フォトコン生活のすすめ

第4回 プリントで応募しよう

デジカメ Watch読者のフォトコンテスト応募を応援する本連載「フォトコン生活のすすめ」。応募までに必要な情報や考え方などを、写真家の岡嶋和幸さんにレクチャーしてもらいます。

第4回はプリント応募時の注意について。フォトコンテストの選者として数多くのプリントを見てきた岡嶋さんの意見を参考に、フォコンテストにチャレンジしてはいかがでしょうか。(編集部)

フォトコン生活のすすめ

第1回 フォトコンテストの魅力とは
第2回 応募作品を選ぶ
第3回 画像処理に頼らない
第4回 プリントで応募しよう(今回)

◇   ◇   ◇

プリントで応募する意義

筆者の岡嶋和幸さん。数多くのフォトコンテスト選者を担当。近著は写真集「風と土」やムック「プリントすると写真が上手くなる」など。

画像データで応募できるフォトコンテストが増えています。でも、プリントでしか受け付けていないものもまだまだ多い印象です。例えばこの連載の第1回目で紹介したフォトコンテストの場合、応募形態が画像データのみは4つ、プリントのみは7つで、画像データとプリントのどちらでも良いのは3つです。

どちらかを選べる場合、私はプリントでの応募をお勧めします。プリントだと印刷や郵送のコスト、梱包などの手間がかかりますが、画像データで応募するより作品への思いやこだわりを審査員に伝えやすく、制作過程での学びも多くなるでしょう。撮影や画像処理の技術向上など写真の上達に効果的であり、入賞に近づきやすくなると考えます。

前回はフォトコンテストの応募作品の画像処理について解説しました。

使用する用紙にもよりますが、画像処理による効果がプリントだと誇張されることがあります。画像処理をやり過ぎると、パソコンのディスプレイで見るより不自然に感じられやすいのです。よく審査員がフォトコンテストの総評などで「コントラストや彩度やシャープネスはもっと控えめに!」などとコメントするのはそういうことも関係しています。

また、プリントはディスプレイよりじっくり見ることができるので、画質の低下など粗も目に付きやすい傾向です。ディスプレイは透過光、プリントは反射光で写真を見るからなのですが、つまりプリントする習慣を付けることで画像処理が控えめになったり、写真の細部に目を向けるようになるわけです。自分の写真ときちんと向き合えるなど、プリントにはさまざまな効果があります。

デジタルカメラマガジンでの連載の「プリントすると写真が上手くなる」というタイトルは、そのようなことが理由で付けました。過去2年分の連載をまとめた同名のムック「プリントすると写真が上手くなる」も発売中で、プリントをもっと楽しみたい、プリントでの写真の見せ方にこだわりたいといった人に向けた内容になっています。

プリンターをどうするか

画像処理でのがんばりをプリントにしっかり反映させるために、使用するプリンターや用紙も大切にしましょう。でも、フォトコンテストの応募作品に限って言えば、そんなに高価なものでなくても大丈夫です。カメラやレンズと同じで、プリンターも最新機種のほうが高性能で高画質ですが、インクジェットプリントの写真画質は数年前の機種でも十分に得られます。上位モデルでなくても、1万円前後のインクジェット複合機でも問題ありません。画像処理など特に何もしないでそのままプリントすれば、フォトコンテストの応募作品として十分なクオリティーです。

ムック「プリントすると写真が上手くなる」4ページ「デジタルカメラマガジン フォトコンテスト・プリント部門の応募者と入賞者の傾向」より

審査員を7年間担当していたデジタルカメラマガジンのフォトコンテスト・プリント部門の応募者と入賞者が使用するプリンターの傾向です。上位モデルの顔料プリンターが大半を占めていて、プリントにこだわる応募者が多いことが分かります。とはいえ、インクジェット複合機を使用する入賞者もいるなど、フォトコンテストでは必ずしも高価な上位モデルが有利であるとは言えないことが分かります。
色や階調の再現性を重視するなどクオリティーにこだわるなら上位モデルのインクジェットプリンターが有利です。画材紙やバライタ紙などのファインアート紙にも対応できるなど、使用できる用紙の種類も豊富です。ICCプロファイルが配布されている用紙も多いです。顔料プリンターはエプソンのSC-PX5V II(写真左)とキヤノンのPIXUS PRO-10S、染料プリンターはキヤノンのPIXUS PRO-100S(写真右)が人気です。いずれもA3ノビまで対応しています。エプソンの最新プリンターSC-PX1Vも気になる存在です。

