赤城耕一の「アカギカメラ」
第16回:フォーサーズレンズを使いなさい!
2021年2月20日 09:00
カメラ本体は手放してもいいけど、レンズは手放さない方がいいんじゃないかなあとずいぶん前から公言してきました。
古い写真を整理しているとき、気に入った描写の写真を見つけることがあります。この写真が手放してしまったレンズで撮影したことがわかるとソワソワしはじめて、落ち着かなくなりませんか。なりませんね。大丈夫です。あなたは正常です。
しかし、私の場合は。「ったく、仕方ねえなあ、もういちどレンズを買い直すかなあ」と中古市場を調べ始めることになります。それがライカレンズだったりすると大変なことになります。
少し前にはなんとか頑張れば手の届く価格で販売されていた中古のレンズが、暴騰といってもおかしくないほどの価格がつけられていたりするからです。まるで知人が銀河系の果てに行ってしまったかのごとく、お気に入りレンズの再度の入手は難しくなったりするのです。誰ですか? 投機目的でライカレンズの価格を釣り上げる人は?
フィルムカメラ時代から不変のマウントを採用しているカメラシステムの交換レンズでも、時代ごとに設計のポイントみたいなものがあるんじゃないか、味わい(とやら)が違うんじゃないかと勝手に妄想してしまいます。同じ焦点距離のレンズを新旧揃えて喜んでいる人を非難することなどできません。ええ、人のことなどまったく言うことはできません。
モチーフや撮影条件、表現に合わせて新旧レンズ取り替えて使うのだと、言葉ではたやすく言うことができます。しかももっともらしい理屈に聞こえますが、本当にそれを実行するとなれば大変な労力が必要になります。レンズの維持と管理も大変だろうなあ。はたしてあなたはその覚悟があるのでしょうか。しっかり“使い分けて” ください。
ところで、最近はアサインメントの撮影ではミラーレス機を使うことがほとんどになっています。もちろんこのコロナ禍で仕事激減状況ですから機材投資のための予算が少なく、同メーカーの一眼レフ用の交換レンズをマウントアダプターを介して使うことが多いのですが、レンズの描写にうるさい人は強く言います。「それではミラーレス機のポテンシャルを完全に引き出せていない」と。まるでカメラ雑誌の記事みたいなことを言うんですよねえ。それはまったくその通りです。少しづつですがミラーレス機専用設計のレンズも揃え始めていますからご心配なく。
アサインメントに使用する機材やレンズに"味わい"などとユルいことを求めることはありませんので、一眼レフ用の交換レンズは同スペックのミラーレス専用に置き換えると手放すことにしています。新しいレンズの方が良いに決まっています。旧レンズへの未練もありませんね。それでいいと考えています。実際、ミラーレス機用の交換レンズの多くは高性能です。アサインメント撮影では信頼できる機材を使用するのが第一ですよね。
オリンパス(現OMデジタルソリューションズ)/パナソニックのカメラは仕事でも“私事” でも多用していることもあるので、フォーサーズマウントの交換レンズもそのまま残してきたのですが、ここにきて、さすがに使用頻度が減ってきました。
そこで手放してしまおうかとフォーサーズレンズの買い取り価格を調べてみますと、価格は下がる一方ではありませんか。うーむ。あたりまえだけどねえ。なんだかかわいそうじゃないですか、私もレンズも。
ならば、フォーサーズマウントレンズよ、うちにいられるチャンスをもう一度やろうではないかということで、先日、アサインメントの撮影で久しぶりにフォーサーズレンズも携行し、実際に撮影してみることにしました。
仕事の詳細な内容はここでは申し上げられないのですが、短時間で動画と交互に撮影する必要があり、屋外と室内でも撮影せねばなりません。設定したライティングを変更する時間もままならないとのことなので、下手をすると背景も選べないかもしれません。ならば大口径のズームが良いのではないかと考え、久しぶりにZUIKO DIGITAL ED 14-35mm F2.0 SWDとZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0という、開放値F2通しでズームとしては豪華なセットを使ってみました。
35mmフルサイズなら、大口径標準ズームレンズと大口径望遠ズームレンズ、いわゆる大三元レンズの中の2本となるでしょうか。前者は35mm判の換算画角で28-70mm、後者は70-200mm相当のズームレンズになりますから、人物撮影の多い私の仕事では十分すぎます。
