中国パワー溢れるイベント「China P&E」に行ってきた


 4月20日~23日に北京で開催されたChina P&Eに行ってきた。正式名称は中国国際照相机械影像器材与技術博覧会。今年15回目となる中国最大のカメラショーだ。

 さて、行くことは決まったものの、China P&Eどころか北京へ行くのも初めて。そこで経験者にあれこれ聞いて、まずはChina P&Eのサイトからオンライン登録を試みる。しかし、英語のサイトもなければ、中国語のサイトでもプレス登録ができそうにない。

 漢字だらけ、しかもなじみの薄い簡体字の会場図を解読するのもひと苦労。尼康(ニコン)、佳能(キヤノン)、索尼(ソニー)、奥林巴斯(オリンパス)、三星(サムスン)は初心者レベル。見慣れぬ企業名や解読不能なメーカ名がズラリと並んでいる。前途多難な様相に、なかなかテンションが上がらない。

4月20日~23日に北京国家会議センターで開催されたChina P&Eの会場。事前に入手した入場券。結局、Webサイトからオンライン登録をしたので利用することはなかった。
開会式の様子。主要メーカーの代表や政府要人らしき人が紹介され、テープカットが行なわれた。開会式は生バンドの演奏でスタート。会場には香港をはじめ各地からのメディアが来ていたが、欧米人らしい姿はほとんど見当たらなかった。

 会場はオリンピック会場そばの北京国家会議センター。初日は開会式が行なわれるというので、開場前に到着した。平日ということもあって、初日の来場者はメディアやメーカー関係者が中心のようだ。主催者発表によると、4日間で国内外からの来場者10万人以上(日本のCP+の約2倍)を予想しているという。

 受付を済ませて、改めて会場図を見直すが、プレスルームのようなスペースはなく、プレスキットなども用意されている様子はない。

 日本出発の前に、各メーカーにプレス対応を確認したところ、日本から広報担当者を送るところはほとんどなかった。中国という大きな市場で開催される展示会ではあるが、フォトキナやPMAといったイベントとは位置付けが異なるようだ。ちなみに、パナソニックは今回出展がなかった。

 会場は、大きく2つに分かれた構成になっている。出入口付近には、カメラメーカーやレンズメーカーの展示を中心とした大きなブースが並ぶ。そこだけ見れば、日本のCP+の会場にいるような錯覚を覚えるほど。

 一方その後ろに位置する小さいブースは、各種アクセサリーが中心。中国各地からさまざまなアイテムを製造しているメーカーが出展している。こちらは、どちらかというと工業製品の展示会といった印象。

 全体を見渡すと、2つの異なる展示会を1つの会場でやっているようなものだが、それはまさに「消費国」であり、「生産国」でもある今の中国の姿を象徴しているかのようにも思える。

 そして会場は異常なほど賑やかだ。大音響でステージを盛り上げる様子を「10年前のカメラショー」と喩える人もいたが、これもまた、中国の今の繁栄を象徴しているのだろう。日本もそんな元気な時代があった。

会場の案内図。大きなブースは何とか判読できる。会場に入れば、ロゴがあるのでそれほど問題はない。アマチュアグループの一団が入口前で記念撮影。女性の姿も多いが、大きなレンズは当たり前の様子。
会場で毎日配られていた新聞。初日の一面は、各社からのお祝いコメントで飾られていた。会場入り口では、手荷物検査が行なわれていた。北京では地下鉄の改札前でも行なわれている。

 まずはぐるりと会場をひと回りしてみることにする。日本と同じ、見慣れたメーカーロゴが、あちこちに見受けられてひと安心。発表されたばかりのニコンD3200やサムスンのNX1000、NX210、NX20などの展示が確認できた。

 D3200はブースの展示スペースに2台を展示するのみ。それでもハンズオンコーナーはD4、D800目当ての来場者で、終日賑わいを見せていた。

 一方、サムスンのNX1000、NX210、NX20はブースのメイン展示。いずれも撮影体験コーナーに並べられ、実写ができた。気になるWiFi機能だが、ボディ上部のモードダイヤルをWiFiに合わせて背面の液晶モニターで設定するだけの簡単操作となっている。製品の70%以上にWiFi機能を搭載するサムスン。今後は、カメラ側のメディアにも転送できる機能を搭載する予定で、さらなる拡充を図ると意気込みを見せる。

