インタビュー
本格的な作品になり得るフォトブック「PhotoJewel S」の魅力
風景写真家・中西敏貴さんの感想は?
2020年3月9日 07:00
キヤノンのフォトブック作成サービス「PhotoJewel S」のパソコン版アプリが昨年11月にアップデートされ、その内容が大幅に強化されているのをご存知でしょうか。
ユーザーインターフェイスを一新したことに加え、選択できる用紙に「ファインアート紙」と「ラスター紙」を追加。また見開きを完全に平らに開くことができる「レイフラットタイプ」も選択できるようになっています。市販の写真集に迫るフォトブックの制作が誰にでもできるようになっているのです。
そこで今回は風景写真家の中西敏貴さんに、リニューアルした「PhotoJewel S」を使ってもらい、使用感や仕上がりについてうかがいました。
中西敏貴
1971年大阪生まれ。在学中から北海道へと通い続け、2012年に撮影拠点である美瑛町へ移住。そこに住まう者としての視点を重視し、農の風景をモチーフに作品制作を続けてきた。
近年は、風景を情緒ではなく造形的に捉えることによって、その風景に潜む気配を浮かび上がらせるシリーズに取り組む。また、その撮影フィールドは海外にも向けられ、風景だけでなくそこに暮らす人々にも意識が拡張している。
主な写真集に「ORDINARY」( 風景写真出版 2016年)、「FARMLANDSCAPE」(青菁社 2019年)などがある。日本風景写真家協会会員、日本風景写真協会指導会員、Mind Shift GEARアンバサダー、Haglöfsフレンズ。
選択肢が増えて作品性がより高まった
——中西さんはリニューアル前の「PhotoJewel」も使われていた聞いています。どのような使い方をされていたのでしょうか。
以前、キヤノンの業務用プリンター「DreamLabo」で写真集を作ったことがありました。通常はRGBカラーで撮影した写真をCMYKに変換して印刷するため、写真全体の色がくすんでしまいますが、「DreamLabo」はRGBをそのまま印刷でき、そのときから画質に信頼を置いています。
その後、同じように「DreamLabo」で印刷できるフォトブックサービス「PhotoJewel」を知り、それを使ってサンプルブックを作ったり、写真展に合わせてプレゼンテーション用のブックを作ったりしていました。
というわけで「PhotoJewel」の画質には満足していたのですが、見開きで大きく写真を見せたいことがあります。しかしリニューアル前の「PhotoJewel」の場合、フラットタイプでは光沢紙しか選択できないなど、いくかの制限が気になっていました。光沢紙も悪くはないのですが、自分はマット調の用紙を想定した作品作りをしているので、その辺に違和感を感じていたのです。
新しくなった「PhotoJewel S」ではレイフラットタイプでファインアート紙が使えますよね。そこで今回はファインアート紙でフォトブックを制作してみました。
——用紙の選択肢が増え、しかもファインアート紙が使えるようになったわけですね。フォトブックそのものについてはあとでお聞きするとして、アプリでよくなったと思われるところを挙げてもらえますか。
細かいことですが、タイトルやキャプションなどに使える文字のフォントが増えました。これまでは基本的なフォントしか使用できなかったのですが、PCに入っているフォントが使えるようになったことで、デザインの自由度が上がりました。中面もそうですが、表紙の文字も自在に変えられるようになったのはうれしいです。
アプリの操作レスポンスが上がり、作業効率が大幅に向上したのも助かります。アプリ上での作業は、1ページ作っては前のページに戻り、また作っては戻り、という繰り返しになりがちです。頭の中のイメージをまず当てはめた後に、前後の写真の関係、リズム、バランス、余白の取り方など、全体の構成を俯瞰して再確認します。そういった時、アプリ上ですばやく前後のページを確認できるのはすばらしい。写真の読み込みにもストレスは感じませんでした。
——操作性も良くなっていましたか?
