赤城耕一の「アカギカメラ」
第26回:dp0 Quattroのモノクロ描写をお忘れではありませんか?
2021年7月20日 09:00
シグマのフルサイズミラーレスカメラ「SIGMA fp」系のカメラが注目されている昨今であります。筆者も愛用しているのですが、ヘソがお腹の脇についているものですから、予想を超えた人気機種になると、なんだか少し距離を置きたくなったりするわけです。いつまでのワタシだけのfpでいて。みたいな感じだったのに(笑)。もう少し自分に素直に生きることができたら、メーカーの方にもきっと印象が良くなり、ここで文章を書くお仕事もしていないようにも思うのですが、あ、もう手遅れですね。
まあいいでしょう。今回のテーマはSIGMA dp0 Quattroにしてみました。ええ、APS-CのFoveon X3ダイレクトイメージセンサーと超高性能超広角レンズの組み合わせにより、とくに画質的に注目度が高いカメラですが、登場から6年もの時が経ちました。立派なロングセラー機ですね。
本機に搭載された“SIGMA 14mm F4”のレンズって、Eマウントにもマイクロフォーサーズマウントにもなっておらず、独自の超広角レンズという印象があって、広角レンズ好きにはたまらん存在です。単体レンズだと開放がF4というだけで、マーケッティングとしてはよろしくないという判断なんでしょうか。
このdp Quattroシリーズは登場時から私的に強く興味がありまして、レビューワーとして、いくつかのモデルを撮影させていただいておりますが、これまでさすがにアサインメントで使用したことはないのです。高画質ですが、再現性が独特なので、他のメーカーのカメラと共用すると画の整合性がなくなるように思うからです。でも私事撮影では、とても気に入って愛用しています。
それでも結局は、街の古いアパートのヤレたモルタルの壁のシミとかを喜んで撮影しているわけなので、Foveon X3ダイレクトイメージセンサーと優れた画像処理エンジンによる強力な高画質ぶりも、画質的にはオーバースペックなわけで、使うにゃもったいないような感じもあります。でも使うとなんとなく説得力があります。
じつはdp Quattroシリーズって個人的に別の意味で登場時から注目していたわけでして、その注目点はですね、真面目なレビューワーの皆さんと異なっていて、そのカメラデザインなんですね。
dp Quattroシリーズが出始めの頃は『アサヒカメラ』もまだありましたから、編集者にお願いしてカメラデザインを重視して、dp Quattroシリーズの話をぜひお聞きしたいなと思い、シグマさんに打診してもらったところ「デザインの話だけではイヤ」と言われてしまったようです。ええ、常識で考えたら無理もないですね。でも前のDP Merrillシリーズが石鹸箱のような色気のないカタチをしていたのに対して、dp Quattroのデザインはいいですね。グリップはボディの中心から離れた位置にあって、後方にせり出してます。
このdp Quattroシリーズに共通するデザイン、いずれも“薄い板にレンズつけて、そこに露光装置をつけました”という感じとか、後ろに突き出たゲンコツみたいなグリップとか、なにこれ!みたいな印象じゃないですか。これまでのカメラの常識を超えているデザインなのがいいわけです。
しかもdp0 Quattroはシリーズの中でもレンズがデカいわけです。このアンバランスさにグラっときますね。ええ、ヘンタイですので仕方ありません。
この珍妙なカタチって、理由としては放熱のためという明確な理由もあるわけですね。つまりすべての要素を「画質」に集約したためのデザインなわけです。「性能の維持、向上のための必然」を考えたらこうなりました的な理由も、たくさんあると思われます。そのことに私はますます感動しちゃうわけです。しかもね、実際に使うと、意外とイケるというか操作感も悪くないわけですよ。見た目重視じゃあなく性能重視のカメラなのによくできています。
Quattroシリーズのもう一つの凄さはレンズ交換式ではなくレンズ+ボディの一体型にしたことですね。このコンセプトもストイックですよねー。レンズ一体型の専用設計にすることで、高画質の追求のためにFoveon X3ダイレクトイメージセンサーも画像処理エンジンも搭載レンズに合わせてチューンし、徹底して総合的な性能を追い込めるという判断だと思います。
