赤城耕一の「アカギカメラ」

第17回:MFレンズAF化計画(ライカマウント編)

最近ますます小さな文字が見えづらくなり、膝や腰は痛いし、五十肩だし、頭頂部は薄くなるし、物忘れはひどいし、こうして壊れてゆく自分と戦いながら、かろうじて呼吸している還暦をすぎたアカギです。こんにちは、みなさま、お元気ですか?

つまりですね、ジジイになると、重たいカメラとレンズは悪魔のように見えますし、デジタルカメラの小さなフォントのメニュー画面(O社の人、見てますか?)を見ると、カメラを投げつけたくなったり、MFでのフォーカシングがやりづらくなったりするのです。ええ、これらは全部、先に挙げた加齢によるものが原因ですからカメラが悪いのではありませんね。でもカメラメーカーは年寄りに優しいカメラとか作るべきだと思いますよ。

ところで先日、ちょっとした依頼お仕事で久しぶりにかなりの大量ショットをM型ライカで撮影したのですが、これがなかなか苦労することになりました。なんだか以前よりも合焦の歩留まりが悪いような気がしたわけです。ただでさえヘタな写真がよりターヘーになってしまうじゃありませんか。

ちょっと前は、M型ライカのフォーカシングのコツは二重像合致じゃなくて、上下像を合致式で使うものだぜ、とか偉そうなことを書いたりしていたのですが、もうどちらの方式でも肉眼でのフォーカシングが怪しくなっている自分を知るわけです。でもね、ライカMにしてもMマウントレンズにしても、AFのエの字も見えてこないですからねえ。少なくとも現時点では。

フジノンL 5cm F2
古いレンズですが、素晴らしい描写をします。合焦点のシャープネスと質感描写がいいですね。ただ、この撮影状況では背景のボケが少しいやらしい感じです。でもこういうボケが好きな人いますよね。普段はモノクロフィルムを詰めたライカにつけっぱなしで、シャープさとトーンの綺麗さには感心しておりましたが、これまでボケまでは意識していませんでした。
α7C+LM-EA7 FUJINON L 5cm F2(F2・1/1,600秒)ISO 200
アポランター90mm F3.5
アポランター50mm F2の描写力とか、発表されたばかりのアポランター35mm F2も話題ですが、アポランター90mmはコシナ・フォトレンダーのベッサ登場からほどなくしてラインアップされました。小型軽量で素晴らしい描写ですが、誰もその良さが理解できなかったのでしょうか。見つけたら買っておいたほうがいいと思いますよ。像の目玉の上に虫の卵らしきものを発見して背中がゾワゾワしております。
α7C+LM-EA7 APO-LANTHAR 90mm F3.5(F4・1/125秒)ISO 400

で、現代のビゾフレックス(EVF)の拡大像表示にお世話になったりして、「おーこれは救世主だぜー」とか密かによろこんでいたりする自分がいるわけです。

「ジジイのためのライカの使いこなし術」とか書こうかなあと思ったんだけど、すべての撮影にビゾフレックスを使うのであれば、逆にいえばM型ライカを使わずとも問題はないわけじゃないですか。

ですが。じつは最近になり、良いものを知るに至ったわけです。これがまったくもって不勉強だったのですが、MFのライカMマウントレンズをAF動作させるマウントアダプターがあるというではないですかっ!。なぜなぜなぜと興奮しましたね。もう登場から何年も経ていて、ちゃんとファームアップで新しいカメラに対応したり、機能改良されているとか。素晴らしい。

カメラボディはソニーαを使えばいいわけですか。と、なればうちにお越しいただいたばかりのソニーα7Cがありますし、これってフラットなカメラだからライカMマウントレンズに似合うんじゃねえのかな、と考えたわけです。私はあの一眼レフスタイルのα7とかα9シリーズにマウントアダプターを装着し、そこにお古レンズをつけた姿って、なんだか自分的には美しくなくて、受け入れることができなかったんですよね(個人の感想です)。

