カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

珊瑚の石垣が圧巻の知られざる島で、ネコに会う(与路島・前半)

かつて琉球文化と濃いつながりのあった奄美群島。その一つに、周囲約25kmの与路島があります。同じ群島にある「与論島」と間違えられる、あまり知られていない島だと思います。

与路島(よろじま)は、奄美大島の南に浮かぶ加計呂麻島より、さらに南に位置します。

人口は約80人で、集落は港を中心に一つだけ。

私が与路島を知ったのは、10年前にはじめて加計呂麻島に来た時でした。宿の海辺からまっすぐ前方に、仄かに島影が見えたのです。

「あれは請島(うけじま)だよ。右側にあるのが与路島」

そして、もし行くのだとしたら、加計呂麻島とは景観が異なる与路島がいいと教えてくれました。それならば、次回必ず行こう。

そう思ってから10年が経ちました。請島・与路島へ行く船は、海流の影響で欠航が多いこともあって、加計呂麻島から目と鼻の先なのに、遠い島だったのです。ひたすら、仄かに見える島影の写真だけが、数え切れないほど増えていきました。

今回、女将さんに相談すると「加計呂麻島からチャーターできるよ。猫もいると思うよ」と聞いて、カメラを携え、同宿の旅人たちと一緒に行くことにしました。

どんな景観の島で、どれほど愛らしい猫たちが暮らしているのでしょう。

いざ、念願の与路島へ!

【これまでのねこ島めぐり】

チャーター便で与路島へ

与路島へ行くには、本来ならば、奄美大島の南端にある古仁屋港から、町営連絡船「せとなみ」に乗れば、請島を経由して約100分で到着します。

ただ、欠航になることが多く、また加計呂麻島から行くには船をチャーターするのがベスト。

今回、加計呂麻島の伊子茂という集落から「おさい丸」をチャーターして、同宿の旅人と女将さん、島の方と8名で向かいました。一人あたり、片道1,500円。朝9時半に伊子茂港を出て、午後13時に与路島を出る予定。

与路島へ行く前日、かなり海が時化ていました。だから朝起きたとき、曇天の空を見て「ああ、今回も行けないのか……!」と諦め半分でいると、「大丈夫。この風なら、行けそうよ」と、予期せぬ吉報を女将さんが告げてくれました。

心底ほっとしたのと同時に、風を読む研ぎ澄まされた感覚は神業のように思えました。

到着早々、猫がお出迎え

伊子茂から出て約30分で与路島に到着。途中、出航して20分ほどのところで、下からどんと突き上げるような、ダイナミックな波に変わりました。こんな近い距離でも、海がまったく変わることに驚きました。

やっと波が安定してきたところで、与路島の風光を広角でパチリ。

港に着くと、「いーおーちゃーどー」(ようこそ)と「またおーりんしょれよ」(またおいでね)と書かれた船の待合所がありました。

「わあ、読めないねえ」とみんなで言いながら、わいわい。まるで、海外に来たみたい。

さっそく集落を散策!

