赤城耕一の「アカギカメラ」

第69回:退路を断ち、想像力を鍛えよ。K-3 Mark III Monochromeが誘うモノクロ世界

GW真っ最中、こどもの日でございますが、みなさまいかがおすごしですか。『アカギカメラ』は年中無休。24時間営業でございますので、本日も予定どおり進めさせていただきます。さて、今回はモノクロ写真についての一考察から始めたいと思います。

「なぜこの写真には色がついていないんですか?」モノクロ写真をはじめて見た子供が言ったとか言わなかったとかいう話を聞いた時に、「ネタかよ」と思いましたね。すみません、年寄りにはなかなか納得できませんでした。

モノクロ写真って、自分の中では本当にフツーだったからです。半世紀前のことです。いや、いまもモノクロフィルムは使って撮影していますので、ずーっとフツーのままです。

半世紀前だってもちろんカラー写真もありましたけれど、写真作品のヒエラルキーとしてはモノクロ写真がエラかった時代がありました。

写真作家が自家処理したタイプCプリントが認められ、美術館などにコレクションされるようになったのはそんなに昔のことではないわけで、これはプリントの褪色などの問題もあったからだろうとは思いますが、なぜかカラー写真が軽んじられていた時代もあったわけです。

逆にこれも昔の話で恐縮ですが、雑誌の中には1C(モノクロページ)と4C(カラーページ)では撮影料が異なったりしました。フィルム撮影では自家処理するなら前者の方が手間がかかるのに、後者の方が撮影料が高かったりするわけです。これもまた違うんじゃないか、ずっと謎だと思っておりました。そのまま時代は進んで、雑誌もカラーページがどんどん増えてゆきました。その後の撮影料は連動はしていなかったかもしれませんが。

その後ですね、カラーページの雑誌が主流になると、モノクロ写真がカッコいいと思われたのかどうか知りませんが、カラーページでも、モノクロ写真を扱うということが当然のように行われることになりました。モノクロプリントを反射原稿として入稿する時、「4C分解」の指示していると、何か贅沢をしているような感じがしたものです。編集者からも、カネをかけてるからちゃんとプリントしろよ的なニュアンスが伝わってきました。

そういえば、さらに思い出しました。これもまた昔のことで恐縮ですが、とある写真学校で教鞭をとっていた友人写真家から聞いた話です。学生さんは入学からしばらくはずっとモノクロ写真の実習ばかりをやっているのだけど、それがカラー写真の実習に切り替わると、自分の写真のテーマとは関係なく、やたら色を強調したものを探し出し撮影する学生さんが多くなるそうです。

写真学生さんの中ではモノクロ写真があくまでも基本で、色のついた写真、カラー写真が新鮮だったのかもしれませんが(笑)。カラー写真を特別なものとしていた時代がわりと最近まであったわけです。ほんとです。そういえば筆者もそうだったかな。年寄りになると記憶が曖昧になりますね。

カラー作品の制作は費用がかかることから、モノクロ写真制作を貫く写真学生さんもたくさんいました。デジタル時代の今は果たしてどうなっているのか知りませんけど、デジタルカメラのエフェクトのためにモノクロモードがあるわけじゃないですからね。今はモノクロ写真を制作する写真学生さんの方が特別なのでしょうか。

と、いろいろと年寄りは昔のことを思い出しながらこのところリコーイメージングのPENTAX K-3 Mark III Monochromeを使用して撮影しておりました。はい、話題のモノクローム専用一眼レフカメラでありますね。

ライカMやQシリーズには以前からモノクローム専用機も用意されていますが、コンシューマ用の国産デジタル一眼レフカメラでは初めてですよね。筆者は快挙だと思いますが、みなさんはどのようにお考えになりますか。

PENTAX K-3 MonochromeはAPS-Cサイズのモノクローム専用CMOSセンサーを搭載。有効画素数は約2,573万画素。ローパスフィルターレス仕様になっています。母体機はPENTAX K-3 Mark IIIですね。姿とカタチはほぼ同じ、ハード的な仕様もほぼ同じです。