このアダプター「LM-EA7」を発売している会社は中国のTECHARTですが、日本での取扱いは焦点工房だそうで、ちょっと調べてみると、昨今は異なるメーカーの異なる電子マウント同士までもどんどん結びつけてしまおうとゆーすごいマウントアダプターがたくさん出ているのですねえ。

中央が「LM-EA7」。AFモーターはアダプター下部にあるのでしょう。さほど厚みは気になりません。レンズを装着した時のデザインの乱れを感じさせないものです。このあたり、素晴らしい技術だと思います。

カメラボディと装着レンズがどのような信号をで互いにやりとりをしているのか。このマウント情報は各メーカーの秘中の秘で、それを協定で開示したり、アライアンスによって共通使用化するならばともかく、素人考えだと、TECHARTさんでは暗号解読みたいなことをしているんでしょうか? 人海戦術で信号解析とかしちゃうのかなあ。すごいなー。

話をLM-EA7に戻しますと、こやつがどうやってライカMマウントレンズをAF動作させるのか、ですが、これはレンズ側のマウント面を前後に動かしてフォーカシングすることで機能します。マスターレンズのフォーカスリングはインフ(無限遠)に設定しておけば無限遠から至近距離まで合うというから驚きですね。

マウントを真正面から見ると、本当にMバヨネットなのかと心配になりますが、横にふってみたら当たり前ですが、Mでした。マウント面を駆動させるという凄技を使うのは相当な苦労があったと推察します。
Eマウント面です。Eマウントの電子接点が並んでいますが情報は解析済みなんでしょう。新しいカメラが出てくるたびにファームアップして安定した駆動を守るというのも親切です。

ちなみに一眼レフがAF化した時、一部のメーカーでは専用のAFコンバージョンレンズを用意して、MFの交換レンズにこのAFコンバージョンレンズを組み合わせることでAF化に対応しました。内部のレンズを動かしてAF化を行うわけです。

ただ、これだと焦点距離が拡大されてしまい使いづらいし、下手をするとマスターレンズの欠点までも拡大してしまいますし、F値が暗くなるしとリスクの方が大きくなることがあります。

かつての京セラ時代のコンタックスAXみたいにフィルム面を動かしてフォーカシングしてしまえというカメラもありましたけど、いつの間にか話題にもならなくなりました。あのどてらを着たようなデザインが受け入れられなかったのでしょうか、うちにはなぜかこれがあるんで、たまに持ち出して、その醜い体を若い写真家に見せて反応を楽しんだりします。新宿花園神社の見世物小屋みたいですね。

いずれにせよ、MFレンズをAF化するにはモーターによる力技になります。なんだかスマートじゃありません。LM-EA7もマウント面をモーターで動かすのだから力技を使いますが、見た目の印象は思いのほかスマートですね。外装は金属製だし、モーターのスペースを入れるためにマウント下側が突き出していますが、三脚座みたいな感じで小型軽量です。

LM-EA7にビオゴンT* 35mm F2 ZMを装着。全体的に見てもあまり大きいという印象はないですね。マスターレンズは500g程度までの重量なら問題なく駆動するということです。

で、AFでフォーカシングした感じなんですが、思いのほか素早くAFが機能して快適でした。繰り出し量は4.5mmほどで小さいのですが、普通に使うには問題ありません。純正のAFレンズみたいに位相差AFのスピードに合わせてズバズバとフォーカシングするという感じではありませんが、フォーカスを追い込んで合焦マークが点灯するまでのスピード感が、「仕方ねえからお前のために合わせてやっているんだぜ」みたいな、エラそうでムリヤリ仕事している感が希薄で、撮影者に向かって「このあたりでいいですかね?」と知らせてきているような感じです。で、合焦したことを確認しシャッターを切る感じです。精度的には素晴らしく優秀です。

その程度ならM型ライカのMFだって問題なかろうと思われるかもしれませんが、レンジファインダーカメラで大口径レンズや中望遠レンズを開放絞り近辺で使用する場合は、フォーカシングにそれなりの神経を使います。シャッターを切るたびにフォーカシングを合わせ直す必要もあります。