インクジェット複合機でも十分に写真画質です。カートリッジ方式とエコタンク(ギガタンク)方式があり、低印刷コストを望むなら、各色のインクをボトルからプリンター本体のタンクに充填する後者がお勧めです。色再現や階調再現を考えるなら使用するインクの数が多めのカートリッジ方式の機種、モノクロプリントをされる方はグレーインクが搭載されている機種を選ぶといいでしょう。写真左はカートリッジ方式のキヤノンXK60、写真右はエコタンク方式のエプソンEW-M752T。

インクジェットプリンターのインクカートリッジについて「すぐになくなる」「高い」などの声をよく耳にします。そこで少しでもインク代を節約しようと、純正インクより安価な互換インクを使われている人もいるようです。

その可能性を探るためにデジタルカメラマガジンの連載(2018年8月号)で色再現性や耐久性などを検証しました(ムック「プリントすると写真が上手くなる」にも収録)。どの製品もまずまずの仕上がりで、愛用者がいるのもうなずけます。色再現域が狭めであるなどシビアな目で見れば不満もありますが、純正インクと比較してはじめて優劣の判断ができるレベルです。フォトコンテストの審査員も元の画像の状態が分からないので、互換インクでプリントされたものだとはきっと分からないでしょう。

でも、プリントが光や空気に触れたままの状態だと短期間で退色する傾向です。特に染料プリンターだと1週間足らずで明らかな退色が見られました。プリントをスリーブ(保護シート)に入れて郵送すれば問題ないような気もしますが、私はフォトコンテストの応募作品での互換インクの使用はあまりお勧めしません。

ムック「プリントすると写真が上手くなる」28〜31ページより

互換インクはキャップを開けるとインクがあふれ出たり、インク残量がきちんと表示されなかったり、インクカートリッジが認識されずに使えないことがありました。互換インクの使用がプリンターにどのような影響を及ぼすのか分かりませんが、純正インクと同様の使用感が得られないなどいろいろ覚悟が必要です。純正インクに戻す場合も、全色が同時になくなるわけではないので、混ざるのを覚悟して少しずつ替えていくか、思い切って全部取り替えることになります。

用紙選びも応募の一環

純正インクを選ぶと、印刷コストの削減は使用する用紙で行うことになるでしょう。でも実はインクと同じくプリントのクオリティーに影響する存在でもあるので、用紙選びは慎重に行いたいものです。

上位モデルのプリンターでも用紙がいまひとつだとその性能を生かすことができません。もちろん対応していることが前提ですが、低価格のプリンターでも高性能の用紙を使えばより魅力的なプリントに仕上げることができます。とはいえ、フォトコンテストの応募作品でそれほど高価な用紙を使う必要はないでしょう。「普通にキレイ」で十分です。

フォトコテンストで使用されている用紙はエプソンやキヤノンといったプリンターメーカーの純正紙が圧倒的に多い傾向ですが、最近は用紙メーカーのインクジェット紙での応募作品も増えています。それらに目を向けると選択肢が一気に100種類以上になるのですが、実はそれ以外にあまり応募作品で使われていない用紙があります。パソコン用品や事務用品メーカー、ホームセンターなどのプライベートブランドのインクジェット紙です。デジタルカメラマガジンの連載(2020年1月号)でこれらの用紙を取り上げたのですが、一般的な光沢紙が中心ですがプリンターメーカーの純正紙より低価格で、しかも負けず劣らず高いクオリティーのものばかりでした。

