カメラグランプリ2011授賞式で各社が開発秘話などを披露


 カメラ記者クラブ カメラグランプリ2011実行委員会は1日、カメラグランプリ2011の授賞式を都内で開催した。受賞各社の代表に盾などを贈呈したほか、開発に携わったエンジニアが開発秘話などを話した。

カメラグランプリ2011の受賞製品授賞式は東京中央区の聖路加ガーデン47階で開催した

 同賞の授賞式は、例年“写真の日”である6月1日に実施している。既報の通り、大賞はペンタックス「645D」、レンズ賞はタムロン「18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZD」、 あなたが選ぶベストカメラ賞はニコン「D7000」、カメラ記者クラブ賞はエプソン「MAXART PX-5V」と富士フイルム「FinePix X100」となっている。

 冒頭、カメラグランプリ2011実行委員会 委員長の伊藤亮介氏(風景写真)が「今回で28回目になる。より親しまれるようにロゴマークを一新した。TIPAと協力し、日本のカメラ賞としてストレートに伝わるようにしたい。東日本大震災の影響もまだあるが、(新ロゴマークは)『頑張ろう日本と思える』との声もある。このロゴマークと一緒に頑張っていきたい」と挨拶した。

カメラグランプリ2011実行委員会 委員長の伊藤亮介氏(風景写真)カメラ、レンズ、日の丸のいずれにも見えるデザインを採用したカメラグランプリの新ロゴマーク

世に出なかったかも知れないカメラ

 中判デジタルカメラ645Dで大賞を受賞したペンタックスは、HOYAペンタックスイメージングシステム事業部 事業部長の井植敏彰氏が盾を受け取った。

645DHOYAペンタックスイメージングシステム事業部 事業部長の井植敏彰氏(右)

 「リーマンショックがあり、経営環境的にも『ペンタックスどうなってるんだ』という時期に、もう一度市場を驚かせてやろうと開発した。社員皆の気持ちが詰まったカメラになった。受賞することができて身の引き締まる思い。なお一層頑張っていかなければならない。どんどん良いカメラを作る、という部分に注力していく」(井植氏)と話した。

 開発秘話を披露したのは、HOYAペンタックスイメージングシステム事業部 副事業部長の北沢利之氏。

HOYAペンタックスイメージングシステム事業部 副事業部長の北沢利之氏(右)HOYAペンタックスイメージングシステム事業部の出席者

 「645Dの開発では数々のドラマがあり、一歩間違えれば世の中に出なかったカメラ。大差で1位になり、コンセプトが間違っていなかったと証明できた。2005年のPIE(フォトイメージングエキスポ)で初めてモックアップを出した。ところが、2007年5月には開発者を集めて3年の開発凍結を伝えた。当時Kシリーズの開発が遅れており、645Dのリソースも投入しなければならなかった。2008年11月に凍結の解除を伝えた。そのとき、『私が会社にいる限り、凍結はもう無い』と話したのを覚えている。途中、HOYAとの合併もあったが、開発陣は影響を受けずに専念してくれた。(645Dは)これで完成というわけではない。『645D Mark II』になるのかはわからないが(笑)、ユーザーの声を訊きながら開発を行なっていく」(北沢氏)。

光学設計優先にこだわり新アクチュエーターを開発

 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZDでレンズ賞を受賞したタムロンは、代表取締役社長の小野守男氏が盾を受け取った。

18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZDタムロン代表取締役社長の小野守男氏(右)

 「開発では私の我が儘を開発陣が訊いて頑張って実現してくれた。前のモデルは大きく重いのが欠点だった。AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II LD Aspherical [IF] Macroと同じ大きさで実現することをターゲットに開発した。これまで、18-250mmとボディ内手ブレ補正機構付きのソニー『α350』を使用していたが、この度D7000と18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZDを買った。多くの人に勧められるレンズ」(小野氏)と語った。

 開発秘話を披露したのは、同社光学開発本部 本部長の桜庭省吾氏。

タムロン光学開発本部 本部長の桜庭省吾氏(右)タムロンの出席者

 「このレンズのコンセプトは、小型軽量、静かな動作、より高い画質の3つ。18-250mmと同じ大きさに手ブレ補正機構のアクチュエーターを入れるのが難しかった。今回は、まず(画質を優先した)光学設計ありきで、空いたスペースに入るアクチュエーターを新規に開発した。1mm以下の攻防だった。これまで高倍率ズームレンズで培った伝統を活かして開発し、ユーザーに喜んで貰える性能を目指した。これからもユーザーに選ばれる製品開発に努めていく」(桜庭氏)。

これぞニコンのカメラと言いたい

 D7000であなたが選ぶベストカメラ賞を受賞したニコンは、新事業開発本部 本部長の風見一之氏が盾を受け取った。

D7000ニコン新事業開発本部 本部長の風見一之氏(右)

 「あなたが選ぶベストカメラ賞の第1回目は『D3』、第2回目は『D700』が受賞した。開発陣にとっても光栄。広くユーザーの支持を頂き受賞できた。上位機種に匹敵する機能をコンパクトなボディに凝縮した。幅広く手にとって頂いて、映像表現の奥深さを知って欲しい。ニコンは来年(2012年)、創立95周年を迎える。東日本大震災で大変厳しい状況だが、引き続き写真業界に貢献できるよう一層開発に努めて貢献していきたい」(風見氏)と述べた。