センサー前のカラーフィルターは省略されていますから、カラーはもちろん撮ることはできません。それなのに、K-3 Mark III Monochromeの方がノーマルのK-3 Mark IIIよりも高価な設定であります。ええ、特別なモデルという扱いだからでしょう。ライカM11モノクロームだって、ノーマルのM11より高いですからね。

Monochrome名はカメラの背面のLCDの左上に小さく入っているだけなのです。謙虚な姿勢なのです。このため周りに見せびらかしたくてもなかなか難しいのです。

モノクロ専用のセンサーは1画素ごとに得られた輝度情報からそのままモノクローム画像を生成するため、解像感が高く階調再現性に優れた再現が期待できるそうです。カラーフィルターを通したRGB光から補間処理でカラー画像を生成し、色を抜いてモノクロ化するのとはちょっと違うぜということですね。理屈としてはそうらしいです。

モノクロ専用機なのだからボディ周りからも色を排除してしまえということで「PENTAX」をはじめとする文字はグレーになっていて、ここでもモノクロを盛り上げています。LCDに映るメニューもモノクロです。このあたり徹底したパフォーマンスが行われていますが、金型は同じでしょうし、パーツも文字色以外は共通ですね。

モードダイヤルの文字もグレーです。搭載モードはノーマルのK-3 Mark IIIと同じなので、ノーマルモデルとダイヤルを交換するサービスとかあると面白いんじゃないでしょうか。
メニュー画面も初期設定からモノクロであります。徹底した姿勢であります。カラーでもいいと思うのですが、気持ちが入らないのかな。

なるべくお金をかけずして新型カメラを作ろうというリコーイメージングの方向性を感じますが、これは正解だと筆者は考えます。それでも、東京は四谷にあるPENTAXクラブハウスでは外観の仕上げが異なる特別なモデルが限定数で販売されるみたいですぜ。もう売れちゃったのかな。商売的なアオり方はさすがのリコーイメージングですね。機能よりもカメラの見た目を最重要視する筆者も一瞬ですがグラっときました。

いずれにせよK-3 Mark III Monochromeは製造に時間がかかるため、ノーマルモデルでも入手に時間がかかるというアナウンスがリコーイメージングから出ています。数が出る機種とは思えませんが、作るのはかなり大変なのでしょうねえ。

PENTAX K-3 Mark III Monochromeは、新製品のレンズ交換式カメラでは珍しい“一眼レフ”であることも注目せねばなりません。こんなことをあらためて強調しなければならなくなる時代になりました。

光学ファインダー像は当たり前のことですが「カラー」です。撮れる画像はモノクロだけになりますから、現実の色がどのようにモノクロの濃淡に置き換わり再現されるのかはわかりませんので、モノクロ写真のビギナーには想像力や経験則が必要にはなるでしょう。もちろん過剰に神経質になる必要はないと思いますが、実際のユーザー、とくに若い人はそれなりの練習が必要かもしれません。

どうしても撮影前にモノクロの再現性が知りたいという人はライブビュー撮影に切り替えて、LCDを見れば、当たり前にモノクロの画像を観察したまま撮影することもできます。それにモノクロ動画を撮影できることも本機の特徴になります。これも興味深いですね。

ライブビューや動画の切り替えも、ダイヤルで簡単に行えます。アイコンもグレーですぜ。モノクロ動画は撮りたいですね。

撮影時の感覚は、当たり前ですが、ベース機のK-3 Mark IIIと同じです。シャキシャキ撮れますし、ミラーがパタパタ動作する一眼レフの動作には既に郷愁すら感じてしまうほどです。APS-Cサイズセンサー搭載機ですが、ファインダー倍率が大きく、見やすくありがたいですね。これはとてもエラいことなのです。

おそらく本機にはフィルム時代のKマウントレンズや、アダプターを使用してM42マウントレンズを使用するユーザーも多いと思いますが、フォーカシングはやりやすいと思います。もちろんいざとなればライブビューでフォーカシングもできますので、二方面から追い込めますね。モノクロ再現ですから、色収差などの悪しき要素もあまり気にならなくなるかもしれません。でもレンズの収差が多ければ、画像はユルくなりますぜ。とくにモノクロに特化したカメラなのだからと簡単に考えていると、取り返しのつかないことになるかも。と、いちおう脅かしておきます。

