赤城耕一の「アカギカメラ」
第25回:カメラを常時携行するために。LUMIX DMC-GM1を忘れてはいませんか
2021年7月5日 07:00
一眼レフからミラーレスになれば、カメラ本体の大きさも小さく軽くなり、同じスペックのレンズでもより小型軽量化され、高性能化されるのではないかと強く夢見ていたのですが、とくに35mmフルサイズフォーマットのシステムをみてみると、カメラもレンズも必ずしも小型軽量化されたわけではありませんね。
とくにフラッグシップ級のカメラボディは大きく重たいし、大口径レンズだって一眼レフ用の交換レンズよりはるかに大きく重量級になってしまったケースも少なくありません。
もちろんその多くは、大口径でもレンズの性能は開放絞りから超優秀であり、撮像面でAF測距していることもあり、フォーカシングも一眼レフの位相差AFより精度が高いですね。この組み合わせではミラーレス万歳という勢いも感じます。ただ、出来上がる写真が素晴らしく高画質なのは結構なのですが、そのトレードオフとして、撮影者にとっては大きさと重量の負荷が大きく、金銭的にも相応の負担をせねばならないわけです。
その昔は、常にカメラが自分と共にあり、身の周りで発生した事象を記録してゆくのが理想だと考えていたこともありましたが、現在ではスマホがありますから、すでに常時携帯のカメラは実現されましたし、スマホ撮影による写真作品制作も珍しいものではなくなりました。
スマホの内蔵カメラの画質も、少し前のコンパクトデジタルカメラに並ぶか、むしろ優れているくらいではないでしょうか。したがって単機能のカメラはどれだけカメラが小さく軽くなっても“携行する意識”がなければそれを持ち歩くことはないでしょう。
プライベートな楽しみに使うカメラの場合は、デカかったり重かったり、無骨だったり、大きな動作音でも、むしろそれらの要素を楽しむことができますし、カメラ好きの仲間内で見せびらかす場合にも有利に働きますが、アサインメントに使うカメラは「小型軽量であることが正義」なのではないのかと考えるようになりました。
少予算の仕事が増え、アシスタントの同行もままならず単独で動くことが増えたから、機材が小型軽量であることは涙が出るほど嬉しいですね。もっとも、これは私のような底辺カメラマンだけかもしれませんが。もっともあまりにカメラが小さいと、周りから信用されないこともあるので痛し痒しの部分もあります。
私は、さまざまなフォーマットのカメラを使用していますが、アサインメントで使用するメインカメラはオリンパスのOMかPENシリーズ、パナソニックのLUMIX Gシリーズなど、マイクロフォーサーズ機を使うことが多いのです。これは小型軽量であることが一番の理由なわけです。もちろん画質だって、通常の撮影では35mmフルサイズに負けていないと考えています。
そうした個人的な興味からすると、マイクロフォーサーズのフォーマットサイズに合わせて徹底的に小型軽量化を追求した高画質カメラが、もっとたくさん出てきていいのではないかとずっと考えていました。
そんな時に登場したのが2013年に発売されたパナソニックのがLUMIX GM(LUMIX DMC-GM1)でした。ついに来ましたね、これこそマイクロフォーサーズの特徴を出し切ったカメラだぜ、という第一印象を持ちました。
本体サイズは98.5×54.9×30.4mm、本体のみの重さは173g。素晴らしすぎるほどコンパクトかつ軽量です。マイクロフォーサーズセンサーを搭載したレンズ交換式カメラとしてはものすごく頑張った印象でした。
ボディはマグネシウム合金。金属製のダイヤルやシンプルながらキレイなデザインに4色のボディカラーと気合いが入っています。安っぽい印象もありません。1,600万画素のLiveMOSセンサーにWi-Fi機能なども装備していますから、小さくても充実の機能で、8年を経ても古びれた感じはありません。
キットレンズとして用意されたLUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6 ASPH. MEGA O.I.Sは、沈胴式を採用。このレンズは繰り出した時にデザインが少々乱れるのがたまに傷ですが、焦点距離表示もありますし、全長が24mm、重さは70gほどです。これも素晴らしい。コンパクトデジタルカメラとさほど変わらない感覚で、常に自分と共にあるカメラとしてとても感動したのです。ボディ内の手ブレ補正機構こそ見送られましたが、レンズにO.I.S(手ブレ補正機構)が内蔵されているものなら、まずまず安心でしょう。
普段使いのLUMIX G9 PROやオリンパスOM-D E-M1 Mark IIとも違和感なく共用できるというメリットもあり、ロケなどでのサブカメラとして使用しても良好な結果を残してくれます。実際に他のマイクロフォーサーズ機と同じフォルダに入れて画像処理しても、GM1で撮ったという違和感はないですね。あたりまえですけど。
GM1の実際の使い勝手はどうでしょうか。ボディ上面はいたってシンプル。背面モニターはタッチパネル式。メニューや動画ボタン、ダイヤルがコンパクトにまとめられています。本体サイズが小型で、これに伴いボタンやダイヤルなども小さくなっています。電源スイッチとシャッターボタン、AFの切り替えとFnボタンがあり、FnボタンにはWi-Fi接続などが割り当てられます。
