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Canon EXPO 2023 レポート【前編】EOS関連の展示を紹介
AIによる高画質化や産業分野での活用など レンズ技術の展示も
2023年10月20日 19:12
キヤノンの技術展示会「Canon EXPO 2023」が10月19日と20日にパシフィコ横浜で開催された。【前編】では主にデジタルカメラ「EOSシリーズ」や交換レンズについての展示を取り上げる。
Canon EXPOは同社が数年おきに開催しているプライベートショー。キヤノングループの製品や最新技術などを展示している。本来、2020年に開催予定だったがコロナ禍で延期され、2015年に続く8年ぶりの開催となった。
これまでは関係者のみの招待制だったが、今回は事前登録で一般も来場可能となった。19日は開場前に待機列ができ、開場時間を早めるという盛況ぶりだった。
撮影体験コーナー
ミラーレスカメラや交換レンズではこのイベントに合わせての新製品発表は無かったものの、撮影体験コーナーを含む広いスペースで展示を行っていた。
ミラーレスカメラの新製品のひとつ「EOS R6 Mark II」はシーンモードの「流し撮りモード」などを体験できるようになっていた。ジオラマを走る車の背景を簡単にブラして撮影できた。ジオラマでは動物の認識機能も試せるようになっており、人気のコーナーとなっていた。
レンズもRFマウントレンズを始め、シネマレンズや放送用レンズなど普段見る機会が少ないアイテムの展示もあった。RFレンズの新製品では超広角ズームの「RF10-20mm F4 L IS STM」が手に取れない状態だが展示されていた。
TBS 世界遺産のCINEMA EOS
TBSのテレビ番組「世界遺産」で制作に使われたカメラも展示されていた。1つはドローンに搭載された「EOS R5 C」。ミラーレスカメラのサイズ感ながら8K動画を撮影可能。4Kデータにする際に8Kから作ると高画質という。
もう1つは「EOS C70」で、CINEMA EOSの上位モデルと同様の画質を実現しつつ小形軽量になったモデル。ジンバルに搭載できるサイズをアピールしていた。
2Dから3Dへの変換システム
デュアルピクセルCMOS AF搭載のカメラで撮影した1枚の写真から、3D映像を作れるシステムを参考展示していた。
デュアルピクセルCMOS AFは1画素にフォトダイオードが2つ搭載されているため、距離を測ることができワンショットで立体モデルが作成できる。デュアルピクセル情報をもつDPRAWデータを利用する。
デモではECサイトを想定して商品を回転させて閲覧できるシステムを展示。後ろ側は写っていないが、ある程度横方向もカバーできる。今後の展開は未定だが、子供やペットといった被写体でも使えそうだとのこと。
3DデータなのでVRゴーグルでの立体視も可能となっており、撮影に使えるカメラの1つ「EOS R7」と一緒にデモが行われていた。
マルチカメラリモートシステム
複数のEOSを有線LANで接続し、「iPad」で同時に撮影やコントロールするシステムを参考展示していた。「EOS R3」や「EOS-1D X Mark III」などの有線LAN端子を備えるモデルが対象。
報道現場やスポーツ写真などカメラから離れて撮影するシーンを想定している。ライブビューを見ながら10〜15台程度のカメラをコントロールできるという。カメラの設定を全て同時に変えることも可能。またiPad上で各カメラの撮影画像もチェックできる。
真正保障カメラ&システム
通信社など報道関係ではAIによるフェイク画像が問題になっており、キヤノンでは撮影画像の真正性を確認できるシステムを開発中だ。通信社とワークフローの確認も行っているところだという。
デモ機は「EOS R3」で、メニューの「AIMS設定」でこの機能をONにできる。鍵番号は撮影者の識別などに使う番号となる。画像データとメタデータの照合で真正性を判断する。来歴記録システムの「C2PA」に対応しており、撮影後の編集履歴も記録できる。
専用ソフト上で真正性のある写真は青いチェックマークが表示される。一方、対応カメラ以外で撮影したり不正がある写真は黄色のクエスチョンマークが表示される。
静止画/動画の同時記録システム
将来的に出るカメラに搭載されるという、静止画と動画を同時に撮影できる機能を使った開発中のデモが行われていた。
フル解像度の静止画とフルHDの動画を同時に記録できるもの。スポーツ記事で1台のカメラで撮った静止画とその付近の動画を掲載するという提案が行われていた。
動画の切り出しではない高画質な静止画データも得られるのがポイントで、静止画と動画を別々の撮影設定で撮れるようにすることも検討しているという。動画は30秒ごとに区切った形で記録される。
デモでは撮影データを取り込むと、AIが選手の顔を認識してピントや目つぶりをチェック。自動的にNGカット以外がセレクトされる。編集者がその中から採用カットを選ぶと、作っておいた記事のテンプレートに写真とその時の動画が埋め込まれWebページが生成される。
速報性が必要なワークフローに向くシステムとなっているが、説明員によると鉄道写真などでも面白いのではとのことだ。
産業で活躍するEOS
EOS Rシリーズは画質の良さを生かして、産業面でも活躍している。工場で生産ラインの製品を撮影することで組み立てミスなどをチェックできる。
産業用カメラ(FAカメラ)でも同様のことはできるが、例えば「EOS R5」の4,500万画素という高解像度を使うことで、今まで複数のFAカメラが必要だった場面において1台のEOS R5で広く撮影して解析でき、カメラの台数が減らせるといったメリットがあるという。
また人間では難しい精密部品の目視検査にも利用できるとしている。レンズの収差が少ないので、長さなどの測定にも向いているという。
こうした製造業向けのパッケージはすでに展開しており、画像認識による計測なども簡単にプログラムして使えるとのこと。もともとキヤノンの工場で同様の活用を行っており、それを発展させたものとのことだ。
また、EOSをインフラ点検に使う提案も行っていた。こちらも高解像度データを利用してコンクリートの細かなひび割れまでAIによりチェックできるというシステムになっている。「インフラの老朽化が進む一方、点検する技術者が不足している問題に対応できる」という。
AIによる高画質化
AIを使って撮影画像を高画質化する仕組みを解説していた。対応するEOSで撮影した画像を「Neural network Image Processing Tool」を使って処理するサービスとしてすでに実用化されいてる。
撮影画像はレンズのほか光学素子などで画質が劣化するが、同社が学習させたAIを使って、劣化が起こる前の状態に復元するというものだ。
同社がカメラ開発で撮影した膨大な数の画像データで学習を行い、実際の撮影画像と劣化前の映像の差異を最小化するシステムとした。
SWCなど既存のレンズ技術を詳細に解説
「SWC」や「DOレンズ」、「遮熱塗料」などすでに実用化されている技術についても模型などを使った詳細な展示が見られた。
SWCはレンズ表面にコーティングで円錐形の構造体を作る技術で、光が構造体の隙間を通ってガラス側に進むことで反射を減らすことができる。
DOレンズ
DOレンズは回折光学素子を用いることで、屈折レンズと逆の色ズレを起こすレンズ。屈折レンズと組み合わせると色ズレを打ち消すことができる。屈折レンズのみで色消しを行うよりもレンズを小型にできるメリットがある。
光線を使ったデモも用意されており、波長の違う赤と青の光が屈折プリズムとDO素子で左右逆になることが確認できる。