なお、電子接点のないレンズでも、タイムラグは少し大きくなりますが、絞り優先AE撮影が可能になります。これは瞬間絞り込み測光を採用しているからです。

ベース感度はISO 200ですが、実際にAEで撮影してみると、多少の露出の差はいかようにも許容できるようにみえます。露出差は個人の好みによりますが、ラチチュードが広いという印象です。

モノクロしか撮影できないとなると、光と影にも相当に敏感になります。色に助けてもらうことができないからでしょう。シャドーからハイライトまで繋がりがとてもいいですね。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(40mm・F10・1/500秒)/ISO 400
路地の光の当たらないところはモノクロ再現がむずかしかろうと思って撮影してみましたが素晴らしい階調です。曇りや雨、日陰でも美しいグレートーンが期待できるでしょう。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(26mm・F8・1/250秒)/ISO 400
下町でハラールなお店を見つけました。店主を撮影させていただいたのですが、光のメリハリが弱い蛍光灯下でも良い感じに描写します。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(29mm・F10・1/30秒)/ISO 3200

もちろん背面のLCD、PCモニター、プリントなど、最終的な鑑賞形態をどれにするかでもモノクロ写真の性格や印象が大きく変わる可能性がありますね。このことは作品制作にあたり留意せねばならないことでしょう。

カメラ内で完結できるモノクローム専用の「カスタムイメージ」も内蔵されています。デフォルトでは「スタンダード」で中庸ですが、光線状態で微妙に階調が変化します。ローキーかつ高コントラストな「ハード」、ハイキーで低コントラストの「ソフト」も選べます。

ラチチュードが広いということは、元々の画質もとても高品位で階調が豊かであるということを意味しています。多少ローキーでもハイキーでもコントラストが高めでも低めでもさほど不自然さを感じませんし、これは画像をレタッチしやすいという意味でもありますね。

アナログの暗室で作業し、追い込むことに似た快楽を明室にてPCを使い行うこともできるでしょう。ただ、良質の写真を制作するには自身の好みのモノクロ基準となる調子を考えておいた方が良さそうです。

金属の質感の再現がみたくて歩道橋の橋脚を撮影しました。周辺からイメージが逃げてしまうようにも思えたので、わずかに周辺光量を落としてみました。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(26mm・F8・1/1,250秒)/ISO 400
都心の空に飛行機が飛んでいても、誰も見上げなくなりましたが、筆者はまだ撮ってしまうわけです。デフォルトでも青空がいい感じに落ちるのも本機の再現特性ですね。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(30mm・F8・1/1,600秒)/ISO 400

高感度、超高感度設定時に強いのもK-3 Mark III Monochromeの特徴のひとつです。ISO 6400くらいまでの設定では、高感度領域に設定したことがまったくわからないほどです。ISO 12800あたりでは高感度ノイズの効果で擬似的な粒状感が出てきますが思ったよりも軽微な感じなのです。

本格的に粒状感を出したい、階調のコントロールを行いという場合は、やたらと感度を上げたりするよりも、やはりPCでのレタッチすることがコントロールしやすく簡便ですし、効果が得やすいことは間違いないでしょう。

筆者は年寄りなんでモノクロ写真にはある程度粒子を載せたいのですが、そうなるとこうしたレポートでは階調の特性がわからなくなるので、今回は一部の作例にのみ施しました。

ISO 51200設定で撮影しています。ノイズが増すことで粒状感が出てきますが、問題なくフツーに使えてしまいますね。シャープネスの低下もさほど感じません。素晴らしいですね。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/シャッター速度優先AE(34mm・F4・1/1,250秒)/ISO 51200
ハーフトーンが画面を多く占める条件ならISO 12800で粒状性が目立つのではということで撮影しましたが、これでもニュートラルな画像ができてしまいました。粒子を入れるなら後処理の方がいいかもしれません。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(20mm・F8・1/100秒)/ISO 12800