LM-EA7を使えばこの動作がAFでの合わせ直しで済みますから、余裕を持って撮影できます。自分を弁護するわけじゃないですが、この労力から解放されると、テクではなくて、光を読んだり、表現をどうするか気をまわす時間ができます。つまり「怠惰な人のためのAF」ではなくて「表現のためのAF」として使うことができるはずです。

もちろん、世の中には完璧なものなどありません。どういう原因かはわかりませんが、LM-EA7使用時にα7Cくんが「……」と沈黙したり、AFが迷うこともまったく皆無ではないのですが。こういう時は撮影者は「ったく!」とか怒らないで優しく手を差し伸べましょう。邪道を歩んでいるのは私たちなのだと自覚しておく必要があります。

CゾナーT* 1,5/50 ZM
ゾナータイプでは至近距離の性能が厳しいのでプラナーが生まれた、という論評もありますが、描写的には合焦点はシャープだしまったく問題なく使えると思います。プラナーよりもゾリゾリした線の強さみたいなものを感じます。ただ、画面左側の柱に思い切り二線ボケが出ましたね、いつも出るわけじゃないので今回は許してあげてください。コシナ・フォクトレンダーはMFにこだわる思想がありますから、AF化して使ったら怒られるかもしれませんね。
α7C+LM-EA7 C Sonnar T* 1,5/50 ZM(F2・1/3,200秒)ISO 100
ズミルックスM 50mm F1.4 ASPH.
「えー、キミもついに非球面レンズ入れちゃうんですか」と発売時に思いましたねえ。シャープすぎてつまらんのじゃないのか?という不安が。面白いかつまらんかは別として、えらく線が細くなりました。この作例ではフローティングの効果が出ていないのかな、合焦点すぐ後ろのボケがざわざわしますねえ。あ、役に立たないフード内蔵なのも少し嫌いですね。
α7C+LM-EA7 SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.(F1.4・1/4,000秒)ISO 100

いくつか心配な点も述べておきます。マスターレンズにフローティング(近距離収差補正)機構が搭載されている場合、フォーカスリングがインフのままで至近距離を撮影すると、レンズ本来の近距離補正効果が発揮できないのではないかということですね。この場合は至近距離ならばマスターレンズのフォーカスリングを至近距離に方向に動かしてからフォーカスさせるとか、潔くMF撮影するという手段が考えられます。

また、LM-EA7の使用とは直接は関係はないのですが、デジタルカメラにはイメージセンサーの前にカバーガラスがあります。ここにはローパスフィルターやIRカットフィルターが入っています。ソニーα系のカメラのセンサー前のカバーガラスの厚みがどの程度かは分かりませんが、このカバーガラスの厚みがM型ライカと異なりますと、マスターレンズのポテンシャルを完全には引き出すことはできないという理屈になります。

もっとも、ほとんどのメーカーでこのカバーガラスの厚みは異なります。つまり、極論してしまうと、カメラメーカーによって、同じレンズを使用して撮影しても描写性能が変わってしまう可能性があるということです。これは画素数とかの問題ではありません。どのレンズ、どのカメラとは具体的には申しませんが、フィルム時代に優秀だと信頼していたレンズを某社のデジタルカメラで使用したら、あれ?と思ってしまうものがあった経験は私にもあります。

例えばコシナがフォトクレンダーの同スペックレンズをEマウント用とMマウント用でそれぞれ設計を変えて用意してきているのは周知のとおりです。カバーガラスの厚みやフランジバックの異なるカメラに対しては、専用設計を行わないとレンズ性能を完全に引き出すことはできないと考えているからでしょう。ものすごく真面目な会社だなあと思いますね。

もっともこうしたファクターは主にスペックオタクさんには大きな問題かもしれませんが、実用上大きな支障が生じていれば、これだけマウントアダプターによるお古レンズ遊びは普及しなかったはずですし、さまざまなマイナスのファクターを面白がるくらいでないと、お古レンズ遊びをする意味はないのではないかと思います。