大問題なのはこれらのレンズ、すげー重たくデカいことです。センサーは小さいのに、こんなデカいレンズは必要なのかよって思いますねえ。ええ、ちなみに今回は腰を痛めたりするとタイヘンなので、機材はアシスタントさんに運んでもらいました。すっかりジジイですね。年寄りは大切にしてください(笑)
で、撮影結果を申し上げますと、これがですね、かなーりいいわけです。レンズのレビュー記事を書いている関係から、描写にはうるさいと思われている私なのですが、実際はレンズの描写が写真の内容にまで影響することはほとんどないと考えていますし、先に述べたようにアサインメントの写真ではしっかり写ることが一番です。
でもね、単純に言いますと美しいんですよ、開放時の描写が。なんでしょうねコレ。うまく説明できませんねえ。合焦点がチリチリとシャープだとかいうわけでもありませんが、しいていえばヌケもよくて光の取り込みが良い感じです。普段はマイクロフォーサーズのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROばかりを使っていて、このレンズには描写も手ブレ補正も絶大に信頼していますが、F4の開放F値だと、どうにも同じような写真ばかりができることがあります。今回はまったく異なる写真ができました。
これらのレンズは発売当時、『アサヒカメラ』でレビューしました。素晴らしく良い写りをするなあとは思ったけど、その時の感想でも、これだけ大きく重けければ光学性能に余裕があるのは当然じゃねえのと、皮肉まじりの結論を書いたような気がします。いじわるですね私。でもね、ここぞという時に絶対に間違いのない結果を出すレンズであることはその時にわかりましたので、その後、極秘裏にウチにお越しいただいていたというわけです。
「お前さ、マイクロフォーサーズ専用の同等スペックのズームではダメなのかよ?」という疑問も出てきましょうがもちろんフツーはそれで大丈夫です。ミラーレス機の専用設計レンズですから小型軽量で高性能、描写も素晴らしいのは当然です。でもね、残念なことに開放値をF2で通す漢気のあるズームレンズが現時点のマイクロフォーサーズシステムには存在していないわけです。このあたりの挑戦姿勢の弱さが気になりますが、どう思われるのでしょう、OMデジタルソリューションズとパナソニックの設計陣の皆さんは?
これらのレンズ、無理してうちにお越しいただいたのは、微量光下での撮影に使うということのほかに、もうひとつの理由としてはボケの大きさが必要な条件の撮影に使うという理由からです。私としてはきわめて正統的な購入理由といえましょう。おそらく商品企画もその理由からF2通しのズームレンズの製品化が行われたのだと思います。同じ画角のレンズで比較した場合、35mmフルサイズのF2.8通しの標準、望遠ズームレンズと同等のボケを得るためには、あと1段ほど明るいF値にせねばならない理屈になるはずですが、さすがにそれはフォーサーズマウント規格でも現実的ではないことは素人の私にもわかります。
それでもフォーサーズマウントだからこそ開放F値をF2通しでズームレンズができるという意欲的な思想を持ったレンズは素晴らしく誇らしげに見えたことは事実です。35mmフルサイズにできないスペックのレンズを作るのだという気概も感じます。もちろんデカいし重いから出動機会はさほど多くなかったわけですが頼りになりました。それにフォーサーズマウントレンズには大口径の単焦点レンズって多くはなかったんですよね。
良い機会なので、今回はこららのレンズのほか、うちにあるフォーサーズマウントレンズの描写をあらためて見直してみることにしました。いやー申し訳ないですが、結論からすれば、いずれのレンズもこんなに性能が良かったんだなあと、あらためて再認識するに至りました。小さなセンサー用のレンズゆえ、光学性能は35mmフルサイズには負けませんぜ、という光学設計者のコンプレックス、じゃなかった、プライドがあったんじゃないのかなあ。
もっとも、ミラーレス機、すなわちマイクロフォーサーズ規格のカメラになればさらにショートフランジバックになりますから、大口径レンズの光学設計は余裕が出てきたようですが、フォーサーズマウントレンズも悪いことはありません。デカいレンズも多いけど、鏡胴の仕上げなど作り込みが良いものが多く、きちんと距離指標も備えられており、それなりに高級感があるものが多いのです。モノとしてもとても充実感があります。ミラーレス機の交換レンズのデザインって、水筒のコップみたいなものが多くありませんか?