モノクロームしか撮影できないという感覚は、モノクロフィルムを装填したフィルムカメラで撮影する感覚にかなり近いものがあります。

カラーフィルムからモノクロ写真に展開するのは画像の質などを特別に追求しなければ比較的容易な作業になりますが、モノクロフィルムからカラー写真を制作するのは、PCの力を思い切り借りる必要があります。このことを反則とはいいませんが、CGの世界にかなり近いものになるのではないでしょうか。

PENTAX K-3 Mark IIIのカラー画像をモノクロームに展開するのと、モノクローム専用機のPENTAX K-3 Monochromeで撮影した画像はそんなに大きな違いがあるのかという質問もすでに頂いております。

先に申し上げたように、原理的にも異なるので画質的な差異があることは間違いないでしょう。これから有能なレビュワーさんが少しずつ解明してくれることになるでしょうが、ただ筆者としては細かな画質比べは、あまり大きな意味を持たないのではと考えております。

実際には母体機のK-3 Mark IIIでモノクロ設定で撮影する、あるいはカラーで撮影した画像をあとでモノクロに変換した画像でも、写真表現の根幹を左右するほど極端に画質が落ちるということはないと考えているからです。だからといって、モノクロ専用機のK-3 Mark III Monochromeを否定するものではありません。

K-3 Mark III Monochromeは、モノクロの高画質写真制作を追求するためということがまず基本のコンセプトにあって開発されたことは間違いないでしょう。けれど筆者個人としては、モノクロへの「覚悟」を持って写真制作に挑むためのカメラであるという認識をK-3 Mark III Monochromeに持ちました。少々大袈裟ですが、カラーへの“退路を断った”カメラであるという印象だったからです。

モノクロ写真作品を作るつもりで撮影したけれど、結果がどうも思わしくないので、やはりカラー写真にしておくか、という安易な切り替えがK-3 Mark III Monochromeの撮影では不可能です。

実際にもモノトーンな光景だったので、うまく合致するといいなと思いながら撮影してみました。金属のディテールがより強調されました。ハイライトのテカリもいい感じです。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(26mm・F8・1/500秒)/ISO 400
ハイライトも粘り、シャドーもきちんと描写するわけです。いいですね。見た目に近い再現性で、とてもシャープです。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(26mm・F8・1/640秒)/ISO 400

デジタルカメラはある意味では万能性や利便性を求め進化、発展してきたわけで、通常のカメラならば一台のカメラでカラー撮影とモノクロ撮影をシームレスに行き来できますし、カラーで撮影してもモノクロにすぐに展開できることは、デジタルカメラの利便の核として考えて良い要素でもありました。

K-3 Mark III Monochromeでは、あえてかカラー撮影機能を削ぎ落とすことで、撮影者に別のものが見えてくるものがあるのではないかと夢を持たせてくれるように思います。

モノクロ写真に色が付いているからカラー写真、カラー写真から色を抜けばモノクロ写真になるという考え方がいかに安易なことか、K-3 Mark III Monochromeを使用してみると理解できると思います。そこには出来上がる写真への想像力が必要だからです。

PENTAX K-3 Monochromeはモノクロ写真が本当に好きな人、モノクロ写真を制作したい人には、少々値段は張りますけど、購入して損はないカメラに仕上がっています。そうです。モノクロ写真制作への「覚悟」が生まれるからです。

花をモノクロで撮ってどうするんだという意見もあります。でもねメイプルソープや石元泰博だって撮ってます。窓際の逆光でもうまく再現してきます。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(40mm・F9・1/250秒)/ISO 3200
筆者は普段路地裏に棲息しておりますので、まずこういう景色は撮りません。しかし、なぜかモノクローム専用機だと撮りたくなりました。光が遊んでいるさまを手に入れたいわけです。ハイライトが綺麗ですね。
PENTAX K-3 Mark III Monochrome/HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR/絞り優先AE(20mm・F13・1/13秒)/ISO 400
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)