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シグマ山木社長、ライブ配信で「85mm F1.4 DG DN | Art」を詳細解説

ミラーレス専用設計 "今後はフルサイズミラーレス用レンズを主軸に"

株式会社シグマは8月6日、ミラーレスカメラ用の交換レンズ新製品「85mm F1.4 DG DN | Art」を発表。日本語配信のYouTubeライブにおいて、同社代表取締役社長の山木和人氏が商品説明を行った。

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、同社も新製品発表の場をオンラインにシフト。6月にも、フルサイズミラーレスカメラ用の超望遠ズームレンズ「100-400mm F5-6.3 DG DN OS | Contemporary」をオンラインで発表した。

85mm F1.4 DG DN | Art

85mm F1.4 DG DN | Artは、35mmフルサイズのミラーレスカメラに向けて専用開発した交換レンズ。LマウントとソニーEマウントを用意する。発売は8月27日、価格は12万円。

山木社長はまず、「一般論として、カメラのレンズのサイズと性能はトレードオフの関係にある」と説明。性能を追求すればレンズの枚数が増え、大きく重くなるという関係があり、同社Artシリーズが「光学性能を第一優先に設計する」をコンセプトとしているため、既存製品はいずれもやや大きく重めのレンズになっている。

しかし今回フルサイズミラーレス用のDG DNシリーズに新たに加わった85mm F1.4は、これまでのArtレンズと同じように光学性能優先のコンセプトで開発したものの、結果としてコンパクトに仕上がった点がハイライトだという。

数値はLマウントのもの。
同社の一眼レフカメラ用Artレンズ「85mm F1.4 DG HSM | Art」85mm F1.4や、ソニーのEマウントレンズ「FE 85mm F1.4 GM」と比べてコンパクトなサイズ感とした。

性能面の解説ではMTF曲線を示した。グラフ横軸(像高)の左が中心、右が周辺。赤い線が低周波(大きく太い物)、緑が高周波(細かい物)への性能を示し、縦軸上の上にあればあるほど高性能といえる。

この特性から、メリハリのついたコントラストのある画質が期待でき、高周波も性能が高いため、細かい部分を解像し、立体感のある描写になることが読み取れると説明した。

85mm F1.4 DG DN | ArtのMTF。
右に、"現存する85mm F1.4レンズで最高性能"を謳う一眼レフ用の「85mm F1.4 DG HSM | Art」のMTFを示した。

11群15枚のレンズ構成のうち、SLD(特殊低分散)ガラス5枚、高屈折ガラス4枚、非球面レンズ1枚を使用。これらは材料として高価なだけでなく、加工が難しいのも特徴。研磨時間が長くなったり、付加的な工程が増えるという。中でも特殊低分散ガラスは柔らかく傷つきやすいため、製造コストが高いそうだ。

レンズ構成図

しかし同社では、福島県の会津工場で熟練工として働く現場社員が高い歩留まりで研磨を行えるため、加工の難しい硝材を用いた製品であっても、最終製品を比較的買いやすい価格にできているという。

小型化と高画質のポイント

小型ながら一眼レフ用の85mm F1.4を超える性能を実現できた理由として、山木社長は以下の3つを挙げた。

カメラ内収差補正機能を利用

従来はガラスの組み合わせで収差を取っていったが、現在は一部の収差をカメラ内のソフトで取るのが一般的になっており、多くのミラーレスカメラで利用している。光学ファインダーを覗く一眼レフカメラ用のレンズでは、これらも光学的に補正を行う必要があったため、サイズに影響したという。

今回のレンズでは、ソフトウェアで綺麗に補正でき、ある程度の範囲なら画質への影響もほぼないという周辺光量と歪曲に限り、これらの補正を利用することにした。

そのほかの像面湾曲、非点収差、軸上色収差、倍率色収差、サジタルコマフレアについてはカメラ内で綺麗に補正できず、画質にも影響するため、光学設計で補正したそうだ。

大口径の絞りユニット

レンズを通る光束をどこかで急激に絞ると、そこで収差が暴れて性能が乱れ、最終画質が良くならないという点から、絞りの内径を大きくできるようにメカ設計者が苦労したという。なだらかに光が屈折しているのがポイント。

絞り内径の大きさは、500mm F4 DG OS HSM | Sports並みだという。

光学設計者とメカ設計者のパートナーシップ。

サイズやマウント径などの設計条件がある中で、モーターや基板を配置するなど、現代レンズへの要求は多い。その際に重要になってくるのが光学設計者とメカ(機構)設計者のパートナーシップだという。

今回のレンズは「35mm F1.4 DG HSM | Art」、「50mm F1.4 DG HSM | Art」、「18-35mm F1.8 DC HSM | Art」、「14-24mm F2.8 DG DN | Art」と同じ光学設計者とメカ設計者が担当しており、10年以上のパートナーなのだという。「よくこんなレンズができたなと驚いた」と山木氏は話す。

ゴーストとフレア対策

専門チームの"ゴーストバスターズ"はコーティングだけでなく、光学設計のごく初期段階から光学設計、メカ設計と対策を始め、シミュレーションプログラムでのゴースト発生部分を設計者にフィードバックする。

メカゴーストのシミュレーション図。

試作では、光源をずらしながら撮影を行う。ゴーストの発生がシミュレーション通りであるかなど検証し、再度のフィードバックによりメカやコーティングの設計を変えるといった流れを繰り返す。

今回は3,000枚以上を実写解析したという。
下から設計の初期、中期、後期。

ビルドクオリティと「絞りリングロックスイッチ」

遊びをなくして高い剛性感が得られるよう、パーツ寸法の公差をどのように詰めていくかなどにも工夫しているという。また、ほとんどのキーパーツを同社が製造している点も特徴だとした。

今回のレンズには、新機構として「絞りリングロックスイッチ」が搭載。スチル用レンズにはあまり使われない機能というが、これにより絞りリングをAポジションに固定したり、Aポジションに入らないようにできるという。

絞りリングのクリックをなくす機構と、絞りリングの回転範囲を制限する機構が備わる。

最後に山木社長は、本レンズが設計のみならず量産性能も高いことなど、素晴らしいレンズができたと思っていると強調。価格も、性能に対し抑えていると述べた。

コメントへの回答

今回はライブ配信ということで、コメントでの質問に山木社長が回答するシーンもあった。

Q:今後、他の焦点距離への展開は?
どんどん開発していく。基本的にはこれからフルサイズミラーレス用レンズを主軸にしていくので、一眼レフで揃えたもの、まだないようなもの、ミラーレスならではのものもラインナップしていく。

Q:動画について
幅広のフォーカスリングがあり、AFレンズだがMFでも使いやすい操作性を実現した。絞りのデクリックは動画向け。これを省くとコストもだいぶ下がるが、ぜひ動画でも使ってほしいため搭載している。

Q:他のマウントも作る?
答えづらいが、いろいろ検討している。現状ではLマウントとEマウントを発売し、そこに注力していく。

本誌:鈴木誠