開催前日に発表されたニコンD3200。ニコンブースに展示されていたのはこの2台のみ。コンパニオンが手にしているのはNX210。撮影体験ができた。
NX20上面。モードダイヤルをWiFiにセットする。WiFiモード設定時の液晶表示。複雑な設定をすることなくデータ転送が可能だ。

 カメラメーカーの各ブースは、いずれもステージを中心とした構成となっていて、よくよく見ると大差はない。レンズをひな壇に並べて撮影体験ができるコーナーや、薄暗い状況で高感度撮影を体験できるコーナーなどが一様に用意されていたのが特徴的だった。

 日本と圧倒的に異なるのはコンパニオンとモデルの多さ。皆、愛想がいい。カメラを向けるとニコリと笑顔で応えてくれる。コンパニオンを撮影したフォトコンテストも開催されていたようで、それが目当てかどうかは分からないが、会場のあちこちで、熱心に撮影している来場者の姿が見られた。

富士フイルムブースでチェキを紹介するコンパニオン。カメラストラップのブラックラピッドブースで。本当に愛想がいい。
三脚メーカーDIATのモデル。小さいブースでもモデルを置いているところが多かった。モデルを撮影する来場者の姿はどこのブースでも見られる光景だった。
ベリーダンスやボディペインティングなど、露出度の高いステージを用意しているところある。三脚の堅牢さを表現したかったのか、マッチョの男性を起用していたメーカーも。

 アクセサリーに関しては、どこかで見たことがあるようなものばかりで、目新しさのあるアイテムは少なかった。その中でいくつか目に付いたものと特徴的なブースを紹介しよう。

SHARPENというメディアメーカーのSDHCメモリーカード。接点の逆側がUSBポートに挿せるようになっている。フォクトレンダーのベッサ6×7のカメラ。蛇腹式のボディも展示されていた。
北京市のカメラメーカーが展示していたデジタルカメラ「長城」。一眼レフカメラの動画撮影用アクセサリーも数多く展示されていた。
iPhone用のレンズと、様々なカラーリングのレンズキャップ。カメラマンベストの専門店。同様のブースがいくつかあった。
こちらはカメラストラップの専門店。多種多様なストラップを展示。Spyderのカメラホルダー。三脚ネジ穴に挿したピンをベルトに引っ掛ける構造。
中国の雑誌記者と一緒にSpyderの説明会に出席。英語と中国語を交えての説明だった。中国撮影家協会のブース。撮影関連の出版社のブースも出展していた。
雑誌社のブースに展示されていたムック。中身はもちろん中国語。雑誌社のブースで行なわれていたセミナー。結構な賑わいを見せていた。

 広大な国土と膨大な人口を擁する中国。そのカメラ市場はどうなっていて、各社はどのように対応しているのだろう。会期中、カメラメーカー各社のマーケティング担当者にお話を伺うことができた。

 ニコンイメージング(CHINA)セールスの井川裕喜氏(Director・Marketing Division Promotion Department)によると、中国市場におけるミラーレス機の比率はまだ10%程度で、日本ほど普及していないのだという。まだまだ大きくて高級感のあるカメラがもてはやされるという傾向が強いらしい。

 また、高画素=高画質という意識が高いことから、D800およびD800Eの注目度は驚くほど高いのだそうだ。昨年、震災とタイの洪水で大きな被害を受けたニコン。好調な一眼レフを中心に、今年はV字回復を目指す。ちなみに中国では人気歌手の王力宏(ワン・リーホン) をイメージキャラクターに起用している。

ニコンブースのレンズ体験コーナー。順番待ちの列ができていた。ブース前に並んで来場者を迎えるコンパニオン。圧巻です。
展示コーナーにはD3200、D800、D4をはじめとする一眼レフを陳列。ニコンブースのコンパニオン。2人ともあまりに動かないので人形かと思ったほど。

 大きいカメラが人気と聞くと、中判カメラの動向が気になるところ。ペンタックスリコーイメージングCHINAの柴田智賀氏(Chairman & General Manager)によると、やはりペンタックス645Dの注目度は中国でも高い。そこで、カメラの画質の高さとともに、先月発売になったばかりのDA25mm F4を一緒にアピール。