はい。ページに置く写真をレイアウトし直す際、直感的にドラッグ&ドロップでできるのはいいですね。何度もページを行ったり来たりして確認しましたが、レスポンスの良さも含めて、そうした操作が非常に楽でした。
色・階調・精細感……すべて文句なしの高画質
——さて、今回お作りいただいたフォトブックを見ていきましょう。テーマはなんでしょうか?
僕のことを知っている方は、北海道の美瑛や富良野の写真をイメージすると思います。それを期待されているし、実際に僕もその写真を撮ってきました。ただ、自分自身の写真の思考が深まってきて、撮影のテーマが変わってきています。
場所にとらわれずに風景の背景にあるもの。視覚的に見えているものの裏側にあるもの。例えば土地の成り立ちや歴史、今は動物がいないけど昔は住んでいたとか、そういった立ち上がってくるものを写真で撮れないかチャレンジしています。
ですので、この本のテーマは「ネクストステップ」ですね。前に行こうという決意をタイトルにも込めました。今までの中西敏貴とは違う世界を見せたいと思っています。
——なるほど、そうしたチャレンジが個人的にできるのも、フォトブックサービスのポイントですね。完成品を手にしてみて、表紙の印象はいかがですか?
質感がすばらしいです。本当に高級フォトブックです。マット調で手触りもいい。本は表紙の手触りが大事だと思っていて、手に持った時にどれだけ「いい」と思えるかどうかがとても大事なんです。自分で写真集を作る時にも表紙の紙質にこだわります。これなら数万円クラスの写真集と見劣りしないと思います。
——中面のファインアート紙はどうでしょう。画質はいかがですか?
とてもいい仕上がりです。黒の締まりがいい。今の時代はモニター上で写真を見ることが多く、それはつまりバックライトがある状態で見ているんです。そうすると、CMYKに変換された印刷物を見ると色がくすんでいたり、黒がしまっていなかったりして見えるんです。
しかしこのファインアート紙なら、モニターで見ている感覚に近く、マット紙でもメリハリがついています。黒が浮いてしまうことを一番心配していましたが、まったく杞憂でした。
光沢紙だと光が反射してしまい、見ている最中でも反射する光が気になってしまうんです。特に大きな写真集は机に置いて見るので、反射してしまうと自分の体を動かしたりするのが億劫です。その点、このファインアート紙はマット調で反射がないので、集中して鑑賞できます。水の写真は本当は光沢紙の方が合っていますが、このファインアート紙はコントラストが高く、キラキラ感も出ています。文句なしですね。
——色や階調のクオリティはどうでしょう。
ほぼイメージ通りです。ややマゼンタがかかったブルーは、通常の印刷ではなかなか出ず、くすんだりトーンが落ちたりします。今回はほぼモニターのイメージ通りに出力されています。それとグリーンですね。写真集を作る時には「色が出ないから」という理由で諦めることもありますが、「PhotoJewel S」ならその心配もありません。諦めてセレクトから外していた写真を入れられるのは嬉しいです。
今回のフォトブックには、シャドウが潰れるか潰れないかギリギリのところまで露出を落とした作品も含まれています。そういった作品の場合、印刷に回すとだいたい潰れてしまうのですが、今回のフォトブックでは細部まで潰れずに描写されています。かといって、締まりがないわけでもない。逆に言えば、「印刷で出ないから」という言い訳ができなくなるので、今まで以上に写真家のデータ作成の良し悪しが問われるでしょう。
精細感も良いですね。いまはデジタルカメラ自体が高精細になって、現場の空気感が写るような高画質になっています。そのぶん、印刷にもシャープネスが求められています。もちろん写真家の意向にもよりますが、僕たちのような風景写真家はなるべくシャープに、ディテールの細かい一粒一粒まで写真に落とし込もうとしています。せっかくうまく撮影できても、印刷でそれが再現できないとなると、これほど残念なことはありません。
——これだけのものを手にできるとなると、アマチュアの写真家でも、いい機材を買うモチベーションになるかもしれませんね。
その通りだと思います。ひと昔前よりもカメラの描写力は大幅に上がって、諧調とダイナミックレンジが格段に広がっているので、それを受け止められるだけの印刷が必要です。今までの商業印刷では我慢せざるを得ず、逆に印刷では潰れてしまう前提で画像補正などをしてきましたが、そういったことを考えずにPCに写る写真の印象のままフォトブックにできる。すごいことです。
フォトブックで写真をまとめる意義とは
——なにかひとつのプロジェクトを自分の中で作り、そのまとめとしてフォトブックを作るという過程は、写真が上達するためにも重要なことですか?