フォーサーズマウントレンズがマイクロフォーサーズ機で実用上遜色ない動作するようになったのは初代のマイクロフォーサーズのフラッグシップ、OM-D E-M1からでしょう。AFスピードを向上させたのは像面位相差AFを採用していることも大きな理由ですね。フォーサーズマウントレンズユーザーには劇的な進化でした。おお、なんだ、まともにレンズが動きますよ〜。顔認識や瞳認識も条件によっては使えます。手ブレ補正もボディ内での手ブレ補正のみを使うことになりますが、効きはなかなか良好です。もちろんこれは一眼レフからミラーレス機に切り替えるように促す戦略のため、ストレスを減らしたいということからでしょう。
とはいえ、フォーサーズ-マイクロフォーサーズマウントアダプターを使用して使うためなのか、ごく稀にですが、怪しいAF挙動をしたり、合焦しづらかったり、AEでの露出が不安定になる場合があります。いずれもボディ側の性能にレンズの一連のシーケンスが追いつかず、置いてきぼりにされた印象なのです。
レンズ装着時のちょっとしたアダプターとレンズ、ボディとのズレによる接点の接触の問題なのか、汚れなのか、わずかにバグが残っているのか、相性が悪いのか。それでもこうした怪しい挙動を怒ることなく愛嬌と考えるかどうかで、フォーサーズマウントレンズへの価値観がかなり大きく変わってきますね。
合焦点の直前、考え込むように立ち止まり、そこからそろりとレンズが動いて最良の合焦にストップするみたいな変わった挙動をするフォーサーズマウントレンズもありますから、これだとAFスピードに影響しますが、これもフォーカスを厳密にきっちり追い込んでいるんだと考えれば腹も立ちません。それにスポーツとか鳥とかは撮らないし。こちらが多少我慢すれば済むことなのです。スペックマニアさんは怒り出すかもしれませんけれど。
話が変わりますが、OMデジタルソリューションズからは話題の超望遠ズームレンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROがついに発売されました。OM-D E-M1Xとの組み合わせで鳥認識AFなど最良のパフォーマンスを得ることができ話題になっています。
手ブレ補正の強力さもあり、35mm判換算で800mm相当、内蔵テレコンも使えば1,000mm相当の画角となる超望遠レンズを手持ち撮影できると注目されています。驚異的なことです。先に述べたマイクロフォーサーズシステムは挑戦姿勢が足りないなどという文言は取り消す必要があるかもしれません。
全体のバランスが優れているためのか、少なくても撮影時にはあまり重量や大きさに対して抵抗感がないことも素晴らしいです。私は鳥とかスポーツは撮らないけど、仕事があれば欲しいです。このレンズは受注生産だけど、今から注文しても入手することができるのは2021年の冬以降になるという公式なアナウンスが流れてきましたね。じらす作戦なんですかねえ(笑)。
また、このレンズが登場してからOM-D E-M1Xの新品価格が大幅に下がったことも気になります。現時点ではOM-D E-M1 MarkIIIよりも廉価な価格設定なんです!
フォーサーズマウントの超望遠レンズが、この150-400mmの代わりになるということは絶対にあり得ません。今でも少しだけZUIKO DIGITAL ED 90-250mm F2.8やZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8が欲しいような気がしますけど、これは気のせいでしょう。
でも、前述したF2通しのズームレンズのような大型のフォーサーズマウントの大口径レンズを使用する場合には、OM-D E-M1Xと組み合わせるとバランスが良くて使いやすいのではと妄想しちゃうわけです。
「おい、お前さ、重たくてデカいカメラは巨悪だとか言ってなかったか?話が違うじゃねえかよ。」
はい、E-M1Xが登場した時、気に食わなくて叩いた私であります。
でも時間を経ると、人のココロは変わります。とはいえE-M1Xとフォーサーズマウントレンズを常時携行するのは不可能です。もちろん。でもね、似合うんですよねえ。レンズのフォルムにカメラが負けていないし。それにこの大きさなら迫力があるので、スタジオ撮影でも周りを気にすることもなく恥ずかしくありません。だから単純にE-M1Xを買う理由を探している私なのかもしれませんねえ。困りますねえ。どうするかなー。そうこうしているうちに。
“ピンポ〜ン♪”
家のインターフォンが鳴りました。モニターにはダンボール箱を持った宅配便の配達の方が立っています。何かの間違いじゃないのかな……。