【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】興和「プロミナー500mm F5.6 FL」

~超望遠MFレンズとフィールドスコープの1台2役
Reported by 伊達淳一

一眼レフカメラによる超望遠撮影とデジスコ

 興和(コーワ)のプロミナー(PROMINAR)といえばフィールドスコープが有名だ。コンパクトデジタルカメラをフィールドスコープのアイピースに接続してコリメート撮影することで、1,000~3,000mm相当の超望遠撮影ができる。いわゆる“デジスコ”と呼ばれる撮影法で、非常に人気の高いフィールドスコープだ。

プロミナー500mm F5.6 FLで、超望遠撮影とデジスコ撮影に挑戦する

 ただ、デジタル一眼レフカメラとフィールドスコープの組み合わせで超望遠レンズ代わりに使用する、という方法は、高画素化が進んだ現在では完全に廃れてきている。フィールドスコープをデジタル一眼レフカメラに装着するアダプターも用意されてはいるものの、高画素化が進んだ現在では、投資に見合う画質が得られない。

 というのも、もともとフィールドスコープは眼視用として開発されたもので、プリズムで倒立像を正立像に見えるようにしている。フィールドスコープを一眼レフカメラの超望遠レンズとして使う場合には、プリズムユニットと一眼レフカメラ用アダプターのリレーレンズの光学系で画質が低下してしまって、フィールドスコープ本来の鮮鋭さが失われてしまうのだ。そのため、デジタル一眼レフカメラの画素数が1,200万画素を大きく上回る現在では、トミーテック「ボーグ」(BORG)などの天体望遠鏡を超望遠レンズ代わりに使う撮影スタイルが注目されている。

 事実、ボク自身もプロミナー「TSN-774」でデジスコ撮影を始めたものの、デジスコ撮影に適したコンパクトデジタルカメラがほとんど無くなってきたこともあり、ここ1年近く、ボクのデジスコ撮影システムは部屋のインテリアと化していて、興味の対象は完全にデジタル一眼レフカメラとボーグを組み合わせた“デジボーグ”撮影に移っていた。

 とはいえ、デジボーグで可能な超望遠撮影は、テレコンバーターを併用してもせいぜい1,200mm相当。撮像素子の小さいフォーサーズやマイクロフォーサーズ機を使って1,500mm相当の超望遠撮影がやっとだ。まあ、一般の人の感覚からすれば1,000mm超の画角なんて、常識外れの超望遠かもしれないが、小川の対岸から小鳥を狙っても1,000mm相当の画角では大トリミングしないとなかなか絵にならない。

 その点、デジスコ撮影なら、簡単に1,500~2,000mm相当、ちょっと無理すれば2,500~3,000mm相当の画角で撮影でき、しかも、シャッター音に驚いて鳥が逃げてしまうという心配もほとんどない。枝などに留まった野鳥のド・アップ撮影なら、断然、デジスコ撮影の方が有利だったりするのだが、風が強いとカメラブレしてしまうし、ちょこまかと動き回る鳥を狙うにはそれなりに熟練の技が求められる。そういう手軽さでは、写真撮影用の超望遠レンズやデジボーグを使った超望遠撮影のほうが上だ。

 とまあ、どちらの撮影スタイルにも一長一短、得手不得手があるわけで、状況に応じて2つのスタイルを使い分けられるのが理想だが、超望遠レンズとフィールドスコープ、それに三脚を一緒に持ち歩くのは、現実的に1人では無理だ。

超望遠MFレンズとフィールドスコープの1台2役

 そんな悩みを一気に解決してくれるのが興和の「プロミナー500mm F5.6 FL」(以降、P556と記述)だ。最大の特徴は、マスターレンズと呼ばれる1本の基本光学ユニットに、各種マウントアダプターやプリズムユニットを装着することで、焦点距離350mm、500mm、850mmの超望遠MFレンズとして使うこともできれば、フィールドスコープに切り替え、眼視やデジスコ撮影を楽しむこともできる点。

