ニコン D850×NIKKORレンズ 写真家インタビュー

条件が悪くても拗ねずに素直に 心を動かす風景を求めて全国を旅する/風景写真・星野佑佳さん

D850 × AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR

昨年9月に発売され、2017年のカメラシーンを席巻したニコンD850。この1台を愛機として重宝する写真家たちにインタビューを敢行し、写真家になったきっかけ、写真への考え方、そしてD850の魅力などを存分に語ってもらうのが本連載だ。

第4回目は、京都を拠点に全国の風景を収める星野佑佳さん。写真を始めたきっかけは、思い立って見に行った琵琶湖の朝焼けの風景だという。そのときの日付まで明確に答えた星野さんは、「撮影の原動力は所有欲」「拗ねずに撮影を続けることが一番大事」と、一風変わった切り口で撮影のコツを語ってくれた。

星野佑佳

京都市生まれ。写真家・フォトエッセイスト。同志社大学法学部卒業。2000年から海外や日本全国を放浪しながら撮影を始める。2005年より地元である京都の風景や風物詩の撮影も手掛ける。三菱電機の液晶テレビWEBサイト「CLUB REAL」に、色彩豊かな京都の魅力を綴ったフォトエッセイを掲載。書籍には、写真を担当した『京の祭と行事365日』(淡交社)の他、雑誌『風景写真』の連載をまとめたフォトエッセイ集『撮り旅』がある。


D850

雪と水面に光が反射、冬の琵琶湖の朝焼けに感動

――写真家になったきっかけをお聞かせください。

写真家になる前、ある書店で写真集を買ったんです。琵琶湖の写真でした。当時はOLとして働いていましたが、ある日雪が降って、翌朝気持ちよく晴れました。そこで思い立って、カメラを持って琵琶湖を見に行きました。2月11日でしたね。そこで見た景色は、真っ赤に染まった朝焼けが雪に反射して、とてもきれいなものでした。その光景に夢中でシャッターを切って……。現像して出来上がった写真も本当に美しかった。

私は朝が弱いので、それまで朝焼けを見たことがなかったんです。まして、この時見た光景は雪や水面に光が反射していて、普通の朝焼けよりも一層幻想的でした。ここから写真の世界に入り込んでいきましたね。

この日、もし天気が崩れていたら、私は写真を始めていなかったと思います。建国記念の日で、ここから人生の道を踏み外しました(笑)。写真を始めてからしばらくの間、2月11日には必ず琵琶湖に撮影に出ていましたね。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 85mm / 絞り優先AE(F16・1/200秒・-3.0EV) / ISO 200

大きさや重さではなく、撮れる画でニコンを選択した

――カメラに求めることを3つあげると、何がありますか?

まずは丈夫であること。かなり遠出して撮影するので、機材を何台も持っていけるほど余裕はありません。できれば1セットですべて完結したいんです。そこでトラブルが起きてしまうと撮影ができなくなってしまうので、丈夫であることは大事ですね。

それから画質です。好みの絵がしっかりとしたクオリティーで撮れることが重要です。レンズのラインナップも、自分の思い通りの画を完成させるという意味で、画質に入りますね。

最後は操作性です。先ほども話したように、撮影した画像を簡単に確認できるのはありがたいですね。おまけは値段でしょうか(笑)。

逆に、デザインなどはまったく気にしないです。大きさや重さも、よっぽどでなければ気にしません。

――ニコンのカメラを使い始めたのはいつ頃からでしょうか?

D800E(2012年4月発売)からです。雑誌のタイアップ企画で使い、そこからニコンのカメラを使い始めました。一度返却することになり、この時すぐにD810に切り替えたのですが、これがとても使いやすくて。本格的にニコンのカメラをメイン機にしました。

D810で一番ありがたかったのは、電子先幕シャッターが使えるようになり、ブレがなくなったことです。それまでのカメラは、レリーズと三脚を使っても条件によってはピントが甘くなってしまうことがありました。私はもともと手持ち撮影はあまりせず、三脚できちんとピントを合わせてから撮影するので、カメラのシャッター動作でピントが甘くなってしまうことが不満でした。

フィルムカメラの時代、レンズの回折現象は今ほど目立たなかったので、絞りもF22など、かなり絞り込んでいました。でも、デジタルになると回折現象が気になるので、絞り込むのもほどほどにしています。そのぶん被写界深度が浅くなるので、ピント合わせはより慎重になりました。そうまでして気をつけていても、ミラーショックで微妙に甘くなってしまうのが嫌だったんです。

でも、D810からはそれがなくなりました。そのインパクトが大きくて、ニコンのカメラを使うようになりましたね。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 110mm / 絞り優先AE(F2.8・1/500秒・+1.0EV) / ISO 100

風景を写真にして持ち帰る感覚

――やはりピントはシビアに捉えられているんですね。では、星野さんの中で風景撮影の魅力とはなんでしょうか?

