赤城耕一の「アカギカメラ」
第18回:MFレンズAF化計画(ペンタックス編)
2021年3月20日 09:00
人間の仕事を機械に任せた時、機械の方が高精度で、仕事の効率が良いならば機械に任せてしまえという考え方があります。ことカメラの場合はそれでよいと考える人が大半でしょう。
1985年、本格的なAF一眼レフであるミノルタα-7000が登場しました。AFの利便性はもとより、フォーカスをカメラ任せにするならその時間を有効利用しましょうという考え方がありました。これは"作画に凝りましょう"とかそういう意味なのかなあ。
そういえばカメラにAEが導入された時も、同じように露出合わせから解放されたので失敗がなくなり、だから被写体をじっくり観察することに集中できますねとか、シャッターチャンスが捉えやすくなりますね、と言われました。かつて篠山紀信さんもミノルタXE(発売は1974年。古いですね)を手にしながら「今日的カメラ」っておっしゃっていました。いずれも、ホントかよと疑りたくなるんですがどうなのでしょうか。
私は怠け者だから、人間が設定しても機械が設定しても同じ結果になるという前提で考えるのならば、露出やフォーカシングの自動化には賛成です。AFがなければ捉えきれないスポーツなど、高速で動く被写体はたくさんあります。中にはAFが進化したからこそ撮れた、という写真もあるでしょう。AEにしても、撮影者の経験則を超えた値をはじき出してくれることがたまにあります。もちろんそれらがない昔でも、動体を確実に捕捉している優れた写真、絶妙な露出で捉えた美しい写真はたくさんありましたので、念のため申し添えておきますけど。
AEもAFも撮影条件や被写体によって変化し、一つの答を導き出しますが、フォーカスが完全にバチっと決まり、適正な露出で露光されていても、その写真が必ずしも心惹かれる「良い写真」になるとは限らないという大問題があります。ここでそれを言い出すと大変ですから、カメラ自動化の問題は後述するとして、本題に移ります。
前回のライカマウントレンズのAF化計画に続いて、MFレンズをAF化する話の第二弾。今回使用するのは、ペンタックスのアクセサリー「F AFアダプター1.7×」です。
MFレンズとペンタックスカメラボディの間に装着することでAF化するアクセサリーです。アダプター内部のレンズをボディ側のモーターから動かしてフォーカシングしようというもので、製品名こそ「アダプター」とありますが、これは立派な「リアコンバーター」ですね。
リコーのアナウンスでは、使用できるレンズは原則としてF2.8より明るい開放F値を持つレンズとされています。焦点距離はマスターレンズの1.7倍に、F値の明るさは約1.5段ほど暗くなります。絞り優先、シャッター優先などの自動露出は使用できますが、プログラム自動露出はノーマルプログラムモードのみとなります。
このアクセサリーはカタログやWebサイトにも載っている現行品なのです。びっくりですね。AF一眼レフの黎明期にはニコンにも同様のAFテレコンバーターがありましたが、現在はありません。
リコーイメージングのアナウンスでは「AレンズなどのマニュアルフォーカスレンズとMZシリーズなどのオートフォーカス機能を持ったカメラボディの中間に装着し、オートフォーカスを可能にするアダプター」と書いてあります。
「MZシリーズ」というのは、ペンタックスのフィルム一眼レフ、MZ-5やMZ-Sのことですね。この文言をそのまま素直に解釈すれば、デジタル一眼レフには使用しないでね、使っても知らんよ、とも受け取ることができます。ええ、どこにも使ってはいけないとは書いていないので、もちろん使います。ペンタックスブランドのフィルム一眼レフは現行機としては存在していないから過去のものになっていますので、理屈ではデジタル一眼レフに使ってもよいでしょう。このアダプターの外装色は薄いグレーなので、ペンタックスSFXなど、ペンタックスのAF一眼レフ黎明期のボディカラーに合わせてあるのではないでしょうか。
このアダプターを使い、MFのKマウントレンズをAF化し、ペンタックスデジタル一眼レフに使用することで、果たして「MFレンズAF化計画」が達成できるのかを実験してみようというのが今回の主なミッションです。
前回のライカマウントのAFアダプターが、マウント面を動かしてフォーカシングしていたのに対して、こちらは事実上のテレコンですから、マスターレンズの焦点距離を拡大させると同時に、レンズの欠点も拡大してしまう可能性があります。また1.5倍の露光倍数の影響はそれなりにあります。一眼レフの光学ファインダー視野は確実に暗くなります。リスクのあるアダプターですね。
広角レンズ系ではマスターレンズのポテンシャルを発揮させるのは難しそうですが、中望遠や望遠系では、最短撮影距離が同じまま焦点距離が延びることになりますので、マクロ領域では有利になる理屈です。