35mm換算画角でみると、dp1 Quattro(28mm相当)、dp2 Quattro(45mm相当)、dp3 Quattro(75mm相当)そしてこのdp0 Quattroが21mm相当になるわけですが、気の弱い私は、もしかするとこれは全部揃えないとダメなのかしらと思い始めてしまったりするわけですが、現時点で我慢はしております。
ちなみにdp0 Quattroのキャッチコピーは「ディストーション・ゼロ」だそうです。いい響きだよなあ。タル型の歪曲は広角レンズのお約束ですが、これが完璧に補正されているわけですね。シグマの技術力を持ってすれば、ズームレンズだって、実用上は問題ない性能のdp Quattroができそうだし、dp1 Quattroに専用のワイコンを用意すりゃいいんじゃね?と思うんですが、性能の追求のためにはそれをあえてしないわけですね。真面目だよなあ。
21mmの画角のレンズって、私はもしかすると35mmの次に好きかもしれません。なんというか「写真的視覚」というかオリジナリティを感じるわけです。広い画角でいろんな光を取り込んでやるんだという気合いを感じますね。それを人間のチカラでなだめすかして、操る快楽というのでしょうか。ま、結構、フレーミングはそれなりの工夫が必要なわけです。
ビギナーの方が21mmを使うと、被写体は画面のはるか奥の彼方に位置するようになり、人物ならば表情すら見分けづらくなるほどです。使いこなしのコツとしては、最初からファインダーやモニターなんか見ないで、最初から被写体と衝突しそうな位置に自身を置いて、そこからカメラを構えてフレーミングしてみるような心構えで挑むといいかもしれません。
ひと昔前までは21mmレンズって、特殊な扱いの超広角レンズだったのです。カメラ雑誌のハウツー記事には“レンズのパースペクティブに惑わされるな”とか書いてあるのですが、なんだかそれだけだと説得力がないわけです。確かにカメラを水平に構えれば超広角らしさを抑制できますがそれだけでは面白くない。時にはもう、今後の人生のことを忘れて、被写体に衝突寸前まで肉薄して撮影するのが正しい使いこなしというものでありましょう。
dp0 Quattroの搭載レンズの実焦点距離は14mmですから、35mmフルフレーム用の21mmレンズより、パンフォーカス設定はやりやすいことになります。F4という開放F値も、微量光下での撮影など無理をしないで、被写体の状況を見極めつつ、まったりゆっくり撮りましょうって感覚なわけです。あまり急いて撮影するとイメージが逃げていってしまうかもしれません。
dp Quattroシリーズはモノクロ再現に定評があるということなので、今回はdp0 Quattroのモノクロでの出力にこだわってみました。Foveonセンサーはカラーフィルターがなく、色ごとの垂直配列なので全点が輝度信号を持っています。1画素・1ピクセル。モノクロームに特化した現像プロセスで出力できるなら、ライカMモノクロームやM10モノクロームと勝負できるぜという話をよく聞かされていたのですが、プライベートで使う場合は、レビュー記事での評とは異なり、あまり画質には気を配ったことがありませんでした。
本来は撮影したものがすべてということで、高い画質を追求することには無頓着なんですが、こんな私でも気に入っているのはdp0 Quattroで撮影した画像の黒の締まり具合です。一般のベイヤーセンサーより優れた画質が得られるとされていますが、有効画素数は約2,900万画素、解像感は約3,900万画素相当との公式発表ですね。ISO感度の設定範囲はISO 100-6400。このセンサーは高感度が辛いことは存じていますので、心理的にも高感度設定はしたくないのですが、モノクロだとISO 800程度なら問題ないんじゃないですかねえ。
今回、撮影していた期間が主に梅雨の時期なのでコントラストが低く、鈍い光の状況がほとんどでしたが、逆にFoveonセンサーの力を知った思いです。高品位なモノクロの調子が再現され個性もあります。ちょっと辛めの露出を与えても、シャドーのところから湧き上がってくる階調という印象を持ちました。
dp0 Quattroは形からして、収納、携行しやすいカメラでもないし、スペックマニアさんにはAF速度がどうとか、撮影速度が云々とか、連写がなんとかとか、物足りないことばかりでしょうが、私のプライベートな撮影ではスピードを問題としていないので、使用中にはさほど気になりませんでした。
バッテリーの減りはいささか早いので、予備を用意するのはマストだけれど、それ以外はさほど注意点はなく。見た目よりも使いやすい印象です。そのうちにレンズかボディ内、どちらでもいいですから手ブレ補正だけ内蔵してください。よろしくおねがいします。