写真を巡る、今日の読書

第47回:なぜ、写真をはじめたのか

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真家の原点

時折、雑誌や各種メディアからインタビューを受けることがあります。その時聞かれる質問は様々あるのですが、共通して多いのは、写真を始めようと思ったきっかけや、なぜ写真なのかといった類の質問です。

私自身は、高校の頃にはぼんやりと「なにかを作って生きていきたいな」と考え始め、普段は音楽活動をしていました。高校二年生の時、漫画家の荒木飛呂彦さんが特別講演に来られ、漫画家になろう! と思い、その後高校三年生の時の講演には写真家の平間至さんが来られたことで、写真家になろう! と思った、というそんな単純な閃きがきっかけといえばきっかけになっています。

講演の順番が逆だったらどうなっていたのだろうかと、今でも時折考えます。その後、大学の写真学科に入った私は、様々な写真家や美術家に出会いつつ、今ここに至るわけですが、今日は他の表現者たちは一体どのようにしてそれぞれの表現を志したのか、ということについて窺い知れる本をいくつかご紹介したいと思います。

『美術家たちの学生時代』功刀知子 著(芸術新聞社・2022年)

一冊目は、『美術家たちの学生時代』です。美術雑誌や出版、企画に長く携わってきた功刀知子によって、現代日本美術を代表する10名の作家の「学生時代」が丁寧にインタビューされています。幼少時代や、美術を志すきっかけ、学生時代にどのようなことを学び、考えたのかが良く伝わってくる一冊です。

描くとはなにか、なぜ描くのか、「自分」とはなにかということを考える契機にもなるインタビュー集だと思います。船越桂や塩田千春、千住博、小谷元彦、山口晃など、現代美術に少しでも興味がある方にとっては、その名前の並びだけで十分魅力的だと思いますが、あまり美術に興味がないかたでも、一人一人の幼少期から青春期までの歩みとして読んでみても十分面白い物語だと思います。

美術に出会うというのは、それぞれがユニークなエピソードを持っていますし、美大や芸大での生活や勉学がどのようなものなのかを、それぞれの視点から知ることもできます。編集のテンポも良く、会話の内容も専門的過ぎないため、スムーズに読み進められるでしょう。

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『彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年』大竹昭子 著(平凡社・2011年)

二冊目は、『彼らが写真を手にした切実さを―《日本写真》の50年』。長く写真と写真家に関わりながら、多くの書籍や企画に携わってきた大竹昭子によるインタビュー集です。インタビューといっても、会話部分は最小限に引用しながら、基本的にはそれぞれの写真家を大竹の視点で解説しつつ、個々の写真家の思考や生き方が紹介されています。

それぞれの作家の、写真家としての原点から現在までをコンパクトにまとめつつ、代表作となる作品の立ち位置やその意味について語られているため、写真論としても非常に興味深く読むことができます。取り上げられている作家は、森山大道や荒木経惟をはじめ、佐内正史や蜷川実花など、90年代後半からその作品が注目されてきた作家が連ねられています。

現代写真はどちらかといえば、現代美術の文脈で語られる機会も多いのですが、それより少し前の、写真が写真そのものとして最も力強くメッセージを発していた時代が分析されている本であるとも思います。

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『No.1:First Works by 362 Artists』Francesca Richer 著(Distributed Art Pub Inc・2006年)

今回最後に紹介するのは、『No.1:First Works by 362 Artists』。上記の二冊はインタビューによる構成でしたが、本書はそれぞれのアーティストが自ら選んだ「First works」とその解説によって編まれています。

セレクトの基準は、自身のデビュー作や自らの方向性を決定付けることになった作品など、いずれもキャリア初期の作品が選定されています。現在とはまるで違う方向性のものもあれば、荒削りながら原点と言えるようなものもあり、作家としてのいわば青春期をその作品から感じることができるでしょう。

画家や彫刻家のほか、写真家も多くリストに上がっており、トーマス・デマンドやウィリアム・エグルストン、杉本博司、シンディ・シャーマンなどの初期作品とそのコンセプトが眺められます。

写真に限らず、多くのジャンルで「First works」に位置付けられるものは、多くの場合その作家の本質であり、最高傑作であるという評価も多くあります。まだ自分が作家として成果をあげられるかどうかもわからない、根源的な欲求や衝動、切実さのなかで作り上げられた作品群が集められた本書は、アートについて考えるための良い参考書ともなるでしょう。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。