デジタルカメラマガジン「プリントすると写真が上手くなる」2020年1月号116〜119ページより

色や階調の再現性はフォトコンテストの応募作品のプリントに必要十分のクオリティーで、コストパフォーマンスに優れている点が魅力です。耐候性についてもどの用紙も優秀で、これは純正インクを使用しているからだと思われます。長期保存を考えると情報不足で少し不安ではありますが、フォトコンテストの応募作品としては問題ないレベルでしょう。積極的に試してみても良いと思います。

フォトスクールの受講生やフォトコンテストの応募者に対して、私は用紙をいろいろ試すことを勧めています。前述の通り、写真の観察力や判断力が高まるなどたくさんの学びにつながるからです。審美眼を養うのにも効果的です。また、用紙によって色や階調の再現性が異なるため、それにより写真のコントラストや彩度などが微妙に変化します。画像処理は特に何もしなくても、用紙を使い分けるだけ写真をより魅力的に見せられたりするのです。

ただ、光沢紙に比べてマット紙は色や階調の再現域が狭めの傾向です。色や階調がつぶれたりしやすいので安易に選ばないほうがいいでしょう。しかも応募の際、プリントをスリーブに入れるとマット紙も光沢紙のような見え方になります。審査員がプリントをスリーブから取り出して見るケースもありますが、入れたままのほうが多く、その場合はマット紙の風合いなどは伝わりません。私もスリーブからプリントを取り出して見るのは、基本的に最終選考に残った作品だけです。

ムック「プリントすると写真が上手くなる」4ページ「デジタルカメラマガジン フォトコンテスト・プリント部門の応募者と入賞者の傾向」より。

デジタルカメラマガジンのフォトコンテスト・プリント部門の応募者と入賞者が使用するプリント用紙の傾向です。プリンターメーカーの純正紙より、用紙メーカーのインクジェット紙を使用する人が多いようです。前者は光沢紙、後者は半光沢紙の使用率が高めです。用紙メーカーの半光沢紙にはバライタ紙、またマット紙には画材紙などのファインアート紙が含まれます。使用した用紙について選評でアドバイスをすることもあり、ほかのフォトコンテストより応募者の使用用紙は多様であるようです。

書籍「写真力アップのための新トレーニング」93ページより一部抜粋

フォトコンテストの応募作品の大半が、プリンターメーカー純正の光沢系の用紙(光沢紙や半光沢紙)です。マット紙は作品を選ぶ傾向があり、合っていないとマイナス評価となります。光沢系の用紙に比べて色や階調の再現域は狭めですが、それらがあまり広くない画像なのに選択肢から外すのはもったいないです。

ノズルチェックパターンの印刷を忘れずに

画像データとプリントのどちらも、審査員は膨大な応募作品を連続して見続けます。その過程で画像処理をやり過ぎた写真が現れれば「おおっ!」ではなく「うわー!」となるのは想像できると思います。控えめな仕上がりだと見劣りしたり、ほかの応募作品に埋もれてしまうのではないかと思われるかもしれませんが、作品にしっかりと目を向けられるなど、プリントではそれほどでもない印象です。作品の内容を評価するわけですから、埋もれたり見劣りするとしたら写真の表現の部分でしょう。

次々に応募作品を見ていると、クオリティーの差がはっきり分かります。気を付けたいのはプリントにスジが入る現象で、応募作品でけっこう見られます。なかにはあるインクがほとんど出ていなくて、色がおかしいプリントもあったりします。がんばってプリントしたのにもったいないのですが、ほんのわずかだと気づきにくいのも事実。そこでプリントの際に必ず行いたいのがノズルチェックパターンの印刷です。プリントのスジの原因となるノズルの目詰まりがないか、これを見れば一目瞭然です。

ノズルチェックパターンの印刷を、プリントを始める前の習慣にしましょう。ノズルの目詰まりが確認できたら、プリントヘッドのクリーニングを行います。たくさんプリントしていると途中で目詰まりしてくることもあるので、20〜30枚に1回くらいの割合でノズルチェックを実行すると安心です。プリントヘッドが用紙の表面で擦れてスジが入るケースもあります。この場合はプリンタードライバの設定を変えて改善しましょう。