重要ですね。だらだらと撮り続けていると、自分の方向性がぶれたとしても気づけないものです。写真を撮っていると、興味の対象が拡張していきます。ポートレートが好きな人も時々風景は撮りたくなりますよね。そういった自分の思考を整理するためにも、どこかの区切りでモノを残すことは大事です。そうすることで、自分が次に撮るべきもの、撮りたいものも見えてきます。まとめることで初めて自分の長所も短所も見えてくるのです。
かといって、アマチュアの方は自分の写真集など簡単には出せませんから、「PhotoJewel S」でフォトブックを簡単に作れるようになったのはとても良いことだと思います。
——そういえば、制作後のデータも保存しておき、それを編集し直すこともできます。
中身や表紙などを少し変えたバージョンを作ることができますね。写真を撮り続けているとスキルが上がるので、時間が経てば写真そのものの趣向や組み方の好みも変わります。その度に組み替えるのも面白いでしょう。自分のPCでそうした工程を試行錯誤できるのはいいですね。
——これまでのフォトブックは、家族写真のアルバムや旅行の記念など、カジュアルな動機が大半でしたが、作品性が込められる形にするのはアマチュア写真家にとってもいいことですよね。
ファインアート紙とレイフラットタイプを用意したキヤノンさんの心意気を感じますよね。「作品を作ってね」と言っているようなものです(笑)。結婚式の時に何万円もかけてアルバムを作りますよね。それと同じように、一生に一度のものとして自分の作品集をつくってほしいです。
——「PhotoJewel S」シリーズでは自動レイアウトも自慢の機能になっています。今回、自動レイアウトは使われましたか?
使ってみました。一般的に、風景写真は春夏秋冬で並べますが、僕は最近の写真集ではすべて春夏秋冬を無視しています。というのも、春夏秋冬は人間的な概念で、自然は四季を意識していません。風景のその瞬間をただ切り取って、並べるようにしています。
写真集で言うなら、読者がページをめくった時に裏切りたいんです。「冬が来たから次は春かな」ではなく、予想とはまったく違った写真が出てきた時に「作者の意図はなんなんだろう」と思わせたいんです。
とはいえやはり自分の癖はあるので、どうしても意図は入ってしまいます。そんな時に自動レイアウトを使ってみると、思いもよらないセレクトをしてくれて、自分の想像がつかない組み合わせにしてくれます。悩んだ時に自動レイアウトを押していました。意外な発見をもたらしてくれましたね。自動レイアウトでまずはめてみて、その後に自分で変えてみるのもいいかもしれません。
——ありがとうございました。こんな方に「PhotoJewel S」を使って欲しい、という例はありますか?
自宅にプリンターがないけど、写真は撮っている、という人は多いと思います。写真は最終的に出力して完結すると思っているので、個人的にはモニターで完結してほしくないという思いはあります。プリンターを買わないのであれば、最終出力を「PhotoJewel S」で出すのはとても有効だと思います。クオリティも実証済ですから。
これだけ大きなフォトブックに見開きで載せた写真が、高精細で出力されますから。高性能になったカメラに答えられる出力方法が出現したと感じます。アマチュアの方が自分の記録を残すために、「PhotoJewel S」を最初の選択肢にするのはありでしょう。写真はプリントでも本でもモノとして残すことで初めて“写真”になります。それを体感するためにも、「PhotoJewel S」はとてもいいツールです。
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
撮影:山本春花