写真を巡る、今日の読書
第22回:写真集と写真展、その両方で作品をみる
2022年12月14日 09:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
ぜひ、展覧会にも足を運んでほしい
みなさんは、写真展を見に行くことはあるでしょうか。この連載では基本的に書籍を紹介しているため、写真集や写文集などで作品を眺めるという読者の方が多いかもしれません。
大きな展覧会などでは、同時に図録や作品集が出版されることも多いですね。大体そういう本には、キュレーターや研究者の論考や解説が掲載されていたりするので、家で落ち着いて作品を読み解くには非常に役立つ書籍であることが多いでしょう。
一方で、やはり印刷と実際のプリントでは質感やトーンといった、写真そのものが持つ情報量に大きな違いがあります。職人的な巧みな技術を用いて制作されたファインプリントではその差がより顕著だと思いますが、通常の印画紙にストレートに焼かれた写真でも、十分その違いが感じられると思います。
今回は現在展示が行われている本も含めご紹介しますので、気になった方には是非実際の展覧会にも足を運ばれるきっかけになれば嬉しいです。
『マン・レイのオブジェ 日々是好物 いとしきものたち』石原輝雄 著(求龍堂・2022年)
一冊目は、『マン・レイのオブジェ 日々是好物|いとしきものたち』です。マン・レイは、シュールレアリスムを代表する写真家として、多くのファンを持つ芸術家のひとりです。写真作品としては、ポートレートをはじめ、レイヨグラム(フォトグラム)やソラリゼーションなどの特殊技法、デペイズマン(意味や繋がりが異なるものの組み合わせ)の方法を駆使した写真が特に有名です。
この展覧会と図録では、写真も含めたマン・レイという芸術家が行った美術制作全体を俯瞰して紹介されています。そのキーとなるのが、立体のオブジェであり、観てみるとその制作を通してマン・レイの視点や考え方、見立て、遊び方というのがよりダイレクトに伝わってくるように感じられるのではないかと思います。
展覧会は2023年の1月15日まで、千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館で行われています。自然豊かな庭園のほか、常設展としてマーク・ロスコのシーグラム壁画展示専用の<ロスコ・ルーム>などがあり、美術に包まれる経験が得られる美術館でもあります。是非この機会に訪れてみてはいかがでしょうか。
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『祈り』藤原新也 著(クレヴィス・2022年)
二冊目は、藤原新也の新刊『祈り』。大学在学中に旅したインドから始まり、アジア各地を巡りながら多くのエッセイと写真を発表してきた作家です。特に1983年に出版された『メメント・モリ』で扱われた死の概念は、多くの後進に影響を与えたものでもあります。
本作では、旅のはじまりから現在の制作までの過程をまとめ、さらに書き下ろされたテキストによって再構成された一冊(展示)になっています。いわば藤原新也による、現在形の「メメント・モリ(死を想え)」が展開されたものであると言えるでしょう。
アジアのスナップだけでなく、現代の東京や、女優のポートレートまでが混在しつつ、ひとつの大きなうねりのように写真とテキストが渦巻く様は、初めて藤原作品に触れたときの衝撃を思い出させてくれるものだと思います。同名の展覧会は、2023年1月29日まで、東京の世田谷美術館で行われています。
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『牛腸茂雄全集 作品編』牛腸茂雄 著(赤々舎・2022年)
最後に紹介するのは、『牛腸茂雄全集』。今秋、渋谷のパルコで行われていた展覧会「はじめての、牛腸茂雄。」は残念ながら2022年11月で既に終了してしまったのですが、期間中に先行予約が行われた作品集が先日発売になりました。
展覧会では、牛腸茂雄の手記が展示されるなど、多角的に作家を紹介する試みが行われましたが、本書はその図録というわけではなく、単体の写真集として仕上げられています。内容は、生前に刊行された『日々』、『SELF AND OTHERS』、『扉をあけると』、『見慣れた街の中で』の四冊の内容に加え、2つの連作が加えられた、まさに牛腸茂雄の仕事をまとめた「全集」になっています。
写真ファンにとっては必携の書と言えるのではないでしょうか。牛腸作品独特の、ひりひりとした空気感、見ているこちらが見られているような視線が、一冊に濃密に凝縮されています。間違いなく、何度も見返すことになる重要な写真集になると思います。是非、定価で購入できる今のうちに手に入れて頂きたいと思います。