山岸伸の「写真のキモチ」

第37回:「ミス・アース」って、ご存じですか?

世界80以上の国と地域が参加する美の祭典

山岸さんが撮影したミス・アース 日本大会パンフレット。グランプリ受賞者が翌年の表紙となる。左から2016年日本代表 蜂谷晏海、2017年日本代表 斎藤恭代、2018年日本代表 田中美緒、2019年日本代表 伊徳有加、2020年日本代表 東出あんな、2021年日本代表 吉田小夏

ミス・アースは2001年に第一回目の世界大会が行われて以来、ミス・ユニバース、ミス・インターナショナル、ミス・ワールドと並び、世界4大ミスコンテストとして開催される世界規模の美の祭典。その中でも地球環境保護に対する意識や活動を重視した非常に特徴的なコンテストです。2016年からオフィシャルカメラマンを務める山岸さんにお話しを聞きました。(聞き手・文:近井沙妃)

許可取りのハードルは想像以上

私は2016年 日本代表 蜂谷晏海さんの撮影からミス・アース・ジャパンのオフィシャルカメラマンとして携わり、日本大会のパンフレット用に各県代表を撮影、日本大会の審査、日本代表に選ばれた方を世界大会へ向けてナショナルコスチュームで撮影しています。

最初に、今回記事を書くにあたりミス・アース・ジャパン 代表理事の坂田さんへご連絡し、パンフレットの表紙や写真の使用許可を得ました。この連載は相手がモデルさんや人物であることが多く、使用時には許可を取らなくてはなりません。加えて出版物は出版社の許可が必要です。このハードルは想像以上に高いのです。

何故なら、撮影時から時間が経つと人には様々な変化があるからです。例えば結婚や出産、転職や仕事を辞めたりなど……。その中で許可を取ることは非常に大変ですが、とても大切なことなのです。人物以外の風景や街スナップなどの許可も最近は厳しくなっている傾向にあると感じます。

やはり写真には肖像権・著作権があって、それをクリアにし、発表をするにも撮影地、撮影者、被写体、発表する場所、その全てがひとつにならないとこのような形で発表することができません。私も撮影時には発表することを前提として許可取りをしたり、写りこむ背景や物に極力配慮しています。

日本大会、ファイナリストの撮影

日本大会の前に全国から各県の代表が都内のスタジオに集まり、ドレス・水着姿でプロフィール撮影をします。1グループ約6名がグループごとに時間差でスタジオに入り、撮影人数は合計で約30~40名になります。

パンフレットにはドレス姿しか載らないのですが、大会では水着審査もあります。最初の頃は何故ミスコンで水着の審査があるのか私なりにあまり理解できない部分があったのですが、実は水着姿を見た後にドレス姿を見ると納得するというか、恐らくですが不正や色々な理由があって一度水着姿で写真を撮ってその次にドレス姿を撮っていたのでしょう。

撮影の合間に記念写真。皆さん本当に明るく美しい

やはりこの大人数をその日のうちに撮るのはなかなか大変ですが、皆さん和気あいあいで楽しく撮影をさせてもらっています。また今年も、お声をかけていただければ喜んで全力で撮影させていただきます。

ホテル椿山荘東京での日本大会本番

さて、プロフィール撮影を終えるといよいよ椿山荘での日本大会本番です。マスコミの方も多く集まり厳正な審査が行われます。審査員として席に座り、質疑応答などがありますが、どの審査員が誰に質問をするかはその場で決まるのでこちらとしてもドキドキしながら採点しています(笑)。自分が良いと思った子たちが受賞するかどうか、毎回非常に気になりますが、やはり自分が選んだ人たちが最終的に上位に残っていくんです。なんだか自分の目というものを確認しながら審査ができていることが非常に勉強になります。

2021年日本大会の記録。実に華やかです

皆さんが円卓のテーブルで食事をしている間に必死に点数をつけています

私は右側でマスクをして審査をしています

審査中に気になる点がひとつ。出場者に当たるスポットライトです。実はこれが立ち位置によってはピンスポットで顔に強い影ができて、そして動きがないとすごく綺麗な方でもそうでもなく見えてしまったりするのです。この大会に限らず、このようなシーンではいつも、難しい光だなと感じます。

ミスが決まる瞬間、このとき私は審査員席に座っているので正面から撮影はできませんが、マッハ君(アシスタント)が記録として撮ってくれています

また会場にはたくさんの知人や懐かしい方もいて、審査後のアフターパーティーに顔を出すのも楽しみのひとつです。

世界大会へ向けて

日本代表になった方は私のスタジオに来ていただいて日本代表のサッシュを付けてのドレス姿やナショナルコスチュームでの撮影をします。マンツーマンだとしっかりと時間も取れるし、世界大会へ向けてこちらもより一層気持ちが入ります。

