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アドビがLightroomやPhotoshopをアップデート。その概要を解説

編集履歴の共有機能など追加 AI技術で自動切り抜きの精度向上も

アドビシステムズが6月16日、Creative Cloud製品をアップデートした。本稿ではPhotoshop、Lightroomなどのフォト関連の新機能を中心に紹介する。

アドビによれば、新型コロナウイルスの影響により在宅ワークが拡大したことで、「写真やビデオの編集をしようという人が増えている」という。Lightroomを起動した際に表示されるチュートリアルの再生ユーザーはグローバルで150万人を突破したそうだ。Lightroomには他のユーザーの編集履歴を確認できる機能もあるが、これをチェックしている人も300万人を突破。チュートリアル機能も2,600万人以上が視聴しているという。

Lightroom/Lightroom Classic

上記のようにLightroomには、ソフトウェアの使い方や写真編集について学ぶ人が増えている状況を踏まえたアップデートが行われている。「発見と学び」というテーマでは、ユーザー同士がお互いに写真を確認・共有する機能が搭載された。

Lightroomを起動すると表示される「ホーム」の左側には、学ぶ、見つけるという機能が用意されている。
「見つける」から写真や編集履歴を公開しているユーザーをフォローできる。

共有では、書き出し機能に「編集を共有」が追加され、編集履歴を他人と共有する機能が搭載された。完成写真だけでなく編集過程も共有することで、ユーザー同士の技術や知識を深め合うような機能となっている。こうした情報は「見つける」機能から探して作者を「フォロー」する機能も備えている。

編集履歴の書き出し機能。現時点ではまだベータ版。

基本的な機能が強化されたほか、Adobe Camera RawはUIが刷新された。Lightroomに近いインターフェースとなり写真編集が効率化し、生産性が向上するという。調整パラメーターをコピーしてほかの画像に適用する機能も備える。

Camera Rawの画面。右端に編集項目がまとめられるようになり、分類もLightroomに近いものになった。画面にあるように、切り抜きと回転もできるようになっている
画像のサムネイルに表示される3点リーダ(…)をクリックするとメニューが表示され、設定のコピーやペーストができる

Lightroomの編集機能では、「指定範囲の色相調整」機能が追加された。これまで、画像内の範囲を指定して調整を行う場合、彩度と輝度の調整機能はあったが、これに色相が追加された。例えば、これまで色相の調整を行う場合は全体の色相が変わってしまっていたが、人物の肌部分だけを選択・調整することもできるようになった。この新機能はモバイル版を含むLightroom製品全てが対応する。

顔だけをマスクして右側の編集パネルにある「色相」から調整ができる。
同様に段階フィルターでカラーによる範囲マスクをした場合でも、同様にそのカラーだけ色相調整ができる。

デスクトップ版のLightroomでは、バージョン機能も追加。1つの写真に対して複数の異なる編集を行って保存する機能で、保存したバージョン項目にマウスオーバーするだけでプレビュー表示が変わるので、比較が簡単に行える。出力時に追加する透かし機能も強化されており、テキスト、フォント、配置など、柔軟な変更にも対応している。

バージョン機能は複数の編集結果を、タイトルをつけて保存する機能。タイトルをマウスオーバーするだけでその編集結果のプレビューが表示される。

なおLightroom Classicでは、パフォーマンスの向上が図られた。特に編集スライダーのパフォーマンスが向上して、数値を変更するとより高速に結果が表示されるようになったという。

iPad版のLightroomも強化。新たにiPad版Photoshopとの連携機能が追加されたため、Lightroomで編集した画像をそのままPhotoshopに渡して作業を継続、編集した結果もレイヤーを維持したままLightroomで管理できる。

Photoshop

まず、フォントの扱いが進化した。他人が作成したPhotoshopファイルを開いたときに、指定されたフォントがPC内になかった場合、従来は「フォントが存在しない」というエラーが出ていたが、このフォントがAdobe Fonts内にあった場合は、自動的にダウンロードして適用する自動アクティベーションが追加された。細かな改善だが、効率がよくなる機能追加だ。なお、PhotoshopだけでなくIllustrator、InDesignでも同様の機能が追加されている。