デジタル一眼レフカメラによる超望遠MF撮影システムプリズムユニットを使ったデジスコ撮影システム

 一番大きくて重いマスターレンズが共用できるので、デジタル一眼レフカメラによる超望遠MF撮影とデジスコ撮影の両方を楽しみたい場合でも、リュックタイプのカメラバッグに楽々収納して持ち歩けてしまう。単に超望遠MFレンズとして使う場合も、マスターレンズとマウントアダプターに分割できるので、収納時の長さを抑えられるのは便利だ。

 マスターレンズには、フローライト・クリスタル(蛍石)が1枚、特殊低分散性を持つXD(eXtra low Dispersion lens)レンズを2枚採用していて、色収差(色滲み)を徹底的に除去すると同時に、周辺まで安定した画質が得られるように収差を補正。APS-Cはもちろん35mmフルサイズのデジタル一眼レフカメラでも周辺光量低下はほとんどなく、絞り開放から安定した周辺画質が得られるのも特徴だ。

システム構成図(コーワ提供)マスターレンズと呼ばれる基本光学系に、マウントアダプターやプリズムユニットを装着することで、超望遠MFレンズの焦点距離を切り替えたり、フィールドスコープとして使うことができる。粗動と微動のデュアルフォーカスリング方式を採用。円形のプリセット絞りも内蔵している

 円形絞りも内蔵されていて、開放から2段絞って撮影することもできる。自動絞りではなく、手動で絞り込むプリセット方式絞りなので、絞るとファインダーが暗くなってしまうが、被写界深度をわずかに稼ぎたい、周辺画質をより向上させたいときなどに威力を発揮する。

 特筆すべきは、マニュアルフォーカスの快適さで、素早くピントを合わせる“クイックフォーカス”と、より細かいピント調節の可能な“ファインフォーカス”の2つのフォーカスリングを装備。一眼レフカメラ用の超望遠レンズと比べても、遙かにP556のフォーカスリングのほうが動きが軽く、しかも、粗動と微動を簡単に使い分けられるので、すばやいMF操作が行える。像もコントラストが高く、ピントの山が非常に掴みやすいのだ。

 もちろん、写りもすばらしく、画面中央の解像力は「ボーグ77EDII」や「同71FL」ほどエッジだった切れ込みはないものの、35mmフルサイズでも周辺まで安定した画質で、絞り開放でも周辺光量低下や解像の乱れはほとんどない。下手な一眼レフカメラ用望遠レンズよりもシャープな描写に驚かされた。

 昨年の12月初旬に興和の担当者から「P556使ってみませんか?」というメールが来て、年末年始の暇つぶしにと借りてみたのだが、すっかりその描写力の高さと取り回しの容易さに魅了されてしまった。ちょうど運良く(運悪く?)、前オーナーが室内で一度開封しただけというP556の極上の中古品が売りに出ていたので、使わなくなったプロミナーTSN-774や一眼レフカメラ用アダプターを下取りに出して、P556を手に入れたのだった。

 TSN-774を手放してしまったので、プリズムユニットも購入。ペンタックス「K-5」とAFアダプターで半AF撮影するために、「TX07」(ペンタックスマウント)も自腹購入してしまった。完全に興和の撒き餌に食いついてしまった形だ(苦笑)。

