赤城耕一の「アカギカメラ」
第125回:スペック至上主義からは生まれなかったであろう「X-E5」の魅力
2025年9月20日 07:00
筆者は富士フイルムX-EシリーズのX-E2とX-E4を使用していました。
当初はX-Proシリーズの簡易版のようにも見られていたのですが、X-E2あたりからは、OVFのギミックを必要とせず、EVFがあれば十分だと考える実用的な割り切りのある人、より小型軽量なモデルが好きな人、徹底したフラットなデザインのボディを好む人が選ぶモデルとして地味ながらも進化してきたようなところがあります。
今回、X-E5を取り上げることにしたのですが、手にした瞬間に「あれ、重たくなったのではないか?」と最初に感想を持ちました。同系列でモデルチェンジしてゆく新機種では珍しいことだと思います。
X-E5の重量増を敏感に感じたのは筆者がX-E4オーナーだったからということもあるのでしょう。筆者はプライベートで使用するデジタルカメラの場合、「小型軽量は正義である」ことをまず評価対象にしているものですから、重量増に対して少々神経質になっていたわけです。
ところが、この重量増はすぐに好印象に変わりました。なぜなら、X-E4よりも質感と表面の仕上げの美しさ、作り込みの良さと凝縮感を感じたからです。
また非常に強力なセンサーシフト式の5軸ボディ内手ブレ補正機能を備えていることも評価対象となり、最大で約7.0段分の補正効果となれば、これは機構的にも重量増はやむをえないと考えるわけであります。
メーカーのエンジニアさんたちは、スペック以外の重量増とか動作感触の良否など、どのような考えをお持ちなのかわかりませんが、使用していたX-E4は、シャッターボタン周りのメインスイッチに触れたその時から、作り込みの物足りなさを感じていました。
このためプライベートな撮影に持ち歩いて、戯れるカメラというよりも、アサインメントで使用するX-T5のサブ、あるいはバックアップ機としての役割が強くなりました。つまり、常に一緒にいたいという気持ちにまではならなかったのです。
X-E4に対して、X-E5は各部の動作感触がきっちりしている印象です。力をこめてボディを握りしめても、まったく問題ない強さを感じます。いや、決してX-E4がだらしないわけでもスペックに不満があったわけでもないのです。
使用していて、どこか自分の気持ちがすっと入っていけないところがあったわけで、次第に使用頻度が落ちて、お別れすることにしました。ま、早い話が飽きたわけですね。
筆者はカメラにはスペックよりもデザインの美学と、手にした時の印象、動作感触を重視しているものですから、今回のX-E5の進化が嬉しかったわけです。
X-E5の外装のカバーはアルミの削り出しと聞きました。とても贅沢な印象を持ちますし、高級感があり、堅牢性も期待できます。表面の仕上げからも、マグネシウム合金のような、「なんちゃって金属」を感じないことは評価対象ですね。
削り出しと聞くと、削りカスの行方まで気になるところですが、きっとうまくリサイクルされるのでしょう。いずれにしろ、こうした表面の仕上げ、高い質感がX-E5の重量増を許容する理由にもなっています。エッジの効いた角の処理も指や手のひらから適度な抵抗感を持って、撮影者を目覚めさせてくれるようです。
外観の印象はX-E4とさほど変わらないのですが、これは確立されたデザインだからでしょう。
背面のダイヤルが増えたり、上位機に合わせてきたところもあるのですが、基本的には取り説を読まなくてもすぐに撮影できるわかりやすさがあります。
筆者が富士フイルムのカメラを評価しているのは、ボディ上部に「シャッタースピードダイヤル」があること。
他メーカーの多くのカメラでは、カメラの上部にはモードダイヤルがエラそうにしているわけですが、シャッタースピードダイヤルの存在だけで物欲が一段階上昇するような気がします。
実際にはこのシャッタースピードダイヤルを使用するどころか触れる頻度は極端に少ない。AE設定でもPやAモードを主に使う人にとってはその存在に果たして意味があるのかと問われそうです。筆者は、シャッタースピードダイヤルの存在を支持します。それはMモードを使う機会もあるからですが、なにせ年寄りですから当然のことで、長年見慣れたシャッタースピードダイヤルの存在だけで、気持ちが上がるからです。これだけでも強い愛着が湧くほどです。
露光補正ダイヤルもこれまでのX-Eシリーズ同様に、設定しやすい良い位置にあります。
これも露光の過不足を補正するためにあるというよりも、写真を自分好みの明るさにしたいという、カスタマイズな思想が強いかもしれませんね。あくまでもカメラが示す理論値としての数値的な適正露出と、自分好みの適正露出は異なるのと考えるは当然のことです。
背面のLCDは、3.0型チルトタイプ。チルトだから静止画撮影に手厚いという人もいますけど、単独のカメラオペレーティングで動画を撮影する場合は、個人的な考えではありますが、シンプルなチルト方式で何ら問題はないと考えています。
X-E5はこのチルトの動き、動作感触も良好であります。年寄りふうにいうなら「建て付けがいい」という印象でありますね。X-E4のLCDと同等性能のようですが、視認性は悪くありません。