実写に使用するカメラは、35mmフルサイズセンサーを搭載したペンタックスのフラッグシップ機「PENTAX K-1 Mark II」を選びました。
基本的にはフィルム時代の古いMFレンズを使うわけですから、これらのイメージサークルは35mmフルサイズです。画面の隅々まで描写を見ることができた方がよかろうという考え方ですが、個人的にはさほど35mmフルサイズに対するこだわりはありません。お古レンズをお使いになる方はヘンに写った方が嬉しいんですよね。だから周辺まで見られるお古レンズへの期待度が高いのではないかと思います。
ただ、K-1 Mark IIでは電子接点のないKマウントレンズを装着して、絞り優先AEで使用しても、レンズの絞りは開放状態になってしまうという、よくわからない特性があります。これはF AFアダプター1.7×を使用するときも同じです。
電子接点が設けられているMFのペンタックスレンズは「ペンタックスA」(KAマウント)になりますから、他のMFレンズを使用する時には注意が必要です。
ペンタックスAレンズには、マウント部分に電子接点があり、絞り環に緑色の「A」ポジションがあります。この設定でレンズとボディの間で電子的に情報のやり取りを行います。絞り環をAポジションに設定、絞りはカメラボディ側のダイヤルを使って選択、設定することになります。こうすれば絞り優先AE時にも絞りが動作します。
電子接点のないKマウントレンズでは、ボディ側でマニュアル露出設定を行えば絞りは動作します。ペンタックスの一眼レフはマニュアル露出時にグリーンボタンを押せば、絞りが絞り込まれて測光が開始され、適正な露出になる理屈ですが、アダプターを介した組み合わせでは露出値はオーバーを示しました。露光倍数のファクターが逆に加味され過ぎてしまうのでしょうか。謎です。まあ、その分を露出調整してやれば済むことなので問題はないのですが。
余談になりますが、近々に登場するK-3 Mark IIIは電子接点のないペンタックスKマウントレンズを装着しても、絞りが動作する絞り優先AEを使用することができる瞬間絞り込み測光方式を採用し、より簡便な使用が可能です。フルサイズ機のほうも、K-1 Mark III(?)ではぜひ同様にお願いしたいですね。
また、あまり意味のあることではないですが、F AFアダプター1.7×はAFのペンタックスFAレンズでも使用することができます。緊急時のテレコンの代わりにはなりますね。AFの動作はMFのペンタックスレンズと同じですので、アダプター内のレンズを前後に動かしてフォーカシングします。マスターレンズのAF機能は使用せず、フォーカスリングにも負荷がかからない状態になります。
面白いのは、アダプターによる焦点距離の拡大のためでしょう。APS-C用のペンタックスDAレンズも、35mmフルサイズのK-1 Mark IIで一部のレンズはケラれがなく使えるようです。またレンズ内にAFモーターを持つものでも同様にフォーカスリングがフリーになり、F AFアダプター1.7×側のAFが機能します。
使用できないレンズとしてリコーイメージングからアナウンスがあるのは、ペンタックスA15mm F3.5、M ZOOM 24-35mm F3.5、15mm F3.5、18mm F3.5がアナウンスされていますが、いずれにせよ使用においては自己責任にてお願いします。
さて、F AFアダプター1.7×実際の使用感はどうでしょうか。純正のアクセサリーだけあって、装着感にも違和感はありません。露光倍数のファクターは、デジタル一眼レフならばISO感度を上げることで吸収できてしまうので、大きな問題にはならないでしょう。本体のグレーの色は高級感こそないのですが、どこか遊び心を感じるアクセサリーです。
アダプターはフォーカシングで伸縮しませんが、カメラ本体のAFモーターを使いますので、アダプターのカメラ本体装着側のマウントにはカプラーがあります。AFは予想より高速です。アダプター内でのレンズの移動距離が短いからでしょうか。
マスターレンズの焦点距離や仕様、撮影距離にもよりますが、広角系レンズでは無限遠での設定、望遠系ではMFであらかじめ大ざっぱにフォーカシングしておき、最後にAFを動作させて追い込むという使い方が多くなると思います。半自動というやつでしょう。
公式アナウンスではマスターレンズの開放F値が2.8よりも明るくなければAFは動作しないということですが、実際に試してみると開放F値が4のレンズでも大きな問題はなく、AFは正常に動作しました。
精度的にもなかなか良好です。位相差AFですので、大口径の広角レンズではAF精度が心配になることもあると思いますが、今回の撮影条件ではさほど問題は感じませんでした。それでもフォーカスの誤差が心配な場合は、ライブビューに切り替えてコントラストAFを使用するという手段もあります。この時はAFのスピードは遅くなりますが、条件によっては顔認識も作動しますので便利に使うことができます。