P556用の3種類のマウントアダプター。右から「TX07」(350mm F4)、「TX10」(500mm F5.6)、「TX17」(850mm F9.6)。標準キットにはTX10が付属する。TX07はレデューサー、TX17はテレコンバーター的存在で、マスターレンズに最適化。XDレンズを含む贅沢な光学系を採用しているのが特徴だ。TX10は単なる延長筒で、光学系は入っていない。対応マウントは、キヤノン、ニコン、ペンタックス、マイクロフォーサーズの4種類オプションのプリズムユニット「TP-88EC1」。フィールドスコープとして使用するには、このほかに「TSN-774」、「同884」用のアイピースが必要。デジスコ撮影を楽しむには、さらにデジタルカメラを装着するためのブラケットなどが必要になる
マスターレンズとマウントアダプターはバヨネットマウントで接続されていて、実はニコンFマウント。ただ、マスターレンズに直接ニコンのカメラボディが物理的に装着できないよう、マウント部分が少し奥まった位置になっている絞り羽根は9枚で、円形絞りを採用。開放から2段絞ることができ、レンズにはTX10装着時の数値(F5.6、F8、F11)が記されている。1/2段ごとにクリックストップがある

※作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

※縦位置の画像は、非破壊で回転させています。

P556を超望遠MFレンズとして使用する

 P556は拡張性の高いシステムだが、もっとも基本となるのは、マスターレンズとTX10を組み合わせた「標準キット」だ。キヤノン、ニコン、ペンタックス、マイクロフォーサーズの各マウントが用意されていて、P556標準キットを買えば、500mm F5.6のMFレンズとして使用できる。

プロミナー500mm F5.6 FL標準キット

 オプションのマウントアダプターを追加購入すれば、350mm F4、850mm F9.6の超望遠レンズとしても使用できるが、カメラマウント部分だけを交換することはできないので、複数のカメラマウントを使い分けようとすると、やや割高になるのが残念。まあ、複数のカメラマウントを使い分けるということ自体が一般的ではないが、カメラを買い換えてマウントが変わってしまったときなどに、数千円でマウント交換してくれるサービスがあると思い切って購入しやすくなると思う。

各マウントアダプター装着時のレンズ構成とMTF(コーワ提供)

※各マウントアダプタとも絞り開放で撮影

・EOS 5D Mark II

※共通設定:WB:太陽光

<横位置>

TX07 / 350mm / F4 / 1/2,500秒 / ISO200TX10 / 500mm / F5.6 / 1/1,000秒 / ISO200TX17 / 850mm / F9.6 / 1/800秒 / ISO400

<縦位置>

TX07 / 350mm / F4 / 1/5,000秒 / ISO400TX10 / 500mm / F5.6 / 1/2,500秒 / ISO400TX17 / 850mm / F9.6 / 1/800秒 / ISO400

 レンズ重量はフードを外した状態で約2kg。決して軽いレンズではないものの、500mm F5.6というスペックを考えると決して重くはなく、高速シャッターが切れる条件であれば、なんとか手持ち撮影も可能。特に、ペンタックスやオリンパスの機種は、焦点距離を手動入力することでボディ内手ブレ補正を効かせられるので、手持ちや一脚撮影には有利だ。

 フォーカスリングは、クイックフォーカス(粗動)とファインフォーカス(微動)の2種類があり、ネバ~ッとしたトルク感こそないものの、動きが非常に軽くてスムーズなのが魅力。手持ち状態でも楽にMF操作が行なえる。もちろん、動きものを撮影する場合には“AFが使えたらなぁ”と思うこともあるが、ニコンやペンタックスの一眼レフは“フォーカスエイド”が効くので、位相差AFセンサーが合焦したと判断したときには、ファインダー内のインジケーターが点灯したり、合焦音がピピッとなったりする(ペンタックス)ので、それを頼りに手動でフォーカスリングを回せば、快適にMF撮影ができる。

 キヤノンEOSの場合は、残念ながらフォーカスエイドは働かないが、裏技として、ニコンFマウントやペンタックスKマウントをEOSのEFマウントに変換するAFチップ付きの“電子マウントアダプター”を装着することで、合焦時にファインダー内のインジケーターや電子音を出すことができるようになる。電子マウントアダプターによっては、焦点距離や開放F値を設定できる製品もあるので、そういったマウントアダプターを使えば、Exifに焦点距離情報を記録することも可能だ。

