赤城耕一の「アカギカメラ」

第47回:デジタル時代の“カメラはライカ、レンズはツァイス”を考える

〜ツァイスZMレンズ再検証

5月10日、ライカ製品の価格改定が行われました。値上げの理由は混沌とした世界情勢に加えて、部材の高騰とか円安など様々な要因があると思いますが、ノーマルのズミクロンM 50mm F2が37万円ともなれば、筆者など軽いめまいがいたします。現行のライカM11と組み合わせると、小さな国産乗用車を購入できそうです。これがアポ・ズミクロンともなれば……。いや貧乏人の僻みみたいになるのでこれくらいでやめておきましょう。

1980年代の話ですが、円高が進んで1ドルが80円台になった時、いまも記憶にありますが、ライカM6の並行輸入品が15万円くらいだった記憶があります。もちろん新品です。

ライカもこのくらいの値段になると威厳やステータスは失われてしまい、国産のカメラと同等の位置づけになるわけでして、筆者のような底辺にいるカメラマンも新品ライカに手を出すようになるわけです。ニコンF4を持ちながら、首からライカM6をぶら下げるわけです。ろくに使いもしないのに、ひとつの営業パフォーマンスというか格好づけですね。

その昔はもっともっとライカは高価だったのだと、筆者よりも年齢が上の先達ライカユーザーは、今も自慢げにお話をしてくれます。カメラそのものが贅沢品でありましたし、写真は写真館で撮影するものと決まっていた時代でしょうか。

一時はずいぶんと価格を下げたライカですが、中古のフィルムライカも、新品のデジタルライカも、レンズも、あっという間に価格が高騰、もはや細い商いしかない先の見えた底辺ジジイカメラマンには手の届かないものとなりました。

でも筆者の価値観では価格が100万円を超えてしまうものは、みな同じものに見えます。つまり、カメラやレンズとしてのリアリティがなくなるものですから、いくらの値付けになろうが、違う惑星の話のようになり、もう気にならなくなるわけです。

Biogon T*2,8/21 ZM
このレンズに異常部分分散ガラスとか非球面レンズは使われていません。ある意味ではクラシックな構成なわけですが、写りはそれらのレンズを使用したものと比較しても見劣りしないというか、素晴らしくクリアな性能だと思います。開放からバリバリの描写です。エライのは最短撮影距離が0.5mと短めなこと。ライカの距離計には連動しませんが、ライブビューやEVFを使えるライカなら問題なくフォーカシングできます。至近距離でも性能低下は感じません。あまり見たことのない7群9枚構成です。
できるだけパースペクティブを誇張しないように、手を伸ばして頭の上にカメラを掲げてノーファインダーで撮ってみました。デジタルは撮影画像がすぐに確認できるからこういうシーンでは満足の行くまで取り直しできます。
M10-P Biogon T*2,8/21 ZM(F8・1/1,500秒)ISO 400
路地裏の光景です。意味ありげな陰湿になりそうなモチーフなんですが、クリアな感じになりました。上品なツァイスレンズに救われたのでしょうか。歪曲収差はよく補正されていますね。カメラは古いライカM9なんですが、周辺域でも色被りはなくて問題なく使えます。
M9 Biogon T*2,8/21 ZM(F5.6・1/1,000秒)ISO 400
Biogon T*2,8/25 ZM
このレンズもある意味ではクラシックなのかも。登場は2005年ですが、発売予定から少し遅れたように記憶しています。遅れた理由はたしか、あまり量産に向いていないような、こだわりの光学設計だと聞きました。こういうのもツァイスらしいエピソードですねえ。本レンズも最短撮影距離0.5mです。エラいですね。24mmじゃなくて、25mmというこの1mmの差がツァイス的で泣けますが、写りに大きな違いはないと思います。異常部分分散ガラスは使われてませんが、色収差は気にならんですね。
ローアングルの撮影ですが、実はこの写真はフォーカスリングの距離設定を0.5mにして、目測で距離を測り、ノーファインダーで撮影しています。おじいさんなんで膝が痛くてしゃがめないから仕方ありません。でもカメラに慣れているから画面が曲がってないでしょ? 自慢できるのはこれくらいです。厚みのある力のある画像です。絞りf11
M9 Biogon T*2,8/21 ZM(F11・1/500秒)ISO 400
絞っていますが周辺光量は多少低下していることがわかります。でも、四隅からイメージが逃げてしまわないようにしている感じがして好感の持てる品の良さです。撮影距離遠めですが、ディテールの再現もいいなと。
M9 Biogon T*2,8/21 ZM(F8・1/1,000秒)ISO 400