そしてモードダイヤル。フルオートはもちろん、クリエイティブコントロールや、AとS、Pモードもあるしマニュアルも搭載。もちろん動画も撮れます。じっくり取り組みたい時撮影でも大丈夫だし、スナップ撮影でも素早く直観的に切り替えが可能です。
私は手が大きい方ではないので、小さいボタンやダイヤルでも操作的にはまず問題はないのですが、指が太い人はちょっと辛いでしょうか。しかし、タッチパネルとうまく併用できれば問題ないですね。イライラさせられることもありませんし。こういうものは慣れでしょうか。
個人的には絶対に使わないようなフラッシュも内蔵されています。救いなのは、ポップアップ式で普段はボディ内に収納されていることです。あの全体のデザインの調和を乱す、いやらしい発光部が外から見えないことは評価したいところです。
本機はこの小型ボディに合わせて新開発された最高1/500秒のメカシャッターを搭載し、シンクロ速度が最高で1/50秒ということもあり、正直これまで一度も内蔵フラッシュを使ったことはありませんでした。良い機会なので本稿を書いている時に軽く使用してみたところ、実用としては十分イケる感じですが、やはりなくても済みますね(笑)。
GM1の後継機であるGM5にはファインダーが内蔵されましたが、私はこれをあまり評価しませんでした。機能を削ぎ落としたGM1の方がカメラとしての思想的な明確さを感じたからです。このGM1にファインダーを内蔵するなら、内蔵フラッシュを排して、後に登場したソニーRX100シリーズの一部にあるポップアップ式のファインダーを内蔵した方が、美しいカメラに仕上がるのではないかと思うのですが、どうでしょうか。
ボディサイズに合わせてダイヤルやレバー類は最小限でシンプルですが、先に述べたとおり操作感は問題ないと思いますし、ボタンとレバー類はアクセントになっています。ただ、アクセサリーシューはあったほうが、外付けのファインダーを装着することができるので、もっと遊べますね。単焦点レンズを使用してもいいですし、クラシックレンズ遊びにも似合いそうです。
基本的にカメラは目立たない黒い方が好きなのですが、このGM1に関しては、悩んだ末シルバーを選択しました。理由は簡単です。ボディが黒いのでカメラバッグの中で見えなくならないようにするためです。また、紛失防止という意味もあります。ところがそれでもGM1は時おり行方不明になります。正直に告白しますと、本稿執筆の一番の理由は、しばらく行方しれずになっていたGM1を発見したからです。
発見場所は、照明機材を入れるケースのサイドポケットでした。本業撮影の合間にでも、軽くスナップしてやろうと目論んでいたわけで、そのままなぜか忘れてしまいこんでしまったわけですね。「おお、なんだキミはこなんなところにいたのか!」と思わずひとりごちてしまいました。だらしない? そんなことはわかっています。失くしたわけではありませんからいいじゃないですか。うちの妻のようなことを言わないように。
張り革のカラーバリエーションも複数あったのですが、おっさんの手の脂で薄汚くなると、周りから敬遠されてしまう可能性があるので、オーソドックスなブラックを選んでいます。このあたりにこだわり始めると、カメラとしての機能を逸脱し、単なるアクセサリー感覚で持ち歩くようになってしまうのでほどほどにしたいところです。
コンパクトデジタルカメラはスマホに駆逐されたと言われて久しく、これはスマホ内蔵のカメラの画質が向上し、さらに使いやすくなりスタンドアローンのカメラが必要なくなったからと理由づけされていますが、小さくても存在感を際立たせる努力がカメラに足りなかったのではないかとも思うわけです。持ち歩こうという気にさせることができなければ今後はカメラは生き残れないわけですね。
GM1を一日持って街を歩いていると、普段撮影しないようなモチーフを撮っていて、自分で驚くことがあります。スマホカメラでの撮影はつい安易になることが多いですが、GM1は自分の目玉の代わりとして、見つけたモノをきちんと見つめ、これを捕獲してやろうという気持ちになりますね。不思議なことですが、出来上がる写真が異なるように思うわけです。いや、思いたいです。
GM1、そしてファインダーを内蔵したGM5共に、現在はすでに生産終了になっています。最近、私の気に入っているカメラは早めにディスコンになるような気がします。このためすっかり自信を喪失しています。やはりメーカーのカメラ開発の皆さんは、私のような五流のプロカメラマンの意見より、アマチュアの意見を多く取り入れたほうが商売上の歩留まりは良くなるのではないかと思います。
GM1後継の現行機種はGF10になるのでしょうか。しかし、GF10はキレイなデザインなのですが、どこかおっさんが使うには辛い雰囲気があるのはどうしてでしょう。あの上部の段差は考えすぎで、どこか贅肉を徹底して削ぎ落としたようなストイックな装置としての魅力を損なっています。はっきりした原因はわかりませんし、個人の感想です。しかし、せめてこれもアクセサリーシューがあったら、見た目でもデキそうなカメラに変貌できるのではないかと思うのですが。
私、GM1は小さくても少々無骨な感じがするのが気に入っています。専用のアルミ製グリップなんか、手にすると違和感にも近い存在感があるくらいです。つまり、手のひらの中でカメラが自己主張しているのです。手に馴染みやすいカメラが必ずしも良いとは限りません。
というわけで私、GM1の後継機をひたすら待っていますので、パナソニックの皆さん、引き続き開発のほう、どうぞよろしくお願いいたします。