赤城耕一の「アカギカメラ」
第43回:OM-1が出た。さてPEN-Fはどうなる?
2022年4月5日 09:00
オリンパスの、じゃなかった、OM SYSTEM OM-1にはさっそく発売日に拙宅へお越しいただきまして、早くもお仕事撮影に従事されており、大活躍しております。そのうちこちらで感想を述べる機会もあると思います。けれど、いわゆる“仕事カメラ”にしてしまうと、筆者は逆にプライベートな撮影には持ち歩かなくなるものなのです。ホントです。
そんなこともあり、このところプライベートな時間にオリンパスPEN-Fを再び使いはじめることにいたしました。こういう気持ちになるのは筆者だけかもしれませんが、この背景には“仕事カメラとは仕事以外に顔を合わせたくない”こと、そして、どこかで“OM-1こそがオリンパス改めOM SYSTEMの王道である”という話を聞いてしまったからかもしれません。PEN-Fはどうやらキワモノらしいのですよ。そうなのでしょうか?
ヘソの位置が定位置よりズレたところについている筆者としては、こういう話を聞きますと、抗いたくなるわけで。ならばその“キワモノ”を使おうじゃねえかということになるわけです。ちなみにPENシリーズは現在も現行機としてPEN E-P7とPEN E-PL10があります。後者は今でも超売れ筋カメラとされておりますので、キワモノ扱いは失礼じゃないのかなあ。
OMとPENの名も、「OLYMPUS」のエンブレムも、栄光ある名機のネーミングやデザインを踏襲してゆくという手法をずっと採用してきたわけですから、筆者に言わせるとOMとPENは、マイクロフォーサーズというクルマの両輪みたいに見えるわけです。
今回は良い機会ですから、PEN-Fを入手してからこれまでに撮影した画像を再度確認することにしてみました。そうしたら、膨大な量の画像が出てきました。PEN-Fはアサインメントで使うこともありましたが、常に持ち歩いていなければここまでの撮影量は考えられないわけです。
プライベートではフィルムカメラをメインに使用している筆者ですから、撮れ高がこれほどあるデジタルカメラというのは、かなり珍しいことです。飽きやすい性分なのでプライベートな時間に1台のカメラをずっと使い続けることはないのに、PEN-Fは別格だったようです。
オリンパスのミラーレスカメラは2009年に発売された「PEN E-P1」が初号機なのですが、その姿を見て個人的にとても感動したことをよく覚えています。フィルムカメラ時代のPEN FやPEN FT、PEN FVの流れをそのまま生かしたニュアンスがありましたし、これらは“ハーフサイズの一眼レフ”という変わり種のカメラでしたから、マイクロフォーサーズのフォーマットを採用したミラーレスカメラのPENと、どことなく親和性があるように思ったからです。
フィルム一眼レフのPENシリーズはカメラファンには知られていたかもしれませんが、立場的にどこか「知る人ぞ知る」存在であって、王道っぽさを感じないわけです。コンパクトカメラのPENの方が逆に知られていましたし。そして1972年にOM-1という35mmフィルム一眼レフが登場することによって、PENのハーフ一眼レフ時代のコンプレックスを解消したようなところもありますよね。
それでも、PEN E-P1がかつてのPEN一眼レフシリーズのデザインにこだわったのは正解だったように思います。「知る人ぞ知る」ハーフサイズの一眼レフカメラをオリンパスは忘れることなく、誇りを持っていたことを世の中に知らしめたように思えたからです。これこそが王道だったのではないかと。
筆者が感動したのは、PEN E-P1はファインダーこそ内蔵されていませんでしたが、一眼レフのデザインのように上部が突き出た凡庸なものではなかったことです。パナソニックのマイクロフォーサーズ初号機であるLUMIX G1とは一線を画した思想を感じたからです。こちらはカメラ上部がペンタプリズムもどきのフォルムをしていました。PEN E-P1のようなスタイリングを“レンジファインダー”タイプと呼ぶ人もいますが、私は“フラット”タイプと呼んでいます。