レンズの種類、撮影距離によってはAFが「……」と沈黙することもありますが、マスターレンズのフォーカスリングを回してある程度フォローしてやると、おお、すまねえな、という感じでAFがいきなり動作して、最終的なフォーカスの帳尻を合わせてきます。ったく、調子のいいやつです。それでも個人的には、フォーカシングしづらいMFのズームレンズではかなり重宝すると感じました。
画質はマスターレンズの性能にほぼ依存します。評判の良いペンタックスレンズならば画質の低下は感じませんが、古いレンズでは薄いベールのかかったような描写をすることがあります。これも考えようによっては女性ポートレートなどには向いた描写になると捉えれば良いわけです。フォーカスのキレ、コントラストはレンズにもよりますが、心配ならば開放から一段から二段ほど絞り込めば、多くのレンズはシャッキリと写る印象です。
動体撮影のためのAF-Cモードでも使えますが、鳥などの被写体ではカメラの通常のAFと比較すると厳しくなりますね。定速で走る電車では好結果でしたが、やはり簡易的なものと考えていいでしょう。撮り直しのきかない一発勝負のような撮影では避けた方が無難です。
一度決めた約束事を簡単に変えるなよ、と言いたいのがレンズのマウント規格。これはユーザーのレンズの資産を守るということにおいてとても重要ですね。
ペンタックスKマウントは1975年のK2やKXといったカメラに初めて採用されたものです。ユニバーサルマウントとして規格を開放して、チノン、コシナや当時のリコーの一眼レフにも採用されました。今となってはペンタックスはリコーの一眼レフのブランドになりましたから、不思議な運命も感じます。
Kマウントは1983年には絞り自動制御機能に対応したKAマウントになり、AF一眼レフではKAFマウント(1987年)、パワーズームに対応したKAF2マウント(1991年)と進化します。
また、これはレンズ側の呼称になりますが、KAF3マウントではAF用のカプラーを省略したレンズ内モーター方式となり、KAF4マウントはさらに絞りまでもが電子制御になっています。現行品の多くのペンタックスレンズは絞り環も省略されてしまいました。
これはニコンFマウント同様に、古いレンズは新しいカメラでも最低限の面倒はみますが(機能制約あり)、原則として新しいレンズは古いカメラに使わないでねという約束事が根底にあるということです。
それでも興味深いのは、新製品のHD PENTAX-FA Limitedの3種のレンズの登場です。これらはいわゆるリニューアルなのですが、絞り環の存在する新製品の「FAレンズ」ですから、AFはボディ内モーターを使うAFカップリング方式です。
AFの動作音はするし、AFが動作するときにフォーカスリングも回りますが、KマウントのMFフィルム一眼レフから最新のペンタックスK-3 Mark IIIまで全機種に問題なく使用することができます。つまり、新製品のレンズなのに旧来のカメラボディにも対応しているということになるわけです。
はた目から見ていますと、このあたりの入り乱れたレンズ種類の一貫性のなさが「わかるやつだけにわかればいい」というペンタックスの趣味性の強さを感じますね。そうなのです。趣味なのだから、いちいち文句を言わずにご自身で調べて使いなさいということですね。たいへんけっこうです(笑)。
1975年のペンタックスは、M42からKへのマウント変更にあたり、相当な論議となったトラウマがいまだ根底に残っているのかもしれません。2020年、2021年とリアルでは開催されていませんが、CP+などでの催しで「なぜマウントを変えたのだ」とのクレームを最近まで言われ続けてきたという話を関係者に聞きました。怖いですが、ペンタックスユーザーの熱い気持ちが伝わってきます。
一眼レフのAF化にあたり、旧来のKマウントレンズユーザーにはたいへん申し訳ないことをしましたということで、MFレンズをAF化することのできるF AFアダプター1.7×を用意し、現在のペンタックスデジタル一眼レフにおいても対応できるようにしたのでしょうか。偉いよなあリコーは。
でもね、多くのペンタックスユーザーは、こないだ中古カメラ店のジャンクコーナーから1,500円で救出したような、少しカビとクモリありのペンタックスMFレンズにF AFアダプター1.7×を装着し、お茶の間で一杯やりながら、飼い猫に向かってレンズを向けて、「おー、AFが動くぜー」と、ひとりごちてシャッターを押せば満足できます。ええ、あなたのような良い人ばかりです。もちろん趣味ですからそれでいいのです。
先に述べたように、カメラが自動化し進化するのはとても便利ですが、それが必ずしも名作の誕生に繋がらないのはこのことからもよくわかりますね。おしまい。