AFチップを搭載した“電子マウントアダプター”を装着することで、キヤノンEOSでもフォーカスエイドを利用したMF撮影が行なえる。インターネット通販で入手可能。「電子マウントアダプター」でキーワード検索してみよう

 ただし、P556のマウントアダプター(同名で紛らわしいがTX07、TX10、TX17のこと)のニコンFマウントは、通常のカメラレンズのマウントよりも外径が少し大きいので、電子マウントアダプターによっては枠のでっぱりが干渉してうまく装着できないケースもある。ボクが買った製品がまさにそれに該当したので、干渉している部分をヤスリで削ってなんとか対応した。削る際、マウントを固定するピンも削りやすいので十分注意しよう(ボクは半分くらい削ってから気づいたのだが、なんとかロックはかかるので一安心)。

 とはいえ、手ブレ補正もAFもないので、三脚があったほうがピントは合わせやすい。ということを考慮してか、P556の三脚座は、ジッツオやマンフロットのビデオ雲台にそのまま装着できる形状になっている。ただ、その分、台座の角がエッジ立っていて手持ち撮影時に素手ではちょっと痛いのが難。

三脚座が標準装備されていて簡単に取り外すことも可能だが、三脚座の台座自体がジッツオやマンフロットのビデオ雲台にクイックシューなしで取り付けできる形状になっているのが特徴。通常の1/4ネジ穴も2カ所設けられていて、回転防止用のピン穴もあるので、他社のクイックプレートや三脚へも問題なく装着できる

 それと個人的には、アルカスタイルのクランプで統一しているので、できればアルカ対応の台座もオプションで用意してくれるとありがたい。それとレンズを固定する三脚座のネジ(ノブ)がやや緩みやすく、レンズが脱落することはない構造ながら、レンズがガタつくのがちょっと気になるところ。このあたりは改良部品を提供してほしいところだ。

 画質については、実写作例を見ていただくしかないが、超望遠撮影の画質は、レンズ性能だけでなく、ブレやピンぼけといった撮影者の技量によっても大きく左右されるし、大気の揺らぎも大きく影響する。撮影距離がわずか数mしかなくても、地面が暖められて空気が揺らぐと、明らかに解像が悪くなる。ましてや数十m、数百m先の被写体を撮影した場合には、そういった大気の影響で画質が悪くなっていることも多い。今回掲載する実写作例も、同じシーンでできるだけ枚数を撮影して、ブレやピンぼけ、大気の揺らぎの少ないカットを選び出しているが、そういった件も考慮して画質を判断してほしいと思う。

【実写サンプル】

・EOS 5D Mark II

TX07 / 350mm / F4

1/800秒 / ISO800 / WB:太陽光1/640秒 / ISO640 / WB:太陽光
1/1,000秒 / ISO640 / WB:太陽光1/320秒 / ISO500 / WB:太陽光
1/30秒 / ISO4000 / WB:オート1/25秒 / ISO6400 / WB:オート
1/13秒 / ISO2000 / WB:オート

TX10 / 500mm / F5.6

1/800秒 / ISO400 / WB:太陽光1/640秒 / ISO400 / WB:太陽光
1/640秒 / ISO400 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO400 / WB:太陽光
1/800秒 / ISO400 / WB:太陽光1/640秒 / ISO400 / WB:太陽光
1/800秒 / ISO400 / WB:太陽光1/1,250秒 / ISO800 / WB:太陽光

・K-5

TX07 / 350mm / F4

1/1,600秒 / ISO80 / WB:太陽光1/200秒 / ISO6400 / WB:太陽光
1/200秒 / ISO1600 / WB:太陽光1/40秒 / ISO6400 / WB:太陽光
1/200秒 / ISO6400 / WB:オート1/3,200秒 / ISO125 / WB:太陽光
1/2,000秒 / ISO125 / WB:太陽光1/1,600秒 / ISO125 / WB:太陽光
1/1,600秒 / ISO125 / WB:太陽光1/1,600秒 / ISO125 / WB:太陽光

