編集後記

2021年5月28日

宮澤孝周

最近ずっと小脇に抱えるようにして、折にふれて読み続けている本があります。田沼武能さんが編者の『土門拳 写真論集』(ちくま学芸文庫、2016年1月)です。

2部構成になっていて、前半は土門拳さんが選評をつとめたカメラ誌の投稿選評が集められています。後半は評論とエッセイでの構成。どちらにも土門流の写真に対する考え方やスタンスが貫かれていて、今の視点から見ても色あせない力強さがあります。

35mmレンズを使うことの意義を説いた一文もユニーク。「視界がちょうどいい」と、ややぶっきらぼうに断じながらも、続けて「眼を頼りとするぼくたちの普段の行動と一致している」と身体感覚に根づいた直感で補強。そして実用上の利点や活用方法で締めていく流れには、鮮やかさすら感じさせられます。

ひとつひとつの項目でボリュームがちょうどよい長さとなっているところも、本書構成の面白さでしょうか。はっとさせられる視点が数多くちりばめられています。選評はその当時のものですから、時代性を伴う評言は、そこかしこに認められます。ただ、写真と向き合い、また投稿者に対しても真摯に向き合う、ひとつひとつの評言には確かな力強さと温かさが宿っていることがわかります。土門拳という写真家の人柄がにじむようでもあると感じる部分です。

自身のものであれ、他者のものであれ、誰かが手がけたものを評言するということには、相応の責任が伴います。それでも一歩も二歩も踏み込んで、写真に寄り添っていこうとする姿勢を崩さない強さには、あらためて姿勢を正されるようでした。