ところが底辺に位置していてもライカの愛用歴はもうすぐ40年になる筆者であります。もはやレンジファインダーからの呪縛から逃れられず、ライカMがなければ生きていけないカラダになってしまいました。だってね、事実上代わりになるカメラがないものですからライカを使うしかなくなるわけです。これはフィルムでもデジタルでも同じですね。

ただし、仮にライカの新品ボディを死ぬ思いで手に入れたとしても、新品のライカレンズまで手が回らないのです。もちろん、程度のあまり良くない中古とか、半世紀前の国産のライカスクリューマウントレンズを探し出して使うというのもお遊びなら良いのですが、筆者の場合は、デジタルカメラはライカといえどもお仕事モードになってしまうので、アサインメントでも持ち出すことはそう珍しくないのです。

となると、まずはきちんと写っていただけないといけません。お仕事写真で、ピントが悪いとか、ボケがぐるぐるしていていいとか、色味が偏るなどということは許されないわけです。

で、ここに強い味方として、Mマウント互換レンズのコシナのフォクトレンダーVMレンズとか、ツァイスZMレンズの存在があります。いずれのシリーズも安心できる性能ですし筆者にもリアリティのある価格帯に設定されており、いつもたいへんお世話になっています。

C Sonnar T*1,5/50 ZM
“C”は“CONTAX”のCから取られています。つまり、コンタックスレンジファインダー用のゾナー50mm F1.5と構成が同じだよ、ということのようです。F値はF1.5が限界点だよ、というゾナーの伝統を守りました。後玉の貼り合わせなどは、普通のレンズメーカーはやりたがらない製造効率の悪さみたいで、多品種少量生産の得意なコシナの真骨頂的な技によって実現されています。プラナーより描写が強いという認識です。
レンズレビューを長いことやっていますと、絞りを絞ってしまうとなんでも同じと書いちゃうことがあるのですが、ゾナーは他のレンズと違う感じがします。いずれの絞りでも、少しゾリゾリとするような線の再現で興味深いものがありますね。
M10-P C Sonnar T*1,5/50 ZM(F8・1/1,000秒)ISO 400
標準のゾナーレンズでも、ボケにはクセがないですね。絞りを開放でも合焦点の鮮鋭さは素晴らしく。ボケは輪郭の滲みがいい感じですね。レンジファインダーライカを使うんだったらこのレンズ、おすすめです。間違いなくプラナーやライカのズミルックスとは異なる描写をします。
M10-P C Sonnar T*1,5/50 ZM(F1.5・1/1,000秒)ISO 160

ところがですね、フォクトレンダーはともかく、昨今のツァイスレンズはあまり話題にならなくなりました。ソニーαの交換レンズにもツァイスブランドの製品がありますが、レンズ単体での新製品はこのところ登場していないようです。これ、不思議じゃないですかねえ。

大昔から「ライカはカメラボディ、レンズはツァイスがよい」という言い伝えがあります。それぞれのファンからは異論や反発はあると思いますし、もちろん現状況で当てはまることはありません。ただ、この言い伝えはずっと筆者の頭の片隅にありました。もはや伝説ですね。いや、長い間に育まれたそれぞれのファンの妄想かもしれませんが。

このためもあってか、ツァイスブランドでライカMマウント互換のZMシリーズ交換レンズが2004年に登場した時には驚きました。極論してしまうと、ニコンのボディにキヤノンのレンズがそのまま装着できちゃうみたいな話なのです。もちろん筆者は大喜びしましたし、最初からまったく違和感を感じることなく自然体で接することができました。

