山岸伸の「写真のキモチ」
第85回:続・茨城県行方市と写真を通じて
第2弾 霞ヶ浦にて夕日撮影
2025年1月31日 12:00
昨年より茨城県行方市と写真を通してできることを企画し始めた山岸さん。10月に行った花火撮影講座に続き第2弾の夕日撮影写真講座が今年1月25日に行われた。講座をするにあたって訪れた撮影、そしてどのような講座になったのかお聞きしました。(聞き手・文:近井沙妃)
行方市とのこれまで
昨年10月、茨城県行方市より依頼を受け花火撮影の実習をおこなった。はっきり言うと花火は上がっているのを通りすがりに撮ったことがあるぐらい。見るのは好きだが撮ろうとはなかなか思わなかった。OM SYSTEMの香嶋さんにサポートいただき約30名の参加者の前で花火の撮り方を説明。後日皆さんが撮影した花火を拝見すると、とても綺麗に撮られていた。
当初私が行方市に興味を持ったきっかけは霞ヶ浦に浮かぶ帆引き船。1度撮ってみたいと思い、市は私の為に船を出してくれるところまで協力してくれたが生憎の天候で帆が上がらず撮影は叶わなかった。またチャンスはある。今年もう1度トライしてみたいと思う。
撮影講座、第2弾
第2弾の依頼がまさかこんなに早くあるとは思っていなかった。今回いただいたお題は夕日。行方市は霞ヶ浦の先に富士山や筑波山がよく見える。私は50年ほど世界中を撮影してきたが、常に人物を中心に撮っていて風景は花火同様に車内から通り過ぎていく風景を撮る程度。講座用の資料を作るために昔のデータを引っ張り出し探したが特にデジタル時代になってからはほとんどない。フィルム時代はひょっとするとサイパンやハワイに落ちる夕日を撮ったことがあるかもしれないが見つけることが出来なかった。
数枚撮影していた中から2点。1点はカルフォルニアで道路沿いに車を停めてクリップオンのストロボを1灯焚いて撮った夕景。もう1点はタイのホテルの上から撮ったもの。どんな時でも撮るんだ、撮って残すんだと言い続けてきた私がいざテーマを絞って写真を探すとほとんど無いという残念な話(笑)。
そして空いたスケジュールで行方へ。14時ぐらいに到着し霞ヶ浦の夕日が落ちるポイントでスタンバイ。気合十分で挑んだが天候は少し晴れたり曇ったりと恵まれなかった。私がグラビアやポートレートを撮るときは前日が雨でもほとんど晴れる。晴男だと信じているがどうも風景となると晴れが少ない。土手にしゃがみ込み3時間ほど日が落ちるのを待った。
まずは日が落ちる前に撮れるシーンから。今回の機材は手持ちでライカ、三脚にソニーがメイン。三脚を使うことできちんと風景を見極めることが出来る。これは絶対的におすすめ。同じ場所で2~3枚露出を変えて撮ってみる。風景写真はある程度までは設定やアングルで美しさの表現が出来ると思っている。
次にフィルターを使用。40年前に使用していたゼラチンフィルターやオリジナルのフィルターなどを装着してみた。普段はほとんど使わず、デジタルに移行後では最近お気に入りのオムニクリエイティブフィルター(ケンコー・トキナー)を気軽に手持ちで使うぐらい。色を変えるためのものは使用しない。
このフィルターの良さは加減が出来る点。私は手持ちで上下だけではなく前後左右、絞りなどに合わせて変えていく。今回2種類使用したがどうもまだまだしっくりこない(笑)。いつかフィルターをたくさん持って来て皆さんにも使っていただくことも出来るように努力したい。
テスト的な感覚でスローシャッターを切ってみる。画角や見方によっては広い海のようにも見えるが波がそんなに立っているわけではない。
目的はあくまでも夕日。姿を見せてくれなかったが雲の流れの中からチラりと太陽が見える、そんな状況だった。