 開発秘話を披露したのは、同社映像カンパニー開発本部 開発管理部 ゼネラルマネジャーの川村晃一郎氏。

ニコン映像カンパニー開発本部 開発管理部 ゼネラルマネジャーの川村晃一郎氏ニコンの出席者

 「あなたが選ぶベストカメラ賞は今回で4回目だが、ニコンが3回受賞している。ユーザーがニコン製品を認めてくれているのだと思う。社内的には(過去に受賞した)D3とD700はたくさん売れても儲かってはいない(笑)。D7000を皆さん使って欲しい。ニコンにはユーザーの意見を製品に反映する社風があるが、D7000はどちらかというとニコンからさまざまな機能を提案した。『このクラスに視野率約100%のファインダーやマグネシウムボディを!?』という、高スペックを詰め込んだ。これぞニコンのカメラだぞ、と胸を張って言いたい。“7”の付く(ニコンの)カメラとカメラグランプリは相性がよい。D70、D700、D7000が受賞したので、これからは7の付く型番で発売しなければなりませんね(笑)」(川村氏)。

従来機の不満を払拭して完成度を高めた

 PX-5Vでカメラ記者クラブ賞を受賞したエプソンは、情報画像事業本部 副事業本部長の三村孝雄氏が盾を受け取った。

PX-5Vエプソン情報画像事業本部 副事業本部長の三村孝雄氏(右)

 「カメラ記者クラブ賞においてプリンターの受賞は初で、大変嬉しい。2005年に『R-D1』がカメラ記者クラブ特別賞を頂いている。今回は、本業と言ってはなんだが、プリンターで受賞したのは喜ばしいこと。カメラの性能を忠実に発揮できるプリンターを開発してきた。写真文化はやはり紙に出力してのものだ。今後もこうした製品を継続的に出していきたい」(三村氏)と話した。

 開発秘話を披露したのは、同社情報画像事業本部 LFP企画設計部 部長の大島敬一氏。

エプソン情報画像事業本部 LFP企画設計部 部長の大島敬一氏(右)エプソンの出席者

 「PX-5Vは『PX-5600』の後継機だが、(従来品では)インクカートリッジの容量が小さい点が非常に不満だったので、2倍強に増やした。それから大きいプリンターなので、デスクやラックなど高いところにおいてもフロント給紙ができるように舵を取った。開発費も問題だったが、フォトプリンターとなるとエプソンは火の玉集団になる。画質向上も図って完成度がより高まった」(大島氏)

ファインダーで撮影することに徹底的にこだわる

 FinePix X100でカメラ記者クラブ賞を受賞した富士フイルムは、電子映像事業部 営業部 部長の松本雅岳氏が盾を受け取った。

FinePix X100富士フイルム電子映像事業部 営業部 部長の松本雅岳氏(右)

 「フィルムでも賞を頂いたことはあったが、デジタルカメラでは初めて。これからの事業展開に大変弾みになる。2年前に開発が始まり、富士フイルムの技術を結集した。東日本大震災で(FinePix X100を生産する)仙台の工場が被災したが、建物は無事だったため設備を入れ替えるなどして生産を再開できた。これからも、おもしろいカメラ、本当に美しい写真を撮れるカメラを開発していきたい」(松本氏)と話した。

 開発秘話を披露したのは、同社電子映像事業部 商品部 課長の河原洋氏。

富士フイルム電子映像事業部 商品部 課長の河原洋氏(右)富士フイルムの出席者

 「FinePix X100はプロが仕事にも使えるコンパクトなカメラを目指して、また、高品位を求めるアマチュアもターゲットに開発した。ファインダーで撮影することに徹底的にこだわり、世界唯一のハイブリッドビューファインダーが生まれた。苦労話は数限りなくあるが、意見を聞いた方が皆違うことを言うのでまとめるのに苦労した。富士フイルムはこのような高級なカメラを作ったことがなく、コストを最優先に考えていないカメラを選択することに躊躇したが、最高の思いを実現するカメラとして作った。高級な素材や高精度な内部構造などをわかって貰える人に使って貰えるように最後のぎりぎりまで仕様を見直した。今回の受賞で勇気づけられた。これからも発展させていく」(河原氏)。

TIPAのチェアマンが来日

 カメラ記者クラブが欧州TIPA(The Technical Image Press Association)と協力体制を築いたことを受けて、TIPAチェアマンのThomas Gerwers氏が来日した。TIPAはカメラグランプリの選考委員にも加わっている。

TIPAチェアマンのThomas Gerwers氏。「頑張れ日本」と日本語で応援する場面も

 Gerwers氏は、「今日、由緒ある賞に参加することになった。TIPAは1991年に創立した。写真産業は将来にわたって重要な分野。カメラグランプリをまだ浸透していない地域にも広めていきたい。東日本大震災の被災者に対して、1万ユーロの寄付を早期に決定した」と話した。

 乾杯の音頭を取ったCIPA(カメラ映像機器工業会)事務局長の上村正弘氏は、「今回のカメラグランプリはカメラ172機種、レンズ46個が選考対象になった。これだけ多くのモデルが1年間に出ている。レンズ賞が新設されたが、時機に見合ったものだ。今後、交換レンズは大いに発展していくのではないか」と挨拶した。

CIPA事務局長の上村正弘氏

 式の最後には、カメラ記者クラブ代表幹事の柴田誠氏(フォトテクニックデジタル)が「2010年11月の総会から半年もないくらいで新しいロゴマークを出すことができて良かった。TIPAとの協力が(新ロゴマーク策定の)大きなきっかけだった。日本のカメラ賞だとわかるようにアートディレクターの佐野研二氏に制作をお願いしたが、TIPAアワードのマークにも負けていないのではないか。とても力強いロゴなので、今の日本を元気づけるものになるだろう」と締めくくった。

カメラ記者クラブ代表幹事の柴田誠氏(フォトテクニックデジタル)出席者に配られたカメラグランプリ2011のピンバッジ(近日、読者プレゼント予定)



(本誌:武石修)

2011/6/2 14:36