余白の付け方にも注意を払おう

フォトコンテストはある意味でプレゼンテーションです。作品の内容はもちろん大事ですが、その見せ方もとても重要だと考えます。画像データでの応募だと基本的に関係ありませんが、プリントでは写真のレイアウト、つまり余白の付け方にもこだわってみましょう。

フォトコンテストの応募作品では、フチなし印刷や余白が数mmといったプリントが圧倒的に多いです。そのほとんどがノートリミングではなく、用紙の縦横比に合うようにトリミングされています。できるだけ用紙いっぱいに印刷して大きく見せたいという思いがあるのかもしれません。でも、写真の細部を見たいとき、審査員はプリントに顔を近づけるので大丈夫です。それより写真の内容に目を留めやすくしたほうが効果的であるように考えます。

写真展の展示作品では、裁ち落としのパネルにするか、額装にするか。額装だとマットの幅はどうするかなど、それらは写真の見え方に大きく影響するためいろいろ検討を重ねますが、フォトコンテストの応募作品も基本的に同じだと思います。

プリントは余白があったほうが写真に集中しやすい傾向です。あまり広すぎるのもバランスが悪くなって逆効果ですが、余白により視線がプリントの中央に集まりやすくなります。余白が全くないと視線がプリントの外側へ流れ出ていく印象です。

例えば組写真の場合、1枚1枚じっくり見て欲しいときは余白は広め、テンポ良く流れで見せたいときは狭めにするといいでしょう。ちなみに、トリミングの際は画面の縦横比を統一しないと、プリントによって余白がまちまちになってしまいます。

3:2(左)と4:3(右)
プリントのレイアウトはいろいろなパターンが考えられますが、フォトコンテストの応募作品の場合、余白の幅は25mm(約1インチ)を目安に調整します。A4サイズの用紙だと、縦横比が3:2の画像は短辺を150〜160mmに設定するのがお勧めです。4:3の画像はこれだとバランスがいまひとつなので、短辺を170mmに設定するといいでしょう。もちろん余白がこれより狭くても問題ありません。レイアウトも表現のひとつと考え工夫したりこだわると、もっとプリントが楽しくなると思います。
デジタルカメラマガジン2020年6月号124〜127ページ フォトコンテスト・プリント部門の入賞結果ページより

デジタルカメラマガジンのフォトコテンスト・プリント部門の入賞作品は余白付きで掲載されるので、ほかの応募者がどのようにプリントのレイアウトを工夫しているのかを知ることができます。選者は鶴巻育子さん。

審査員が目にするのは応募されたプリントだけです。作者のパソコンのディスプレイで写真がどのように見えていたのかは分かりませんし関係ありません。もしうまくプリントする自信がなかったり、プリントが面倒だと感じていたり、プリンターの購入に踏み切れない場合はDPEショップなどのプリントサービスを利用するといいでしょう。そのような応募作品もたくさんあります。

私はプリントが大好きなので今回はボリュームが多くなってしまいましたが、これでもまだ足りないくらいです。デジタルカメラマガジン2019年11月号の特集2「Q&Aで学べるプリント初級講座」でもプリンターや用紙、プリント設定のことを解説しているので、ぜひ参考にしてください。プリンタードライバやモノクロプリントの設定、ICCプロファイルを使ったプリント方法などについては、書籍「写真総合」やムック「プリントすると写真が上手くなる」でも詳しく紹介しています。

デジタルカメラマガジン2019年11月号182〜183ページ 特集2「Q&Aで学べるプリント初級講座」より

次回はいよいよ最終回です。作品のタイトルの付け方や応募票の書き方などについて解説します。

岡嶋和幸

1967年、福岡県生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「ディングル」(SBクリエイティブ)、「風と土」(インプレス)など、著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」(富士フイルムフォトサロン)、「潮彩」(ペンタックスフォーラム)、「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」(キヤノンギャラリー)、「九十九里」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)、「風と土」(ソニーイメージングギャラリー)などがある。