フォトコン生活のすすめ

第5回 応募票を記入する

この連載「フォトコン生活のすすめ」では、フォトコンテストに応募するためのテクニックや考え方をお伝えしています。

最終回の今回は、応募のための最後の作業、応募票の作り方について。作品とともに実は重要な応募票について、いつものように岡嶋和幸さんに解説してもらいました。

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「応募票」は最後の仕上げ

筆者の岡嶋和幸さん。数多くのフォトコンテスト選者を担当。近著は写真集「風と土」やムック「プリントすると写真が上手くなる」など。

応募作品が用意できたら、あとはそれを送るだけと思いきや、とても大切な作業が最後に残されています。それは応募票の記入です。

多くのフォトコンテストで、プリントと一緒に提出します。画像データでインターネットで応募できるフォトコンテストの場合はパソコン画面で入力することになりますが、必要事項をきちんと漏れなく記入する必要があります。連絡先が書かれていなかったり、ハンドルネームだけで本名が分からないなど、審査員に作品を選んでもらうことができても、記入漏れで入賞が取り消される可能性もあるので注意しましょう。

応募票を記入する
応募票はフォトコンテストの募集チラシに印刷されていたり、ウェブサイトからダウンロードできる場合があります。特に用意がなければ、必要事項が記入できるものを自作するといいでしょう。応募票を印刷し、黒のボールペンなどで読みやすい文字で正確に記入します。応募票がPDF形式の場合は、Adobe Acrobatのフォーム入力を利用することも可能です。
応募票を作品に貼る
プリントの裏面にテープなどで1点ずつ応募票を貼り付けます。入賞作品は誌面やウェブサイトなどに掲載するために応募票を外す場合があるので、両面テープや糊などは使用しないほうがいいでしょう。作品の天地も明記します。記入欄が設けられていない場合は、分かりやすい場所に矢印を書き込んでみましょう。作品の天地の指示が何もなければ、貼り付けた応募票の向きで判断されることになります。組写真の場合は順番が分かるように番号を付けます。

タイトル(作品名、画題)やコメント(作品の説明)、撮影データなどは、記入しながら考えたり調べたりするのではなく、あらかじめきちんと整理しておくことが大切です。

なかでも重要なのが作品のタイトルです。タイトルとして付けられた言葉によって写真の見え方や感じ方が違ってきます。自分の写真表現をどのように受け止めて欲しいのかをしっかり意識しながら考えてみましょう。広告写真のキャッチコピーのようにとまではいかなくても、審査員を自分の作品の世界に上手に引き入れるためにタイトルにする言葉は慎重に選びたいものです。タイトルを読まない審査員がいるかもしれないので、もちろんその効果は限定的です。

作品への理解度を高めるために、私は付けられたタイトルは基本的に読むようにしています。全ての応募作品ではなく、目に留まったり選考に残ったものだけになりますが、タイトルには作品に対する作者の思いが表れていて、表現意図などをくみ取るための貴重な情報源です。撮影するときに何を感じたのか、応募した作品で何を伝えようとしているのかなどを付けられた言葉からうかがい知ることができます。独創性のある作品ほど、タイトルにもこだわりや工夫が感じられる傾向です。入賞作品の選評を書くときも、その言葉との関係を意識しながら切り取られた世界を観察したり、より深く感じようとしています。

撮影した被写体や場所の名称など、タイトルが説明的なものだと作品の良さがいまひとつ伝わりづらい傾向です。写真を見れば分かることをタイトルにするのはもったいないです。

タイトルは「モノ」ではなく「コト」を表した言葉にしたほうが効果的だと思います。なかにはとりあえず付けましたと投げやりな感じのものや、「無題」と書かれているケースもありますが、安易な言葉選びだと判断されればマイナスの評価となるでしょう。

入賞作品の選評でタイトルの改善をアドバイスするケースもたまに目にします。もちろん選ばれて評価されているわけですが、タイトル次第でさらに上位を狙えたかもしれません。また、難しい漢字を使ったり英語にするなど、言葉の読み方や意味が分かりづらい場合も逆効果となることがあります。

文章を書くのが苦手という人は少なくないでしょう。コメント欄には撮影や表現の意図など作品についての説明を記入しますが、それが必須の場合は頑張って書くしかありません。ほんのひと言だけだったり、コメントが任意の場合は空欄のケースも見られますが、審査員とコミュニケーションを取るための手段でもあるのでもったいないです。当落ラインでは、コメントにより応募作品の理解が深まり入賞に傾くことがあるかもしれません。入賞作品の中でより上位となる可能性も出てくるでしょう。