また、これまで搭載されていた「マッチフォント」も強化。画像内のテキストを解析してそのフォントに近いデザインのフォントを提示してくれる機能だが、新たに日本語フォントの縦書きに対応。複数行のマッチフォントもサポートしており、解析した結果、PC内の近いフォントがリストアップされるほか、Adobe Fontsからも検索される。Adobe Fontsには日本語フォントは206、欧文フォントを含めると1万以上のフォントがあり、そこから検索する。

縦書き、複数行に対応するマッチフォント。日本語フォントの選択に威力を発揮する。

編集関連の新機能としては、「被写体の選択」がさらに進化。自動的に画像内から被写体を抽出する機能で、前バージョンでも人物を正確に抽出してくれるようになっていたが、髪の毛のような非常に細かいエリアの切り抜きがうまくいかない場合もあった。

しかし、新バージョンでは細かい部分も詳細に抽出できるようになった。ワンクリックで人物をきれいに切り抜けることで、合成や補正を行うシーンの作業がより効率的になる。

被写体の選択機能はワンクリックで人物を切り抜けるが、こうした写真の場合、髪の毛の細かい範囲の自動指定が難しかった。
新バージョンでは、細かい部分まできれいに切り抜けるようになった。

今回のフォト製品のアップデートでは、主にコミュニティの強化とAdobe Senseiの機能強化が図られている。編集履歴の共有機能のように、単に完成写真を見せるだけでなく、その完成に至るまでの履歴、つまりどういう意図を持ってどのように作品を生み出したか、その過程が見られるというのは、作品作りに大きく役に立ちそうだ。

そしてAdobe Senseiは、AI技術の機械学習によって、これまで複雑で長い手順が必要だった作業を自動化して、簡単に実行するため補助としての役割を果たしている。多様な画像や動画を学習させることで、PhotoshopやLightroomでも様々な機能が実現されている。この学習と機能改善の成果が、今回Photoshopに搭載された人物に特化した被写体の選択機能だ。

髪の毛のような細かい部分まできれいに切り抜けるようになると、効率性は著しく向上する。こうしたAdobe Senseiの技術はCreative Cloud製品の至る所に盛り込まれており、これまでもLightroomの自動補正、ディテールの強化、検索といった機能で使われていたし、Photoshopならコンテンツに応じた塗りつぶしや顔認識による調整などに活用されている。

Adobe Senseiの活用例。Premiere ProとPhotoshop Camera

今回のCreative Cloud製品のアップデートでは、特にビデオ製品の中に複数のAdobe Senseiを活用した複数の機能が搭載された。Premiere Proのシーン編集検出機能(プレビュー版)では、完成したビデオの中にあるシーンを自動検出。1シーンだけカットする、といった処理が簡単に行える。またRushでは、主要被写体を検出してパンとズームをする、といった機能でAdobe Senseiの技術が活用されている。

Premiere Proのシーン編集検出機能は、一つの動画内にある複数のシーンの切り替わりをSenseiが自動検出する。
ワンクリックで検出したところ。
Rushのパンとズームは、主被写体をSenseiが検出してエフェクトが適用される。
オートリフレームは、すでにPremiere Proに搭載されていた機能。Rushにも搭載され、Senseiが主被写体を中心にした動画に仕上げる。モバイルアプリでこの機能を使える点がポイントだ。

新たに登場したスマートフォンアプリPhotoshop Cameraも同様だ。自動補正機能にAdobe Sensei技術が用いられており、人の顔、風景、食品といった被写体を認識する。被写体にCGを合成する場合などにも活用されている。

空だけを抽出して置き換えたり、絵画風に変換したり、人物に合わせた羽やロゴといったオブジェクトを追加するといった機能を実現するにも、Senseiの解析機能が使われている。

Adobe Sensei技術において、アルゴリズムの改善が続くことで、同Sensei技術によるAIテクノロジーを活用した機能進化が続いている。このAdobe Sensei技術が、昨今のCreative Cloud製品の大きなトピックを形成するようになってきている。これまでは画像を拡大して少しずつ範囲選択をしていかなければ抽出できなかった人物の髪の毛も正確に切り抜けるといった機能は、機械学習の得意とする分野であり、作業効率の向上に寄与する。

こうしたAdobe Senseiの進化は、今後もCreative Cloud製品の肝となっていくことだろう。今後の同Sensei技術の機能強化が写真管理、編集の世界にどういった変化をもたらすか、楽しみなところだ。

小山安博

某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、音楽プレーヤー、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、音楽プレーヤー、PC……たいてい何か新しいものを欲しがっている。