Planar T*2/50 ZM
レンジファインダーカメラ用の標準レンズなのにゾナーじゃなくてプラナータイプを採用しちゃったのは、ライカのズミクロンに秋波を送ったみたいでちょっとだけ抵抗感があります。でも、現代においてはゾナーよりも“標準レンズの描写の一つの基準”と感じさせる描写をすることは確かです。お値段がこの時代にしてはフトコロに優しくステキです。けれど、このレンズの性能は間違いないですね。とても使いやすいです。小さくて軽いのは嬉しいんです。でも、この性能なら、もっとエラそうな外観にしても良いかもしれませんね。
ティルマンスを意識したわけじゃないですよ。でもピアノの鍵盤とおもちゃの飛行機みたいな組み合わせが素敵でしたので、あえてプラナーの標準レンズで撮りました。解像力、コントラストともに抜群であります。安心の一本です。
M10-P Planar T*2/50 ZM(F8・1/2,000秒)ISO 400
4群6枚のニュートラルな描写って忘れちゃいけませんね。でもね、昨今のレトロフォーカスタイプみたいな標準レンズと勝負しても大丈夫だと思うわけです。F値に無理がないので安定の性能を感じますけど、どうせならプラナーのラインアップでF1.4も欲しいところですね。
M10-P Planar T*2/50 ZM(F8・1/250秒)ISO 400

でも正直に申しますと、これはツァイスのブランドというよりも、Mマウント互換レンズなのに手に入れやすい価格設定であるという理由もまた大きかったと思います。だから今はもうライカの新品レンズよりも自分の中ではツァイスZMレンズの方がリアリティがあるのです。しかも販売価格は登場時からほとんど変わっていません。物価の優等生であります。

ただしZMシリーズのほとんどは、フィルムカメラ時代の設計ですから、デジタルではどうなのさ、という疑問が出てまいります。

先日とあるカメラ店で聞いたのですが、最近はライカを持っていなくても、Mマウント純正レンズや互換レンズをお買い求めになるお客様は少なくないそうです。マウントアダプターで多様なカメラに装着することができるからでしょう。ライカ純正レンズならば、カメラボディはなにを選ぼうが、“ライカの写り”であるとしてしまっても間違いではないですね。これは確かです。

ただ、センサー前のカバーガラスの厚みによって、描写が変わることがあるわけです。各カメラに合わせた設計の純正レンズならば、このファクターを考慮した光学設計が行われています。

ライカMデジタルのカバーガラスの厚みは0.9mmに満たないとされていますが、これは古いライカレンズから最新のものまで、レンズ性能のポテンシャルを引き出すためにライカがコダワリとして実現している薄さと言われています。

Biogon T*2/35 ZM
発売当初からものすごく使っているレンズでして、絶大なる信頼を寄せております。あまりに使ったので、フォーカスリングが軽くなりすぎてしまい一度グリースを交換していただきました。性能は間違いないのですが、ある時、マウントアダプターをつけて某ミラーレスで使用したところ、中心域と周辺域で若干の画質差を感じました。ライカのデジタルやフィルムで撮っていてもそんな印象はないので、やはりカバーガラスの厚さの問題のようです。これを「味わい」とはしたくない感じがします。第一面には異常部分分散ガラスが使われています。
像は線が細くて繊細な描写です。ヌケがよい感じがするので35mmだけで今後生きていけそうな錯覚すら感じますね。小型軽量なのが本当に嬉しくて、仕事以外にも持ち出すことが多いのです。
M9 Biogon T*2/35 ZM(F2・1/180秒)ISO 400
画角が大体アタマに入っているので、街の気になる光景を拾い集めるのに役立っています。均質性の高い描写で優れています。描写に細やかさがあります。
M9 Biogon T*2/35 ZM(F8・1/2,000秒)ISO 400

ツァイスZMレンズのほとんども、ライカMマウント互換のフィルムカメラであるツァイス イコンや、フィルムライカ用として設計されています。

そこで、今回は筆者がよく使用しているツァイスZMレンズを取り上げて、デジタルのライカに使ってみたらどうでしょうかというお話をします。あ、レビューじゃなくて、実用本意でのレポートとお考えください。先に軽く結論を申し上げておけば、今回使用したツァイスZMレンズに限れば、デジタルのライカMで使用しても特に問題は感じませんでした。

