赤城耕一の「アカギカメラ」
第112回:“ヘリテージデザイン”じゃないデジタル一眼レフに、孤高の存在を感じ取る
2025年2月20日 07:00
『ヘリテージ』の意味は「遺産」「継承」「伝統」ということで、ニコンZfcが登場したころから、さかんに聞かれるようになりました。カメラの場合、ヘリテージデザインといえばフィルム時代の一眼レフカメラのデザインをことを指すことが多いように思います。
ただ、ミラーレスカメラになるとデジタル一眼レフカメラでは構造が大きく異なるわけですから、筆者は、「なんちゃって(一眼レフ)」ではないかと、少し違和感を覚え、機構的にもそれを“伝承” せねばならないのではと考えてしまったり。
だから外観だけフィルム一眼レフカメラと似せてきたとしても、はいそうですか。と素直に受け取ることができず、このため、いつまで経ってもニコンDfはうちでは現役であり続けるわけであります。このことをあまりしつこくいうと、また“老害” とか糾弾されてしまいそうです。自分でそれは否定はしませんが、そう簡単に信念は変えることができません。年寄りですから。
老害ついでに、もう少し続けて言わせてもらうと、ヘリテージの最たるカメラはM型シリーズライカなのではないかと考えています。
レンジファンダーカメラは誕生当初から“ミラーレス” だったわけですから、デジタル化してもデザインや構造は整合していると考えています。ただ、ライカMシリーズはAFではないわけですから、フォーカシングの方法など、撮影に至るまでの一連の作法はフィルムライカと同じであり、撮影者は伝承のために学ぶ必要はあります。
いま、ヘリテージデザインのカメラでは、OM SYSTEM OM-3が大きな話題ですが、先日、某SNS上で「ヘリテージデザインのカメラは好みではない。もっと先進的なデザインのものが好き」という意見を見ました。この意見は理解できます。デザインが過去のものに縛られすぎるのはどうか心配になることもわかります。
すでにOM SYSTEM OM-1(Mark II)という機種があるのに、さらにフィルム一眼レフのOM-1に雰囲気を近づけて、ネーミングをOM-3としたことに納得がいかないのかも。これも老害な意見だと思いますが、そう遠くない将来、あらためてOM-3のことは検証してみようと思います。
話をヘリテージデザインに戻しますが、ニコンZfcもZfも、年寄りのことなど、ほとんど意識していないようなマーケティング戦略をとっています。OM SYSTEM OM-3も、OM-1もOM-5も、いやPEN-Fもデザインは過去の雰囲気はあるけど、過去のカメラのデザインを復元することを目標としているのではなくて、とくにOM-3では余分なものはできるだけ削ぎ落とすというフィルムOM-1のデザインの思想をヘリテージしているのです。
先のヘリテージデザインは好みではない意見の人に、先進のカメラのデザインとは具体的にどういうものかと問いかけてみたら、意外にも「オリンパスE-1」という答えが帰ってきました。
2003年登場のオリンパスのレンズ交換式デジタル一眼レフの初号機が“先進” かどうかは話は別ですが、誕生から四半世紀近くを経るカメラの名前が出てきたことに驚きます。これも納得できるような気になりました。時間を経てもデザインに古さを感じさせないカメラは少なくありません。
ニコンF3やペンタックスLXが20年もの間現役であり続けたのですから、デジタルカメラの25年前のデザインは不変のものであるという考え方もできましょう。
筆者が最初にE-1をみた時に思い出したデザインのカメラは「ブリッジカメラ」のオリンパスL-1をはじめとするLシリーズでした。いまこのフィルムカメラを知る人は少ないかもしれません。「ブリッジ=橋」ですから、コンパクトカメラと一眼レフを繋ぐ、あるいは橋渡しをする中間ポジションにいるカメラとしての役割を担います。
別名では「ネオ一眼」とも呼ばれたりしましたが、筆者はマーガリンみたいな名前だなあと本気で思いましたよ。なんかバターが本流で、マーガリンは亜流みたいな印象に近いものもありましたし。少し安っぽいイメージです。