いきなり、港からもっとも近い民家の入り口で、ひょっこり猫さんがいました。望遠レンズで、遠くから1枚撮らせてもらいました。

ふと、近くには、首にリボンをした可愛い仔猫さんも発見。

「ね、いっぱい、猫いるでしょ」と女将さん自慢げ。

民家で猫たちにご挨拶をしていると、家の中からおじさんが出てきたので、「こんにちは〜。猫たち、どれくらいいるんですか?」と聞くと、

「8匹いるよ〜。この子はブドウって名前」と、ひょっこり猫さんの名前を教えてくれました。

島ならではの景観を生む珊瑚石の石垣

「こっちの道に行くと、石垣がすごいよ〜。色が違うからねえ。黒いのが古いの、白いのが新しいの。まあゆっくりね〜」

会話をしていると、ゆったりとした気持ちになってきます。

そして、港を背にして左手に歩くと、すぐに美しい珊瑚の石垣が広がりました。

これが、「加計呂麻島にはない」と女将さんが言う景観です。

昔はこんな立派な珊瑚石が海にいっぱいあって、拾っては積み上げて、風除けにしていたそうです。

「私らが小さい頃は、道もコンクリートじゃなくてね、白い砂の道だったんだけどねえ」と女将さん。八重山諸島の竹富島みたいだったそうです。

もともと珊瑚の多い島では、どの島もこんな景観が多かったのではないかな、と感じました。

石垣に近づいて写真を撮ると、まるでアート。どこで構図を切り取るか、人それぞれの感性が現れそうです。

面白くて、パシャパシャ撮っていたら、うっかり集団から置いてきぼりにされました(笑)。

一緒にチャーターした方に、せっかくなので私の身長よりも高い石垣の前で、写真を撮ってもらいました。こんな立派な珊瑚の石垣、生まれて初めてみました!

島に息づく歴史と出会う

集落に、「与路へき地診療所」があり、その左手には「珊瑚石垣修復記念碑」があります。

港近くの民家の猫おじさんが、「石垣は古いものと新しいものがある」と言っていましたが、平成21年から珊瑚石垣景観整備事業としてきちんと修復をしているようです。現在、この街並みは、国土交通省の「島の宝百景」に認定されています。

奥にある「祖国復帰記念」は、第二次世界大戦後、アメリカから沖縄よりも少し早く日本に返還された記念の鐘。現在、非常時に鳴らすとか。

島を歩くと、歴史に出会って面白いです。

公民館の前には、土俵があります。奄美大島は、日本一土俵が多い島なのですが、同じ奄美群島なので、相撲文化があるのでしょう。

猫も島時間

さらに進むと、また、ひょっこり猫さんたちと出会いました。

首輪をしているので、飼い猫かと思います。草むらにいて、ちょっと警戒心がありそうなので、望遠レンズに変えて撮ってみました。

洋猫風の目の色が青い猫さんと、頭だけ三毛猫の猫さん。

「だれにゃ?」

「みかけないやつだにゃ」

そんな感じで警戒していたかもしれませんが、とくに逃げたりもせず。それにしても、この島では、基本的に家と外を自由に出入りする飼い猫が多い印象。

さらにてくてく歩くと、集落の端っこ民家で、またも三毛猫さんを発見!

近づくと、屋根からひょっこりのぞいて、こちらの様子を監視。そして、「なーお」とわりと低い声で、おっとりと、ご挨拶してくれました。

ミケさんの写真を撮っていると、その民家からグレーの可愛い猫さんが出てきました。

う〜ん、珊瑚石に猫は絵になるな〜。

ウキウキしながら写真を撮っていたら、民家から女の子が出てきました。自転車でどこか行こうとするのを、あわててグレーの猫さんが追いかけていったのが、とても微笑ましかったです。

その間も、三毛猫さんは、「なーお、なーお」と言ってお話しています。

女の子のあとに、お母さんが自転車で出て来たので、猫さんたちの名前を聞くと、「三毛猫がモカで、グレーの子がハイソック。ハイソックは鹿児島市生まれなの」と教えてくれました。

石垣に宿る時間を感じる

その後も、集落をぐるぐる。

珊瑚の石垣は、時代の経過を教えてくれるかのように、黒や白、グレー、苔むした緑と、少しずつ変化があります。

そう思うと、島にはそういう「時間」を告げるサインのようなものが、足元や見上げたところに、ひっそりと在るのかもしれません。

ガジュマルに飲み込まれそうな石垣は、ガジュマルの巨体を支えてあげているようにも見えます。長い歳月の、付かず離れずの距離は終わり、今はしっかりとくっ付いて共生しているかのようです。

白茶トラ猫さんがいたので、とことこ歩いていく方向へ、後をついていくと、海沿いの道に出ました。アダン並木がずっと港のほうまで続いています。

「ほらごらんよ〜。こんなかっこいいところがあるにゃん」

ちらっと振り返って、そう教えてくれているみたいでした。

さて、散策はまだ続きます。

つづく

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。