ニュース

“完璧かつ簡潔”を目指した「ライカT」発表会レポート

 ライカカメラジャパンは4月25日、レンズ交換式デジタルカメラ「ライカT」のプレス発表会を開催した。本稿では会場の模様と実機写真をお届けする。

ライカT

 ライカT(Typ 701)は、新規のライカTマウントを採用するAPS-Cミラーレスカメラ。5月26日に対応レンズ2本とともに発売する。詳しくはこちらの記事を参照いただきたい。

2014年は「ライカ100周年」 。5月にはライツパーク新社屋がオープン

 発表会では、独ライカカメラAGのプロダクトマネージャー、ステファン・ダニエル氏が登壇。拍手で迎えられた。ライカ誕生100年という2014年におけるライカカメラ社の現況と、「今夜披露するのは、最高の製品を目指すライカの取り組みの成果のひとつ」として、前夜に公開されたばかりのライカTを紹介した。

ライカTを手にするステファン・ダニエル氏

 2014年は、ドイツのウェッツラーでエルンスト・ライツ社の技術者オスカー・バルナックが、現在ライカの歴史において「ウル・ライカ」(Ur Leica、ウア・ライカ。のちに市販機が登場する際、ライツのカメラということから“ライカ”と名付けられた)と呼ばれる35mmカメラの試作機を設計して100年にあたる。オスカー・バルナックは映画用の35mmフィルムを横向きにし、その2コマ分(36×24mm)を写真の1コマとして用いることを発案した。

 5月末には、ライカカメラ社の新社屋がウェッツラーの「ライツパーク」で正式オープンする。1988年にゾルムス拠点となって以来の“発祥の地”に戻ることになる。

 ライツパークは「一般客に楽しんでもらえるユニークな場所になる」とダニエル氏は語る。以前、本誌のインタビューにおいても「ライツパークはミュージアム、ギャラリー、フラッグシップストアなどを備え、“360度ライカを楽しめる”場所になる」との説明があった。

ライツパークのイメージ。建物の形はカメラや双眼鏡などをモチーフにしているという

「アイコニックなライカを現代的に解釈」

 続けてダニエル氏は、「本日、またライカは新たな歴史を作る」と前置き、新システムの概要から語った。新システム(=ライカTシステム)は「完璧かつ簡潔」であることを目指し、クラフトマンシップや使いやすさを凝縮したという。

 大きな特徴であるボディデザインは、「カメラとして欠かせない要素しか残らなくなるまで削ぎ落とした」とし、残ったのがタッチパネル式の大きなモニターと、4つの操作部のみ。パートナーのアウディ社デザインチームと、「アイコニックなライカを現代的に解釈した」と話す。

3.7型タッチパネルを中心に据えたUI
物理的な操作部は4つだけ
撮影画面からカメラマークのタップで開く「マイカメラメニュー」。アイコンをドラッグして移動・削除できる。再生画面には画面上端から下へスワイプで遷移
撮影画面。ライブビュー以外の表示がない状態や、グリッドを表示した状態にもできる
マニュアル露出モード時。右上で撮影モード、右中央でマイカメラメニュー、右下で表示きりかえ。右側を上から下にスワイプするとタッチパネルにロックがかかる。マイカメラメニューから工具アイコンを押すと、各種設定メニューに遷移する
MF時はフォーカスリングの操作にあわせて拡大表示が可能。距離指標を画面上で確認できる
内蔵ストロボは、電源レバーをフラッシュマークの位置まで動かすとロックが外れてポップアップする
ホットシューは奥に通信用の端子を持つ。EVFはライカMやXシリーズと互換性がない
外付けのEVF「ライカ ビゾフレックス」を装着。GPSを内蔵。90度のチルトも可能
ライカTのデザインスケッチ
ボディにかぶせるスナップと、新しいイージークリックシステムを採用したキャリングストラップおよびハンドストラップ
カラフルなアクセサリーは、複数の組み合わせも提案する
外付けのクリップオンストロボを用意
レザー採用のホルスター(右手前)とバッグ(右奥)も同時発表
スマホケースのようにかぶせるスタイルの「スナップ」を装着したところ