LUMIX G1の場合はEVF内蔵という必然もあるのでしょうが、せっかくの“ミラーレス”なんだから、一眼レフのフォルムにこだわるのはどうよ?と筆者は思いました。ですから、フィルム時代の少しマイナーなPEN一眼レフのデザインが、最新のミラーレス機であるE-P1のデザインと整合感があったことには、ときめきましたね、マジで。
それでもすべてが満足したわけではありません。E-P1にはファインダーが内蔵されていませんでした。ファインダーを覗きたい人は外付けのプラスチック外装の光学ファインダーVF-1を使ってね、ということになりました。
VF-1は17mmレンズ用のフレームを入れた簡易的なもので、E-P1のキットレンズでもあったM.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8専用とされてしまいました。しかもこのVF-1を装着した姿は、フィルム一眼レフのPENではなくて、ライカみたいなデザインになってしまいました。これはこれでライカ好きな筆者としては少し萌えな感じもしましたが、やはり少し違和感がありました。
E-P1登場の同年にはすぐ、後継機となる「PEN E-P2」が登場しました。着脱式のEVFも用意されましたが、そのチョンマゲつけたみたいなフォルムがオマケ的な存在に見えました。筆者はファインダーの性能が若干劣ってもかまわないから、PENにファインダーを内蔵せよと常に申しておりました。
そうこうしているうちに2012年にはEVFを内蔵した「OM-D E-M5」が出ます。こちらはEVF内蔵ということで、いわゆる一眼レフスタイルとなったわけですが、熱血のPENユーザーであった筆者は、裏切られた感がありましたし、フィルム時代のOM一眼レフも引き続き使用しておりましたから、その出来にも納得しませんでした。この時、筆者はまだPENシリーズがオリンパスカメラの王道であると考えていたからです。
ファインダーを内蔵することはPENシリーズの個人的な悲願というか、これが入れば完成型じゃないかと思ったわけです。そして2016年にPEN-Fが登場し、これにファインダーが内蔵されたことがわかった時、とても喜んだ筆者であります。
限られた小さなスペースにファインダーを入れることは、設計陣が相当な苦労をされたのではないかと想像します。アイピースの下側がフリーアングルモニターの可動のために切り取られた半月型になっているところなど、落涙ものな技です。そうです、こういうのって「規格外」っぽい感じがしませんか? このアイピースとか、他に使いまわすことはできませんよね。
LCD(背面モニター)の裏にはボディと同じシボの革が貼られていて、モニターを収納した状態にすると、デジタルカメラのようには見えない雰囲気になることも嬉しかったですね。もちろん、ひっくり返すのは家に置いてある時だけなんですけどね。
PEN-F全体の雰囲気からすれば、フィルムPEN一眼レフと少々離れたところもあります。たとえば電源スイッチはフィルムライカのフィルム巻き戻しノブのそれに似ていますし、ボディ前面にあるクリエイティブダイヤルは、モノクロ/カラーのプロファイルコントロールの呼び出し用ですが、フィルム時代のPEN Fシリーズのシャッタースピードダイヤルや、スクリューマウントライカ系の低速シャッターダイヤルのそれと似ています。ライカとフィルムPENの折衷案みたいなデザインですね。
軍艦部には情報表示の液晶パネルはありませんね。潔くて結構です。つまり設定にはダイヤルをお使いくださいということです。ダイヤルは視認性や操作しやすさという実用上のメリットもあるのですが、必要もないのに電源のオンオフを繰り返したり、ダイヤルを回したりと、玩具をいじくりまわすような手慰み的な目的に使うために存在しているのかもしれません。というか、正直そのためにあります。
PEN-F登場時、当時のオリンパス開発陣に可動部の耐久性についてお聞きしたことを思い出しました。ダイヤルやモニターの可動部は、無駄な操作や負荷にも耐えられる(笑)ように、耐久性を考慮されているそうです。思い切りいじくり回してくださいということらしいですね。
金属製の円形シャッターボタンにレリーズ穴が用意されたのも気に入っております。レリーズ穴には使いもしないのにケーブルレリーズをねじ込んだり、これもまったく不要なソフトシャッターボタンを装着したくなります。