EVFは0.39型の236万ドットの有機EL搭載で、これもX-E4と同等なのですが、その視認性は上位機種には及びません。ただ、EVFの性能を上げてゆくと、当然ボディサイズも大きくなってゆくわけで悩ましいですよね。
多少重量は増したとはいえX-E5はどこにでも連れて歩くことができる携行性を重視するカメラですから、落とし所としてはこれで良いのではないかと考えます。筆者自身、今回の試用でもEVFの使用率は6割程度といったところでしょうか。これは街中でのスナップ撮影が多いこともあるのですが。
筆者はかつて「カメラはファインダーである」と決めつけていたこともあるので、ファインダー性能の進化がないことについて、たしかに残念だとは思います。
でも、少々矛盾してしまうのですが、デジタルカメラは撮影スタイルを変え、より自由度が増しました。これはスマートフォンでの撮影スタイルからも大きく影響を受けていると思います。
とはいえEVFは長焦点レンズを使用する時や、日中の明るい屋外において、確実なフレーミングを必要とする場合にはたいへん有効ですから、EVFの有無はカメラ選択時の大きな判断材料になることでしょう。
このX-E5は、フィルムシミュレーションの設定が迅速、簡便になっていることも大きな特徴とされています。これが「フィルムシミュレーションダイヤル」の搭載です。カメラ上部の表示窓があり、撮影者好みのシミュレーションアイコンを表示させ、これを選択するというもの。
この表示窓はカメラ上部の、いわば一等地の目立つ位置あるわけで、フィルムシミュレーション機能をより象徴的にみせています。
フィルムシミュレーションがあるから富士フイルムのデジタルカメラを選択するという人が多いのもうなづけるところです。
とはいえ筆者はシミュレーションの決定は撮影後にPCでの現像時やカメラ内RAW現像のときに変更してしまえばいいのではないかとも考えてしまいます。
撮影時に良かれと思ったフィルムシミュレーション設定が、後になって、あれこれ変えてみたくなるということはないでしょうか。
これは優柔不断な性格の筆者だけなのでしょうか。あらかじめ「フィルムシミュレーションブラケッティング」を設定して、3種のカットを生成するという手段もありますが、フィルムシミュレーションが20種もあるとなると、まるでメニューの多すぎる中華料理店みたいで迷うわけです。しかも各シミュレーションの特性をすべて掌握しているわけでもありません。だから3種の選択に悩んでいるうちに、目の前の被写体はどこかに行ってしまうのです。これは気をつけなければなりません。
筆者はシミュレーションを選択して撮影する“覚悟” が足りていないのかもしれませんね。異論はあるでしょうけど、撮影後に自由で多様な判断を下し、画像を創りあげてゆく現代写真術と考えているわけで、フィルムシミュレーションの撮影後の選択も楽しみのひとつとなり得ます。
ただ、実際の富士フイルムの“フィルム” の種類が少ない現状をみて、いつまで各種のフィルムの特性や名称を「シミュレーション」として使うのか、フィルムカメラ時代を長く知る年寄りとしてはいらん心配をしたくなるわけです。
X-E5に搭載されたセンサーは「X-Trans CMOS 5 HRセンサー」有効約4,020万画素です。画像処理エンジンは「X-Processor 5」ですから、X-T5と同等の高画質が得られるわけですが、センサーサイズがAPS-Cだから画質がどうの、という意見は少なくとも私の周りからは聞こえてはきません。
X-E5のレスポンス、シャッター動作などは上質で、心地よいものです。メカシャッターの動作音もよい感じなので、今回の試用でもほとんどメカシャッター設定のままで通してしまいました。こうした時代だからこそ、筆者は物理的なシャッター音をどこかで聞いていたいのでしょう。これもね、仕方ありませんよね、年寄りですから。
今回は、キットレンズにもなっているXF23mm F2 R WRを多くの撮影で使いました。酷暑の中の撮影で、考えたくない、レンズ交換をするために立ち止まるのも面倒だったこともあるのですが、このレンズとX-E5との相性は抜群ですね。
AFの被写体認識もうまく機能しますので、せっかく設けていただいたフォーカスレバーの使用頻度はかなり減りました。タッチによる測距枠の移動も瞬時に行うことができますから、ほとんどの撮影では自動選択をデフォルトのままにしても問題なさそうです。
ただし街角で撮影していたら、前を歩く人の後頭部をAFの測距枠がひたすら追い続けてしまい、あわてたりすることもあるので、状況に応じて、各種の設定をすばやく切り替えられるように練習すべきかもしれません。
筆者は、富士フイルムのX-Pro1から始まったXシリーズの進化をリアルタイムにみているので、X-ProやX-EシリーズなどのフラットタイプのデザインのXシリーズへの思い入れはどうしても強くなります。
X-E5は大きな不満やツッコミどころもない代わりに、特別な冒険はなく、おとなしくも感じますが、デザインも綺麗ですし、全体としてはソツなくよくまとまっており、趣味性も強いモデルですからうちにお招きすることも考えてよいのかもしれません。
ただ、スペック至上主義だけではない、X-Proシリーズの4番目の冒険を、もう少しだけ待ってみたいという思いもあります。しばらく悩ましい日々を送らなければならくなったようです。