フィルム時代の代表的なブリッジカメラとしては、オリンパス Lシリーズ、チノンの ジェネシスシリーズ、リコーのミライなどが挙げらますが、基本はレンズ交換はできずに、高倍率ズームレンズを搭載している、決してコンパクトではないけど、種類としてはコンパクトの範疇に入るカメラという謎の位置にありましたが、一部では盛り上がったけど、長くは続きませんでした。
デザイン的にはL-1の流れも汲んだようにみえたカメラはコンパクトデジタルカメラのCAMEDIAC-1000Lに受け継がれています。
オリンパスのフォーサーズ初号機E-1はフォーサーズ規格でしたけど、そこそこの大きさ、重さになりました。
E-1のデザインはLタイプ、すなわちフィルム時代のオリンパスのブリッジカメラシリーズであるLシリーズのそれの発展系のような感じでもありました。
それらは決して嫌いなフォルムではありませんでした。もっとも現在のミラーレス機の多くは大型のグリップを採用しているので、メーカー問わず、Lタイプに近いものになっています。
これらは意識はしていないと思いますが、ブリッジカメラを範としたヘリテージデザインを採用しているという言い方もできるわけです。大きなグリップ、フィルム給送を考慮する必要はないために自由な感覚でデザインされているようにみえたので、他のメーカーがほとんどフィルム一眼レフのデザイン踏襲し、デジタル一眼レフを用意してきたことに対して、E-1は独自のデザインでしたから、孤高に見えたわけです。
ただ、残念なのは、当初のオリンパスEシステムは、フォーサーズセンサーのサイズに対して、ボディとレンズが巨大であり、オリンパスOM時代のコンパクトさを引き継ぐことはできませんでした。
大きなセンサーを搭載したカメラに対して、フォーサーズのような小さいセンサーでも高性能レンズを採用することで、画質的に問題ないことを世の中に知らしめる意味もあったのか、あるいはセンサーサイズに少々コンプレックスがあったのでしょうか。
オリンパスE-1はさすがにもう手元にはありませんが、デザイン的に雰囲気が似ているオリンパスE-500がまだうちにあります。発売は2005年です。登場から20年を経ていますが、現在も絶賛稼働中であります。これもまたブリッジカメラのヘリテージデザインという印象があります。
話題のOM-3登場時だというのに、これを取り上げると嫌味にとられてしまうかもしれませんが、筆者はE-500のことがお気に入り、かつ忘れてはいけない機種のように考えていますから、今回取り上げることにしたわけです。
ただ、E-500の登場当時はオリパスEシステムのデザインは少し迷走しているようにもみえました。
2006年にはE-400(日本国内未発売)が登場しますが、このデザインはフィルムのOM一眼レフに寄せてきたようにみえました。この時にはヘリテージとは言いませんでした。
日本では2007年にE-400とデザインはほぼ同じまま、E-410となり発売されます。E-400は本連載でも取り上げておりますが、そのフォルムから、大型のグリップは姿を消しております。でも現在のOM SYSTEM OM-1やOM-3のように注目されたという印象は正直ありません。
E-500のどこにトキメキがあったのか実は筆者自身もうまく説明できませんが、グリップ感がとても良好だったこと、全体のまとまりの良さ、使いやすさなどいくつかの理由はあります。
オリンパスE-500の発売時の1番のウリはどこでしょう。ずばり、発売当時は世界最軽量約435gのデジタル一眼レフカメラであるということでした。
しかし、ズイコーデジタル交換レンズは、大口径で高性能なものだとかなりの大きさ、重さがあります。軽量なE-500に装着しても総重量はかさみます。でもグリップ感の良さがバランスをとり、救ってくれます。E-400だとこうはいきません。
うちにたった1台現存しているオリンパスのLシリーズのブリッジカメラ、オリンパスL-10スーパーとE-500を比べてみると、L-10スーパーのほうが小型です。レンズは固定式ですけれど、35mmフルサイズフォーマットのフィルムカメラでありますから、頑張っているように感じます。