現在、カール ツァイスのZMマウントレンズは15mmから85mmまで10本ありますが、そのうち35mmはF値の違いで3種類あります。50mmはF値とレンズタイプの違いで2種類あります。最盛期よりも種類は減りましたが、とりあえずレンジファインダーカメラならではの世界はすべて見ることのできる焦点距離だと思いますよ。

ツァイスにもレンズの命名規則のようなものがあり、ZMレンズにもそれが採用されていますので、少しお話をします。昨今はツァイスレンズでもこの規則から外れる製品もあるようですが、広角の対称型の設計のレンズは「ビオゴン」名、レトロフォーカスタイプのものは「ディスタゴン」と命名されています。

Biogon T*2,8/28 ZM
レンズ構成見ると、直球勝負みたいなド素人にもわかる対称型で気持ちいいですね。このレンズには異常部分分散ガラスが1枚採用されています。将来のデジタル化を睨んでのことなのでしょうか。描写は繊細というよりも厚ぼったい強さを感じるのが謎で、色再現もわずかに温調なイメージです。個性的な描写です。
絞りを開き気味にして撮影してみましたが、良好ですねえ。それに前後のボケも自然です。28mmあたりまではどうしてもパンフォーカスに撮ってしまうのが常なんですが、他社でもライバルの多い焦点距離ですし探りたくなりました。
M9 Biogon T*2,8/28 ZM(F4・1/4,000秒)ISO 400
どこかヤシカコンタックス時代の同スペックのレンズを思わせる感じの描写をします。でもこちらはレンジファインダーカメラ用のレンズですし間違いなく違うはずですが、良い感じの奥行き感があります。
M9 Biogon T*2,8/28 ZM(F8・1/1,000秒)ISO 400

レンジファインダーカメラには、当たり前ですが一眼レフのようにミラーがありません。このためレンズの後ろにミラー駆動を避けるための空間を必要としないので光学設計に余裕が生まれます。

このためZMレンズの広角レンズの多くは、超広角の特殊なものや大口径のものを除けばビオゴンという名前になっています。京セラ時代のコンタックス一眼レフの広角レンズの多くはディスタゴンでしたが、コンタックスGシリーズもレンジファインダータイプですから、同じようにレンズ名称はビオゴンでした。ハッセルブラッドでも、超広角のSWCシリーズはミラーボックスがないためレンズはビオゴンタイプの設計ですね。

近年ではライカの広角レンズでもレトロフォーカスタイプの方が多くなりました。周辺光量を稼いだり、大口径化とか、デジタルへの対応に伴うものなのでしょう。

Distagon T*1,4/35 ZM
非球面レンズや異常部分分散ガラスがすごく贅沢に使用されています。いかにも2015年に登場したレンズという感じがします。ディスタゴン名ですからレトロフォーカスタイプですね。7群10枚構成です。鏡胴がやや長いことで、ライカのファインダーでは多少のケラれがなくはないのですが、正確に撮影するならライブビューやEVFを使えばいいわけですし、問題は感じません。価格的にはZMにしては良いお値段ですが、ライカの同仕様のレンズをみてください。十分に納得できます。
曇天で、時おり鈍い光が差す程度という条件が良くない撮影です。絞りも開放ですが、適度な被写界深度があるためか不自然な感じはしません。周辺光量低下は若干目立ちますが、少し絞れば済むことです。合焦点は線の細い描写です。背景ボケも非球面レンズにありがちなクセがありません。
M9 Distagon T*1,4/35 ZM(F1.4・1/3,000秒)ISO 160
画角が広めで、なおかつ被写界深度が浅いという不思議な感じがいいですね。光はフラットでしたがコントラストがそれなりにあります。エッジの立った感じがいいですね。線のボケにもクセはないし。良い描写です。35mm好きなあなたへ。
M9 Distagon T*1,4/35 ZM(F2・1/4,000秒)ISO 160

けれど、性能は素晴らしく優秀でも、写りは画一的に見えてしまうこともあります。いや、デジタルだからこそ、どのレンズを使用しても同じ優秀な性能を発揮せねばならないとしているからかもしれません。

ツァイスの「プラナー」はダブルガウスの典型的な対称型とされており、大口径レンズも多いですね。昨今では標準レンズでもディスタゴンタイプのものが増えているので、とくにプラナー名の標準レンズはレジェンド的なものに感じたります。