TX10 / 500mm / F5.6

・EOS 7D

1/640秒 / ISO100 / WB:太陽光

・EOS 60D

1/4,000秒 / ISO400 / WB:太陽光
1/800秒 / ISO200 / WB:太陽光1/800秒 / ISO400 / WB:4,700K
1/320秒 / ISO640 / WB:オート1/1,000秒 / ISO250 / WB:4,800
1/400秒 / ISO640 / WB:オート1/400秒 / ISO640 / WB:オート
1/500秒 / ISO640 / WB:オート1/1,600秒 / ISO320 / WB:オート
1/500秒 / ISO640 / WB:オート

・K-5

1/1,250秒 / ISO200 / WB:太陽光
1/1,250秒 / ISO200 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO400 / WB:太陽光
1/1,250秒 / ISO400 / WB:太陽光1/1,600秒 / ISO320 / WB:太陽光
1/,600秒 / ISO320 / WB:太陽光1/1,600秒 / ISO320 / WB:太陽光
1/1,600秒 / ISO320 / WB:太陽光1/1,600秒 / ISO320 / WB:太陽光
1/1,600秒 / ISO125 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO160 / WB:太陽光
1/800秒 / ISO200 / WB:太陽光1/800秒 / ISO200 / WB:オート
1/640秒 / ISO80 / WB:太陽光1/640秒 / ISO80 / WB:太陽光

TX17 / 850mm / F9.6

・EOS 60D

1/4,000秒 / ISO400 / WB:太陽光1/1,250秒 / ISO250 / WB:4,700K
1/640秒 / ISO250 / WB:4,700K1/640秒 / ISO640 / WB:4,700K
1/200秒 / ISO400 / WB:オート1/1,250秒 / ISO400 / WB:オート

・K-5+AFアダプター1.7Xによる半AF撮影

TX07+AF Adapter1.7X / 595mm / F6.8

1/1,250秒 / ISO500 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO200 / WB:太陽光
1/1,000秒 / ISO800 / WB:太陽光1/800秒 / ISO320 / WB:太陽光
1/800秒 / ISO400 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO320 / WB:4,000K
1/1,000秒 / ISO800 / WB:4,000K1/500秒 / ISO640 / WB:4,000K
1/500秒 / ISO1250 / WB:オート1/1,250秒 / ISO320 / WB:太陽光

TX10+AF Adapter1.7X / 850mm / F9.6

1/1,000秒 / ISO320 / WB:太陽光1/1,000秒 / ISO320 / WB:太陽光
1/1,000秒 / ISO320 / WB:太陽光1/2,000秒 / ISO500 / WB:太陽光

P556をフィールドスコープとして使用する(デジスコ撮影)

 デジスコ撮影が威力を発揮するのは、1,500mmを超える超望遠の撮影だ。APS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラにP556+TX17を装着しても、850mm×1.5=1,275mm相当(キヤノンEOS系の場合は850mm×1.6=1,360mm相当)の画角しか得られないが、デジスコ撮影なら、使用するアイピースにもよるが、ワイド側で約1,200mm相当、テレ側なら2,500~3,000mm相当の画角で撮影できる。

 まあ、デジスコ撮影でもテレ側にズームするほど画質は低下してしまうので、画質を重視するなら2,000mm相当の画角に抑えるのが無難だが、それでも一眼レフカメラに比べれば遠くの被写体をアップで撮影する能力に長けている。

まずは、約10m先のカワセミ(剥製)をどのくらいの大きさで写せるかを比較してみた。

APS-Cサイズデジタル一眼レフ(キヤノンEOS 7D)