(左)2016年日本代表 蜂谷晏海さんと。私のオフィシャルカメラマンとしての始まり。(中央)2020年日本代表 東出あんなさんと。(右)2021年日本代表 吉田小夏さんと

(左・中央)2018年日本代表 田中美緒さんと。(右)2019年日本代表 伊徳有加さんとミス・アース・ジャパン 坂田理事

そして見てください。彼女たちの大きさ。ミスコンテストはたくさんありますが、世界大会レベルとなると身長や年齢制限があり、高い基準が求められます。私が勝手に思うことは、世界に行くとやはり170~180cmくらいの美女達がうようよいる中で日本代表の方も大きさで負けないように、ということです。

2017年日本代表 斎藤恭代さんと。身長差に驚き、ちょっとふざけてミニ脚立でセッシュしちゃいました(笑)

2018年日本代表 田中美緒さんと。ミス・アース・ジャパンでは身長165cm以上が条件となる。田中さんは身長178cmの高身長です!

あれ、動画ですか?

2022年日本代表に選ばれたのは埼玉代表の松本真映さん。世界大会へ向けナショナルコスチュームの撮影依頼を事務局から受けましたが、今回は世界の方々から見て日本だとすぐに分かる場所を選ばなければなりませんでした。過去には寺社仏閣などを撮影地に選び表現していたそうですが、事務局と相談を重ねた結果、「椿山荘の日本庭園にしよう」ということになりました。

椿山荘の日本庭園にてホテルスタッフ立ち会いのもと、お客様や場所に配慮した上で撮影が行われた。ナショナルコスチュームデザイン:ドレスワールド東京 鷹城佳代

グリーンの抜けに滝の流れを入れ、松本さんと衣装で日本の美を表現

ナショナルコスチュームには様々な意味や願いが込められたモチーフ・デザインが施される

笑える話です。撮影当日、アシスタントのマッハ佐藤君を連れて颯爽と待ち合わせ時間に伺いました。世界大会で着るナショナルコスチュームでの撮影ということで、てっきり写真撮影のためだと思い、私は最近使っているライカのSL2と、おさえとしてキヤノンのEOS R5を持って行きました。

現場で担当の理事に撮影内容を聞いていたら、「……あれ? 写真じゃないの? 動画なの!?」と。なんと驚き、メインは動画撮影でした。理事もポカーンとして、「……あれ? 言ってなかったっけ?」と。そこで、理事と言った言わないを言ってもしょうがない。

理事は、ずっと私をこのミス・アースの審査とオフィシャルカメラマンとして任せてくれているので、なんとしてもここはメインの動画を撮らなければいけません。「マッハ、撮れるか……!?」もちろん動画撮影用の用意は一切無く、EOS R5にレンズは24-70mmと70-200mmの2本のみです。しかし撮るしかない、「マッハ頑張れ……!」。もちろん私がシチュエーションやカメラワークをある程度ディレクションし、マッハに撮影を指示しました。動画の尺は1分弱、比較的短いとは言っても道具はそれしか持っていないので結構大変です。

加えて彼女が着ているコスチュームが大掛かりなもので、歩いて移動するのも一苦労。本当に、空を見上げて「助けて」と言いたいくらいでした。ですが、彼女の魅力やコスチュームと場所の良さでなんとか切り抜け、動画を作ることできました。運が良くミストが後ろに吹き出たり、運が良く晴れたり、全て運が良く撮影ができたということだけは皆さんにお伝えしたいです。

椿山荘の国内最大級である霧の庭園演出「東京雲海」で運良くミストが背景に吹き出る

照明にプロフォトのB10X Plusを使用、明暗と橋の造形の奥行きで彼女が引き立つ

動画は編集までマッハが担当し、指定の音楽を当てはめて急いで作ったものです。世界大会の会場で世界中の美女たちがこの動画を見るという、その中の1分弱ですがマッハが作った動画が入っています。あ、写真はもちろん、私ですが(笑)。

Miss Earth YouTube公式チャンネルより。45分30秒ごろから。ぜひご覧下さい

私はミス・アースにオフィシャルカメラマンとして携わり、こうして日本大会が開催できること、そして世界に彼女たちを送り出す手伝いができているということが私にとって誇りであり、日本人が世界大会に出て堂々と戦える、その姿を見られることが大きな喜びです。今後もできる限り、ミス・アース・ジャパンの発展に写真で力添えできれば幸いです。

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。