赤城耕一の「アカギカメラ」

第144回:改めてAPS-Cコシナ大口径レンズで磨きたい、絞りを選ぶ感覚値

単焦点標準レンズを選択するとき開放Fナンバーを気にする人は多いと思います。

選択の基準は撮影目的によって、予算に応じて選択することになるわけですが、当然F2よりもF1.4が、F1.4よりもF1.2が偉くなるわけですが、筆者は貧しいものですから特別な大口径レンズは望まないわけであります。

また、仕事ではF1.2の開放の軟らかさと優雅なボケを堪能するなんてことはほとんどできないわけです。たとえば売れっ子の俳優さんは時間がとれない。移動の合間に撮影をお願いしますというオファーがあると、場所も選べず急ぎライティングを組んで絞りはF8で、という具合に素早く撮影するわけですが、これはもう時間と効率を求めているからで、これが世界の平和に繋がるわけであります。

したがって、当サイトやデジタルカメラマガジンのレビューでは標準レンズに限りませんが大口径レンズを無理やり開放で設定して、その実力をみなければ記事になりません。

高額の対価を支払って、大口径レンズを購入したのですから、すべての撮影を開放絞りで撮影しないともったいないという論理というのがありまして、これは気持ち的にはよくわかるのですが、絞りの決定は写真表現領域でかなり重要な位置を占めていると土門拳は訴え、かつ筆者もこれに習い生きてきました。

NOKTON 35mm F0.9 Aspherical
開放Fナンバーがコンマ0.9の大口径標準レンズですが、APS-Cフォーマットに合わせた設計ゆえに小型です。愛機X-T30 IIIとの相性もいいわけです。なかなか綺麗なカタチです。
本レンズを発売時に試用して優秀なレンズであることは認識しましたが、F0.9の使いこなし術がわからず。それはいかんということで今回久しぶりに使用してみました。けっこう楽しくてあまり得意ではない夜スナップも撮りました。描写がとにかく綺麗です。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F0.9/35mm/絞り優先AE(1/210秒、F0.9、−0.33EV)/ISO 1600
コンマ9のレンズですからねえ、明るいところでは厳しいわけですが、日陰の条件ではどうかということで撮影してみたら、けっこうコントラスト高くて像が締まるのです。撮影距離が2m程度ですと開放でもあまりボケませんね。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F0.9/35mm/絞り優先AE(1/4,400秒、F0.9、−0.67EV)/ISO 160
必要なら絞りたい時には絞るという考え方で撮影してみましたが、F4くらいでもギンギン写りをするわけです。F0.9はもったいないとか思わないですね。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F0.9/35mm/絞り優先AE(1/350秒、F4、−1.33EV)/ISO 160

たとえば大口径レンズで至近距離でポートレートを撮影する場合、眼にピントを合わせるといっても、まつ毛なのかまぶたなのか眼球なのか、の選択を考えることがあります。

でも、「瞳AF」という言葉があるのですから、ミラーレス機では「眼球」にフォーカスがされるのではないかと思うのだけど、これは明確に検証はしてはいないのですが、どうでしょうか。

人によって印象が異なるかもしれませんが、眼球にピントが合っても、あまり長くはないまつ毛の人の場合はなんとなく目全体のピントが甘く感じることは経験としてはあります。つまりまつ毛から眼球までピントの範囲に入ることで、ピント合わせに成功した、という感じがしてきます。

NOKTON 35mm F1.2
F1.2の標準レンズとなりますが、非球面レンズを使わないトラディショナルなガウスタイプですが、8枚構成だったりするところに趣味的なこだわりを感じます。色収差補正には気を使われています。至近距離では軟らかい調子です。
お店のディスプレイのようです。クルマがお好きなのでしょうか。色がきれいなミニカーのコレクションですが、背景に適度な色のクルマが並んでうまくいきました。車輪のエッジを立たせるためF1.4に設定しました。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/1,250秒、F1.4、−0.67EV)/ISO 400
35mm判換算で34.5mmくらいの画角になる筆者向けのレンズです。ミュージシャンの友人、難波隆弘さんを撮影しました。メガネをかけているので、フォーカスの範囲を見極めながら絞りを決めたらf1.4で落ち着いた感じがします。少し背景ボケがざわっとしてリアリティがあります。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 23mm F1.2/23mm/絞り優先AE(1/240秒、F1.4、−1EV)/ISO 800