※共通設定:WB:4,800K

・P556+TX07 / 350mm

F4F5.6F8

・P556+TX10 / 500mm

F5.6F8F11

・P556+TX17 / 850mm

F9.6F13.6F19.2

デジスコで撮影

プリズムユニット「TP-EC88」に33倍アイピース「TE-17W」を装着。デジスコ・ドットコム製のカメラブラケット「BR-IXYsu3」を装着したキヤノン「IXY 30S」を、興和製のデジタルカメラアダプター「TSN-DA10」でアイピースに接続。また、アイピースは、デジスコ・ドットコム製のコレットホルダー「CH-P2」で、ガタを最小限に抑えている。このシステムをマスターレンズに装着することで、デジスコ撮影が可能となる

ワイド端(924mm相当)~テレ端(3507mm相当)

・IXY 30S

※共通設定:WB:太陽光

924mm1,275mm1,511mm
1,870mm2,071mm2,353mm
2,722mm3,053mm3,387mm
3,507mm

 カワセミまでの距離は約10m。都市公園の人慣れしたカワセミならもう少し近寄れるケースもあるかもしれないが、ボクの撮影環境では、よほど運が良くない限り、5~7mの距離でカワセミが撮れるのは稀。むしろ10mよりも離れていることが多いくらいで、焦点距離500mm、35mmカメラ換算800mmではよほど背景がきれいでもない限り、大きくトリミングしないと絵にならない。最低でも実焦点距離800mm、35mm換算1,200mm相当以上の超望遠が欲しいところ。

 その点デジスコなら、ズーム中域でも軽々2,000mm相当の画角が得られるのが魅力。条件が良ければ2,500mm相当の画角までは、かなりシャープな描写が期待できる。ちなみに、撮影距離が10mと比較的近いにもかかわらず、地面から30cmくらいの高さにカワセミの剥製を設置しているため、想像以上に大気の揺らぎの影響を受けていて、1,500mm相当の画角を超える場合は、50ショットに2~3ショット以外は、ピント位置は同じにもかかわらず揺らぎの影響で不鮮明な描写になってしまった。TX10の開放描写が少し甘いのも、実は揺らぎの影響を受けている。
 この焦点距離と撮影距離なら大丈夫だろうと、それほど数多くシャッターを切らなかったのが敗因だ。とにかく超望遠撮影は、ブレ、ピンぼけ、大気の揺らぎとの戦いだ。

 しかも、ミラーショックやシャッターショックのある一眼レフカメラやミラーレスカメラに対し、デジスコ撮影で使用するコンパクトデジタルカメラはほとんどシャッターショックはなく、風でスコープが吹かれたり、被写体さえ動かなければ(まあ、これが問題なんだけども)、2,000mm相当の超望遠撮影でも1/30秒や1/10秒といった低速シャッターでもぶれずに撮影できる。

コンパクトデジタルカメラはシャッターショックがないのもデジスコ撮影ではメリット

 もっとも、被写体(野鳥)がピタッと動かずにいてくれるわけもないので、被写体をAFフレーム内に捉えたらスコープで大まかにピントを合わせ、後はコンパクトカメラのAFでピントを追い込み、ひたすら連写し続けるのがデジスコの流儀。何十枚、何百枚も撮影したなかから、運良く被写体がピタリと静止して被写体ブレせず、しかも大気の揺らぎの影響の少ないカットを選び出すのだ。そのため、デジスコ撮影には、アイピースとの相性が良く、ケラレが少なく、ズームしてもアイピースに前玉が当たる心配がなく、しかも、できるだけ連写スピードが速い機種が望ましい。

 というわけで、これまではキヤノン「IXY DIGITAL 2000 IS」を愛用してきたのだが、最近、ホットピクセルが出現しやすくなってきたので、高感度に強く、連写スピードが速いキヤノン「IXY 30S」に途中でリプレース。標準設定ではシャープネスが強く、その分、低感度撮影時のザラツキも強調されるので、FUNC設定で[マイカラー切]から[カスタムカラー]に切り替え、シャープネスを[最弱]に設定。本来なら必要に応じてレタッチソフトでアンシャープマスク処理をかけるのが基本だが、今回は素の状態で撮って出しを掲載している。