 ペンタックスもリコーもフィルム時代からの熱狂的なファンが多く、カメラメーカーとしてその名はすでに浸透しているという。そこでペンタックスリコーでは、645Dの高い技術力を知ってもらおうと、メディアやディーラーとも協力して、中国全土でカメラの体験会を行なっている。体験会はペンタックスリコーに限らず、各社が中国で力を入れている販売戦略の一つだ。

 645Dの体験会には40代以上のユーザー、GR DIGITALやGXRなどの体験会には微博(ウェイボー。Twitterに似た中国のサービス)などを通じて、若い男女が集まるのだという。

 マーケットに関しては、一概に中国はこうだと言えない多様性があると柴田氏は語る。国土の北と南での趣向の違いや、沿岸部と内陸部の経済格差、若者の趣向の多様化といった要因から、売れ筋は地域によって変わってくる。価格優先で売れるところもあれば、デザインが良くないと売れないところもあるというのが今の中国の状況なのだという。

 また、コンパクトに関してはサムスンが脅威だと語る。日本に進出していないサムスンの存在も、日本市場とは大きく異なる点と言えるだろう。

ペンタックスリコーのブースでは、ペンタックスとリコーの製品をそれぞれ紹介。ペンタックスの参考出品はCP+2012で発表されたものと同じものだった。
カタログもペンタックスとリコーの両製品のものを用意していた。

 体験会を年間2,000回ほど行なっていると語るのは、ソニー(CHINA)の波多野智氏(Asistant General Manager)。購入前の体験セミナーや購入後のレクチャーなど、昨年は13都市で体験会を開催した。おしゃれでデザイン性の高いサイバーショットは女性に人気が高いことから、女性だけのセミナーも積極的に行なっているという。

 ソニーはフィルム時代の資産がないため、ユーザー層の開拓はゼロからのスタートに近かったのだそうだ。それだけに、若者のユーザー層が多いのが特徴でもある。NEX-5Nは20代後半、α77も31歳がユーザー層の平均だというだけあって、ハンズオンコーナーも若い人が多い印象があった。また、高画素にこだわるユーザーが多いだけに、高画素の機種やカールツァイスレンズおよびGレンズも人気が高いという。

ソニーブースの高感度撮影を体験するコーナー。メンテナンスコーナーでは機材のチェックをしてくれていた。
ソニーブースもレンズの展示とステージがメイン。ソニーのコンパニオンの数もかなりのもの。

 キヤノンは、EOS-1D X、EOS 5D Mark III、CINEMA EOSとEOSシステムをメインにした展示。体験コーナーにはEOS-1D XとEOS 5D Mark IIIを各10台と、24本のレンズを揃えて対応していた。キヤノン(CHINA)の千田俊一氏(Director・ICP CCN Product Marketing imaging communication products group)によると、中国市場では一眼レフはまだまだ憧れのカメラ。だから見て触って体験してもらうことが必要なのだという。やはり体験会の重要性を認識している。

 コンパクトカメラについては、画素数よりも付加機能や使いやすさが注目され始めているのだという。中国では、これからWiFi機能が伸びていくと千田氏は語る。ウェイボーの急激な普及を見るとそれもうなずける。ブースでもWiFiの体験コーナーを設けてアピールしていた。

EFレンズをフルラインナップで紹介。その左右にEOS-1D XとEOS 5D Mark IIIの体験コーナーがある。
レンズ体験コーナー。その下には歴代のEOSカメラを展示する。WiFiの体験コーナー。説明員が詳しく操作を教えてくれる。

 ノンレフレックス機(ミラーレス機)のPENとOM-Dが主力のオリンパスの動向はどうなのだろう。オリンパス イメージング チャイナの隠岐浩史氏(Senior General Manager)は、中国でPENの伸びしろはまだ相当あると話す。すでに香港ではミラーレス機のシェアは40%を超え、韓国などのアジア各国でもシェアが伸びているというのがその理由だ。加えて、女性を対象にしたユーザー教室「LOVE PEN」が好調なことも中国市場でのシェアを後押ししているのだという。大きい一眼レフカメラが好まれる段階から、次のステージに差し掛かっていると見ているようだ。