レンズの特性として、被写界深度が奥に深くて前に浅いという要件があるので、まつ毛があまり長くない人の場合は、まつ毛にピントを合わせれば眼球までが被写界深度域に入るという考え方でフィルム時代はやってきたのですが、デジタルになって高鮮鋭になるとそう簡単なものではなくなるのかもしれません。他にはメガネをかけた人の場合も厄介ですね。

メガネレンズにピントが合って、その奥の目がボケていると、ポートレート作例では失格ということになるかもしれないのですが、逆に目にピントが合って、メガネフレームが大きくボケていると条件によってはなんとなく、“外した” 気になったりもするわけです。

じゃあ、どうするんだという。

答えは簡単です。絞ればいいんですよ。まつ毛と眼球、メガネのレンズとその奥にある眼球が被写界深度内に入ればいいわけですから。

こうした条件で大枚はたいて購入した大口径レンズを絞って使うなんて、もったいないなんていう人は少ないんじゃないかなあ。

NOKTON 23mm F1.2 Aspherical
このレンズもF1.2の明るさなのにエラそうではありません。これが特徴です。実焦点距離からみると、多少絞って、目測のスナップなんかをするのも楽しいかなと。
町でこうした光景を発見すると素直に喜ぶわけです。コーンやバイクの停め方にも知恵みたいなものを感じるからでしょうか。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 23mm F1.2/23mm/絞り優先AE(1/900秒、F8、±0.0EV)/ISO 400

その昔のガウスタイプの大口径レンズというのは開放では残存収差がそれなりにあって、これも仕事での撮影では、開放絞りで撮影するケースはかなり稀でした。

都市伝説的な話をするならば、F1.2のレンズをF1.4の絞りで撮ると、F1.4のレンズを開放絞りで撮影するよりも像が締まり描写はいいんじゃないかといわれていました。

同様にF1.4のレンズをF2で撮るとF2のレンズを開放絞りで撮影するよりも描写はいいんじゃないかと言われましてね。

何が言いたいかといえば、絞り選択の幅というのは、画質にも余裕をもたらすということであります。

最短撮影距離に設定しました。残存収差のためか絞り開放では少しユルさがあって、ユリの力が削がれる感じがしたのでF2に絞ったら狙い通り、でも描写の軟らかさは残ります。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/5,000秒、F2、−0.67EV)/ISO 200
至近距離なんでもうちょい絞ったほうがぴりっとしてきそうですが、あえてF1.4を選びました。ハイライトの滲みが微妙で良かったからです。富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F1.4、−1EV)/ISO 200

筆者のような年寄りは体験的にこのことを知っているのですが、最近のレンズは開放絞りからギンギンなのでこのおまじないのような絞り設定は意味がないとされますが、大げさにいえば撮影者が描写性能の安定のために経験則で絞り値を選ぶのは当然じゃあないかと考えていた時代もありました。

その昔はカメラメーカーのレンズカタログでも、大口径レンズをがんがん絞って撮影している作例なんかたくさん掲載されていましたが、当時はなぜ開放絞りで撮らないのか、というクレームはあまりなかったんじゃないですかね。レンズの特性よりも、作例写真の中身に比重が置かれていたようなところもあるわけです。開放絞りでの蘊蓄は筆者のような五流写真家に任せるということなのかもしれません。

なんでこんなことを長くつらつら書いているかといえば、本連載で取り上げたキヤノンのRF45mm F1.2 STMの導入についてまだ迷いがあるからです。

EOS Rのシステムは筆者にとっては、日々共にあるというよりもお仕事カメラというニュアンスが強いものですから、本レンズのように入手しやすい価格設定が行われていても、45mmでF1.2の絞りを使うような撮影シーンは、先のエピソードで申し上げたとおり仕事ではあまり思い浮かばないわけです。

日差しに反応しました。梅雨の曇天の合間ですから無理もないのですが、なんとなく神経質にピント合わせをしたくなかったので絞って目測撮影しています。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/950秒、F8、−0.67EV)/ISO 400
使われなくなったポスト。予想どおりF2だと画面全体に落ち着いたシャープネスが出てくるわけです。木目の再現性も見事です。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/340秒、F2、−1EV)/ISO 200

このため大口径レンズと戯れようという欲望が仕事カメラではあまり起こらないわけですね。もちろん割り切って使えば済むことなのですが、本レンズが廉価設定といっても、開放での軟らかい描写では仕事ではリスキーすぎます。

とはいえ、先に述べたように、うちにあるEF50mm F1.4 USMを開放絞りで使用するよりも、RF45mm F1.2 STMをF1.4に絞って使うほうが安定感のある描写になると予想していますからRF45mmを導入する理由はあるのですが、それでも絞ったとはいえF1.4で撮影することは躊躇してしまう可能性があります。