 カメラボディは、世界初という「一つの金属の塊から削り出したユニボディ」で、1.2kgの無垢のアルミニウムを94gに削り出した。加えて、職人が45分をかけて手作業で磨き上げる。なお、その約45分間の工程を収録した「The Most Boring Ad Ever Made?」という公式ムービーが同日に公開されている。

削り出しの過程
職人が磨いて仕上げる
加工前のブロック(左)と加工後(右)
内部の加工はシビアだという

 ライカTシステムのレンズも、ドイツの技術者によリ新設計されたものだという。アダプターでライカMレンズも使用可能。APS-Cセンサーは「浅い被写界深度をクリエイティブに使いたい方」に向くといい、「ライカのボケ味をライカTで達成したかった」と説明した。

ライカTはレンズ2本が同時発売。左後ろに隠れている広角ズームレンズと望遠ズームレンズは、9月のフォトキナ2014で正式発表予定とのこと。同日配布のカタログでは2015年の発売予定としていた
Mレンズ用のマウントアダプターを用意
Mデジタル機のように6bitコードの読み取りセンサーを持つ
アダプター使用時。本体ダイヤルがライブビューの拡大操作に利用できる
拡大倍率は3倍と6倍から選択可能
エルマリートM 28mm ASPH.を装着

 本体に16GBのメモリーを内蔵し、転送はUSBケーブル、SDカードのほか、iOSアプリ「Leica T app」が利用可能。ライカTはコンパクトのライカCに続き、Wi-Fi機能を内蔵する。iOSアプリではリモート撮影も可能。

近年広まりつつあるリモート撮影に対応する
SDカードスロットとUSB端子。USB充電にも対応する
バッテリーは底面レバーを解除し、わずかにせり出してくるバッテリー底面をカメラ側に押し込むとロックが外れて取り出せる

新しい顧客層にアピール

 質疑応答では、続けてダニエル氏が回答。Mマウントより外径の大きなライカTマウントにおける35mmフルサイズ化の可能性についての質問があったが、カメラのサイズとのバランスで現状はAPS-Cセンサーがよいと判断しているとのこと。

APS-Cセンサーを採用。同社レンズ交換式カメラでは初
ライカTマウントは電子接点を有する
Mマウント(左、APS-H相当のM8.2)とライカTマウント(右)

 ちなみにMシステムとの棲み分けについては、ライカTシステムは主に「ライカに入ってきにくかったユーザー」を意識していると説明した。ボディ両端を半円としたデザインは、Mとの連続性も意識しているとのこと。

ライカT(左)と、MシステムのM8.2(右)

 発表会終了後に改めてダニエル氏に「T」の由来を伺ったところ、「深い意味はない。Tの文字はシンプルでシンメトリーな形状で、新システムのイメージにマッチした」とのこと。また、「かつ他社システムにない文字だったから」とも加えた。

発表会終了後も来場者とカメラ談義をするなど、気さくなダニエル氏

“ライカ使い”によるトークショーも

 会場ではプレス発表に続き、写真家の若木信吾氏とモデルのKIKIさんによるトークショーが行なわれた。ともにライカユーザーで、今回は正式発表前のライカTを使って撮影を行なったという。

KIKIさん(左)と若木信吾氏(右)

 若木氏はライカの魅力について「(撮る瞬間を)確実に逃さない」、「ライカを持っているのを見ると、いい人と思える」と語り、ライカTで撮ったベトナムの写真などを紹介した。

 被写体として「何かの形跡や光を撮るのが好き」というのは、エルメスライカの愛用者としても知られるKIKIさん。ライカTは暗い中でもキレイに写り、(あまり使ったことがないという)デジタルカメラの中ではピントが合わせやすいように思う、と印象を語った。

 なお、ライカ直営店のスタッフによると、ライカTは4月29日頃から各地のライカストアにて実機を展示予定という。フォトキナ2012での発表から最近まで品薄が続いていた「ライカM」に比べると、店頭でお目にかかる機会も多そうだ。

(本誌:鈴木誠)