難しく感じたのは主役の夕日のみが湖にポツンとあった場合、色が変わるだけでは画として寂しい点。山なり植物なり岩なり滝なり、何か画面内に入れ込むものが他にあれば焦点を変えて撮ることができる。霞ヶ浦は広く、手前に準主役になる被写体がなかなかないため落ちていく太陽と対岸の景色がメイン。だが撮るモノは探せばいくらでもある。思いついたときにシャッターを切る。
この画角に夕日は写らないが、筑波山を主役として手前に木を入れたりなど変化をつけ撮影。
同じ露出でホワイトバランスのみ変更。
今回持参した中で1番長い望遠レンズは60-600mm。水鳥たちが遊んでいたりアオサギがいた。もっと長いレンズを持っていればきちんと撮ることが出来る。
天候だけは力でどうにもできない。だが天候が悪いからやめようという気持ちにもならない。せっかく行ったんだから撮ろう。今日と明日は天候が変わり違う写真になるかもしれないが湖や山は逃げていかない。もしまた撮ろうという気持ちになれば1カ月後1年後、またそこに来れば同じような写真が撮れるはず。周りがどう変わっていっても、もの凄く大きく変わることは無いと思う。とにかく粘ってそこで1番いい所を見つけ出す。それはポートレートも同じだと思う。まずは腰を据えてその風景を見る。そこから始めていこう。
写真講座当日
2度目の写真講座当日、東京を出発した頃は若干天気が悪く途中で雨も降っていた。行方に到着し講座を終えカーテンを開けたらなんと外は青空。これは撮影に行かなくては!と、参加者の皆さんと一気に撮影場所に向かった。
行方市には主に4つの夕日撮影ポイントがあり、今回はその中の1つである天王崎公園へ。
ここは前回花火撮影をした場所でもある。早速私もカメラを持ち各々自由に撮影開始。ひたすら広く対岸しか見えないような湖が逆に凪のある美しい夕景を撮らせてくれた。参加者の皆さんもそれなりに満足して撮影を終えたと思う。
この太陽が出ている写真の向こうに富士山がチラリと見えるが、バッチリ見える日もあるらしい。地元の方が以前撮られた写真をスマホの画面で見せてくれた。いつか私もそのダイヤモンド富士を見てみたいし自分のカメラで納めたい。今回も肝心要のダイヤモンド富士は見えなかったが写真を撮って元気になり、たくさんの美味しい空気を吸って帰ることが出来た。風景というのはいいですね。
このまま日が落ちて湖にどのような色が付くかは残念ながら少し先に帰ったので見ることが出来なかったが、またの機会に何度でもトライしようと思う。
帰り際に行方市観光協会の2025年カレンダーをいただいたが、10月に撮影した花火の写真が使用されていた。これはアシスタントの近井が撮った1枚。やはり印刷物になると嬉しいですね。本人は花火の一部が露出オーバーで飛んでいる所が気になると言っていたがこれはこれでいい感じに出来ているのでよしということで、今年はもう少し上手な花火を撮れるように私も含め勉強しよう。
第3弾、構想中
今回これで行方を訪れるのはロケハンや打ち合わせ含め5回目。霞ヶ浦を撮らずして行方市の良さを伝えることは出来ないと思う。1人のカメラマンが1つの町に出向き写真を撮り、写真の力で良さを皆さんに伝えることが出来れば幸いだ。私はその繰り返しで北海道帯広市にある「ばんえい競馬」を撮り続けた。赤字で廃止の危機という運命を乗り越え今ではお客様も多くいらして黒字に回復、競馬場に活気が戻った。もちろん写真の力だけでなく様々な人の努力で復活したのだが、少しでも写真の力で役に立つことがあればと思い行方市にも通っている。
撮影講座の第3弾、となるかはまだ分からないが行方には私が撮りたい古い建物があり、そこで一度浴衣や着物の撮影をしてみたい。暖かくなりそういう機会があれば是非にと思う。