普段から日常的に目にする光景ではない、というところでしょうか。

私の場合は「所有欲」です。いいものを見たら「ほしい」と思うのと同じように、私は美しい景色があるとそれを「ほしい」と思うんです。記憶というあやふやなものの中に残すだけではなく、写真に撮ることで時間や空間が自分のものになる。

――「自分ならではに表現したい」という欲もあるのでは?

そうですね。変わった撮り方をすれば、それは自分なりの表現として自身のものになります。同じ場所でもたくさんの画が欲しいので、1カ所に何時間もとどまって撮影しますね。

風景は持って帰ることができないし、敷地をすべて買い取るわけにもいきません。だから写真に残して持ち帰る。そしてその写真も、自分にとって魅力的な画として完成させないと、気がすまないんです。

ですので、例えば他の人が撮ったきれいな写真をもらっても、あまり嬉しくないんです。自分が撮ることで、はじめてその場所が自分のものになるから……。きれいな景色があるなら同じ場所に行って、たとえ雨などで条件が悪かったとしても、その環境の中で納得できる1枚を撮る方が、幸せなんです。

そういった気持ちがあるので、カメラや機材にも、かなりこだわります。機能が揃っていないカメラで撮影しても、気分はあまり晴れません。撮る以上は良いカメラで良いものを撮りたいですね。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 130mm / 絞り優先AE(F11・1/25秒・-1.3EV) / ISO 200

――そういう意味でいうと、D850は満足できますか?

すごくいいですね。それまでD810の満足度が高かったので、新しい機種が出ても「どうかな」と思っていましたが、いざ使ってみると、更に満足度の高い機種でした。D810の良さはすべて踏襲しつつ、より便利になった印象です。タッチパネルやボタンイルミネーションが使える点も、とても気に入っています。

再現性よりも自分の好みに仕上げる

――画質など、写真の仕上がりの面ではいかがでしょうか?

ブレはさらになくなりましたよね。D810で感動したことが、D850になってより強化された印象です。また色も繊細にきれいに出るようになりました。

私は現像が苦手であまりやらないので、撮って出しの写真を使うことが多くあります。D850なら現場で追い込んで色を作れるので楽ですね。RAWデータの調整はほとんどしなくなりました。それくらい完成された色で撮影できます。

ピクチャーコントロールは基本的に「風景」で撮っています。夜などは「ニュートラル」で撮ることもあります。

また、ホワイトバランスの微調整もしています。「太陽光」をよく使っていて、詳細設定でさらに調整していきます。桜を撮る時にマゼンタを足したり、緑を撮る時にわずかにグリーンを乗せるなどですね。逆に、レッドを足すことはないです。これは好みですね。

現場で追い込んでいく時は、作品として良いと思えるように仕上げることを心がけています。再現性を求めるよりも、より自分好みに仕上げていく方を重視しています。自分が好きでない写真にはしたくないので、それも所有欲のひとつかもしれませんね。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 200mm / 絞り優先AE(F8.0・1/20秒・-0.7EV) / ISO 200

――星野さんの写真を拝見すると、暗部の表現もきっちり階調が残っているように見えますが、そのあたりの写りはいかがですか?

D850は黒つぶれしにくいのがありがたいですね。白飛びを抑えることを意識して撮影すると、暗めの写真になることが多いのですが、そこにディテールが残ってくれます。これはありがたいですね。

――常用ISO感度が64までになりました。

水をスローシャッターで撮るときなどは重宝します。NDフィルターは暗くなりすぎるので、あまり使いません。

逆に、星景ではISO 6400くらいまでなら上げています。写真展でもISO 6400で撮影した写真を展示しました。大きく引き伸ばしてもまったく問題なかったですね。

星の撮影は、15秒以上のシャッター速度になると中途半端に星が流れてしまうので、私は長くても15秒で止めるようにしていますが、15秒で星をきっちり表現しようとすると、どうしてもISO感度を上げて星のひとつひとつを輝かせる必要があります。今はISO 6400まで上げても問題ないので、高感度でしっかりと星を見せるられるのがいいですね。

撮影時のストレスが減るタッチパネル

――では操作性の面ではD850をどう感じていますか?