ただ筆者としては、ここまでこだわるならばボディの上面にはあの色気ゼロの撮影モードダイヤルではなくて、シャッタースピードダイヤルが欲しかったですね。富士フイルムXシリーズの一部機種を見てください。どうせ使いもしないのに、上部の良い位置に堂々とシャッタースピードダイヤルを載せています。これはあっぱれとしか言いようがありません。
筆者のPEN-Fには、例のVF-1を装着したままになっています。これで正確なフレーミングなんかしようとは思いません。そもそも覗きません(笑)し、もちろん単焦点の17mmレンズを使用しなければ意味ないわけです。そういえば大口径のM.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROを装着してからVF-1を覗きますと、鏡胴が太いために、画面下部の視野がケラれてしまいまったく見ることができません。役立たずで死にたくなります。
でもね、いいんですよそれで。フレーミングの正しい答えは、EVFとLCDの中にあるわけですから、答え合わせは簡単にできます。フィルム時代なんか外付けファインダーを使用して撮影した日には、現像しないと何が余分に写っているかわからなかったんですよ。あ、ここまで読んで何を言ってるのかコイツはと思った方は、これからも正しい写真の道を歩むことができますのでご安心くださいませ。
それでもファインダーの窓がカメラ前面にたくさん見えるものって、筆者の中では評価が高いのですよ。ベトナム戦争で活躍したカメラマンの沢田教一のポートレートには、ゴーグルつきの35mmレンズをライカに装着し、さらに外付けの35mmファインダーを装着しているものがあります。沢田が実用としてこのファインダーを使用していたのかどうかはわかりませんが、少なくともカッコをつけるために装着していたのではありませんね。ただ間違いなく、この部分だけを真似したところでピューリッツアー賞を獲るのは難しいとは思いますけどね。
いつの間にか、PEN-Fはディスコンになっていました。寿命がさほど長くなかったのは、当初の予想より売れなかったからですね。「ええっ? カメラ雑誌とかメディアでは発売時によく取り上げられていたではないか!」と思われるかもしれませんが、メディアで話題になるカメラと、実際の販売数はリンクしないのが常識です。それにもし順調に売れていたら現行製品としてラインナップに残っているでしょうし、後継機もとっくに出現していたでしょう。現在、PEN-Fは中古市場では高値安定です。当然でしょう。代わりになるカメラがないからです。
趣味性が極端に高いカメラが通常仕様のモデルより多くの販売数が望めないことは、メーカーのみなさんはよくお分かりです。ただ、こうしたカメラを用意し、カメラメーカーとして個性を示せば、必ず良いブランディングに繋がると筆者は考えています。
すでに世間一般では「スマホがあればカメラは不要」という認識なのですから、自分としても家人を納得させるためにも、まっすぐ前を見つめながら「カメラを買う理由」を宣言できなければなりません。
それがスペックであるという方もいれば、デザインが魅力である、操作が楽しいという方もいらっしゃることでしょう。重要なのは、ここで揺らぐことなく大きな声で購入理由を宣言できれば、そのカメラはあなたにとって必要なものになるということです。
OMデジタルソリューションズはまだ船出してから日が浅いですから、数が売れる商品を企画する方が先決かもしれません。けれど先進のスーパースペックであるOM-1の存在があるからこそ、まったりと使えるPEN-Fの後継機も欲しいところです。
仕様に無理は言いません、OM-1と同じセンサーと画像処理エンジンを積んで、後ろにグリグリ(マルチセレクター)があればオーケー。あ、ファインダーとか背面モニターのデバイスも新しくなるでしょうから、もう少し視認性が良くなりますよね。もっとも、ろくにファインダーは覗かないからこのままでもいいか。でも内蔵はマストですね。OM-1で最後と言われている「OLYMPUS」のエンブレムも、PEN-Fの後継とあらば、もう一度くらい使用しても許してもらえるのではないでしょうか。だめかなあ。