ただし、コメントを読まない審査員もいるようです。私の場合、選考の最初の段階では写真の内容だけで判断します。二次選考や三次選考と進むにつれ、タイトルなどの文字情報を参照して表現意図などをくみ取るようにします。そして最終選考ではコメントにも目を通します。甲乙つけがたい作品が複数あるときは、しっかり読み込んで判断を下しています。

プリントをスリーブに入れる
プリントは24時間しっかり乾燥させましょう。応募の際は1枚ずつスリーブ(写真袋)に入れます。スリーブが薄めだとプリントが折れたり傷付きやすいので、厚めのものがお勧めです。審査員は基本的にスリーブに入れたままの状態でプリントを見るため、乳白のものは避けて、できるだけ透明度の高いものを選びましょう。スリーブからプリントを取り出して見ることもあるため、粘着テープで留めるふた付きのものは避けたほうがいいです。

封筒などに入れて発送する
配送中にプリントが折れたりしないよう、厚紙に挟んで封筒に入れるのが基本です。返却用の封筒が必要であれば同封し、送付先の住所や宛名などをよく確かめて投函します。応募作品の枚数が多い場合はレターパックを利用したり、プリント用紙が入っていた箱に入れて送ることも可能です。

再応募について

同じ写真をいくつかのフォトコンテストに応募した結果、複数で同時に入賞してしまうことがあります。規定違反で全ての入賞が取り消されるなどすごくもったいないです。海外とは違い、日本のフォトコンテストはほかで入賞した作品は応募できないケースがあるので注意しましょう。せっかくの入賞が取り消しにならないよう、応募規定をきちんと読み解いておくことが大切です。私も何度か経験があるのですが、自分が選んだ作品の入賞が無効になるのは審査員としてとても悲しいことです。

優れた作品は審査員が誰であっても基本的に選ばれます。違いがあるとすれば、入賞作品の中での順位付けであったり、当落ラインでどちらに転ぶかくらいでしょう。ギリギリかどうか作者には本当のところは分かりませんが、落選した作品がほかのフォトコンテストで入賞する可能性もあります。入賞できるまで応募し続けてみるのもいいでしょう。実際に同じ作品をいろいろなフォトコンテストに応募している人はたくさんいます。

再応募の際に注意したいのがプリントのコンディションです。作品の返却が可能なフォトコンテストもあり、プリントの裏面の応募票を貼りかえてほかに応募されるケースは少なくありません。応募作品の審査では慎重に取り扱っているとはいえ、複数の人の手に触れたりするのでどうしてもプリントが痛んでしまいます。応募を繰り返すほど、応募票を貼りかえた跡も目立つようになり、審査員にあまり良い印象を持たれなくなりやすいです。

写真の内容は入賞レベルなのに、プリントの状態がよくないため選外にした経験が私もあります。用紙代やインク代がもったいないとはいえ、再応募の際はできるだけプリントをやり直したほうがいいと思います。

いまこそフォトコンテストにチャレンジしよう

「自分はまだフォトコンテストで入賞できるレベルではない」などと遠慮しないで積極的に応募してみましょう。まずは応募経験者になってみることです。

気楽な感じで応募された作品が入賞することもあります。それは良い感じで肩の力が抜けているからでしょう。ビギナーズラックでもいいのです。RAW現像やフォトレタッチといった画像処理で力を入れすぎたりしないで、素直にプリントに落とし込んで応募したほうが効果的だと思います。

もうしばらくは以前のように自由に撮影に出かけられない状況が続くかもしれません。その間は、これまで撮りためた写真を見返したり選び直したりしながら、フォトコンテストへの応募を続けてみてください。その過程で新たな課題や目標などが見えてくるでしょう。撮影が再開できるようになったときに、それらがさらなるレベルアップのきっかけになるはずです。5回の連載でしたが、最後までお付き合いいただきましてどうもありがとうございました。

岡嶋和幸

1967年、福岡県生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」(SBクリエイティブ)、「風と土」(インプレス)など、著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」(富士フイルムフォトサロン)、「潮彩」(ペンタックスフォーラム)、「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」(キヤノンギャラリー)、「九十九里」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)、「風と土」(ソニーイメージングギャラリー)などがある。