先に述べた論法でいえばまぶたか、眼球か、という論議をかわすにはF1.4の絞り値ではまだ足りないと思うからです。

像がきゅっと締まるのが絞りF2くらいなのかな。全体が慣れてくる感じがします。これもなんとしても開放で撮らねば思いが伝わらないということはなく。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/1,100秒、F2.8、−0.67EV)/ISO 200
肉眼でみるよりもボケの多い写真でみたほうが、ホンモノではないのにホンモノとは異なる命が入っているように感じ入ることがあります。手前の目の輪郭を明確にするためにはF2が最適でした。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/1,400秒、F2、−0.67EV)/ISO 200

なにかどうでもいいことを書いておりますが、それだけRF45mm F1.2 STMという存在は筆者の中ではものすごく大きくて、F1.2のレンズなのにステータスな価格ではないこと、性能面でも安定したものを持っていることに喫驚したわけですが自分で使うシーンが思い浮かばないところに矛盾があるのです(笑)。

今回はコシナからXマウントの大口径標準および準広角系レンズ、NOKTON 23mm F1.2 Aspherical、NOKTON 35mm F1.2、NOKTON 35mm F0.9 Asphericalの3本をお借りして、APS-Cフォーマット用の大口径広角、標準レンズってどのようなニュアンスでみることができるのか考えてみました。Xマウントの純正レンズでは意外にF1.2の開放Fナンバーのレンズは多くないのです。

APS-Cセンサーのサイズに合わせて、標準レンズでも実焦点距離が短めですから被写界深度が深くなります。

そういう理屈ならマイクロフォーサーズ用のレンズでも同じと言われそうだけど、筆者はおおむね仕事では35mmフルサイズかマイクロフォーサーズフォーマットの2択で仕事に対応しています。仕事では、マイクロフォーサーズ機で撮影する写真はその特性からパンフォーカスの設定になることも多く、これもまた大口径レンズを使いこなしてはいないのです。

好物の配管のところに女性が、ということであわてて距離表示をみて3.5mあたりに設定しシャッターを切ったというわけですが、こういう古典的な撮影方法にもばっちりなわけです。優れたレンズです。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/640秒、F8、±0.0EV)/ISO 200
雨の日です。遭遇した時、傘に足が生えて歩いていると思いました(笑)。撮影距離はありますけど、F1.4設定ではまだ被写界深度が浅く人物全体はピリッとこない感じです。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/2,900秒、F1.4、−0.67EV)/ISO 400

早い話が、これまでAPS-C用の標準、広角系の大口径レンズのことをきちんと学習してこなかったので、少し真面目に考えてみようと考えたのであります。

いずれもマニュアルフォーカスのレンズですから、ある程度絞り込んだとしてもピントの位置決めが重要になります。

筆者は甘えが最近強すぎて、AFで撮影する場合はフォーカスモードも自動選択にすることが多く、昨今のカメラではそこそこになんとか見られるものになってしまうので、その甘えを排除しようというわけです。

作例すべてが筆者の思い通りになっているわけではない、つまり失敗作例も含んでおりますが、この公の場をお借りして恥をかいて次に繋げようと考えております。エラいぞヲレ。

NOKTON 35mm F1.2を上からみてみます。鏡筒はライカMレンズっぽいニュアンスもありますが独自のデザインでありますね。距離指標も見やすい。実焦点距離からみると少し絞れば目測でいけます。ロータリーフィーリングも優れています。
久しぶりの今月のコカ・コーラであります。わずかに絞られたのは知らずに絞り環に触ったからだと思われますが、筆者の言いたいことに対して大勢に影響はないというか。イメージどおりに写っていて驚いたりするわけです。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F0.9/35mm/絞り優先AE(1/4,400秒、F1、−1EV)/ISO 160
遠くから観察していたら、板の木目みたいにみえたのですが、近づいたらネコだったという。写真的にはどちらでもいいのか。柵のために寄り切れないのですが、これはこれでいいかなと。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/750秒、F2、−1EV)/ISO 200
町を歩いていたら出会ってドキッとしました。とある飲食店の看板のようですが、お客さん驚いちゃうんじゃないかということで撮影。至近距離だとF1.4に絞ってもわずかにハイライトにハロを感じます。
富士フイルム X-T30 III/NOKTON 35mm F1.2/35mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F1.4、−0.67EV)/ISO 200
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。