発売当時はE-500のスタイリングは、一眼レフらしさを狙ったみたいな論評もみましたが、前機種のE-330が溶けて放置されたチョコレートが再び固まったようなデザインでしたから、デザイン的に迷走することは避け、多くの人がイメージする“カメラ”らしくしたかったというのが本音かもしれませんね 。
E-500のセンサーは有効800万画素CCD。「ダストリダクションシステム」も搭載しており、ゴミに悩まされることはありません。ISO感度設定は常用ISO100~400。拡張設定で最大ISO 1600までと、センサーの性能はさすがに時代を感じさせるものがあります。背面LCDは2.5型の21.5万画素ですから、拡大すると逆に鮮鋭ではなくなるのでフォーカスが合っていないんじゃないかと不安になります。
メモリーカードはCFとxDピクチャーカードのダブルスロットを採用しています。JPEG/RAWの振り分けもでき、これも試したかったので時間をかけてxDピクチャーカードを仕事場で探索したんですが、発見することができずに終わりました。xDカードの新規購入はしたくないし(笑)。
ファインダーは視野が小さいですね。プリズムではなくペンタダハミラーを採用とあります。スクリーンは明るいですし、マットのフォーカスのキレ込みもまずまずですが、これだけ小さいと表示画像のまわりの面積が黒く、太い黒縁眼鏡をかけている人が世界をみるような印象が残ります。フォーサーズセンサーのサイズに合わせた光学系ですから、やむをえないとはいえ、この視野だとMFでフォーカシングするには相当に厳しいものがあります。
一眼レフとして、このファインダー性能は不満足でありますが、登場した当時はどう思ったか、どう評価したかを思い出すことはできません。
シャッタースピードのレンジは60~1/4,000秒。シンクロ速度は1/180秒。コマ速は2.5コマ/秒と、これも笑ってしまうようなロースペックですが、筆者の使用方法では問題ないですし、メカシャッター音のシャキシャキした感じは、たいへん好みであります。
一眼レフだからあたりまえのことですが、撮影中にファインダーアイピースから目を離したとき、なぜLCDに表示画像が映らないんだろうと訝しく思えたりして、ふだんミラーレス機を使用しているから、もうクセがついているのです。AFエリアも3点ですから、これも時代を感じますが、これも筆者の使い方ではとくに問題は感じませんでした。
ただ、一眼レフの位相差AFは高画素時代になってから、精度が不安になりはじめてきました。でも20年前のE-500でAF性能がさほど気にならないのは、もともと精度が優秀だったこともあるのでしょうが、使用レンズの被写界深度の深さが有利にはたらき、多少のフォーカスのエラーを問題にしてはいないのかも。
800万画素の画質も、筆者の用途では問題なく使えてしまいます。極端な高感度設定での撮影とか、トリミングにはさすがに物足りないとは思いますが、そのような撮影には別の最新カメラを用意すればいいだけです。
敬意を表して、E-500で撮影したRAW画像を最新の「OM Workspace」Ver.2.4.0で展開してみましたが、デフォルトの設定では、コントラストが低めのように感じました。もっともこのため、画像調整の幅が広く感じますし、手を入れやすく画像のコントロールが容易です。
追い込んで処理すれば、すばらしく高画質になるという印象はありませんが、装着レンズの性能は生かすことのできる画質だと感じましたし、満足感十分な実用性があります。
E-500はステレオタイプな一眼レフのデザインとは異なる、かつてのブリッジカメラ時代を意識したヘリテージデザインのカメラということでその個性を評価することにしました。
片手で長時間保持しても疲れません。バッテリーもE-5と共用できたり、無理をして使用する印象を感じさせないこともよいと思います。
小さい光学ファインダーをなんとか覗きつつ、想像力を高めながら、出来上がりはおそらくこうなるであろうと未来を予測しながらの撮影は、撮影者を必要以上に甘やかしてしまうミラーレス機のそれとは真逆の撮影方法ですが、久しぶりに使うと楽しく感じました。
オリンパスE-500はこのカタチで一眼レフであることに意味があります。孤高の存在のカメラを愛でることも愉しみのひとつと考えているわけです。