【実写サンプル】

IXY DIGITAL 2000 IS

1/100秒 / ISO80 / 1,188mm / WB:太陽光1/100秒 / ISO80 / 1,188mm / WB:太陽光
1/320秒 / ISO80 / 1,767mm / WB:太陽光

IXY 30S

1/60秒 / ISO125 / 2,111mm / WB:太陽光
1/200秒 / ISO200 / 1,314mm / WB:太陽光1/250秒 / ISO200 / 1,275mm / WB:太陽光
1/160秒 / ISO200 / 1,275mm / WB:太陽光1/80秒 / ISO200 / 1,236mm / WB:太陽光
1/125秒 / ISO200 / 1,393mm / WB:太陽光1/100秒 / ISO400 / 2,232mm / WB:太陽光
1/1,000秒 / ISO125 / 1,196mm / WB:太陽光1/640秒 / ISO125 / 1,950mm / WB:太陽光
1/400秒 / ISO200 / 2,395mm / WB:太陽光1/40秒 / ISO125 / 2,273mm / WB:太陽光
1/30秒 / ISO200 / 2,599mm / WB:太陽光1/30秒 / ISO200 / 1,870mm / WB:太陽光

まとめ

 ボーグ77EDIIや同71FLに比べると、正直な話、P556はかなり割高感があるし、カメラマウント部のみを交換することができない仕様なので、複数のカメラマウントを併用したい場合には、なおさら割高になってしまう。

 ただ、77EDIIや71FLは、確かに中心解像力は凄まじいモノがあるが、“レデューサー”や“テレコンバーター”、“フラットナー”と呼ばれる補正レンズを併用しないと周辺画質はいまひとつ。絞りも別売だ。マニュアルフォーカスの操作性も一眼レフカメラユーザーにとってはちょっと特異な部分があり、好き嫌いがハッキリ分かれるところだ。そうした使いづらかったり問題のある箇所のパーツを追加したり、交換して改良していき、自分だけのレンズにカスタマイズできるのがボーグの魅力や楽しさでもあり、自作パソコンの楽しさに似ている部分だが、逆に敷居が高く、初心者にむずかしく思える部分でもある。

 その点、P556は、マスターレンズとマウントアダプターをカチッとはめるだけで、すぐにMFの超望遠レンズとして使え、35mmフルサイズのカメラで使用しても、周辺光量低下や周辺画質の低下はほとんどなく、なんの工夫もせずに快適に使用できる。フォーカスリングの操作性もカメラレンズ以上だし、円形絞りも内蔵している。対物レンズ部にOリング、フォーカス部にラバーリングを採用した防塵、防滴構造を採用しているので、アウトドアでの撮影に心強い。

 鏡筒の内面反射などもカメラレンズ以上に配慮した設計で、懐の深いフードも付属しているなど、カスタマイズ性に乏しい反面、そのままで使える完成度の高さを誇る。それに、プリズムユニットやアイピースも用意されているので、デジスコ撮影にも容易に転用できるのが魅力。デジスコ撮影オンリーというのであれば、フィールドスコープを使った方がシンプルで使いやすいと思うが、ボクのように、デジタル一眼レフカメラによる超望遠撮影とデジスコ撮影の両方を欲張りたい、という人にはお勧めのシステムだ。

 個人的には、プロミナーTSN-774でデジスコ撮影していたときよりもピークの解像力は少し足りない感があるが、周辺部での像の均一性というか安定度ではP556プリズムユニットのほうが上。相変わらず“止まりモノ”専門だが、久々のデジスコ撮影で期待以上の写りが得られて満足だ。






伊達淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。ただし、鳥撮りに関してはまだ半年。飛びモノが撮れるように日々精進中なり

2011/2/4 00:00