N、実効感度は以前のモデルより良くしますが、どのぐらいかは今後の仕上げによっても変わることなので、出てくるまでは秘密にさせてください。
--量産試作は終わっているとのことですが、すでに新しいセンサーの映像は出ているのでしょうか?シグマブースにはSD1のサンプル画像が出ていませんよね?
いや、実はサンプル画像もあります。ドイツ法人にSD1の事を伏せていたので、SD1の画像を飾る場所がないと言われまして、試作画像を印刷したパネルは持ってきたんですが外に置けなかったんですよ。ちょっと持ってきますね……コレです。
(サンプル画像は女性の顔のアップや花、それにアクセサリ類のマクロ画像だった。目で見るよりも立体的に感じるほど深いディテールの肌や、ひまわりの花びら、茎のなども凄まじい質感だが、そうした部分の精細感は従来からよく知られていた事だ。しかし、何より驚いたのは、色とりどりの石を用いたアクセサリの写真。艶めかしいまでに豊かな、深みのあるグラデーションは、中判・大判フィルムでの写真を想起させる。ネットリと纏わり付くような濃厚な色彩感だ)
--これは凄いですね。プリントを一目みただけでも、凄いと感じてしまうだけの圧倒的な情報量があるように見えます。自分たち自身で、この映像を見てどんな感想を持ちましたか?
いやぁ、とにかくちゃんと画が出て良かったと……。センサーの開発段階でいろいろな写真を撮影してきているので、ポテンシャルが高いことはある程度予測できていましたから。輝度解像度に関しては、ローパスがない分だけ高く、我々が測定した結果ではベイヤー配列センサーの3,000〜3,200万画素に相当する解像力が実測値で出ています。その上、色に関しての情報量はFoveonセンサーが圧倒的に上なので、結果的に見たことがないほどの高画質になったと思います。Foveonセンサーの画の違いを伝えるのはなかなか難しいのですが、SDユーザーならば最高クラスの解像度の映像に、SDらしいカラーディテールが乗った感じ……と言えば分かってもらえると思います。
■発売は来春ぐらいを目標に
--今回、ボディのデザインも大きく変わっていますね。メインダイヤルの形状が変わりました。
大きく変わっているように見えますが、実際にはボタン配置を含め、従来のユーザーがそのまま持ち替えても違和感のない作りになっています。ダイヤルは従来1ダイヤルだったものを2ダイヤルにした上、メインダイヤルの付け方を変えていますが、この部分も操作感という意味では変わりません。むしろ直感性は上がっていると思います。
--メカニカルな性能も向上させているのでしょうか?
最終的な操作感は、デジタル部の完成をみなければわかりませんが、純粋に機械的な性能という意味では向上させています。オートフォーカスのセンサーも、画素数の向上に合わせてグレードアップし、精度と速度を大幅に改善できるでしょう。
--発売時期と価格イメージは?
発売は来年春ぐらいを目標にしています。2月という話も出ているようですが、そう決めているわけではありません。2月発売も可能性はありますが、春ぐらいというのが妥当だと思います。価格に関しては高くなりすぎないようにはしたいですね。他社ミドルクラスに比べ、十分に競争力のある価格で発売します。
--SD1が完成すると、今度は同じセンサーを用いたコンパクト機も欲しいという声も出てくるでしょうね。
今はSD1の開発に集中していますが、検討はしたいと思っています。その場合、処理LSIやレンズといった問題もありますから、技術的な検証も進めなければなりません。
--Foveonセンサーというユニークな素子を持っているからこそ、シグマのカメラのアイデンティティがあるのだと思いますが、Foveonには開発の主要メンバーは残っているのでしょうか?
はい、キーマンは全員が残ってくれていて、それだからこそ今回のセンサーを作り上げることもできました。センサーのロードマップをカメラ側のロードマップと一緒に作っていくことで、今後の進化の方向も決めやすい。シグマもFoveonも、どちらも小さな組織ですから、どこまでできるかは想像できませんが、Foveonセンサーのカメラを待ってくださっている方々のためにも、最大限の努力を払って良い製品を作っていきたいですね。
2010/9/25 19:11