「ゾナー」はエルノスタータイプの発展型の優秀なレンズが多いのですが、このタイプで標準レンズにすると、後玉が伸び、一眼レフ用の標準レンズではミラーの駆動距離がとれなくなるので、一眼レフ用の標準レンズとしては向かないとされています。

「テレテッサー」(テッサー)はトリプレットの発展型で口径比の小さなレンズに採用されており、単純な構成なのでコンパクトなレンズが多いですね。ありがたいです。キレの良さから「鷹の目」などとも呼ばれたりしました。

2004年に筆者は、ドイツのオーバーコッヘンとイエナにあるカール ツァイスを訪問しました。ツァイスのエンジニアに話を聞いたり工場も見学しましたが、そこでは、ちょうど発売が迫っていたコシナで製造されたZMレンズのテストもしていました。

数値計測はもとより、レンズを凍らせたり、フォーカスリングを何度も回転させたり、耐久力テストのようなこともしていました。「ツァイスレンズは世界のどこで作られようがツァイスレンズである」と胸を張るのはこういう隠れたところにもあるのではないかと思いましたけどね。でもレンズの組み立て工場はそんなに厳格な感じはしませんでした。

ちなみにツァイスレンズならば硝材はショットガラスでなければイヤという方もいるらしいのですが、あの時に限っていえば日本の有名な硝子メーカーの箱が、工場内にゴロゴロしていました。あ、これは内緒の話ですからどうぞよろしくお願いします(笑)。

Tele-Tessar T*4/85 ZM
小さく軽く高性能のレンズです。3群5枚構成で、トリプレットの趣気が強いというかそのものですよね。とにかく、ものすごくよく写ります。ポートレートだとシャープすぎるかなあ。ちなみにライカレンズだと90mmが普通なんだけど、ここはツァイスだから85mmで行きますよ、という意識があるのでしょうか。神経質じゃない人はライカ内蔵の90mmフレームを使えばいいし、絶対に正確にフレーミングできないとイヤという人はライブビューやEVFを使えばいいんじゃないでしょうか。気軽に使って欲しいですね。
重量310gということでポケットの中に入れて歩いておりました。持ってることを忘れそうです。とにかく合焦点のシャープさがすごくて、困ります。細かい線の描写で、コントラスト高いです。ギンギン好きなあなたに。絞り開放ですが、前後ボケは悪くない。
M10-P Tele-Tessar T*4/85 ZM(F4・1/1,500秒)ISO 400
小さいレンズですと町のスナップにも連れて行ってあげようという気になります。中平卓馬さんじゃないけど、最近は中望遠レンズのスナップも気になるんですよね。絞って撮りましたが、ツッコミどころないです。
M10-P Tele-Tessar T*4/85 ZM(F8・1/1,000秒)ISO 400

のちに信州中野にあるコシナの工場でツァイスZMレンズ製造工程も拝見したのですが、クリーンルームの中でレンズの組み立てが行われたり、ツァイス製のプロダクト用の大きなMTF計測器が使われていること、製造レンズの全数検査が行われていることを知って、これも大きな声では言えませんが、オーバーコッヘンのカール ツァイス工場より厳しく管理されて製造されているんじゃないかと思いましたよ。

今回ちょっとだけ発掘した殴り書き、じゃない、当時の取材メモを見ると、とにかく製造効率を無視したようなツァイスの設計のオーバースペックぶりが目についたということが繰り返して出てきます。このあたりにツァイスの誇りがあるんだろうなと。

ツァイスZM登場からそれなりの年月を経ているので、いずれのZMレンズもロングセラーではあります。現在はZMの製造でも多少は効率化が進んでいるんじゃないかと想像しますが、こうした無駄、じゃない、過剰ともいえる厳格な製造工程や品質管理を経て生み出されるツァイスZMレンズは、ライカ純正レンズの価格と比較すると、かなりのバーゲン価格のように思えるわけです。

その昔は古いツァイスレンズの鏡筒にあるMade in Germany表記に憧れたものですけどね。どうなんだろう、まだこだわりのある人がいるんでしょうか。それよりも、どうですか、今回使用したツァイスZMレンズは「Made in Japan」なんですよ、すごくないですか!

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)