カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本最西端、“どぅなんちま”猫が暮らす国境の島を訪ねて(与那国島・後半)

東京から直線距離にして約2,000km離れた与那国島は、日本最西端の島です。晴れた日には台湾がうっすらと見える、日本の国境の島でもあります。

島をぐるっと囲む海は、ハンマーヘッドシャークとの遭遇率も高かったり、謎に包まれた海底遺跡があったり、ダイビングする人々を惹きつけてやみません。島の中は、断崖絶壁の岩山やジャングルのような山があり、草原のような牧場で在来種の与那国馬が暮らしています。

そして集落では、愛らしい“どぅなんちま・まゆ”が安穏と暮らしています。島の方言で、与那国島は“どぅなんちま”、猫は“まゆ”と言います。

与那国島1日目は島の東側を探索したので、2日目は、西側をぐるっとめぐりたいと思います!

【これまでのねこ島めぐり】

“最西端”の西側、対岸には台湾が

2日目は、与那国島の西側をゆっくりめぐります。

祖納の近くにあるホテルから、北側を通って西へと向かうと、与那国駐屯所が左手に見えてきました。2016年から自衛隊の駐屯地ができて、国境の島を砦のごとく、南西諸島の防衛に力を入れているようです。

祖納から車を走らせて20分ほどで、西の集落「久部良」に着きました。

久部良湾の周辺にひっそりと集落があり、青い海と緑の山の間に溶け込んでみえます。

異国の港町にも思える光景を、パチリと一枚。

久部良の集落から西崎(いりざき)に向かうと、「最西端の地」という石碑が立っていました。西の方角、約111km先には台湾があります。

あいにくの曇天でしたが、晴れた日には台湾が見えるそうです。

ぐるっと見渡さなければ視界に収まらない、180度以上に広がる海を一度に眺めると、もはや大海原に地球を感じてしまいます。壮大とは、こういうことだ、と思うのです。

世界の地図では、日本は極東の端っこに描かれていることがよくあります。西を眺めるということは、世界を眺めることでもあります。

ぼうっと、はるか西を眺めながらそう思えば、果てしない旅情が胸にこみ上げてきます。

小学校で心和む場面に出会う

その後、最西端から南下して、島にある3つの集落のうち、比川へと向かいました。

集落の海側にある比川小学校に車を止めると、道端をてくてく行く猫に出会いました。とくに警戒心が強いわけではないですが、「まゆ(猫)さ〜ん」とカメラを向けると、ぎょっとした表情を返されてしまいました。

島では、猫たちは自然体で暮らしているようで、誰かに声をかけられるということもないのでしょう。

せっかくなので、比川小学校を覗きにいくと、超絶微笑ましい光景に出くわしました。

猫ちゃんと小学生の女の子が一緒に遊んでいるのです。

猫は嬉しくて仕方がないみたいで、女の子が持っている棒がくるくる動き、棒の先端の紐がちょろちょろ動くのを追いかけ回していました。

「こんにちは〜」と、女の子のお母さんに声をかけると、

「あの猫、小学校に住み着いていて、ああして子ども達に懐いているんですよ〜」と、教えてくれました。

仔猫のときから、ずっとここにいるみたいです。

本当に、お友達同士で遊んでいるみたいで、楽しそうな雰囲気でした。

ふと、気づくとぽっちゃりとした猫さんもいました。

「だ、だれだい、見かけないヤツだにゃあ」

そんな訝しがる目つきをいただき、パチリと撮らせてもらいました。

Dr.コトーの診療所を訪ねて

小学校の校庭脇を歩き、海辺に出ると、左手奥に、「Dr.コトーの診療所」が見えました。

入場料300円で、中に入れます。

受付の女性曰く、「ここは撮影のために建てられたんですよ〜」と。中の道具もインテリアもすべて撮影用で、当時のままだそうです。

どこに、観光客がいるのかしら? と首を傾げたくなるほど、島の中で観光客に出会わなかったのですが、診療所では人口密度が高くて驚きました。

診療所の目前には、三日月型の比川浜が広がり、与那国島では珍しい遠浅の海は美しいターコイズブルーをしています。夏には、大勢の人が海水浴を楽しむのだろうけれど、冬の静かで穏やかな景色もいい。

島旅は、冬こそ島の性格がよく出るのかもしれません。

エビそばで一休み

比川小学校のほうへと戻り、ぺこぺこのお腹を満たすため、食事処「さとや」へ入りました。

比川には車海老の養殖場があるのですが、なんと「車海老そば」があるというので、注文してみました!

スープにエビの出しがよ〜く出ていて、海鮮風八重山そばという感じ。ぷりっぷりの車海老は殻をむいて食べても、身がきゅっと詰まっていて美味しい! ちょっと肌寒い日だったので、心も体も、ぽっかぽか。

森の中に楽園が!?

さて、最後に行こうか迷っていたところへ、行ってみることにしました。

東側の立神岩の近く、森の中になりますが、「人面岩」があるというのです。

「人面岩がなぜあるのか、あれは作られたものか、不思議ですよ」と島の方から聞いて、行ってみたくなったのです。

とはいえ、具体的な行き方を聞かなかったので、行けるか謎のまま。

比川から東側へと車を走らせると、ふと右手の森の中に、車が一台通れる程度の狭い道がありました。

「もしや?」

と車を止め、どきどきしながら、森の中へと踏み入れてみました。

亜熱帯植物が生い茂り、時折、オオゴマダラと思われる蝶がパタパタと飛んで、楽園のよう。

道が続く限り行ってみようと歩くこと30分ほど。

小さなビーサンが置かれている、と思ったら、そこに「人面岩」と書いてありました。誰かの、心もとない、けれどありがたい道しるべです。

道はさらに細く、狭くなるけれど、ふっと左手に大きな岩があるのに気づきました。

「人面岩!」

笑っているのか、威嚇しているのかわからない表情ですが、ふと、人より猫の顔みたいだなと思ってしまいました。猫が好きだと、なんでも猫に見えるようです。

来た道をまた30分ほどかけて戻り、ふうっと一息つきました。

ひろがる海、つづく水平線

日が暮れると、島は暗闇になります。

街灯がものすごく少ないので、夜の闇に包まれるのです。

日が沈む前に、車をかっ飛ばして、大海原を眺めにいきました。

スケールアウトして、距離感がつかめません。

雨が降ったり、曇天が続いた“どぅなんちま”の2日間。

島は奥深くて、まだまだ表面にしか触れられなかった気もしますが、それでも心は満たされて、安らかで、幸せでした。

夏はまた、島の色は変わることでしょう。その色を見に、写真を撮りに、もちろん“まゆ”(猫)たちにも会いに、必ずまた来たいと思います。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。