タッチパネルでピントを合わせられるし、撮影した写真の拡大もできるので、本当に便利ですね。ピントが甘かったり、ずれていたりすると作品にはならないので、それを簡単に確認できるのはありがたいです。撮影のストレスも減るため、撮りこぼしが減るんです。多少絞り込んででもその表現にしたいのか、ピントを優先して開けたほうがいいのか、そういう確認もできるようになるんですよね。タッチパネルがない機種では、マルチセレクターで画面の隅から隅まで確認するので、手がつりそうになって途中でやめてしまうこともありましたから。

それと、ボタンイルミネーションがとても便利です。普段から使いこんでいるのでボタンの配置は分かっていますが、それでも撮影に夢中になっていると、たまに思い出せない時があります。また、他の機種を同時に使っていたりすると、どっちがどっちだか分からなくなるんですよね。そういう時にボタンを光らせて確認できる機能があることは、とてもありがたいです。

また、ブレが少なくなるので撮影時は必ずサイレント撮影モードにしています。D850の場合、メカシャッターの音はあまり聞いたことがないくらいです。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 150mm / 絞り優先AE(F11・2.5秒・-0.3EV) / ISO 100

――XQDカードは使っていますか?

使っています。128GBのカードを使い、それが満杯になった時にSDカードを使います。RAWデータも必ず記録しています。

――バッテリーの持続力はいかがでしょうか。

まったく問題ないですね。冬に北海道へ行き、-20度の環境で撮影をしたことがあります。そのときに連写モードにして何時間も撮りっぱなしにしていました。星を撮影するときは、カメラやレンズにヒーターをつけてバッテリーが消耗しないようにする方もいらっしゃいますが、D850は何もせずに放置して一晩もちました。

望遠レンズでの作品も

――レンズについてお聞かせください。今お気に入りのレンズはなんでしょうか?

最近は望遠レンズの「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」を使っています。以前は広角レンズを使っていましたが、この1本が出てからは望遠で撮るようになりました。

画質もいいし、ゴーストやフレアも出ません。ピントもAFで正確に合わせてくれて、自分でMFで合わせることはないです。そこまで合わせてくれるので、絞り開放で撮ることが増えました。

それと、ピントを合わせる場所も正確に判断してくれます。他のレンズでは、自分が意図したものとは違う被写体を捉えて、そちらにピントを合わせてしまうこともありましたが、このレンズではそれもほとんどなくなりました。

条件が良くない時も拗ねずに

――星野さんは全国津々浦々、様々な場所で撮影されているようですが、撮影地はどのように決めているのでしょうか?

一番悩むところですね。撮りたい被写体が九州と信州の両地域にあるような場合は、どちらかを選ばないといけません。また、行けば何カ所か回るのでその旅程をどう組み立てるかが考えどころです。

例えば7日間の撮影期間があって九州に行ったとします。その7日間のうち、4日を九州撮影に使って残りの3日で帰りながら撮影するのか、または九州で6日間撮影して残りの1日で帰るのか。私の場合、何かのついでに撮る、というスタンスでは中々いい作品に仕上げられません。時間がないときは一カ所で集中して撮るのがいいんだろうなと痛感しているところです。

撮影:星野佑佳
ニコン D850 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 135mm / 絞り優先AE(F11・1/25秒・-0.7EV) / ISO 100

京都の自宅から自分の車で行くので、余計に撮影地の選定は重要ですね。どこに行くかを決めるのも、作品を作る上でとても大事です。

また、そうやって行く場所を選んでも、旅程の計算が間違っていたり、行った先で雨が降ったりして、条件が良くない時も、もちろんあります。そんな環境でも拗ねずに工夫して撮影を続けることが一番大事なんです。

もちろん毎回そうなるとは限りませんが、拗ねずに撮影を続けることで、悪条件の中でも素敵な作品が仕上がることはあります。拗ねてしまうとロクな作品が撮れません。どんなに条件が悪い場合も、拗ねずに撮影を続けて作品を作ってみてください。思わぬ出来栄えになるかもしれませんから。

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星野佑佳さんの使いこなしテクニックがデジタルカメラマガジンで読めます!

発売中のデジタルカメラマガジン2018年10月号には、星野佑佳さんによるD850 & AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの使いこなし方について掲載しました。こちらもぜひご覧ください!

制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン

中村僚

編集者・ライター。編集プロダクション勤務後、2017年に独立。在職時代にはじめてカメラ書籍を担当し、以来写真にのめり込む。『フォトコンライフ』元編集長、東京カメラ部写真集『人生を変えた1枚。人生を変える1枚。』などを担当。