 PENの人気の秘密を尋ねると、アートフィルター機能に加えて、ボディの金属の質感、背面モニターの精細さなどが好まれる要因ということだった。OM-Dも金属の質感があるシルバーボディの方が人気が高いのだという。

 一方、カメラケースやストラップといったアクセサリーについては、サードパーティの低価格商品がどんどん出てくる。中国では苦しい闘いが続いていることをにじませた。さらに低価格コンパクトは、スマートフォンに押されているのだという。これは日本でも同様の傾向が見られる。オリンパスをはじめ各社は、高感度や高倍率といった、スマホにない付加機能で対抗していくというというのが策のようだ。

コンパニオンのユニフォームの背中にOLYMPUS PENのプリント。LOVE PENの活動を紹介するコーナー。
ステージにカメラを持ったモデルが登場するだけで超満員の状態に。

 富士フイルムでは、2月末に発売を開始したFUJIFILM X-Pro1の魅力を知ってもらうという狙いに絞って展開していると、富士フイルム(CHINA)の大内康武氏。Xシリーズは、その重厚感が本物志向のユーザーに受けているのだという。FUJIFILM X100は思った以上に女性の購買層が多いのも特徴だと話す。シルバーボディやキラキラしたボディの人気が高いということで、ブースではXシリーズとFinePixのFシリーズを中心に展開していた。また中国向けに開発したFinePix Jシリーズもラインナップしていた。

 特徴的なのは、チェキの存在。雑貨商を中心にカメラ店とは違う販売チャンネルで好調な売れ行きをみせているという。インスタントフィルムというアナログ感と、1点モノの希少感が新鮮で若い人に受けていると語る。ブースでも女性を意識した明るい展示で、大きなスペースを占めていた。

 コンパクトはスマートフォン、サムスンといった対抗機種の存在もあって、高倍率ズームのシェアは高いものの、厳しい状況にあるのだという。

フィルムやアルバム、インクジェット用紙なども展示し、多彩な商品をアピールする富士フイルムブース。中国で限定888台発売のFUJIFILM X100。シルバーボディの要望もあったとか。
チェキのコーナーでは、カメラ女子向けと見られる明るい展示。

 初めて訪れたChina P&E。中国マーケットに挑む日本のカメラメーカーの姿が実に印象的だった。いずれのメーカーからも聞かれたのは、「中国の市場は日本とも他のアジアの国とも違う」ということ。インドやインドネシアももちろん注目しているが、中国は桁違いの巨大なマーケットだ。しかし巨大であるだけに、マーケティングも一筋縄ではいかないようだ。広大な国土にどうやって商品を紹介し、どうやって販売していくのか、それこそが各社の課題なのである。そういった意味では、各社の中国本社が集中する上海の様子も気になっている。

 昨年のタイの洪水では、日本のカメラ産業が実に多くの国々とつながっていることを我々に示してくれた。中国も例外ではない。むしろ主要な消費国であり、生産国でもあるという意味で、カメラ産業にとっては非常に重要な国と言えるだろう。そこにどう商品を安定供給していくのか、それをコントロールしている中国本社の役割については、いずれ機会があればレポートしたいと思っている。

 今年はドイツでフォトキナが開催される年でもある。そこで登場するであろう新製品を受けて、中国市場はどう様変わりしていくのか……。早くも来年のChina P&Eが楽しみだ。

モデル撮影のためだろう、スタンドにクリップオンストロボを付けて持ち歩く人も見られた。週末は恋人連れと見られる来場者が多かった。女性同士というのも見かけたが、家族連れは少なかった。
カメラストラップだけを展示していたブースのデモンストレーター。電子書籍やアプリの展示もわずかながらあった。
タムロンブースのステージ。モデルにカメラを向ける来場者たちの熱意が伝わってくる。70-200mmクラスのレンズに三脚まで用意して来場するのは珍しいことではないようだ。
撮影されてもメーカー名が写るように、腕にシールというのが多かった。フィルターをメインに展示していたHOYAのブース。日本の製品であることをアピールしているようだ。



(柴田誠)

2012/5/9 00:00