うるさいことばかりをいうと楽しみが置いてきぼりになってしまいますので、今回はこのへんにしておきますが、マスターレンズの描写性について、過去のカメラで撮影したものやフィルム時代の経験則とは異なる印象が生じた場合には、思い出したい要件ではあります。

Mヘキサノン35mm F2
ヘキサーRFが現役時代だった頃になぜか"限定"として発売され、あわてて購入に走った私ですが、当時のコニカのレンズ設計者は非球面レンズなんか嫌いだと公言されていました。このレンズは高屈折ガラスは採用していますが、なかなかの高性能です。広角レンズなのにボケ味がいいんですね、これまではあまり意識してませんでしたがちゃんと使おうっと。
α7C+LM-EA7 M-HEXANON 35mm F2(F2.8・1/2,500秒)ISO 100

今回は手元にある新旧のライカスクリューマウントやMマウント用レンズを使ってみたのですが、肉眼で鑑賞する限りは、描写面では取り立ててカバーガラスによる大きな影響を感じはしませんでしたので念のため申し添えておきます。あと、これに限らずマウントアダプター遊びは自己責任が伴いますので、気をつけてくださいね。

それにしても、今回の最後の感想ですが、先にM型ライカのAF化などありえないとは書きましたけど、本家ライカ社が、LM-EA7のようにM型ライカのマウント面をモーターで動かしてAF化しちゃえばいいんじゃないかなどと考えていないだろうかなどと妄想するに至りました。だとするとついにEVF内蔵かなあ。そうなったら大論争になるでしょうねえ。少しだけ見たいような、いやぜんぜん見たくないです……。

ウルトロン21mm F1.8 Aspherical
大口径広角レンズってMF時代の一眼レフを使用しているときはフォーカシングに苦労しましたが、ライカのレンジファインダーでは精度面で信頼できます。これは日中晴天下なのでAFの必然もありませんが、最初はどんな感じで超広角レンズがAFでフォーカシングするのか見てみたくて持ち出しました。迷うことなくスパッと合いました。
α7C+LM-EA7 ULTRON 21mm F1.8 Aspherical(F8・1/1,000秒)ISO 100
ビオゴンT* 2/35 ZM
ライカのズミクロン35mm F2 ASPH.より使用頻度が高いかもしれません。理由は高性能で軽量だからです。細身の鏡胴がきれいですね。α7Cでも問題なく実力を発揮します。絞りを開いて撮影していますが、最良の合焦点をズバリと探してきました。レンジファインダーによるフォーカシングよりいいかも。広角レンズなのにボケ味も悪くないし、合焦点のキメ細かな描写は素晴らしいですね。
α7C+LM-EA7 Biogon T* 2/35 ZM(F2・1/2,500秒)ISO 100
ズマロン35mm F2.8
だいぶ前のことですが、某中古カメラ店の人からズミクロン35mm F2 1st(8枚構成)が高価になったのはアカギさんにも責任がありますよ、みたいなことを言われたことがありますが、これは濡れ衣です。大きな声では言いませんが、見てください。このレンズの方が確実に素晴らしいと思っています。微量光下でこれだけのトーンが出てくるとは感動です。あ、いや忘れてください。
α7C+LM-EA7 SUMMARON 35mm F2.8(F2.8・1/40秒)ISO 1600
ニッコールH 5cm F2
このレンズもゾナータイプでしたか。意地悪をして、フォーカスリングを繰り出して撮影してみました。するとレンズ単体での最短撮影距離は1mですが、アダプターの繰り出しも加わって、それよりも寄れるようになります。画面には太陽光がガツンと入りまして、ブワッとハレーションが出ました。ボケも暴れます。ただ、それなりに作画的な効果を与えていますし、合焦点の花はシャープです。ニッコールはこの時代から素晴らしいですね。
α7C+LM-EA7 NIKKOR-H 5cm F2(F2.8・1/1,000秒)ISO 200
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)