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第32回「写真の会」賞に、兼子裕代氏の『APPEARANCE』
2022年8月4日 07:00
写真の会は7月17日、第32回「写真の会」賞の受賞者と受賞作品を発表した。
受賞したのは、兼子裕代さんの作品集『APPEARANCE』(青幻舎・2020年)ならびに関連する展覧会。
写真の会賞は、“作家ではなく写真的行為に対して贈られるもの“としており、製版や印刷の仕事の担当者である野口啓一氏や吉田寛氏(第8回)、ロバート・フランク氏の写真集の編集者である元村和彦氏(第9回)などにも贈られている。今回の選考に参加した会員は、大橋麻里奈、沖本尚志、河島えみ、調文明、タカザワケンジ、竹葉丈、深川雅文、間島英之、町口覚(50音順・敬称略)。
選評:「APPEARANCE」は、人が歌う姿を捉えたポートレート作品である。被写体となった人々とはまずコミュニケーションを通して作家の意図を理解してもらい、撮影を依頼し、彼らの自宅や指定された場所で好きな歌を歌ってもらう。そして、その姿を写真に捉える。作品には、「歌う」という普遍的な行為が介入することによって人と世界とそれを見つめる作家の眼が相互に響きあう時間・空間が捉えられ、人間存在への深い洞察と強い共感を浮かび上がらせる。
3年ぶりとなった写真の会賞の審査会は、思い切って候補作を絞り込んで行われた。折しも2年以上にわたり世界を覆ったパンデミックに続いて、ウクライナで戦争が始まり、日本においては政治的迷走に続く五輪の失敗、経済の破綻、首班者の暗殺等不測の事態が次々に起こった。議論を進める私たちの前に現れた歌う人々の姿は、言葉にならない表層そのものであるのにもかかわらず、しかし、強い力で私たちの琴線に触れてきた。
授賞作品展覧会と授賞式を2022年度内に東京都内で開催予定。
作家プロフィール
兼子裕代(かねこ・ひろよ)
青森県生まれ。明治学院大学文学部フランス文学科卒業後、会社員を経てイギリス・ロンドンで写真を学ぶ。1998年より写真家、ライターとして活動。カリフォルニア州オークランド在住。2003年、サンフランシスコ・アート・インスティチュート大学院に留学。作品展に「Nagasaki Dialog」(Photographers’Gallery、東京、2002年)、「Sentimental Education」MIAD Perspective Gallery, Milwaukee Institute of Art and Design 、ミルウォーキー、2009年)、「APPEARANCE-歌う人」(銀座ニコンサロン、大阪ニコンサロン、2017年)、「APPEARANCE」(空蓮房、東京、2018年)、「Garden Project」(Gallery Mestalla、東京、Social Art Lab. 九州大学、福岡、2019年)などがある。2020年、青幻舎より作品集『APPEARANCE』を出版。